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MISSION 4

MISSION 4



 フレシス国の海洋側。

 いつもより、波が荒く、崖を激しく打ち付けていた。

 まるで津波への予兆のようであった………。



 津波。もとい、Hシーサーペント出現予定日まであと2日。

 レスキューステーション内で、対策に思案を働かせているオルフェ……。

 オルフェは美顔を顰め、顎を摘む。

「おい」

 オルフェは声をかけたセレドニオに反応する。

「どうしました?」

「Hシーサーペント対策の所、関係ない話をする」

「?」

「この前俺とドミニク・アリサで挑んだ雪山遭難救助についてだが……。このミッションを国に報告すべきかどうか考えている」

「……詳しく話を聞きましょうか?」

 窓の外。そこには暗雲包む空があった……。

 遂には雨が降り出す。

 セレドニオの話を聞き、オルフェは返答をする。

「……成程。スイルデンの兵開発チームの調達員が遭難者だったのですか。それで、結局目当ての鉱物を回収させずに退却させた。要するに調達員を失敗させた。このミッションを報告すれば、僕達の国、ジャードはスイルデンに恩を売れる。そうなると、調達員の立場は危うくなる。……さて、どうしたものか? という、話ですか」

「あぁ。国に報告しなければ、俺達は国から給料を貰えない。だが、報告すると調達員を最悪殺してしまう事になる。まさに板挟みだ」

「給料は……欲しいですよねぇ~。僕達、それが無いと生きていけませんから」

 オルフェは眉をハの字にし、表情を酸っぱくする。

 逞しい両腕を組んで、首肯するセレドニオ。

「その通りだ。だが、他人を救う仕事する奴が間接的に他人を殺すのは如何なものかという話だ」

「ですねぇ。説得力が無くなってしまいますよホント……。ですが……」

「んん?」

「調達員さんはおめおめと兵器工場へ戻ったのでしょうか?」

「帰らなかったと言いたいのか?」

「はい。Hクリーチャーを倒した後なら安心して目的の鉱物を探し易くなったでしょう。そこまで判断出来ないほど間抜けな連中ではないと考えます」

 オルフェは慇懃無礼そうな笑みを交え、推論を述べる。

「……だが、回収した確証も無いぞ。アリサのイエロー色カードで向こうへワープ出来るが、それよりも他のレスキューをしなくてはいけない時の事を考慮し、確かめるタイミングも難しい」

「そうですね……。ではいっその事、待ってみましょう。数日です。数日もあれば目的は果たせるでしょうから。役目を果たした後の報告なら、向こうは然程咎められないでしょう」

「数日……か」

「そう、僕達が国へ今回の雪山レスキューの件を報告するのは数日後。即ち、津波阻止の後です。僕達は津波対策に忙しくて、報告に遅れるのです」

 セレドニオ、鼻を突き上げ、笑い散らす。

「フハハッ! そういう事か! 相変わらず小賢しい奴だ」

 ニタリと嬉しそうにセレドニオの言葉を受けるオルフェ。

「小賢しくないと経営や司令塔は務まりませんから………」


 その頃、カリーネ・ローラ・アリサの女性陣は食卓に居た。

 エプロン姿のローラがドン!と、クッキーが沢山乗せられた皿をテーブルに置く。

「じゃ~じゃじゃぁ~ん! ローラ様お手製クッキーの完成~!」

 無邪気に瞳を輝かせ、クッキーに喰い付くアリサ。

「うわぁ~。美味しそうだおー」

「食べてみな!」

「いっただっきま~す!」

 アリサは小さな口を精一杯大きく開け、摘んだクッキー1つを放り込んだ。

 開眼するアリサの眼。

 幸福感満ちた表情と化す。

「まいうーだおー。やっぱりローラねーちゃんの料理はサイコーだおー」

「当然でしょ!」

 胸を突き上げ、堂々と立ち構えるローラ。

 どうやら、己のクッキー及び、料理に自信がある類らしい。

 一方でカリーネは悪辣とした笑顔を浮かべ、クッキーを1枚手に取る。

(ふふふ、今日こそこいつの料理に難癖付けてこき降ろして魅せますわ!)

 本人に取っては腹ブラックく、他者によっては稚拙と思える計画を胸にカリーネはクッキーを食す。

 ……すると、口内より溢れる神秘。

 クッキーの美味にカリーネは脳を侵食されてしまった。

 所謂ヘヴン状態となり、悶え狂う。

(く、悔しいけどっ……。ダ、ダメッ! び、美味ですわぁっ!)

