MISSION 2
MISSION 2
1
オルフェは救助活動を行い、何人かを救出。
幸いにもこの町は平均的に豊かで、シェルター装備が充実しており、シェルター避難のお陰で死者は出なかったそうだ。
パニックになりながらも、隣町の人間の避難で窮屈になっていながらも、前以て作っておいたシェルターのお陰で命拾いした民衆一同。
しかし、民家や店舗など、建造物が壊されていい訳ではない。
ハザードクリーチャーを倒せるものなら倒すべきだ。
そうする為にもオルフェは町を今度こそ後にしたのであった……。
2
ジャード国東部・採石場。
ここはブラックのアースカードデッキが眠りし場所。
オルフェはそこへ足を運んでいた。
そんなオルフェであったが、1つ気になる事が有った。
自分以外にアースカードを探している人物は存在しないのだろうかという事。
訊き忘れたが、もしかしたらジェノーラ婆さんが他の誰かに在り処を教えた可能性だってある。
というか、ジェノーラ婆さん以外にも在り処を知る人間が居る可能性もゼロではない。
そう、アースカードを探している人間が他にも居る可能性は十分に考えられる。
居るとしたら出くわすかもしれない。
そうしたら争い沙汰になるかもしれない。
そもそも、概にブラックデッキは何者かの手に渡っているかもしれない。
警戒心を持ち、過度な期待は持たず、オルフェは慎重に足を進めた。
その時、突如轟く爆音!
「? これは一体……?」
オルフェは爆音のした方角へ駆けていく。
疾駆しながら、この爆発が何を示すか思考するオルフェ。
1つは軍事演習をしている国軍によるもの。
もう1つ考えられるのはアースカードを巡る戦いである事。
真実を確かめるべく、オルフェは岩陰に隠れ、目線を持っていく。
「! これは……」
………戦っている。グリーン色の結晶巨人とホワイト色の結晶巨人が。
その謎の巨人2体の戦闘の端に2人の少女が確認された。
破れた服を着た、賊っぽいファッションのローラと節々に汚れのあるドレスを着たカリーネである。
「グリーンキルケー、やっちまいな!」
Gキルケーと称されし、グリーンの結晶巨人に指示を仰ぐ少女、ローラ。
「ホワイトセレネー、下碑な泥棒女なんかに負けたら承知しません事よ!」
ローラの反対側=Wセレネーの後ろで使役するカリーネ。
Gキルケーは蔦のような鞭を振るって攻撃。
Wセレネーは素早い動きで回避し、手持ち武器の弓矢を射て、迎撃。
対し、Gキルケーは蔦ウィップでその弓矢を叩き落す。
……両者、互角の展開。
しかし、暫くして双方の、グリーンとホワイトの巨人は姿を消す。……と、いうより、光となって主の元へ戻っていった。
オルフェは怪訝な目でその様子を捉えた。
「チ、時間切れかぁ。だったらこいつで勝負といこうじゃん?」
ローラは太股に撒きつけているベルトに付けた、カードホルダーから新たにカードをドローする。
「カードアクション、プラントロープ!」
彼女がそう叫ぶと、彼女が翳したカードが輝き、巨大な蔦がにゅるにゅると出現!
