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普通じゃない俺の普通の日常  作者: ブラウニー
7/15

七話 普通じゃない俺の学園生活

               ~秋津勇将~

「ふわぁ~~~~」


 俺は最初の恒例行事である席決めのイベントで獲得した窓際一番後ろの席(決してズルはしてない)から降り注ぐ太陽の温かい日差しに当てられて思わず欠伸が出る。


「(やばいかなり眠い、やはり昨日の徹ゲーが効いてる)」


 コツン


「てっ」


 俺がそんなことを考えていると頭部に突然軽い衝撃がきた。


「(小声)もう、さっきの式の時に行ったばかりじゃないですか勇将。寝ないで下さい」


「(小声)そうは言ってもな香織よ昨日のゲームがかなり響いている」


「(小声)だから新しいゲームを買った時は気を付けて下さいといつも」


「(小声)そうは言っても」


 そう言って俺はもう一度欠伸をした。先程より大きな欠伸を。


「ふわぁ~~~~~~~~」


 ズガンッ


「あだ!」


 すると先程の香織の一撃以上のもはや衝撃といえるものが俺の頭部に直撃した。


「これはこれは秋津勇将君、授業中なのに大変大きな欠伸じゃないか、なかなかいないぞ授業中にこんなに堂々と欠伸をする奴は」


 それはいつの間にか俺の前に立ち教科書を持った腕を組んで額に青筋を浮かべた向坂黒子先生のものによるものだった。


「いや~黒子先生これには深いそれはもう深い訳が」


「ほう、では聞こうその深い訳とやらを」


「いやその訳と言うのがですね、この日差しですよ日差し」


「ほう、日差し?」


「そう日差し、この春のうららかな気温となによりこの暑すぎずかといって足りないこともなく人を眠りに誘うのに最適かつ最高の環境を作り出してくるのですよ。しかも俺の席は窓際でこれほど環境が整った場所はないですよ、いやマジで」


「つまりなにが言いたい」


「つまりですね全てはあの太陽がいけないのですよ。あの太陽が授業を真面目に受けようとするいたいけな学生の勉学を邪魔する訳ですよ」


「なるほどそういう訳だったのか」


「そういう訳だったんですよ」


「ふむ、なるほどなるほど」


 俺の話を聞き終えた黒子先生はうんうんと頷きながら腕を組んで目を閉じている。


「分かっていただけましたか」


「ああ、分かる・・・・分けねえだろボケ」


 ドガ!