 ガタンと、カリーネは悶え抜いた後、テーブルに伏す。

「おーい、カリねーちゃん、戻って来るおー」

 アリサは淡々とピクピク動くカリーネの背中を人差し指1つでつつく。

「ま、自活して来たキャリアよねぇ~。どっかのお嬢さんと違って何もかも自分でやって来たから」

「フン、料理なんて出来なくても支障はありませんわ。レストランや弁当で済ませばいいんですの」

不貞腐れ、プイと端へ顔を背けるカリーネ。

 またもや睨みあうローラとカリーネ。

 その様子をアリサは2人の中間地点でぼんやり眺める。

「ねぇ~、ねぇ~」

 アリサの呼びかけに2人は反応。顔をアリサの方へ向ける。

「何で2人はいつもケンカするんだお? まー、見ていて面ホワイトいから別に止めなくてもいいんだけど」

 唐突に襲来したその問いに思わず、ポカンとなる2人。

 ローラからあっけらかんとした顔でその答えが語っていく。

「お嬢様という存在がムカツクから。それと、楽しいから」

「な、何ですのそれ……。それにもう私はお嬢様なんかじゃ……」

「あたし、こいつとはムカツクけど協力しなきゃいけないじゃん? だから、ミッション以外ではケンカすんの。で、ミッションの時はキッチリカッチリやる!」

「ふへ~。そうだったんだお」

「でも、とばっちりっぽく思えますわ……。私はあなたがケンカ売って来るから反撃しているのであって……」

 カリーネは目をジトッとし、ローラを睨む。

「メンド臭いっしょ? ゴメンね……。でも、あたし器用じゃないからさ……」

 反論するかと思いきや、この女は逆に謝り出した。

 出会って初めての謝罪。

 カリーネは耳を疑い、仰天した。

「あ、謝った……?」

 絶句し、カリーネ硬直となる。

「大災害の予兆だお………」

 アリサも衝撃に疾る。

 まぁ、実際大災害まであと2日ではあるが………。

 そんなカリーネ・アリサをよそにローラは語り続ける。

「あたし、泥棒生活長くやってたから、他人と上手く接するの苦手なんだよね。つっかかるのは得意なんだけど……」

 カリーネは仕方無さそうに両肩の力を抜き取る。

「やれやれですわ。面倒な人………。でも、あなたとの喧嘩、退屈はしなくてよ……」

 顔を見せずにカリーネはそう言った。

 どんな表情であったかは不明。だが、口調に棘は皆無のようだった。


 小劇団『イェーガー』・舞台。

 ドミニクの所属するこのイェーガー劇団は本日リハーサルを行っていた。

 ステージには緊張した雰囲気が蔓延中。

「お前は……お前だけは正義ではないっ!」

 勇猛なセリフを叫び、主人公・勇者役であるドミニクはハリボテの剣で目の前の髭面の男=国王に一斬を刻む演技を披露。

「ぐ、ぐぉあーっ! お、おのれぇ~っ!」

 バタリと国王役の中年男性は倒れ、ステージに臥した。

 その様子を看取る勇者役のドミニク。そこへ姫役の美女がドミニクに抱き着いて来た。

「勇者様! よくぞご無事で!」

「姫! ご安心を! すべての元凶は我が剣が絶った」

「はい。これから歩みましょう。幸福な国家へと………」

 勇者と姫のみを照らすスポットライトが消え、幕が降りていく。

 大団円を迎え、演劇はこれにて終了。

 ステージ下から静観している監督。彼は満面な笑顔となり、

「ようし! いいぞ! 一通り演ったが、上手くイケたじゃないか! 一旦休もう!」

「はい!」

 監督の休憩許可を快く受け入れるドミニクら役者陣。

 死んだ演技をしていた国王役の中年男性もよっこらしょと起き上がる。

 ―――役者陣は飲み物や菓子を口にし、休息に浸る。

「なぁ、知ってるか? あと数日で大津波もとい、ハザードクリーチャーが出現するらしいぜ?」

「あぁ、知ってるよ。でも、進出機没で何処に出るか分からない。法則性もクソも無いらしいじゃんか。だから、逃げようが無いよなぁ」

「だけども、海川に隣接していない地域に住む俺達にとっちゃ関係無いけどな。ハハハ」

 雑兵役を演じた男2人が甲冑衣装を着たまま、飲み会話。

 そこへドミニクが話しに加わる。

「ちょっと、あんま言わないで下さいよ。そういうの。俺、その津波止めに行くつもりなんっすから」

「おぉ、悪いなドミニク。役者兼レスキューウィザードだもんなお前」

「ん? でも、可能性のある地域の人らは逃げないのかねぇ?」

 雑兵を演じた男はふと疑問を呟く。

「それに関しては一応緊急シェルター持ちの金持ちらは大丈夫だろうけど、そうじゃない世帯はな……。ま、逃げれるところは逃げるんじゃないかな? 牧場農家とか逃げ難いトコもあるけど」

 唇を噛み締め、ドミニクは悔しそうな顔を浮かべる。

 庶民・貧乏人は助かる手段は乏しい。

 それ故に守り抜かなくてはと、意気込む………。

「でも、良かったなドミニク。本物のヒーローになれて……」

「レスキューウィザードになる前までは『俺はヒーローを演じるだけなのか……』って、途方に暮れてたモンなぁ」

 ドミニクは穏やかに苦笑いする。

「そういや、そんな時もありましたね。俺、元々保安隊に入りたかったんっすよ。でも、勉強不足で筆記試験に落ちちゃって……。そんな時、この劇団を見つけて演劇も悪くないなと思って入ったんっすよ」

