今日は年齢、明日は連絡先を
信じられない。
特攻隊とは、生還の見込みが低い決死の攻撃、もしくは戦死を前提とした必死の攻撃をする部隊のことで、日本でも太平洋戦争のときに存在した、と社会の授業で習った。
しかし、七十一年前にその戦争はポツダム宣言を受諾して終わったし、今、日本で戦争は起きていない。
「もしかして、お互いに生きてる時代が違ったりして……」
そんなこと、あるわけがない。
漫画じゃ、ないんだから……。
それじゃあ、どうして?
もしもこれが嘘なのなら、なんで私を見つめる奏汰さんの瞳は震えているの?
「今、何年?」
ありえるような、ありえないような気がして尋ねた。
「昭和十九年だけど、それがどうかした?」
さらりと答えを貰った。
これが本当だとしたら、いろいろと辻褄があってしまう。
バイオリンのことを「提琴」と呼んだり、妹さんの写真が「白黒」だったり。
どれも、平成ではあまり見受けられない。
「私は、平成二十八年、西暦にすると二〇一六年にいるんだ」
「そっか」
奏汰さんの返事は存外あっさりとしていた。
「このご時世でブレザーを着ているし、提琴のことをふつうにバイオリンって呼ぶし。
……どこか浮世離れしているなって思ってた」
だけどね、と彼は続けた。
「君の音楽を聴いたら、そんなことどうでも良くなったんだ」
「……え?」
「飾っていなくて、そのままの気持ちが伝わってくる。
俺は、好きだよ。花奏ちゃんの演奏が。」
それきり、奏汰さんは黙った。
二人の中を秋風が通り抜ける。
「行かないでよ」
出会って、まだ二日。
これから、たくさん音を重ねられると思ってた。
今日、頑張って年齢を聞いて、明日にはメールアドレスかラインを交換する予定だった。
だって、そうしたらいつでも繋がっていられるから。
それなのに、いきなり明日で最後です、って言われても、どうしたらいいのかわからない。