対峙しているドレス姿の少女へ向って突き進んだ。
「そうは行きません事よ!」
カリーネは腕時計の輪に引っ掛けたカードホルダーからカードを抜き取る。
「カードアクション、クロスシールド!」
そう唱えると、カリーネの目の前に巨大な十字架が招来され、その十字が回転。
迫り来る蔦を弾き飛ばした。
岩陰に身を潜め、一連の戦闘を静観していたオルフェは大よその事を把握する。
彼女らは既に6種類あるアースカードのうち、グリーンとホワイトを持っている。
そのカードを使いこなし、戦っている。
理由は恐らく、ここに眠りしブラックデッキの獲得を賭けたものであろう。
この戦いを見る事はオルフェにとってとても有益なものであった。
アースカードがどういったものか。又、その使い方を知る事が出来た。
オルフェはクスリと笑む。
「ナルホド。殆どの事が呑み込めました。アースカードがどういうものか……。この情報を目撃出来たのは大きい。さて、2人が戦っている間に僕は漁夫の利・ブラックデッキの獲得といきますか………」
しれっとこの状況を利用出来ると踏んだオルフェは何食わぬ顔で目的の物が眠りし場所へ歩んでいった。
――が、虎視眈々とブラックデッキを狙うのはオルフェだけでなかった。
単髪で筋骨隆々な男、セレドニオである。
(まさか、俺以外にもアースカード使いが居たとはな……)
セレドニオは腰ベルトに引っ掛けているブルー色のカードデッキケースを握り締める。
(だが、ブラックデッキは俺のものだ。それまでのんびり小競り合いしてな、雌の猛犬共……)
男前な彫りの深いフェイスを腹ブラックい笑みで歪ませ、ローラ&カリーネの方角へ一瞥を飛ばした。
セレドニオは地図を頼りに、岩陰に隠れながら目的地の洞窟へと歩む。
戦闘中のカリーネとローラに気付かれないように……。
既に2人の男に先を越されている事など知らず、ローラとカリーネは怒りをぶつけ合い、激戦に没頭していた。
無数の葉の短剣が飛び掛る!
「ムカツクんだよテメー! 金持ちのお嬢様のクセして、そんなオイシイ環境から家出するなんて! さっさと、名家に戻って豪遊生活しな! んでもって、あんたのホワイトとイエローデッキ、よこせ! あたしが有効活用してやるから! あたし、自力で豪遊生活、勝ち取りたいんだよねぇ。その為にも必要だからさ、さっさとよこせよ!」
ローラはチンピラ臭く、カリーネへ吼えた!
むすっとするカリーネはカードをドロー!
虹の球状シールドがカリーネの周辺に発生し、四方八方から襲来する葉の刃からこの身を守護させた。
「冗談じゃありませんわ! 私は縛られた富など要りません! 大体、あんなトコに戻ったら……」
カリーネは脳内より、悪夢を思い起こす。
それは誓約結婚についての事だ。
カリーネはガリシュ国の王族の親族である貴族の長女であった。
生粋のお嬢様=ブルジョア生活をして来たが、一歩で厳しい躾けや勉学に追われた生活を送っていた。
正直、嫌だったが、まだこの程度の事は耐えられた。
……しかし、その忍耐にも遂に限界が到来。
誓約結婚である。
カリーネにとって苦手な部類の男との結婚を強いられ、流石にこれだけは許容出来ず、痺れを来たし、家出を図ろうとする。
だが、警備は厳重。
普通に考えて脱走など不可能な状況だった。
しかし、神はカリーネを見捨てなかったのか、ハインツと言う名の清掃員の爺さんから謎のカードデッキ=ホワイトのアースカードデッキを貰い、その力を利用して脱走に成功。
晴れて自由の身となった。
自由は得たが、その代わり、安住と富を失った。
貧乏な旅人暮らしをするリスクをカリーネは背負ったのである。
ホワイトのアースカードは神聖を司る。
炎や風といった派手な攻撃はしないが、防御や回復を得意とするカードデッキという仕様。その為、自身を回復する事も出来、飢餓は防いだ。
だが、もう豪勢な食事・生活は不可能。
それでも、嫌いな人間との結婚よりはマシと思い、今までカリーネは1人、旅をして来た。
旅の途中で、アースカードの情報を詳しく知っていき、ペスイン国でイエローデッキを獲得。
現在、彼女はホワイトとイエローの2色デッキを所持している。
己の身を守る力をより強固にする為に得たのである。
そんなカリーネが護身武器のアースカードデッキを誰かに譲渡など考えられない。
一歩も退く事など、出来ないのだ。
ゆえに、カリーネは戦う!
そのカリーネの攻撃は次々と相殺される。
対戦相手=ローラも退けぬ立場だからだ。
2人の接戦は長引き、遂には互いの殆どのカードを使い切ってしまう。
とはいっても、最初に使ったカードは既に回復している頃合。
ではあるが、同じカードを再度使っても埒が明かないという事は互いに看破していた。
ならば、次の手段はこれしかない。
2人が所持しているもう1タイプのアースカードデッキを使用する事だ。
泥沼状態の戦況を引っ繰り返すとしたら、もうこれしかない。
ローラはレッド色のカードデッキケースより、レッドい縁取りのカードをドロー!