「あだ!」


 再び俺の後頭部に教科書の角が振り下ろされた(最初より強め)。


「どうせ昨日ゲームのやりすぎで徹夜したとかしょーもない理由だろうが」


「ば、馬鹿な何故昨晩の俺の行動が完璧に読まれて!」


「分からいでか、お前の行動パターンなぞ簡単に予測できるは」


「なんてこった」


 俺がショックのあまり机に突っ伏すと俺の隣の席の香織がため息を付いてやれやれと言った顔で首を振る。


「しかしそうかそんなに眠いか、ならお前が眠くならないようになるべく授業中はお前を指摘しよう」


「え゛」


「夜遅くまでゲームをしてしまうのも他にすることがないからだろうな、これからはお前だけ特別に毎日相応の量の課題をだしてやろう」


「うえぇぇぇぇぇぇ、ちょ、待って待って黒子先生、眠くないも~う眠くなくなりました」


「ふん、初めからそうやって素直に反省すればいいんだよ、次見つけたら本当に課題を出すからな」


「ふえぇい」


「たくっ」


 そう言いながらも苦笑しながら黒子先生は授業再開の為教壇に帰っていく。すると俺の隣から僅かな忍び笑いが聞こえた。


「まったくだから言ったじゃないですか(小声)」


「へいへい私が悪う御座いました(小声)」


 俺はそう言うとふてくされたがとりあえず再開された授業を真面目に受けるべく前を向く


「(今晩香織に作ってもらう飯でも考えながら過ごすとするかね)」


「?どうした香織(小声)」


「・・・・なんでもない(小声)」


 なんか香織がいつの間にか机に突っ伏していた若干耳の方が赤い気がするが気のせいだろうか?。


「(ま、いいか)」


 俺はそれ以上追及をやめた。前似たような事があった時沙織姉に「女の子は~複雑なの~」と怒られたからだ。藪をつついて蛇を出しても敵わん。

 ちなみに・・・・・俺と黒子先生のやり取りの間他の生徒は若干の驚愕と唖然を含んだ顔を俺達に向けられていた。

 まあ確かに普通に考えればわかる、黒子先生は異能者ブレイカーとして今も第一線で戦う世界でも有数の実力者の一人だそんな人が情報だけならただの異能者ブレイカー、しかも最底辺のFランクの異能者ブレイカーそんな俺が普通に会話していれば多少なりとも驚くだろう。


「(まあ、事情を知らなければそうなるか)」


 俺はそんなことを考えながら浮かび上がる欠伸を今度は必死に我慢した。





               ~姫屋香織~

「へいへい私が悪う御座いました(小声)」


 勇将が半ばふてくされながら小声で私にそう返事をする。そんな勇将のふてくされた顔を見て不覚にも少し可愛いと思ってしまった。私は慌てて赤くなった顔を見られないように机に伏せて顔を隠す。


「(勇将は時々ああいった子供っぽい所を出すからいけませんね)」


 我が姉なら今ここが教室で授業中でも構わず抱き着きそうである。我が妹でも同じ結果になりそうである。

 結局の所私達姉妹は勇将なら何でもいいということなのだろう。我ながら度し難い。


「(こんなことではまたお母様方に笑われてしまう。そういえば今はどのお母様が帰っていらしたかしら?)」


「姫屋、姫屋香織」


 突然私を呼ぶ声が聞こえた慌てて前を向くと向坂先生が私の方を向いて腕組んで教壇で仁王立ちしていた。


「姫屋まさかお前まで春の日差しのせいだと言うんじゃないだろうな?」


「い、言え、えっと・・・すいません」


 私はとっさの言い訳も思いつかず素直に謝る。恐らく私の顔は赤くなっていることだろう。


「はあ、まあいいじゃああらためて姫屋先ほどの私の質問もう一度するぞ今日はお前達が中等部で習ったことのおさらいでもあるからな、我々異能者ブレイカーが普段自分の体の周りに目に見えないエネルギーを纏っているのは知っているな?」


「はい」


「良し、ではそのエネルギーがどのような役割をしているか言ってみろ」


「はい、私達の周りにあるエネルギーの主な役割は私達の物理的防御フィールドの役割を担っています」


「そうだ、我々の周りにあるこのエネルギーは高い物理防御の効果を持っている、これは高位の異能者ブレイカーになればなるほどその防御力は高いモノになる。姫屋この防御フィールドのランク毎の防御力の程度を説明してみろ」


「はい、Sランクの者になれば相当の物理防御を持っていることが確認されています。確認された中ではミサイルの直撃でも傷一つ負わなかった事例も報告されています。Aランクで対人用の兵器はほぼ通用しない程度、Bランクでも爆弾の至近距離での爆発にも耐えられる程、C・Dランクで至近距離からの銃弾やライフル弾の直撃でも致命傷にならない例などがあります」


「そうだ、正しこれも解っていると思うが個人の能力・特性・長所によって個人差が出る。異能者ブレイカーによってはBランクながらAランク以上の物理防御フィールドを持っている者もいる。そして先ほど姫屋が説明を省いたがFランクの物理防御は鈍器で殴られて平気程度の一般人に毛が生えた程度のモノだ」


 先生の説明の途中一人の生徒が手を上げる。


「先生、我々のフィールドは物理防御能力以外にも様々な特性やいまだ理由が解明されていない特性等があるそうですが?」


「うん、その通りだその代表例として物理防御の他に体の各免疫機能の強化等が上げられる」


「免疫機能の強化?」


 俺が頭に疑問符を浮かべて聞き返す。


「まったくこれも中等部の最後の方で習ったはずだぞ、我々異能者ブレイカーのフィールドには物理防御の他に身体機能の強化、各感覚器官の強化、傷の回復の促進等が挙げられる」


