八話 普通じゃない俺の力の一端
~秋津勇将~
「今朝は随分無礼を働いてくれたものだな貴様」
俺達がいざ帰ろうかという時まるで待ち構えていたかのように綾瀬川公彦が俺達の進路を塞いでいた。
「(まあ待ち構えていたんだろうけど)」
「ちょっとなんですか貴方達は、私達は今から家に帰るところです。そんなところに大勢で立たれては迷惑ではないですか!」
俺が割とどうでもいいことを考えていると香織が前方の集団に食って掛かる。さすがに先ほどから俺を見ながらニヤニヤしていた連中も香織に直接抗議されたのでは少々たじろいでいる。
「用が無いのならそこを通していただけますか非常に不愉快です」
香織がそう言いながら俺達に目配せをして皆で帰ろうとすると綾瀬川が俺達の前に出てきた。
「これはこれは大変申し訳ない。ご心配なく我々が用があるのはそこの庶民だけですので三姉妹の方々はお帰り頂いて結構です。後日改めて三人をお食事にお誘いするかもしれませんがね」
そう言って綾瀬川は沙織姉達に向かって腰を曲げてお辞儀をして見せる。その際詩織が奴に見えないように目を瞑って舌を出していた。いわゆるあっかんベーである。
「勇将に用があるのなら私達も一緒でも構いません!」
「ああいいよいいよ香織。どうやら先輩は俺一人の方が都合がいいみたいだからさ、先に帰って晩飯の準備しといてくれよすぐに帰るから」
「でも・・・」
「いいからほら」
「香織ちゃ~ん勇ちゃんもこう言ってるし~私達は帰りましょう~」
俺と香織が言い合っていると今まで俺達のやり取りを黙って見ていた沙織姉が急にそう言いだした。
「でも沙織姉さん」
「もう~いいからいいから~」
そう言いながら沙織姉は香織と詩織の背中を押していく。
「勇ちゃん~お夕飯が遅くなったらお姉ちゃん怒っちゃうからね~」
「あいよ」
詩織は大人しく従っていたが香織は最後まで何か言いたそうだったが渋々俺達に背を向けて学園の外に向かって歩き出した。そしてその背が見えなくなってから俺は口を開く。
「それでセンパイ俺に用ってのは朝のお礼参りですか?」
「口を慎めよ庶民、この俺がそんな野蛮なことをするわけがないだろう。ただ俺は礼儀を知らん庶民に身分の違いとあるべき姿を自覚させてやろうというだけだ」
「(同じことだっつーの)」
俺は心の中でそう毒づく。
「それでまたここでやるんすか?」
「それではまた今朝のように邪魔が入ってしまう。異能者用訓練施設の使用許可を取ってある。そこで貴様を教育してやろう」
「わかりました。じゃそこに行きましょうか」
そうして俺と綾瀬川とその取り巻き共も一緒に訓練施設に移動を始めた。
~姫屋沙織~
「姉さん!何故あそこでおとなしく引き下がったんですか。おかげで勇将と一緒に帰れなかったじゃないですか」
「香織ちゃ~んめずらしく~本音が漏れてるはよ~」
私がそう指摘すると香織ちゃんは顔を赤くして顔を伏せる。あんまりに可愛くて道端だけど思はず抱き着きそうになっちゃった。
「だってあの人しつこいんだもの~いま断っても~またあとでもう一度来るはよ~」
「そうだよ香織お姉ちゃんどうせ遅いか早いかの違いだと思うよ」
「確かに今朝の印象と今まで姉さんに聞いていた綾瀬川さんの性格を考えると十分ありえますね」
そう言って香織ちゃんは納得を示してくれた。香織ちゃんは普段落ち着いてるけど勇ちゃんが関わると途端に感情的になる。それでもこうやって私達の意見もきちんと聞き入れてくれるとても優しい子。
「うんそれに大丈夫だよ勇にいなら」
詩織ちゃんは力強く断言する。詩織ちゃんは勇ちゃんを心の底から信頼している。だから勇ちゃんが関わることにはいつも特に心配することもない。そんな所も抱きしめたくなる位可愛いのだけど。つまるところ私は勇ちゃんや妹達だったらなんでもいいと言う事なのだ。
「それにしてもあの綾瀬川って人嫌な人だよね。勇にいを庶民庶民って馬鹿にして」
「まあ確かに綾瀬川グループはそこそこ大きな所ではありますけど」
「あそこの親御さんも~あまりいい人じゃないって~お父さんが言ってたわ~」
「前の誕生日パーティーの時にその人いたけどなんか沙織お姉ちゃんと香織お姉ちゃんを見る目がいやらしかったよ」
「まあ綾瀬川グループは今大変ですから無理矢理でも私達との繋がりが欲しいんでしょうね」