「そうだったな。で、入団したらしたで、やたらとお前、『ヒーロー役やりたい』と主張しまくるし」

「煩い上にアクション出来るから抜擢されたけどな」

「ハハハッ……。でも俺、ヒーロー役を演じていけばいく程、本物のヒーローへのミレンがあってさ……」

「で、この町に来たレスキューウィザードに会いに行き、志願したと」

 ドミニクは頷く。

「そして、今では舞台俳優とレスキューウィザードを両方やってる訳だな」

「最初、俳優は辞めようと思ったけど、思いの他、レスキューウィザードは時間に余裕ある仕事だったっすからね。どっちもやりたいから、兼業しちゃった」

 頬を掻き、ドミニクは照れ笑い。

 ……だが、数秒後凛々しい顔へと切り替える。

「だからこそ、両方中途半端な事はしたくねぇ。絶対津波を阻止してみせる!」

 拳が篤く握られ、ドミニクは添乗を睨んだ。

 天災よ。かかって来いや。と……。



 日は沈み昇りを繰り返し、遂に大津波・Hシーサーペント出現日が来た。

 レスキューステーションでは緊張した雰囲気に包まれている………。

 オルフェ達6人はアリサの持つ、ハザードセンサー=宝玉を囲み、反応はまだかと待ち続けていた。

「いいですか皆さん。反応が出たら、即座に向いますよ」

「おうよ!」

 己の拳を己の平手に打ち付けるドミニク。

「勿論ですわ」

「国民栄誉賞、ウチら6人でガッポリ貰う為にもね!」

 カリーネは侮蔑的な目でローラへ視線を飛ばす。

「またそんな……。品の無い事を……。あなたには善意は無いのですか?」

「……あるよ。でも、タダでは出来ない。つか、持たないってだけ。善行も悪行も生きて無いと出来ないじゃん? まずは生きる為に必要な金が無いとねって事よ」

「……ま、まぁ、一理ありますけど……」

 言い返し難い為、言葉を詰まらすカリーネ。

「今回はとにかく大規模な災害です。その為、6人総出撃します。その作戦プラン、忘れていませんね?」

 オルフェの質問に、セレドニオら5人は無言で、自信溢れる表情で首肯。

「あ~、何か緊張して喉乾いてきちゃった! 水飲みに行こ!」

 ローラが空気を破壊し、立ち上がる。

 5人は捻じ曲がった脱力をしてしまう。

「ちょ、雰囲気壊すなよ!」

「まぁまぁ、人間なんだから喉乾くのはしょうがないじゃん?」

「しょーがなーい、しょーがないーだお! アリサも水欲しいお!」

 アリサは天真爛漫な笑顔でローラが傾けた空気に寄る。

「オッケェ、持って来るねぇ~」

 ローラは婆臭く起き上がり、食料庫へ向わんと足を運ぼうとする。

 6人は長期戦も想定して弁当と水筒を入れたリュックを背負っている。即座にその食料・飲み物の手をつけられるが、現場へ出向いた時用のものなので、現在消費する訳にはいかない。

 その為、ローラはレスキューステーションに保管された飲み水を取りにいく。

 突如、カッと光る宝玉。

「来やがったか!」

 ドミニクらはアリサの宝玉へ食い入るように注目。

 宝玉には大津波がフレシス国・北部海岸へと襲来していく姿が!

 その大津波は水で形成された大海蛇=Hシーサーペントに変貌し、陸地へと泳ぎ進む。

 間違い無い。

 オルフェ達が待ち構えていた敵だ。

「やばっ! 水運んでる場合じゃねーし! 急げ、急げぇ~」

 ローラも即座に反応し、仲間の元へ大急ぎでダッシュ!

「遂に来ましたか……。皆さん、行きますよ!」

 セレドニオら5人は緊張を飲み込み、頷く。

「お~し、行っくお~!」

 アリサはイエロー色のカードをドローし、翳す。

「カードアクション、ライトニングゲートッ!」

 オルフェ達6人の目前に、光のゲートが光臨!

 そのゲートへと6人の魔法救急隊は疾駆した!!



 フレシス国北部。海隣接地域。

 海原より襲来して来るビッグウェーブ!

 水の魔力で構成されたHシーサーペントが唸りを上げ、大波を率い、猛進!

 もはや地上へは目と鼻の先である。

「ん~、すいませんが、ここから先に通す訳にはいかないんですよね~」

 爽やかな美男子ボイスが呟く。

 直後、冷凍ガスがメディーサの盾より放射される。

 Hシーサーペントは顔からその冷凍ガスを浴びる。

 だが、凍結せれると即座に判断し、海中へ一旦潜り、攻撃を回避。

 海中からその攻撃が止むまで待つ。

 意外な事に、冷凍ガス攻撃は即座に止まる。

 海中でボディを再構成し、再度海上に出るHシーサーペントが長いボディをうねらせ、顔を向けたその先……。

 暗雲を背景に燦然と空中待機しているブルー色の結晶巨人・Bペルセウス!

 近隣の崖に立ち構えるのは主のオルフェ。

「ペルセウス! 先手必勝です! 奴を凍らせましょう!」

 Bペルセウスのメデューサの盾から蛇の髪が飛び出す!

「ディメンショナル・ブリザード!」

 結晶で作られし10体ほどの蛇の口腔と美女の口腔より、冷凍ブレスが発進!

 広大な海原へと降り注がせた!

 ブルーき巨人が横一直線の飛び進みながら、満遍なく冷凍ブレスを放射する様子をオルフェは崖上にて静観。

「相手を凍らせて動きを食い止める……。良ければ凍らせて敵を潰せればいいのですが…………」

 オルフェは険しい表情を浮かべていた……。

「むっ!?」

 冷凍化していく海面であったが、全てを凍らすまでには至らず。

 冷凍ガスの行き届いていない海域より、津波が陸上へと向った!

 その様子を慌てる事なく、冷静に目にするオルフェ。

「やはり全てとはいきませんでしたか……。〔そちら〕は任せますよ……」

 陸地へと侵入した海水を眺め、オルフェはそう呟いた。


 同時刻。

 何も無い平地。オルフェの居る崖と近隣都市との間。

 険しい筈の断崖を容易に飛び越え、大波がその先の町へ飛び進む!

 このままだと町は海・風に包まれ、粉砕される。

 その恐ろしい津波の前に立ち塞がる男が1人居た。

 筋骨隆々な肉体を持つその男はレスキューウィザード。

 セレドニオである。

「今のところ想定通りだな。カードアクション! ロックウォール!」

 ドスの効いた低音ボイスで叫ばれた発動呪文により、重厚な柱岩が大量展開!