「へぇ~~」


 俺が関心したような顔をすると黒子先生は盛大にため息をついて首を振る。


「やれやれお前は中等部の授業で何を聞いていた。もちろんこれらには異能の強度や個人差により差が出るものだがな、しかも中にはこれらが異常に特化した異能として持っているものもいるからな、一概にはフィールドのみがもたらす恩恵とは言えないがな」


「なるほど」


「それでは次は異能者ブレイカーの歴史についてだ皆も知ってのとおり我々の社会に異能者ブレイカーが政府より正式に存在が公にされたのは約十年前だ。しかし、それ以前にも異能者ブレイカーは社会にその存在を隠していただけで実際には存在していたとされている。わかるか斉木」


「過去に存在した偉人や英雄などですか?」


「そのとおりだ、過去に様々な偉業などで知られる人物達のめざましい功績や英雄達のまるでおとぎ話のような強さは彼等が優れた異能者ブレイカーだったからだと言われている」


「しかし先生それ以降にも異能者ブレイカーが現れているとしたら今頃大変なことになっているのでは?」


「確かにそうだ、しかしこれも諸説様々な推察がある。まず異能の発現条件だ」


「発現条件?」


「異能は今でも確実に発現するわけではないが今より前はもっと特殊な環境で発現していたらしい。それは戦場だ」


「戦場?」


「と言うよりも命が危険にさらされた極限の状態にこそ発現していたらしいのだ。過去の戦争で戦時中に某国が超人計画等の作戦行動の理由は異能者ブレイカーを量産する為だったと言うくらいだからな」


 授業は続く、黒子先生の生徒への質問も他の生徒の先生への質問もこれまでの知識のおさらいや確認をかねているのだろう。


「(まあ勇将の場合は完全に忘れてるんだろうけど)」


 そんなことを考えていると他の生徒も質問を投げる。


「では先生、十年前までの異能者ブレイカーはどうなったのですか?」


「それは結論からいうと分からないだ。過去に確かにそういった者もいたのは過去五十年の間でも僅かだが確認されている。だがその人物がどうなったかは実はハッキリしないのだ。だが推測でしかないが過去の異能者ブレイカー達はその殆どの数が降臨者ディセンターに誘拐ないし殺害されたのではと言われている。しかし現在でも十年以上前からすでに異能の力に目覚めていた者も確実に存在するがな」


「先生もそのお一人というわけですね?」


 私がそう質問する。すると周りの何人かは少し驚きを露わにする。


「(やはり知らない人もいましたね)」


「そのとおり、まあこれは別に特に隠していたわけではないが知らない者が数人いたようだな。今言ったとおり私が異能に目覚めたのは生まれた時からだったらしいから二十年以上前に異能に目覚めたことになるな」


「今の発現から黒子先生の実年齢が推測できがは!」


 なにか余計なことを言おうとしたらしい勇将が黒子先生に迎撃された。


「ではここ10年で何故異能者ブレイカーが爆発的に増加したのか?それについては各研究機関でもいまだ解明されていない。だが異能者ブレイカーの増加とほぼ同時期に降臨者ディセンターが我々の世界にはっきりと姿を現した。これを無関係というには偶然が過ぎるという見解もある」


「先生。降臨者ディセンターの奴らも10年程前から姿を現す前にも度々姿を現していたというらしいですが奴らの目的は一体なんなのでしょうか?」


 新たに生徒が黒子先生に質問を投げる。そしてその顔はどこか不安を孕んだものになっている。この受業、というより降臨者ディセンターの話になってから教室の中の空気が重くなっていっている事に気が付いていた。