「どうして~?」
「なんでも会社の無理な経営方針が祟って今他会社との信頼関係がほとんど無くなり契約もほぼ切られて孤立に近い形になっているそうですよ」
「そうなの~たいへんね~」
「自業自得じゃない」
「そうですね、元々社長である綾瀬川さんのワンマン経営が原因らしいですからね。近々役員会で社長の座を降ろされる事になるかもしれません。恐らくそうなる前に実績・・・・つまり私達の誰かを自分の息子の相手にして会社内での影響力を取り戻そうとしたのでしょう」
「あらあら~それじゃあ~」
「ええ綾瀬川さんの目的は私達の親であるお父様お母様の後ろ盾でしょうね」
「なにそれー失礼しちゃうなー」
「そうね~」
「でもでも絶対あの親子それだけが目的じゃないよねー目がそんな感じだし」
「たしかに社長の綾瀬川さんも息子の方もあまり女性関係でも好い噂を聞きませんね」
「香織ちゃんは~とってもくわしいわね~」
「沙織姉さんや詩織がそういうことに無頓着すぎるんです。パーティーに出るたびに相手の説明を二人にし続けていたら自然とそういうことに詳しくなったんです」
「そうなの~香織ちゃんはいい子ね~ありがとう~」
「さすが香織お姉ちゃんは頼りになる」
「まったく二人ともこれからお父様やお母様達の仕事の後を継がなくてはいけないんですよ。そういうことを知らなくてはいけないんですよ」
「えへへへ~むずかしいことは私わかんな~い、私は~お母さんの仕事を継げばいいかな~て」
「私はアイドルになるんだ~」
「もう二人とも!」
詩織ちゃんは将来はアイドルを目指している。詩織ちゃんは世界一可愛いからきっとすぐに大人気のアイドルになるのは間違いない。私もお母さんの仕事であるデザイナーの仕事を継ぎたいと思っている。私のお母さんは世界的有名なデザイナーをして各国を飛び回っている。たまにしかあえないのはさびしいけどそんなお母さんが私は自慢であり大好きである。
「それにしても勇にい大丈夫かなぁ?」
しばらく歩いて詩織ちゃんがそんなことを言った。
「大丈夫でしょう。勇将だって分かっていると思います」
「そうね~」
「ちゃんと相手を怪我させないこと位しますよ」
「いやーでも勇にい結構適当だからねー」
「確かに勇将は肝心なところで子供臭い所がありますらね」
「それはあるはね~でも~そんな所も~かわいいのよね~」
「それは・・・・・」
「うん・・・・・」
「確かに(×2)」
結局私達は勇ちゃんならなんでも好いというわけである。
~秋津勇将~
しばらく歩いて俺達は今ある施設の中にいる。俺は今その施設の中を見渡している。
「どうしたこの施設がそんなに珍しいか?」
綾瀬川が(もうめんどくさいから呼び捨て)見下したように言ってくる。
「まあね、確かここはCクラス以上の異能者しか使用許可が普通は降りないはずでしたからね。Fクラスの俺には基本縁の無い施設なもんで」
「そうだここはCクラス以上の選ばれた者のみに使用が許される所だ。貴様なんぞは一生縁の無い所だ」
そんなことを言う綾瀬川をほぼ無視しながら俺はもう一度施設内を見る。施設内は一見すると普通のクンクリートの壁に窓が一切ない物に見える。しかしそれはおそらく見た目だけだろう聞く話によればここの施設の壁は核ミサイルを想定した者らしいともすればSクラスの沙織姉にも破壊が難しいものかもしれないほどである。おそらく床も同様の作りなのだろう。広さは通常の学校の体育館の約3倍程度だろうか見た目かなり広くなっているしかもここは入る時エレベーターでかなり地下まで降りたので天井の高さもかなりある。
「それでセンパイやるんならとっとと始めましょう俺もこの後楽しみが待ってるんで早く帰りたいんで」
「貴様朝といい今といいまったく身の程をわきまえない態度だな。今回は確実にフィールドブレイクは覚悟しろ」
異能者のエネルギーフィールドはそのダメージを遮断する上限を超えるとフィールドをダメージが透過し異能者の肉体に直接ダメージが届くそしてさらにフィールドと肉体のダメージが許容値を超えるとフィールドが破壊される。このフィールドを破壊されると異能者は完全に行動不能になる意識を完全に失い目覚めても異能が約一週間程度まったく使用不能になる。
「ご心配どうもいいから早くしてください」