 強壁を作り上げた!

 準備完了!

 勇猛に並び立つ鋼と岩石は波の激突を受け止める!

「食い止めろ!」

 拳を篤く握り、咆哮するセレドニオ。

 激しくぶつかる水圧に魔力を持った岩の柱は堅固鉄壁の防御にて耐える……。

 ―――しかし、この防御下部に僅かな隙間があり、その隙間より僅かに水がすり抜けていく。

 その様子を確認するセレドニオ。

「……よし。若干海水を逃がす事で、防御の負担を軽くする……。少しの海水が陸地へ伸びる。それだけだと問題は無いからな」

 そう、これは過失ではなく、意図的にやった事。

 全ての通り道を塞ぐ事は可能だが、それは全ての水圧を受ける事である。

 無理をして全てを防御しようとしても、それに耐え切れず、防御を崩してしまったら全てが無碍になる。

それだけは避けたい。

 それに、波がこれ以上来なくなった時が来ても、ガッツリ封鎖した状態では防御を解除した途端、海水が溢れ、陸へ物凄い勢いで流れてしまう。

その為、ゆっくりと少量ずつ海水を進ませる=ろ過させる事で、突発的な海水流出を抑

制する。

これが現状出来る最善策。

……ではあるが、セレドニオはある点を危惧していた。

「しかし、ろ過されていく海水からHシーサーペントが出現する可能性もゼロではない。まぁ、その場合は〔あいつら〕に任せる策となっているが……」

 セレドニオは懸念しつつも、防御指示に集中。

 細かい微調整を脳からロックウォールへ伝達させ、複雑な波の動きへ対応させる。

 その状況がかれこれ2分近く続く。

「……そろそろ時間切れだな」

 セレドニオはブラックのカードをドロー。

 アイアンシールドのカードを手札とする。

「交代といくか。カードアクション、アイアンシールド!」

 ロックウォールの真後ろに巨大な鉄鋼盾が出現!

 その巨大盾は増殖していき、柱岩と並行するように並べられていく。

「よし! 退却だ。また数分後頼むぞ、ロックウォール……」

 セレドニオはロックウォールのカードを輝かせ、柱岩の隊列を消滅させる。

 ロックウォールとアイアンシールドを時間切れになるまで、交代させながら使い、防御する戦略である。

「……にしても、海のハザードクリーチャーか。嫌な事を思い出すな……」

 かつて父や新関の漁師の命を奪ったもの=海の災害獣。その仲間のHシーサーペント。

 それに恐れ、漁師を辞退したセレドニオだが、彼はもう逃げない。

 何故ならアースカードで堂々と立ち向かえるからだ。

 ………新しく出て代わった鉄鋼の盾の隊列。

 こちらも下部から海水が漏れ進む。

 勢いは早いと言えば早いが、大波に比べれば可愛らしい流れの勢い・速さ。

 その海水が進む先とは……。



 近隣都市。ここらでは避難勧告が叫ばれ続けていた。

 主にフレシス国軍や保安隊が避難誘導を仰ぐ。

 レスキューウィザードにかかれば、津波に地上を侵食などされはしないが、敵=災害は予測不可能な事態を起こすかもしれない。

 ゆえに念の為、少しでもこの場から離れようとしていた。

 一方で地面に剣や槍が突き刺さり、溝が掘られていく。

 ドミニクが召喚した火炎剣や、アリサが召喚した電雷槍で。

 横幅150センチ、深さ2メートル。

 人間2人くらいがすっぽり入る大きさとなっている。

 これは適度な溝を作る事でこちらへ流れて来る海水に住宅・建造物に浸食されないようにする、微少ながらもの抵抗。溝によって少しでも海水が建造物へ向かわないようにする策である。

 セレドニオが防御を行っている場より、ギリギリまで抑えられた波がその溝へと流れていく。実質、細く小さな河川と化す。

 この様子を確認するドミニク。

「おっしゃ、順調だな」

 別の場所にて、アリサも自分が掘り込んだ溝に海水が流れていく様子を目にする。

「お~し、上手くいったお! 他の場所にも溝を作るおー!」

 アリサは浮遊して来るプラズマジャベリンに跨り、空中移動。

 溝を増やして、水害被害軽減に飛んだ。

 途中、ファイヤーセイバーをホバーボードのように乗り、同じく飛行しているドミニクと合流。

「あ! ドミにーちゃんだお」

「よう、アリサ。そっちは順調か?」

「うん。どんどん溝作るんだお」

「あぁ、そうだな! でも、大き過ぎず小さ過ぎずの間隔で作るんだぞ。地盤を脆くして地盤沈下させるようじゃダメだし、浅過ぎても溝を掘る意味が薄くなるからな!」

「うん! アリサ、分かってるおー!」

 アリサはそのまま、降下し、ドミニクは前進。

 各々の役割を全うせんと散開した。

 ……が、その時、強風が吹き荒れる。

「くっ、暴風が……」

 強風に耐えるべく、姿勢を低くし、空気抵抗を軽減するドミニク。

 元々、身体能力・バランス感覚に優れたドミニクにはどうって事はない。

「飛~ばされたくないから、しがみ付くお……」

 アリサは身体が小さい為、プラズマジャベリンにしがみ付き、堪える。

 そこへ突如、暴風だけでなく、暗雲は雷鳴を響かせ、不穏な空気を煽る。

「アリサ、怖くなんかないお! ドミにーちゃんの演技を見て……レスキューウィザードやっていって、勇気手に入れたんだお!」

 元来は引っ込み思案で臆病だったアリサ。

 当時のアリサは雷を怖がるような娘だった。

 ドミニクに引き取って貰ってからはずっとドミニクと一緒に居た。

 アリサはドミニクの芝居・英雄標をずっと見て来た。

 その物語・芝居に何処かしらアリサを勇気付けるものがあったようで、段々とアリサは主張して来る子になった。

 そんなある日ドミニクが本物のヒーローになるべく、レスキューウィザード入隊志願を見て、自分も踏み出してみようと、勇敢な自分になってみようと思いドミニクに続いて志願をした。