「(まあ正体不明の存在がいつ自分達を襲ってくるかわからない不安。そんな状況で自らの手には大なり小なり│抵抗する力(異能)があるから尚更自分もなんとか、もしくは巻き込まれる不安があるのかもしれませんね)」


 そう考える内に黒子先生の生徒への受け答えは続く。


「確かに、過去にいくつもあるUFOなどの未確認飛行物体の正体は降臨者ディセンターだと言われている。その目的の所は断定されていないが恐らくは偵察や観察が目的だと言われている。我々の知的レベル文明レベルそれらの評価による侵略のしやすさなどを測る為だったと言われている」


「なるほど」




               ~向坂黒子~

「なるほど」


 私は質問を投げかけてきた生徒に答えを返してやり生徒が納得したの確認すると教壇に引き返す。しかし私の心は何とも言えない感情に支配されていた。それは私自身の疑問によるものだ。


「(そも奴らは何故もっと早い段階で我々の世界に侵攻してこなかった?単に侵略が目的なら今の異能者ブレイカー増えた今の我々より戦時以前の方が遥かに侵略はたやすかったろうに、なにか別の目的が?奴らが異能者ブレイカーを攫うこととなにか関係が?そもここ最近の奴らの出現の仕方は?)」


 私の中で答えの出ない疑問がぐるぐる回転して渦を巻く。

 自らの考えに埋没する前に意識を現実世界に帰還させ授業を続ける。


「さて話が少し逸れたが今お前達のもっとも重要なことは降臨者ディセンターのことではない」


「?」


 何人かの生徒が私の言葉に疑問を顔に浮かべる。


「いまお前達がもっとも重要なことは学生生活を全うすることだ。己の異能を正しく理解しそれを正しく使いこなしそして普通の学生の本分も忘れない。もちろん将来は己の異能を生かして働きたいと思う者もいるだろうそれは別に構わんお前達の人生だ好きに使うがいい。だがな今のお前達は学生まだ子供だ、そして子供を守るのは我々大人の役目だお前達が無理をして戦う必要は無い。まあ今日の姫屋沙織のような例外もいくつか存在するがあれら例外中の例外だ、お前達はただ子供らしく過ごせばいい」


 私は一旦言葉を切り一度教室を見渡す。皆が真剣に私の言葉に耳を傾けてくれる。

 約一名寝る一歩手前の顔を上下に振っている。


「(あいつは後でもっぺん絞める)」


 私は心にそう誓う。


「まあ私がつまり何が言いたいかというとだな。戦いは我々大人に任せておけと言うことだ。こういった奴奴等に対する知識等は必要だが逆に必要以上に思い悩むなよ、ということだ」


 そう言って私は教室の中でも特に不安な顔を浮かべていた生徒へ視線を投げ不敵に微笑んでやる。するとその生徒は自分の不安が見透かされたのに気が付いたのかハッとした顔をしながらも顔にどこか安堵の表情を浮かべている。


 キーンコーンカーンコーン


「と、無駄に話込んでいたら随分時間が経っていたようだな。まあ今日の所は中等部のおさらいが殆どだからなこんなものだろう、とりあえず午前中の授業はここまでだお前達の今日の目的は授業以外に高等部の校舎の構造を把握することだからな各自校舎を散策してみるのもいいだろう。お前らの上級生に挨拶をするのもいいかもしれんな、もちろん職員室にいるこの私に貢物を持ってくるのも歓迎だぞ、授業やテストは全く甘くならんがな」