「ふん貴様今後は身の程をわきまえ二度と姫屋沙織嬢達に近づかないと誓うなら見逃してやってもいいぞ?」
「却下」
俺は即答した。ほとんど奴が言い終わる前に俺は答えた。
「に、二度は聞かんぞ。彼女達は本来貴様のような庶民には近づくことも許されない存在なのだ。彼女達にふさわしいのはこの私のような者こそがそうなのだ。わかったら二度と彼女達には近づくな」
「だから、却下。そもふさわしいふさわしくないはお前が決めることじゃない」
俺はまたも即答した。
「言いだろうやはり言っただけでは分からんようだ。その体に直接聞いてやろう。身の程とゆうものを知るがいい」
奴がそう言って合図を送ると今までずっと黙って奴の後ろに控えていた取り巻き達が前に出てくる。その数は今朝の約倍程度の20名程がいる。
「(ちゃんと派閥の人間結構いるんだな)」
などとどうでもいいことを考えていると前方の取り巻き連中から今朝のような様々な色の異能の光が今朝に倍する数で飛んでくる。しかも威力の程は今朝より一つ一つの威力も上がっているようだ。
「(おいおい普通のFクラスに向かって放っていい威力じゃねえぞ)」
普通のFクラスなら死んでもおかしくないような威力である。
「(これ万が一俺が死んだらどうするつもりだ?)」
「心配するなもし死ねば訓練中の事故ということにするから貴様等遠慮なくやってしまうがいい」
俺が疑問を感じた次の瞬間にまるで俺の心を読んだかのように綾瀬川の奴がそんなことをのたまった。
「(そーかい)」
おそらくそれ以外にもいくつか策を考えているのだろう。罪を擦り付ける人間とか(取り巻きの一人か?)俺がなんらかの理由で行方不明とか、ともかく端からあいつは俺を五体無事に返す気が無かったのだろう。
「(あーいやだね人間あそこまで堕ちるとこういうこと平気でするようになるのか。しかし今朝も思ったがほんとあんなのフィクションの中でしかみたことねーような人間だなおい)」
そんなことを考えながら突っ立っていると無数の光が俺の体に容赦なく直撃する。
ズドドドォォォ ガガァァァン
凄まじい轟音とともに激しい閃光が拡がる。それは様々な光をともないながら時に爆発時に爆炎や煙を切り裂くレーザーのように俺のいる位置を蹂躙する。人一人を倒すには明らかにオーバーキルの攻撃だ、たとえ異能者であろうとCクラス以下はもちろんBクラスでも直撃すればただではすまないほどの攻撃が俺に降り注いでいる。ましてや通常ならばFクラスである俺では抗しようはずもなく・・・・。
「ははははははは。どうだ思い知ったか今朝はどのような小細工を使ったのかは知らぬが今回ばかりはどうにもなるまいFクラスごときが私に刃向うからこういう目に合うのだ。おとなしく身分相応に慎ましく暮らしておればよいものを分をわきまえず増長するからこうなるのだ」
施設内に奴の高笑いが木霊する。もう完全に勝利(そもそもこれを第三者からみて勝負と言えるのか?)を確信している笑いである。奴の頭の中ではすでにあの煙の中の人物は木端微塵になっているとでも思っているのかもしれない。しかしそんな彼の笑いも・・・・。
「けっほけっほああぁぁ~お前等今朝も言ったけどあんまり煙を巻き上げんなこっちは洗濯とか結構大変なんだぞこの野郎」
すぐに驚愕に変わることになる。
「そ、そんな馬鹿な。今ので無傷だというのか、Bクラスの異能者でさえダメージは避けられんましてやFクラスの貴様では確実に生きているはずがない。貴様本当にFクラスなのか?一体どんな異能を持っているのだ!」
「まあ朝言ったと思いますが(やっぱり殺す気だったんかい)俺は正真正銘間違いなく異能者としてはFクラスで間違いないですよ」
「馬鹿を言うな貴様、Fクラスごときがどんな能力を使ったところで今の攻撃を無傷で済ませられるはずがない」
奴は心底理解できんという顔をして俺に問いかける。
「いやまあ疑問はごもっとも、それについては・・・・」
「ええいお前達なにをしている早く奴を攻撃しろ。さっきのはなにかの間違いだ次こそは奴を・・・」
「ああスンマセンご命令のところ申し訳ないんですがもう後ろの人達はもう片付けさしてもらいましたよ」
俺がそう言った瞬間後ろの取り巻き連中は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「な、なにが、一体なにが」