同様にカリーネもイエロー色のカードケースからイエロー色の縁取りカードを手札に!
「レッドアレクサンダー、贅沢脂肪付きの雌豚を豚焼きにしな!」
ローラはレッド色の結晶巨人を実態化=召喚させた!
レッドき巨人は火炎に包まれたベルセルクソードを振り翳す!
「贅沢脂肪なんかもうありませんわ! イエローヘリオス、迎撃しなさい!」
カリーネが招来させたイエロー色い結晶巨人・Yヘリオス。
Yヘリオスは電光の槍を構え、レッドき巨人へと突き掛かる!
火炎の刃と電光の刃がぶつかる!
再び結晶巨人同士の激戦が火蓋を切った!
ローラはガリガリと歯軋りする。
「か~っ、ムカツクわぁ~。温室育ちのお嬢様なんかが、あたしと戦いで張り合うなんてねぇ~。英才教育とかって奴? 気に食わないねぇ。金も知恵も何でも持ってるとか、ホントは人間じゃないんじゃねぇの? あ~、気色悪っ!」
ローラだって負けられない。
特に、彼女にとって虫唾の走る存在=金持ち生まれの人間に対しては。
彼女はタニーヤ国の田舎にある貧乏な家に育ち、父・母は飢餓により、ローラが10歳の時に逝去。
拾ってくれる親戚も居ない為、10歳そこらで働き、小計を立てていく生活を余儀なくされた。
が、幼い彼女など誰も雇ってくれず、それすらも出来なかった。しかし、このまま死ぬのだけは御免だったローラは非合法な手段で生き抜く事を決意した。
金品・食料を奪う=泥棒となった。
女泥棒ローラ覆面をして、金持ち相手から奪ったもので生き抜いていった。そうしていくうち、偶然にもグリーンとレッドのアースカードデッキを骨董品・珍品コレクターから奪う。
最初は高値で売り飛ばそうと目論んだが、護身用として使えると知り、自分のモノとした。
以後、グリーンとレッドのアースカードを駆使して、より強力な泥棒へとローラは進化。
そんなある意味正反対・ある意味似ている2人はある日遭遇し、互いのデッキを賭けた闘争を繰り広げて来た。
本日のは丁度6回目ぐらいに当たる。
両者、互角ゆえ、毎回引き分けに終わっている次第であった。
そんな彼女達は相手を倒す事に真剣で、すっかりこの場に隠されしブラックデッキの事を忘却しているのだった。
いやはや、何ともお間抜けな話である。
3
ブラックデッキ争奪戦は彼女らをスルーして洞窟に侵入した男2人が繰り広げる事になる。
暗闇に包まれし、洞窟……。
黙々と、堂々とセレドニオは闊歩していく。
「ふむ……。確か、この先の祠にあるんだったな……」
冷静沈着で武骨な男、セレドニオ。
彼は目的の物へじわじわと迫っていった。
そんなセレドニオを洞窟外より静観しているのがオルフェ。
オルフェはどういう策で挑むか、思索していた。
(彼、賢いですね……。静かに歩く事で、他の侵入に気付き易くしています。これでは追撃などしても、潰されるのが関の山でしょう。今、僕と彼が戦うとこちらの分が悪い。彼は腰にブルーいデッキケースを持っていた。あれは先程戦っていた少女達が持っていたモノ=アースカード。既にカードを持つ者相手に生身の人間が挑むなど、愚の骨頂です……。だとしたら、僕がカードを手に入れるには………?)