 私はそう言い残し教室を出て職員室に歩いていく。


「(私の心にもいまだ消えない疑問と不安もあるが・・・まああいつがいれば大抵のことはなんとかなるだろ)」


 私は職員室までの廊下を歩きながら先程も私の授業でアホ顔晒して必死に眠気をこらえる一人の生徒のことを思い出して思わず小さい笑がこぼれた。




               ~秋津勇将~

 午前中の授業が終わり俺は微睡んでいた意識をなんとか覚醒させ昼飯を食うために体を起こす。


「起きましたか勇将」


 香織がそんな俺を見ながら苦笑するように俺に話しかけてくる。


「ああ、最後の十分位は半分意識が飛びかけてたけどな」


「もうそんなんじゃ午後の授業も先生に怒られますよ」


「まあいいじゃないか、とりあえず飯を食ってから考えるよ。俺もう腹が減っちまって」


「もうしょうがないですねそれじゃ・・・・・」


 香織が俺の実に言い訳がましいことに苦笑いしながら席を立ち俺の方に歩いて来ようとした時人影が俺達の間に割り込んだ。


「ひ、姫屋さん良かったら俺とお昼休み一緒に食べない?」


 それは一人の男子生徒だった。顔は若干紅潮し手を後ろに回して両手でモジモジさせている。


「(乙女か!お前は!)」


 俺は内心突っ込みながら周りを見る。


「あ、ずるいぞ俺が先に声を掛けようとしたのに、ひ、姫屋さんそんな奴より俺と食事しませんか?」


「あ、テメエ俺が先に声を掛けたんだぞ。姫屋さんなんだったら君のお姉さんや妹さんも一緒でも構わないよどうだい?」


 どうやら今言い争っている二人以外にも同じことを考えている奴らが居るようだ。男子以外にも女子も何人か此方を窺っている。お目当ては香織本人又は副次的に付いてくるはずの沙織姉や詩織だろう。ようはあの三姉妹の容姿にのぼせ上る者や三人の家柄に惹かれた者又は高位の異能者である三姉妹と懇意にしたいという者等だろう。


「(去年までは中等部で同じ事がしょっちゅう起こってたからなあ、沙織姉や詩織もだいたい似たような感じだったらしいからな)」


 おそらく高等部に入ってからこの学園に入った者や初めて同じクラスになった者等がほとんどだろう。香織が困った顔に笑顔を浮かべるという器用なことをしている。


「お気持ちはありがたいのですけど先約がありますので」


「で、ではその先約の方もご一緒に」


「申し訳ありませんが・・・」


 しつこく誘ってくる者に断りを入れながら香織が俺に目線を送るそれが意味するところは「先に行け」だ。


「(いいのか?)」


 俺の方も目線でそう問いかける、すると香織は一度ニコリと微笑んで再びクラスメートに向き直る。確かに俺がここにいてあの話に介入するのはかなりややこしくなる。俺は一度頷くと教室を出て待ち人の待つ場所、屋上へと足を進めた。

 結果から言って俺の待ち人たる姫屋三姉妹が来たのは俺が屋上に到着してから少ししてからだった。沙織姉が一番先に来てその次は香織、最後に詩織だった。詩織は沙織姉や香織と同じく誘いを断ってから中等部の校舎から高等部の校舎まで来たのだから当然ではある。


「もう、ほんとしつこい人が多いよね。嫌になっちゃうなぁホントに」


 詩織が溜息を吐きながら愚痴をたれる。


「それでも去年よりは少なくはなったじゃないですか、去年なんか昼休みの半分はお断りに取られていたじゃないですか」


「そうだけどさぁ。毎日毎回よく懲りずにやってくるよね私達がOKするわけないのに」


 詩織はそう言いながら足を組んでいる俺の足の上に乗ってくる。そして思い切りう~んと伸びをする。その際年頃の女の子特有の甘いに匂いが俺の鼻孔をくすぐる。


「(しかし女の子はどうしてこういい匂いがするのかねぇ?それともこの三人が特別なのかな?)」


 そんなことを考えながらするがままにさせていると詩織の文句は別の方向に移動していた。


「それに去年まではお昼ご飯は中等部の屋上でとってたのに今年からは高等部の屋上だから私だけ移動に時間が掛かっちゃうよ」


「しょうがないでしょ今年からは詩織だけが校舎が違うのだから、去年までは校舎が違ったのは沙織姉さんだけだったから中等部の校舎の屋上でもよかったのですけど」


 香織はそう言いながら屋上を見渡す。今俺達は屋上の真ん中にシートを敷いて座っている。そして屋上には俺達以外の学生の姿は一人もない、それもそのはず屋上の校舎のカギを自由に使うことができるのは俺達だけだからだ。この三姉妹が学園の教師の信頼も厚くまたこの学園の有力な出資者とあってこういう融通がききやすいのだ。


