昼の親友
四時限目の授業が終わり、昼休みが始まった。
大半の生徒は学食に行く、よって教室に人は少なくなる。弁当組も天気のいい日は外で食べるほうが多い。
実際、この教室には俺と菰野しかいない。
夜のことがあったせいで弁当が作れなかった為、コンビニで買ったサンドイッチとおにぎりとスポーツドリンクを机に置く。
すると菰野が俺の前の席の机を向かい合わせにした。いつも通り、俺と菰野は昼食を取る。
「なあ黄泉渡、俺気付いちゃったんだけどさ、四季波って結構ナイスなバディしてない?」
開口一番、菰野の唐突過ぎる言葉の意味が分からず「はい? どういうことだよ」と首を傾げた。
「いやな、調べてたんだが、四季波のスリーサイズと俺の目視のサイズがあまりにもかけ離れているのだよ」
「お前、どうして四季波のスリーサイズなんか知ってるんだよ」
「そこで俺はある仮説に至ったのだ」
人の話を聞け…
「俺の質問は無視かよ…」
「四季波隠れ巨乳説いや、巨乳説にッ!!」
いや、今クラスに人が居なくて良かった。ウチのクラスは食堂組と購買組ばっかだし、弁当組も他のところで食べてるもんな。いやー、よかったよかった
「ぐ、うごぉ…。よ、黄泉渡ぃ、なぜ、俺の首を絞めるぅ…」
良かった良かった、クラスに人が居なくて。俺はこの変態と平気で会話している変態その弐になんかなりたくないからな。
ぱっと手を離す。菰野が酸素を求めて大きく深呼吸する。スーハスーハーとやるのを視界の隅に追いやった。
「フラグが立たない…か…、まあ、アイツがこのクラスに居るからなあ」
菰野が「アイツって誰?」なんて顔でキモく首を傾げてので補足説明してやる。
「エンジュだよ。女子ホイホイなんて変な呼び方をしている――」
「NOォォォォォォォォォォッ!!!!! あのイケメンかぁー!! エンジューーー」
「何? 呼んだ?」
教室の入り口から声がした。そこにはイケメンがいた。
俺と菰野が入り口を見ると、そこに例のイケメンがいた。
日本人離れした白い肌、整いすぎのイケメンフェイス、身長178㎝ちなみに俺は174㎝
そんなイケメンの条件が揃っているヤツがエンジュだ。エンジュはニックネームで、本名は遠藤冬珠
俺にとっては幼少時代から一緒にいた。いわば幼馴染だ。
「珍しいね、新が弁当じゃないなんて」
「あー、ちょっと訳アリでな。イロイロあったんだよ」
ホント、これからどうするか考えないといけないからな。
通り魔のこととか、四季波のこととか…
「んー、どうやら何か困ったことがあるようだね。相談になら乗るけど」
どうやら、俺は困った顔でもしていたのだろう。エンジュはそういうところは鋭いんだよな
一応、エンジュにも俺が『死なない体質』ということは話していない。
そうそう話したところで解決はしないし、ましてや信じてくれるのかもわからない
「別に、相談するほどのことじゃねえよ。だから気にすんな」
するとエンジュは、ニヤリと笑い
「本当に何もないなら、顔には出さないだろ、オマエは」
ホント、腹が立つくらい鋭いよ。
「え、なに。黄泉渡、困ってんの?」
なんか変なのまで喰い付いてきたよ。これに関しては心底嫌そうな顔になったことだろう。間違いない。
「今夜は何をオカズにしてヌ――グホァ」
黙って鉄拳制裁をくれてやった。というか菰野、お前が黙れよ。
「ハハハ、菰野は面白いなあ」
「はあ?」
お前、頭おかしいんじゃねーの? 何も面白くありませんよ?
「『今夜は何を』じゃなくて『今夜は何の』だろ。言葉の使い方が違うじゃないか」
「……」
ああエンジュ、お前は何か勘違いをしている。
今のはギャグで言おうとしたんじゃない。下ネタを言おうとしたんだ!
「ふ、ふふ。そんなことなら俺に任せろ、数多のジャンルからお前のすぐぅぃい!」
だから黙れよ。
「まあまあ、少し落ち着け」
お前は何でそんなに能天気なんだよ!!
むしろ下ネタを下ネタとしてわかってなさすぎなんだよ。
「あーもう、なんなんだよ! お前らはぁ! 俺だって必死に悩んでるんだよ」
「オカズでか」
黙れ!!
菰野が宙を舞っていくのを全く見向きもせず、エンジュを睨みつける。
「ハハハハハ、落ち着けって」
「お前面白がってるんだろ!? そうなんだろ!?」
「まあまあ」
「ぐぬああああああっ」
「なんだよ、そんなに溜まってるのか?」
もう頼むから黙ってください!!
菰野が錐揉みしながら飛んでいくのを無視して、エンジュを睨む。
飽きたのか、初めからそうだったのか、エンジュは腕を組み、肩を上げる
フ、と息を吐き、不敵に笑みを浮かべる。なんとも様になる
「悩みすぎるなよ、肩の力を抜け。柔軟に考えろ、やりたいようにやればいい」
「……」
俺の友人は、いい意味で俺を引っ掻き回してくれる。
「そーかい」
ありがとう。お前たちと友達でいれて良かったよ。
俺のことを話して、これから先、何が起こるかわからないな。
だけど、できることなら、このままであって欲しい。