オルフェの脳裏に秘策が宿る。
その頃、セレドニオは祠へ到着。
如何にも何かが入っていますよと、言わんばかりの箱。その上にある結晶巨人=ギガンテスの彫刻。
大きさは人間と同じぐらいのものだ。
その彫刻像が雄雄しくアクションポーズを飾っている。
「ほぅ、ブラックデッキの巨人を模した彫刻か? まぁそんな事、どうでもいい。念願のデッキを頂くとするか」
筋骨隆々なセレドニオは不敵に笑んで、余裕綽々と彫刻像を持ち上げる。像を箱の上から降ろした。
次に、箱の蓋へと手を持っていく。
錆と埃により、開けるには力が必須。
だが、強靭な肉体を持つセレドニオには朝飯前。
ぬん! と、力を入れ、豪快に蓋を引っぺ返したのだった。
ニタリ。獲物を仕留めたような、不敵な笑顔を浮かべるセレドニオは掴んだ!
ブラックいカードケースに保護されたカードデッキを。
セレドニオ、ブラックデッキのカードを閲覧しながら、出口へと向う。
カードの特性・性質を勉強しているのである。
「ふむ、金属と鉱物を司るブラックデッキ……。強大な破壊と鉄壁の防御を誇るカードが満載だな……。これなら、高いギャラを貰える傭兵になれそうだ。……いや、6色全てのデッキを集めて最強の傭兵として、国から金を謙譲して貰おう……。見えるぞ、金に囲まれた俺の未来がな。クククッ……」
暗ブラックの洞窟内という場も相俟って、セレドニオの顔は邪悪に微笑んでいた。
「実に勿体無い話ですね」
唐突に聴こえた、爽やかで色気のある美少年ボイス。
暗闇の中、セレドニオを横切った人影。
その際、腰に引っ掛けておいたブルーデッキが奪われた事を知った。
「んなっ!? 俺のブルーデッキを! 誰だ?」
突如何者かが己を横切り、我が戦闘能力の1つ、アースカード・ブルーデッキを略奪した。
セレドニオはその何者かへ振り向き、身構える。
その者は即座に光の指す、出口へと駆ける。
「逃がすか!」
逃げる対象を睨み上げ、追走するセレドニオ。
2人は太陽光照らす外へと向かっていく。
出口近くに進む為、外の光が差し込んでいるから、その人物の姿がはっきり確認出来た。
男だ。18歳そこらの若い男。
髪は首筋ぐらいまでにあり、サラサラな質感漂う印象。
顔は非常に端整で絵画や彫刻のような美男子であった。
くっきりと分かった泥棒男の外見を捉え、追撃を続行するセレドニオ。
が、ブルーデッキを奪取した男は突如足を止め、デッキケースからカードを抜き取り、セレドニオと対峙する。
その男こそ、オルフェ。
虎視眈々とデッキ獲得を目論んでいた男である。
オルフェの作戦はこうだ。
至ってシンプル。ブラックデッキを手にしたセレドニオは喜び、油断する。
帰り間際を狙って奪う、一発勝負である。
しかし、ブラックデッキを広げ見ていた為、ブラックデッキを狙うとしたら、周辺にカードが散らばって、全てのブラックのアースカードを回収出来ないかもしれない。
確実&迅速に手に入れるなら、腰のベルトに吊るされたブルーの方を狙う方が懸命。
だから、ブルーデッキのみを狙った。
それに、ブルーデッキを奪うという事は、自分とセレドニオが戦いになった際、相手が使い慣れたデッキを使わせないように出来る・互いに初めて使うデッキで戦う。つまり、条件を等しくし、劣勢でなくなるようにするのも狙いだった。
……とは言っても向こうの方が実戦キャリアは上だろうが。
だが、こちらの劣勢を埋める最大限の策を施行し、成功させたオルフェであった。
オルフェはブラフを張るべく、爽やかに微笑み、セレドニオに話を振る。
「やぁ、はじめまして。僕、オルフェと申します」
紳士的な挨拶。
感じは良さそうだが、自分のブルーデッキを奪った男相手にとって、その態度は余計に胡散臭さを与えた。
セレドニオは表情をより怪訝にさせる。
「オルフェか……。単刀直入に言おう。返せ。それは俺のものだ」
オルフェは背を曲げ、肩を揺らしながら失笑。
「ククク、君がそれを言いますか。君だって勝手に盗んだんじゃないんですか? これらは奪った者勝ちじゃないんですか?」