「んも~詩織ちゃんも~香織ちゃんも~そんなことはいいからご飯食べましょうよ~。お姉ちゃんお腹がぺこぺこだよ~ねえ~勇ちゃん」


 今まで会話にまったく参加してこなかった沙織姉が突然俺の背中に抱き着きながら若干涙目で訴える。それと同時に俺の背中になんとも素晴らしい感触が二つ伝わる。


「それには激しく同意したい」


 俺も沙織姉の恐るべき凶器を後ろに突き付けられホールドアップ中ながら沙織姉の言い分には大いに賛成した。


「はいはい、沙織姉さんも詩織もご飯食べますから勇将から離れて下さいそれじゃ皆ご飯食べれませんよ」


「は~い(×2)」


 香織にそう言われ二人は大人しく俺から離れてそれぞれ自分のポジションに着く。俺に右隣が香織、左が詩織そして正面が沙織姉が陣取る。


「今日のお弁当は~香織ちゃんの手作り~♪」


「わーい香織お姉ちゃんのお料理私大好き~♪」


 二人が弁当を拡げる香織を見ながらはしゃいでいる。まあ無理もない、この三姉妹の中で香織の料理の腕は頭一つ以上抜け出ている。彼女達はそれぞれ姫屋家では一通りの炊事洗濯の作法を習っている(曰く花嫁修業?)。しかし沙織姉と詩織にはあまりそっち方面の才能は無いようで(あくまで香織を基準に)どうしても香織には劣ってしまう。

 もっともこうして香織が毎日弁当を作ってくる訳ではない、そも姫屋家では当然のように専属の料理人が存在し基本はその人が作っている、しかしこうしてたまには香織が腕を振るう時がある、大抵が俺や沙織姉や詩織が食べたいと言った時はこうして香織が作るのである。香織の料理の腕は正直そこらのプロの料理人よりよっぽど美味い。姫屋家の専属料理人になるにはまず香織の合格が必要な位だ。まあ姫屋家にはもう一人大御所がいるが。


「今回のお弁当は勇将が食べたいと言ったので勇将の好きなモノを中心に作ってありますよ」


 確かに拡げられた弁当の中身は俺が好きなモノが中心に盛り付けられている。


「お、ホントだサンキュー香織。香織の料理は本当に美味いからな時々と言わず毎日食いたいくらいだぜ俺は・・・・・あ」


 言ってしまったと思う。空腹も手伝ってつい余計なことを口走ってしまったようだ。おそるおそる香織の方を見る、すると香織は顔を伏せているが耳まで真っ赤である。


「わた、わた、私はゆ、勇将さえよければ毎日でも全然・・・・ぜんぜん・・・おっ、オッケイです・・・よ?」


 香織は真っ赤になりながらそう言ってくる。俺としては純粋に言っただけなのだが彼女達の俺への気持ちを考えるとこうなると予想できたはずだ。別に勘違いという訳ではないが彼女達の気持ちに答えるのはまだ俺としては少し考えたい。