 だからもう、雷なんかに怯えない。

 というか、アリサは雷=イエローカードを味方にしている。恐怖する必然性など存在しないのである。

 そんなアリサは唇をキュッと噛み、プラズマジャベリンを魔法使いの箒のように乗って、自分のやるべき事をせんと強風の中を進まんとする。


 ―――この暴風に耐えるのは無論、ドミニク・アリサだけではない。

逃げ惑う住人達も進行を狂わす風に抵抗している。

 当然、周辺の屋根に待機していた〔あの2人〕も同様。

 レスキューウィザード隊員=カリーネとローラ。

 彼女らのレスキューユニフォームと美麗な髪が乱れる。

「うっひゃぁ~。凄い風……。実は風のハザードクリーチャーも来てるんじゃないのこれ?」

「かもしれませんわね………」

「髪飛んでハゲちゃったらどーしよ」

「そこまでのものでは無いでしょ……」

「さぁて、こちらも抗いますか! 目には目を、風には風をってね!」

 ローラはニカッと男前な笑みを浮かべ、人差し指と中指に挟んだグリーンのカードを翳し、暗雲漂う空気に光を照らす!

「カードアクション、サイクロン! 迎え討てっ!」

 高速回転する嵐が召喚!

 暴風へと飛び込み、風力・風圧対決を始め出す!

「でも、これだけで凌げませんわ!」

「そうね。ムカツクけど、やって頂戴! 元お嬢様っ!」

 2人は妙に爽やかにニタリと頬を歪ませ、アイコンタクトを取る。

 凛とカリーネはホワイトのアースカードをドロー!

「カードアクション、バリアコーティング!」

 まだ誰も逃げ切れていない区域全般へ半透明の膜=バリアーを展開。

 暴風から人々を護る!

 ………だが、間入れずに長い時計塔が風圧に敗退し、へし折られる。

 その折れた先端部が逃げ進む人々の居る、道路へと急落下! ピンチ!

「そうはさせませんわ!」

 カリーネ、空間を切り裂くようにカードをドローした手の腕を回し、そのカードを輝かせる。

「Wセレネー!」

 クリアーホワイトのボディを持つ、結晶巨人Wセレネーが召喚され、降下する時計塔先端部目掛け、光の弓矢を構え……発射!

 見事、統計塔を射抜き、そのまま弓矢の勢いが押していく。

 人々の居ない場へと時計塔を放り飛ばした!

「ふぅ、上手くいきましたわ!」

 肩を落とし、胸を撫で下ろすカリーネ。

 反対にローラは怪訝な表情で周辺を見渡す。

 本当にカリーネは防御し切ったかの確認である。

 これはレスキューウィザードとしての責務とカリーネがミスをした場合、嫌味を言えるから行っているのである。

 ジトーっと、睨み回す末に、彼女はピクリと反応する程のものを発見。

 ある宿舎の窓から1人の少年……10歳そこらの人物が物憂げに外を眺めている様子を目にする。

「あ……あの子……。カリーネ、ちょい行って来るわ!」

「もしかして、逃げ遅れですか?」

「まぁ、そんなトコ。んじゃっ!」

 ローラは屋根からジャンプ!

 次いで、新たにカードを発動させる!

「いくよっ! リーフスライダー!」

 屋根から降下したローラの足元に巨大な葉が招来!

 サーフボードの如く乗り、宿舎に居る少年の元へ………。


 その少年はというと、彼は自分の部屋で不貞腐れていた。

「あぁ、この町がターゲットになっちゃたかぁ~。発生って何で予測出来ないんだろ?」

 少年はぶつくさと無気力的な物言いであった。

「でもまぁ、いいか。ここで死んでも。どうせ生きてても意味ないし。金持ちに生まれなかった僕にはシェルターのある実家もない。生きたところで、貧乏に生まれた奴なんか碌な人生が待ってない。だから、心中しよう。ボロで汚い。シェルターもないけど、今迄お世話になったこの宿舎と一緒に……」

