翌朝は既に
朝、学校に行かなきゃならない。そりゃ学生だもん。
ゾンビじゃないから、朝に出歩けないわけじゃない、誰にだってあるだろ? 朝はだるいんだ…
「うげぇ、行きたくねえ」
制服を着て、家を出る。学校までは歩いて約20分。なかなかの距離だ。
今は初夏、照りつける太陽は殺人的、少し歩いただけで汗が噴き出る。死んでしまいそうだ…
しばらくすると学校が見えてくる。他の生徒が登校しているのも見える。その雑踏の中に混じり、自分の教室を目指す。
席に着き、鞄を机の横に掛けた。それと同時に前の席の男子に声をかけられる。
「おっす黄泉渡。昨日テレビ見たか」
軽い口調で喋りかけてきたこの男子。こいつは菰野俊、俺の友人である。
コイツは学校中の女子に関係するあらゆる情報を持っているギャルゲーにでも出てきそうな変態で、ウザイ小物。それ故に『小物』と呼ばれている。
むしろどうして友人なんだろうか、おかしいレベルだ。
「どうした。またナンパでもして、酷い失敗でもしたか」
「んなッ、俺が話しかける理由をそれで固定しないでくれよ」
はあ、ため息しかでねえや。
どうしても昨日のことが気になって仕方がない。昨日の通り魔と、それから出会った女の子。二度と会うことはない…と思いたいんだけどなあ。
嫌な気がするのは何故だろう…
「あの…」
通り魔を探さなきゃならない。しかしどうやって…
「黄泉渡…くん」
何かしらの情報が欲しいな、菰野ならいけるか
「あ、あの…っ!」
「ん?」
いつの間にか、俺の横には女子生徒がいた。
「おう、四季波。おはよう」
「うん、おはよう」
四季波藍華。勉強熱心で学力は学年トップ、先生からの信頼も厚い優等生、我がクラスの委員長、そして美少女。どこをどうとっても完璧な彼女に、現在も噂のせいで恐れられる俺が話しかけられている。
あっれー、俺なんかしたっけ?
「おいおい、お前なんかしたのかよ」
菰野が小声で耳打ちしてくる。キメェ…
「つーか、なんで俺が何かやったこと前提なんだよ」
「だって、お前が四季波に話しかけられ…いや、クラスの誰かに話しかけられることなんか、問題起こしたときぐらいだろーが」
「もう問題も何も起こさねーよ。もう破壊皇じゃねーんだよ。てか、何気にぼっち呼ばわりしてんじゃねえよ!」
「じゃあ、なんだってんだよ。ここで愛の告白でもすんのかよおぉぉぉぉぉぉ!」
「そんなわけあるか! 少しは空気よめえぇぇぇぇぇ!」
ひそひそごにょごにょ、ごすっごすっ。途中からはど突きあいになり、結論として、何のようか訊くことになった、俺が。
最初からそうしろよ。と言いたいが、そんな単純なことも忘れるほどのことなんだ。
「四季波、何か用か?」
「う、うん…話したいことが…あるの」
その瞬間、クラスの男子が騒ぎ出す。
「バカな、あの四季波が」「相手は黄泉渡だと!?」「アリエナイデース」「いやアイツらは放課後…」
お前らうるさいよ。
なんだかクラスが妙な感じになって行くぞ。ちなみに放課後というのは、俺がHRが終わるとすぐに教室で寝る、起きたら四季波がクラス委員の仕事ををしているので、少し手伝っているだけだ。決してやましいことがあるわけじゃあない。
「黄泉渡、お前…」
「小物、早とちりするな。あと少し黙れ」
ショックを受けたような顔で「ヒドイ」と言ってくるが、無視だ
「それで、何についての話だ」
「えっと…昨日、の、夜の事について…なんだけど」
「昨日の夜? 俺、なんかしたのか?」
「覚えて、無い…? 昨日…倒れて、たの」
「倒れてた?」
俺は……。確か、通り魔に刺されて、倒れて、女の子に会って……!!
まさか、まさかまさかまさかまさか、まさかあの時の女の子は――
四季波、お前、だったのか…?