「ずるいわ~香織ちゃん。勇ちゃ~んわたしにもプロポーズして~」


「あ、ずるい私も私も、勇にい私にもプロポーズ」


「プロポーズじゃねぇよ。まったく早く飯食おうぜ。俺もう腹減っちまったよ」


「そ、そうですよ沙織姉さん、詩織。昼休みが終わってしまいますよ。さあ食べましょう」


「もうしょうがないな沙織お姉ちゃんご飯食べよう」


「そうね~」


 なにはともあれようやく俺は飯にありつけたのだった。


 その後飯にありつき午後の授業も平穏無事に過ごして(眠気は無視)放課後の下校時間が来た。


「じゃ、帰るか」


「はい」


 俺がそう声を掛けると香織も返事をして自分のカバンを持ち立ち上がる。すると。


「姫屋さん」


「はい?」


 一人の男子生徒が香織に話しかけてきた。その顔は昼休みに香織を誘ってきた男子生徒のように紅潮し体は起立の姿勢で固まっている。


「あの、なんでしょうか」


「え、その、こ、このあと少しお時間を頂けないでしょうか。少しお話があるのですが」


「はあ、まあ少しくらいなら構いませんが」


 男子生徒は恐ろしく緊張しながらかなりどもりながらもそう言葉にする。香織の方は要件がなんであるか大体の察しを付けて肯定の返事を返した。


「(まあ十中八九告白の類だろうなぁ)」


 俺は胸中でそう嘆く。香織だけでなく沙織姉も詩織も昼休みの誘いだけでなく放課後等の時間に交際の申し込みを受けることも多々あるのだ。もちろんそれらは全て丁重にお断りしているようだが。因みに沙織姉は去年の時点で告白された人数が中等部・高等部・大学部を含めた男子生徒のやく半数は既に沙織姉に告白して玉砕した者だというから驚きである。


「(まあ三人とも見た目はちょっとお目にかかれないくらいの見た目だしな)」


 アイドルより可愛いと言われている位の三人である。特に沙織姉は一種神がかった美貌の持ち主である。今現在のどこぞの王族から引っ切り無しの求婚の便りが来るらしい。


「じゃあ勇将少し行ってくるので先に待っててください」


「おう了解」


 香織はそう言ってその男子生徒と教室を出て行った。その時を見計らっていたかのように俺の周りに人が集まる。


「ねえねえ秋津くん?だっけ。姫屋さん達とはどういう関係なのかな?あ、あたしは佐藤志保、この学園に来たのは今年からだよヨロシク」


 そう言って佐藤さんと名乗った女生徒は俺に話しかけてきた。ついでとばかりに自己紹介の後に舌を出しながらウインクをしてくる。一瞬目から星が飛んだ気がしたのは気のせいだろうか。


「どう、とは?」


 一応とぼけてみる。


「もうとぼけちゃって、朝もあの姫屋三姉妹と一緒に登校してたでしょ。昼休みも一緒にいたのを見た人がいるしさっきだってすごく自然に一緒に帰ろうとしてたじゃない」


 どうやらとぼけても無駄らしい。こういう場合は下手に誤魔化すと後々面倒になるのは目に見えている。ここは正直にある程度の真実は与えるべきだろう。


「実は幼馴染なんだ」


「幼馴染?」


「ああ生まれた時から兄弟姉妹みたいな間柄で育ったんだ。親の方も仲がいいから家族ぐるみの付き合いが今でも続いているんだ」


「秋津くんのお家はお金持ちなの?」


 いきなりストレートな質問である。今俺に話しかけている女生徒の元気そうな見た目そのまま性格ゆえそれが純粋好奇心からであることはすぐわかる、なので俺は若干の苦笑を口に出す。


「いいや至って普通のサラリーマンだよ。ただ家の母親の方が沙織ね・・・沙織さんのお母さんと従姉妹同士でね今でも本当の姉妹のように仲が良いんだ、その関係で親父の方も元々の人柄が噛み合ったのか向こうの親父さんと意気投合してねそんな感じで今の関係が続いているんだ」


「へーつまり親公認の仲なんだね」


「だから付き合ってないって」


「えーほんとかなぁ?あれだけ仲が良さそうでただの幼馴染?信じられないなぁ~」


 佐藤さんが非常に面白そうな顔で俺に疑いの眼差しを向けてくる。その眼には純粋な好奇心と女子特有の色恋に関する話いわゆるコイバナに興味深々の様子だ。きっと彼女はこの学園に来る前の普通の学校ではきっとクラスのムードメーカーの役割を果たしていたのだろう。