奴が今度こそ完全に理解不能の状況に混乱している。
「ああ後ろの人達なら先センパイが高笑い決め込んでる時に俺が全員眠ってもらいました。正直もう一回やられる洗濯がさらに難しくなるんで俺あんまり制服数持ってないんで」
「なに!ふ、ふざけたことを言うな貴様あの僅かな時間で誰にも気取られることなくそんな芸当ができるものか」
「それができたんだからいいじゃないすか、ちなみにセンパイだけ残したのは俺もセンパイに話が有ったからです」
「話だと?」
「ええできたら今後俺達には関わらないで欲しいんですが」
「なんだと貴様・・」
「言っときますがセンパイ今の状況でセンパイが有利に話が進むと思いますか?」
「ぬっくくっっっ」
奴は状況を理解したのか黙り込む、確か聞いた話によるとこいつの異能者としてのランクは確かDランクに近いCランクらしいがこいつの家がデカい所だから異能者としてのランクは低くても派閥を作れた訳だ。もっともその派閥も香織に聞いた話だとこいつの会社の衰退とともに崩壊寸前らしいが、まあだから沙織姉達にちょっかいかけてんだろうが。
「で、どうしますセンパイ?約束してくれるならこのことは誰にも言いませんよ、センパイも一年のしかもFランクに負けましたなんて話は広まって欲しくないでしょう?」
「・・・・・ああそうだな、分かった約束しよう」
綾瀬川はしばらく悩んだ後悔しそうにそうこぼした。
「じゃとりあえず俺はこの人達を上まで運びますよ。ああこの人達のその後の扱いはセンパイに任せますよどうにかしてくださいね」
俺がそう言いながら取り巻き共を上に運ぼうと綾瀬川に背を向けた時だった。
「があぁ!」
俺の背中で閃光が弾けた。
「ははははは油断したな、俺が貴様ごときの言うことなど従うものか。どうだ今度こそ効いただろうゼロ距離からの攻撃は今度こそ小細工では回避できんぞ」
奴がまたも勝ち誇った笑い声を上げながら目を向けた攻撃を喰らはせた背中には・・・・・傷一つ付いていなかった。
「そんな!どうしてだどうしてだどうしてだ!何故何故何故!どうして?」
「はあ」
俺は盛大に溜息をついた。
「信じる信じないはそっちの勝手ですけど一応説明しましょうか。結論から言うと俺は異能者じゃありません」
「なっ」
「この学園にはちょっとコネを使って入学しました、まあそんなことはいい。俺の力ですっけ?俺の能力は単純明快純粋な身体能力ですよ。ただし曰くその身体能力がどうも冗談のようにデタラメなんすよ」
「????」
綾瀬川は俺が何を言っているのか理解しているのかしていないのか複雑な顔をしている。
「まあ実際俺も自分がどこまでできるのか試したことはないんですが一応耐久力に関しては沙織姉と香織じゃ俺には傷一つ付けられませんでしたよ」
「!!!!」
今度は奴がハッキリと驚愕するのが分かった。それもそうだろうSランクの沙織姉と純粋な攻撃能力だけならSランクと言われる香織に傷一つ付けられないということは現行の兵器では恐らく核を除く全ての兵器が通用しないということを意味する。
「き、貴様もSランクなのか?」
「だから違うって異能の判定では俺は間違いなくFランクですよ。だから俺は異能なんか発現できないしフィールドも持ってませんよ先も言ったとおり俺のこれは完全にただの肉体的能力に任せた頑強さですよ」
「で、では貴様は一体なんだ!」
「それは俺が一番知りたいんですがね。最初は俺もこれが異能だと思ってたんですよ?」
実際俺も異能者のクラス判定を受けた時の結果を聞いた時はかなり動揺したもんだ。
「まあさっきの俺の話はもういいですよ、センパイは俺が何言っても聞きそうにないしそのかわり今度からは俺もあまり穏便には済ませませんからそのつもりで来てくださいね」
俺はそれだけ言うと完全に放心した奴を置いて出口に歩いて行こうとする。しかしふと思い振り返る。
「ああそういえば俺の力について一応名前があるんですけど・・・今言っても無駄ぽいな」
俺はそれっきり一度も後ろを見ずに施設を後にした。さあご飯ご飯。
今回少しだけ主人公の力が明らかになりました。まああまり隠すほどのことじゃないんですが主人公にどれほどのことができるか想像してみて下さい