 何もかも諦め切って、逆にすっきりした表情の少年。

 彼は貧乏な家に生まれたが、成績は優秀な為、学費免除&学校の宿舎暮らしを獲得した男である。

 だが、ふと現実を見ると優良血統種・金持ち生まれの方がいい思いしている。

 その事を考えると貧乏人が頑張ったところでどうせ報われないんじゃないのだろうか?生きていても意味がないんじゃないか? と、考えるようになった。

 そんな矢先での災害。

 災害による事故死をする又とないチャンス。自殺ではない為、家族を悲しませず死ねると思い、この少年は逃げる事を選ばなかったのである。

「ぃよっと。この窓入り易っ!」

 そこへ突如襲来した女性の声がしんみりしている少年の雰囲気を台無しにする。

 窓ガラスの鍵の隣のガラスを繰り抜き、窓を開け、何食わぬ顔で侵入して来る女性の姿が、そこにあった。

 暗い部屋に暗い外という状況下で見たものなので、少年にはお化けかと思い、腰を抜かして悲鳴を上げる。

「う、うわぁぁぁぁーーーーーっ!!!」

 だが、ハッとなる少年。

よく見るとレスキューウィザード隊員のユニフォームをこの女性が着用しているではないか。

 あと、化け物ではなく、れっきとした人間であると気付く。

「よっこらしょ」

 ローラはずけずけと少年の部屋のベッドに尻を落とし、座る。

「あのー、お姉さん、何の用?」

「ん? そりゃ、当然救助よぉ。逃げ遅れて困ってんでしょ? さ、お姉さんと一緒に逃げるよ」

 俯き、表情を濁す少年。

「え、遠慮するよ。ぼ、僕は今日ここで津波に飲まれて死ぬから……」

「何、もしかして自殺願望?」

「うん………。だから、説教して自殺を辞めさせるのは勘弁してよ……」

「な~にがあったの?」

「え……?」

 少年はこの女性レスキューウィザードが感情剥き出しになって説教でも始めると想定しただけに、サバサバとした対応に目を丸くした。

 ………ローラは太過ぎず細過ぎずの脚をクロスした。

「へぇ……貧乏生まれながらも頑張っていい学校行けたけど、貴族には敵わないと知って、嫌になったと……」

「うん……。説教しないでよお姉さん。だってもう、どうしようもないんだし……」

「気が合うねぇ~」

「え?」

「実はお姉さんも金持ち生まれの人間嫌いなんだぁ~。だって、金持ちに生まれるってのは本人の努力じゃないじゃん? お前らズルくね? って感じ」

 ニカッとやんちゃそうな笑顔を魅せるローラ。

 吊られて少年もクスリと笑い出す。

「だよねぇ……」

「だからこそ、ここで死ぬのは勿体無いと思うよ。あたし昔はね。泥棒やってたんだ。それも、金持ちだけをターゲットにしてね」

「ど、泥棒……?」

「うん。あたしの親、小さい時に死んじゃってさ。それで自活しなくちゃならなくなった訳。でも、クソガキだったあたしなんかだ~れも雇ってくれなくてねぇ」

「それで、泥棒やって生き抜いたのかぁ……」

「そ。結構楽しかったよぉ~。金目のものを奪うスリルと達成感。特にクソ嫌~な貴族から盗むのは爽快だったねっぇ~。どいつもこいつも、悔しがる顔が笑えてさぁ~」

「ハハハッ、僕も見てみたいなぁ~」

「フフ、見てみたいなら、ここで死んじゃダメじゃん」

 ハッと表情が硬直する少年……。

「!! ……そ、そっか……」

「あと……あたしが偶然ラッキーで手にしたんだけど、これ!」

 ローラは太股のベルトにセットしているグリーンデッキケースを指差す。

「カ、カードデッキ……。これで魔法を使ってレスキューしてるんだよね?」

「そ。これ、泥棒やっいくうちに手に入れたものなの。最初はこれでより手強い相手から金品盗む事だけに使ってたんだけど、ある日面ホワイトい奴に出会ってね」

「面ホワイトい人?」

「ウチらのリーダー。レスキューウィザードと創ろうと提案した奴。保安組織なら安定して金貰えるし、面ホワイトそうだから……自分に誇り持てそうだからイイかなーって思って参加したの。で、今のあたしが居る……」

「そうだったんだ」

「保障は出来ないけど、生きてれば逆転のチャンス、あるかもしれないじゃん? そんでもって、金持ち生まれ共を悔しがらせるような人間になっちゃおうよ」

 ローラの平手はバン! と、少年の肩を押すように叩いた。

「……僕」

「おっ?」

 これから少年がどういう言葉を紡ぐか楽しみなローラは頬が緩む。

「僕、まだ10歳で、若いから。もうちょっと悪足掻きしてみるよ。自殺するかどうかは30歳になってからにしておくよ」

 少年はハキハキと晴れた表情で宣言する。

 が、ローラとしてはもっとポジティブな答えを期待していたので、肩透かしを喰らうのであった。

「いやぁ、それも……どうなんだろ? まぁいいや。脱出するよっ! 一人で避難グループに合流出来る?」

「う、うん!」

「ようし、イイ子、イイ子!」

 ローラは柔和な表情でやや乱暴ながらも少年の整った髪のある頭部を撫でた。

 少年はローラに頭を下げ、避難誘導を受けている人々の列へと走っていった。

 走りながら少年は、並行にある横幅150センチ程の小さな川=ドミニクらが掘り、海水を被害なく逃がしている海水の流れを目にする。

「ん? 川? こんなもの無かったハズだけど……。! そっか、レスキューウィザードが作ったんだこれ。こうする事で浸水を抑制しているんだ。多分、他のレスキューウィザードが波の殆どを抑え、少しだけろ過させているんだろうな」