「残念だけど佐藤さんの期待に沿うような関係ではないよ」


「ちぇっそっかー残念。じゃあまたいつか続きを聞かせてね・・・・・・・・


 佐藤さんはそう言いながらしぶしぶ自分の席に帰って行った。どうやらただの元気キャラという訳ではなさそうだ、その顔にはまったく俺の話を鵜呑みにしたようすがない。佐藤さんが自分の席に帰ると他の生徒も各々の席に戻りいそいそと帰り自宅を始める。


「さて俺も行くか」


 俺も香織達を待つべく自分のカバンを持ち教室を後にした。

 しばらく下駄箱の玄関で待つこと十分程で最初に中等部の校舎から詩織が元気よく走って来た。

やけに早いこいつも沙織姉や香織と同じく男子生徒に告白されているのは聞こえていたが・・・・・・・。さては能力を使ったな。


「お待たせ勇にい」


 元気よく俺の腹にタックルしてくる。


「早いな、使ったな?(・・・・・)」


「てへ♪」


 自分の頭に自分の拳骨を当てながら舌を出す形だけの反省のポーズ。まるで反省していないのは明白である。


「まあ自分の力だから俺はどう使おうが特になにも言わないが香織が聞いたら説教喰らうぞ?」


「大丈夫大丈夫、勇にいが黙っていればバレないよ」


「お前さらっと人を共犯者扱いにするんじゃない」


「おまたせしました。おや、詩織も先に来ていたのですね」


「うん、後は沙織お姉ちゃんだけだよ」


「どうせ沙織姉さんも遅れる理由は私たちと同じですから、しかも人数は私たちよりも多いですからね」


「あ?去年で大体の奴は玉砕したんじゃ無いのか?」


「そうですが今年からこの学園に編入した人とか新学期ということで改めて、姉さんと同じ高等部に入って実際に姉さんを見た人とかいろんな人がいます」


「なんか怒ってない?」


「怒ってません!」


「いや怒ってんじゃん」


「ああ」


すると詩織がしばらく考えると納得が言った風に声を上げる。


「なんだ詩織わかるのか?」


「うん。あのね私たち特に香織お姉ちゃんが多いと思うんだけどね沙織お姉ちゃんに振られた人がそのまま香織お姉ちゃんの方に告白に来る人が結構いるの」


「あ?」


「つまり沙織お姉ちゃんがダメだったからせめてって感じじゃないかな?」


「そうなのか香織?」


「・・・・・・・・」


どうやら当たりらしい。


「別にそんなの気にしなくてもいいじゃないか。どうせ振るんだろ?」


「そうですけど、告白する人間に対して失礼じゃないですか」


「相変わらず香織は真面目だねぇ」


そんなことをはなしていると二年の校舎の階段の方から沙織姉が降りてきた。


「お待たせ~遅くなっちゃったわ~」


「全然大丈夫だよ、今日は何人に告白されたの沙織お姉ちゃん?」


「きょうは~五人の方に~告白されました~」


「相変わらずだね」


「まあ~告白してくださるのはうれしいのですけど~私としては~告白して欲しい人は~もう決めているんですけどね~」


 そう言うと沙織姉は俺に意味深な目線をよこす。俺はそれを華麗にスル―する。


「もう~いけず~」


「はいはい帰りますよ。今日は勇将にご飯を作ってあげる約束なので帰りに買い物して帰りましょう」


「応、美味いもの頼むぜ」


「わ~い香織お姉ちゃんのお料理~」


「お昼に続いて晩御飯も香織ちゃんの手料理が食べられるなんて~おねえちゃんとってもうれしいわ~」


「さあじゃあ帰ろうぜ」


 そうして皆で学園の門に向かって歩いていると。


「待ちたまえ」


 制止の声が入る。声の方を振り向くと今朝見たできればもう見たくなかった顔があった。


「朝は世話になったな庶民」


「うわ~」


 そこには朝の校門の所で俺達を呼び止めた綾瀬川公彦が朝よりも多い取り巻きを引き連れてそこに立っていた。

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