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今日で最後のダルセーニョ




「ねえ、花奏ちゃん。

今、日本はどんな国ですか?

ひとりひとりに自由はある?

思う存分、音楽はできていますか?」

一生懸命、頷くことしか出来なかった。


やっとわかった。

きっと、奏汰さんは死にたくて特攻に征くわけじゃない。

命を何より大切に思っているからこそ、大切な人たちに生きてもらうために『守りに征く』んだ。


それならば、特攻はなんて残酷で、優しいのだろう。

社会科の西山先生は、

「特攻はテロと同じだ」

「無駄死にだ」

と言っていたけれど、違う。

七十年以上前に亡くなったひとりひとりがそれぞれの想いを持って、その華のような命を散らしていった。

無駄に死んだ人なんて、どこにもいない。


私たちが当たり前に学校に通えて、当然のように夢を描き、ときには人を愛して恨み合う。

生きる権利が与えられた今の生活は、過去のたくさんの犠牲の上で成り立っている。

それなら、私たちは彼らを守るべきだと思う。

実際に見てもないのに、批判をする事は誰にだってできる。

でも、心から彼らを愛する事は守られた私たち日本人にしかできない。


「奏汰さん」

「なに?」

「ありがとう。月並みかもしれないけれど私と出会ってくれて」


不意に抱きしめられて、奏汰さんが近くなる。

「俺の方こそ、ありがとうね」

しかしそれは一瞬のことで、彼が言い終えた頃には、離れていた。


「そろそろ帰ろうか」

遠くに見える江ノ島の灯台が灯り始めて、奏汰さんは言った。

「うん」

「気を付けて帰ってね」

「ありがとう」

「それじゃ、また明日」

「また明日」と、言えるのは今日で最後だ。

お互いに手を振る仕草は、合わせ鏡のようで。


やがて見えなくなっていく彼の姿のその先を眺めたら、烏帽子岩の背景の紺色の空に、星が見えた。

ボタンを開けたブレザーを揺らした風は、潮臭かった。

そんな何気ない出来事にさえ、時間の流れを感じずにはいられなかった。





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