 賢しい少年はこの川がいつの間にか作られた理由を看破した。

 関心に耽りながら走る少年の姿が段々小さく、小粒となり、人列へと入り込んだ。

 その様子をしかと見届けるローラ。

「やれやれ……」

 ローラは首をコキッと鳴らし、リーフスライダーを召喚。大葉のホバーボードに乗ってカリーネが待っているであろう屋根へ飛んだ………。

 だが、そこへ居た筈のカリーネの姿・影もない。

「あれ? おっかしいなぁ。元貴族様はど~こへ行ったのかねぇ~」

 ローラは辺りをきょろきょろと見渡す。

 そのローラの探している相手=カリーネ。

 彼女は別の場所へ移動し、フレシス国軍の者達と共に避難のサポートを行っていた。

 波はセレドニオの鉄壁防御とドミニク・アリサの掘った溝により、細く小さな河川と化しているが、暴風を防ぐまでは出来ていない。

 なので、建造物……特に細長い建物の先端が吹き千切られ、吹っ飛んでいく。

 だが、それらをまだ避難し切れていない陸地へ落とす訳にはいかない。

 阻止すべく、クリアーホワイトの結晶巨人・Wセレネーが塔や煙突をホワイトき光の弓矢で射抜き、人々から遠ざけていく。

「ようし、その調子ですわ!」

 カリーネは拳を篤く握り、被害の未然の阻止に高揚する。

 おぉ、凄い! 流石レスキューウィザード! と、感動する民衆に非難誘導を行う軍人達。

 その中、フレシス軍隊長がカリーネの下へ歩み、敬礼。

「レスキューウィザードさん、ご協力有難う御座います」

 頬を紅化するカリーネは両手を振り、謙遜を示す。

「いえいえ、そんな……。感謝するのはこちらの方ですよ。だって、貴方方はレスキューウィザードではないのですから」

 チョビ髭が特徴のこの隊長は首を横へ振る。

「いいや。我々軍隊は自分の国を守り、発展へと広げる存在。つまりは国民を守る事も軍隊の務めなのだよ」

「そ、そうですか……」

 カリーネは意外に思った。

 軍人とはもっと好戦的で暴虐的な類だと思っていたので、カリーネはきょとんとなった。

「それにしても……」

 隊長は眉間に皺を作り、カリーネを凝視。

「君、どこかで見た事が……。何かどっかの貴族のお嬢さんと似ているような……」

 一瞬、心臓が飛び出る程の衝撃を受諾するカリーネ。

 ここで自分の正体=家出中の貴族のお嬢様という事がバレると面倒であり、どう誤魔化せばいいか、あくせく脳を働かせるカリーネ。

「き、ききき気のせい……だべさ? 世の中には似ている顔の1つや1つ位あっても不思議な事はありまへんでっしゃ……ろ?」

 咄嗟に思いついた苦し紛れの言い訳。

 何とかお嬢様クサさを消さねばとメチャクチャな語尾・方言を流用したカリーネ。

 ホワイトい目で隊長はホワイトのカードを操るレスキュー魔法士へ苦しい表情を浮かべる。

「むむ? 急に言葉遣いがおかしく……」

「ままま、とにかく、今はそんな事気にしている暇はないっぺよだってばよ……です」

 あたふたを身を震わせ、カリーネは必死に話を逸らそうとする。

 隊長は何となく分かった。

 彼女にはバレてはいけない事があり、それがバレそうであるという事。

 ……だが、現状そんな事を気にしている時間は許されていない。

 隊長は合理性を優先し、そこから先の余計な詮索はしないでおいた。

「う~ん……。そうだ! お嬢さんにはやって欲しい事があるんだ」

「何でしょうか。あ、いや、何でゴワスか?」

 必死で稚拙な変な言葉遣い技を無駄に披露する。

「もう、変な言い回しはいいよ。今は君を調べる必要なないからね」

「は、はぁ……」

「で、本題。ここから南東の森林にジャード国の兵が襲来している。今は緊急事態なので、彼らに協力を頼んで欲しい。現在のままじゃ、人手が足りなさ過ぎる! 敵対している我々では彼らを説得出来ない。だから、他国出身者の君で挑んで貰いたい……。西の方がまだ誰も向かえていない」

「そうですよね。分かりました。頼んで来ます!」

 凛と首肯するカリーネは十字型盾=クロスシールドを召喚。

 十字の物体に跨り、箒乗りの魔女よろしく、飛び立ったカリーネ。

 荒野や住宅街を疾風のように飛び進み、目的の場所へ。

 5つ以上もの町を飛び越え、現地=駐屯基地でこの大津波を凌いでいるジャード国軍・フレシス国先遣隊の面々が待機していた。

 まだ止まないのか? 

 と、不安な眼差しで、ただただ、災害が静まるのを待った………。

「中々静まらんなぁ」

「隊長……。いいんでしょうか?」

「何がだね? トビー隊員」

 トビー隊員は不服そうな素振りで隊長に話を振る。

「我々救助や避難に協力するべきではないでしょうか?」

「何故だね?」

「敵地とは言っても、災害時ぐらいは協力しても良いかと思いまして……」

「馬鹿な事を……。これは寧ろ利用出来る。向こうの兵力が勝手に下がってくれるまたと無い機会じゃないか。我々は災害が沈静し、疲弊した奴らを狙い撃つ。合理的な戦略だよ」

 隊長の考えはジャード国の兵士としては間違いではない。

 しかし、人としては別。

 トビー隊員はこれでいいのか、苦悩の泥沼に沈もうとしていた。

 そんな時、爆音が!

天井が意図的に穴を開けられる。

 その穴から品のありそうな美女が十字架のようなものに搭乗して降りて来る。

「んな?」

「あの女の子は……。あ! あの服装。確か、レスキューウィザードの……」

 トビー隊員はレスキューユニフォームを纏った少女=レスキューウィザードの一員と看破。そして、その女性隊員を向かい合う兵士一同。

「おや、レスキューウィザードさんじゃないか。何の用かね? もしかして、ここも危険だから避難指示に来たのかな?」

「いえ……ここは大丈夫です。今のところは」

 キューティクルの長い髪を揺らし、首を左右へ振るカリーネ。

「では、何のようだね? ダンディな私に抱かれに来たのかい?」

「あり得ません」

 1秒の間すらも無く、カリーネは厳然と否定。

「それじゃあ、一体?」

 トビー隊員がカリーネを見つめ、カリーネ来客の目的を問う。

「協力して欲しいんです! 避難や防御に! 人手が足りません!」

 カリーネは頭を下げ、長い髪を垂らし、協力を懇願。

 ジャード国軍の一同は圧倒され、黙り込む。

「しかし、我々は……」

 言葉を濁す隊長……。放置により、敵軍の疲弊を狙っているからだと言いたいところだが、真正面から美少女が真摯に訴えている故、どうも言い辛い。

 カリーネは堂々と拒否しなかった反応を察し、ここまま力押しすれば、イケると判断。

 しかし、品の無い・手段を選ばない行動を取るのはどうもいけ好かない。

 カリーネも悩んでしまう。

(所謂、ぶりっ子的態度を取れば、この人達はイチコロでしょう……。しかし、そのような俗物的行動を私がするのは……)

 ハッと、脳裏に電光が疾る。

 脳裏にはローラと痴話喧嘩して品の無い態度・行動をしていた自分自身の姿があった。

 そう、自分はもう貴族のお嬢様ではない。

 独立して誇りを持って生きていく為にレスキューウィザードとして活動しているのが今の自分なのだ。

 お嬢様ではない癖に、お嬢様として生き続ける事を嫌がって逃げた自分が品性に拘る意味などないではないか。

 ローラに「お嬢様はこれだから……」と、揶揄されて憤慨するのもそう、自分自身が一番お嬢様である事に囚われているではないか。

 ―――カリーネは今更ながら気付いた。

 だから、プライド・品性など持つ必要は無い。

 そう判断したカリーネは息を飲み、新たな一歩を踏み込む。

 両手同士をぎゅっと握り合う。

 顔を上斜めにし、上目遣い体勢に!

 そして、カリーネは声色を切り替え、新たなボイスを作り出し、こう言う。

「カリーネ、敵をも助ける人ってカッコイイと思うなぁ……。け、結婚したくなっちゃうかもぉ~♪ それにぃ~、恩を売るっていうのもぉ~。一つの作戦だと思うのぉ~❤」

 うげ、お前誰だよ? 

………と言わんばかりに瞳を大きく輝かせ、無駄にトーンの高く甘い声でカリーネはこの軍隊の心を揺さぶりに来た!

 軍隊の面々は一斉に心臓にキューピットの矢を突き刺された。

 今まで男臭い環境で戦争や訓練をしていたからか、女性には免疫がなく、安っぽいぶりっ子攻撃にまんまと手中に嵌った。

 一方で、カリーネは表情が曇り、沈む。

「うわぁ……。やってしまいましたわ……。っていうか、普通に話しても協力させられたような………」

 カリーネは後の祭り状態であった。

「分かったよ、レスキューウィザードのお嬢さん、我々はどうすればいい?」

 中央に居る隊長は妙に上機嫌にニヤニヤしながら、カリーネに指示を仰ぐ。

「西部の方をお願いします。あそこはまだ誰も向かえていない現状なので……」

「了解! 行くぞ野郎共!」

「ヤーッ!」

 隊長の後ろで並列を作っている兵は敬礼・御意。

 即座に戦車へ乗るべく、駆ける。

 トビーは戦車に向かいながら、カリーネへさり気無く頭を下げる。

(有難う御座います……。僕、助けに行きたかったんですよ……)

 その脳内で呟いた言葉はカリーネには届かない。

 しかし、事態は急を有するので、彼女に感謝する暇などない。だから、トビーは勝手に感謝し、戦車に搭乗するのだった。

「ふぅ、良かった……」

 カリーネは女神の如し、麗しい笑顔でジャード軍が出動する様子を目にした。


 ―――大津波及び、Hシーサーペント襲来から30分ほど経過………。

 レスキューウィザードの6人が、

 フレシス、ジャードの軍隊が、

 住人達が必死に津波と戦う。

 いずれ止む事を信じて……。

 ――そんな状況下、唐突に海水そのものが空中浮遊する。

 それらは空中で連結していき、大きく長い物体へと融合していく。

 まるでパズルがゆっくりと組み立てられていく様子……。

 それらが合体していくうちにその合体形態が何か判明していく。

「な、何だぁ?」

 ドミニクはその様子を凝視。

 ドミニクだけじゃない。

オルフェ達レスキューウィザードメンバーや軍隊、避難民もこの怪奇な現象を呆然と見つめる。

 海水の合体形態=それは………。

 海水をボディとし、長い身体尾を持つ獣。

 ……Hシーサーペントが今まで以上に大きな姿となり、侵入復活した!

 この災害獣はオルフェの真上で威圧的に咆哮を響かせた!

 崖に居るオルフェは動揺などせず、不敵に笑む。

 こうなる流れもオルフェの誘導作戦。

 侵食を防がれ、チンタラと水流を分布させられる。

 豪快に大津波として災害を起こしたいHクリーチャーを苛立たせ、クリーチャー形態となって攻撃スタイルを変えて挑ませる。

 この方がオルフェ達も戦い易い状態。

 決戦へと一気に畳み込んだのである。

「フフフ、とうとうシビレを来たし、クリーチャーの姿で突破・破壊を試みる策ですか……。いいでしょう。相手になろうじゃありませんか!」

 場所は別々ながらも、レスキューウィザード6人と海の災害獣・Hシーサーペントが対峙……。

 いよいよ大詰め。

大決戦が開戦した!!



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