「ふん、口の巧い奴め。ならば、無理矢理奪還するまでだ」
セレドニオは戦う気マンマン。
だが、この場の空気に反して、オルフェは戦意の欠片も無い、しょぼくれた落胆をする。
「ふぅ、やれやれ、実に悲しい……。実に勿体無い」
「は? 最初言った言葉もそうだが、何が勿体無いと言うんだ?」
意味不明な言葉ゆえ、セレドニオはオルフェに説明を求めた。
「持ちうる力……アースカードの使い方ですよ。単的に言いましょう。もっと、アースカードを有効活用しませんか?」
「有効活用だと……?」
「えぇ」
オルフェは爽やかながらも、何か策略めいた不気味さのある笑顔で、そう答えた。
「ほぉ、ならば、言って貰おうか。その、有効活用とやらを」
小さな鼻息で嘲笑い、セレドニオはいけすかないオルフェという男に回答例を促す。
「レスキューです……。災害から民間人を守る・Hクリーチャーを倒す公安隊を創設し、僕達アースカード使い達がその隊員になるのですよ」
一瞬、セレドニオの動きが停止する。愕然……。
想像などしなかった答えに、セレドニオは圧倒された。
「レ、レスキューだと? お前、正気か?」
「君のブルーデッキを奪うという、最善策を実行した僕がトチ狂っているとでも言うのですか?」
「そうは言っても、アースカードでHクリーチャーを倒せるかは分からんぞ」
「戦った事、無いんですか?」
「あぁ……。災害に立ち向かう発想自体無かったからな……」
「ならば、勝てる可能性はあるハズ……じゃあないんですか?」
ご尤も。
それだけにセレドニオは黙り込む――考え込む。
彼もこの世を生きる人間の一人。
災害・Hクリーチャーなど迷惑以外の何者でもない。
それだけに出来るものなら、撃破したい。
もし、それが出来るのなら……。
そう考えると、本当に自分らの持つアースカードがHクリーチャーに通用するかを試してみたくなったセレドニオ。
「……ふむ、面ホワイトい。俺を仲間にしたいのなら、まず証明してみせろ。貴様の持つ、そのカードデッキでHクリーチャーが倒せるかどうかをな」
「無論です……。いや、寧ろ見て頂かなければ困ります」
「フッ、口の達者な奴だ……」
これまた、随分と不敵な態度のオルフェ。
根拠があるのか、無いのか。
しかし、一見する価値はあると踏んだセレドニオであった。
―――と、そこへ、喧しい足音が襲来。
ローラとカリーネが顔をぶつけ合い、いがみ合いながら、オルフェ達の方へ駆けて来た。
「くっそ、諦めなっての!」
「冗談じゃありませんわ! ここに眠るブラックのアースカードデッキ、あなただけには渡しません事よ!」
怒号をぶつけ合う2人だが、ずっと互いを睨み合っても前が危ない。
なので、チラと前方を見やるのだが、どういう事か、2人の男がいるではないか。
両目をパチクリ動かし、靴裏のゴムでブレーキを掛けて急停止。
カリーネ&ローラは男2人を凝視。
サラサラの髪を持つ美男子の方は自分達の持つカードデッキのブルー色バージョンを手に握っている。
一方、短髪で剽悍な男の手にはブラックバーションのデッキが眠っている。
これを見た事でようやく事情を呑み込んだ2人は仰天のハウリングを響かせた。
「さ……」
「先越されたぁ~っ!!」
キンキンした叫び声に表情を渋くするセレドニオ。
その象徴か、遠慮なく舌打ちを行う。
「チ、鬱陶しいのが……」
対称に、オルフェはパチッと指を鳴らし、「丁度いい所に来ましたね」と脳裏で呟いた。
「おやおや、戦いは中断したようですね。どうも初めまして、僕はオルフェと言います」
オルフぇは腕を前方へ扇ぎ、腰を曲げ、紳士的に礼をした。
「ど、どうも……」
掴みどころの無い印象の美男子オルフェに呑まれつつある、ローラ&カリーネは思わす、礼を返してしまう。
「お2人とも、丁度いい時に来ました。折り入って、話がありまして………」
むすっと怪訝な表情を形成し、カリーネとローラは互いを見合った。
4
ブラック灰色の雲が覆う天。ジャード国東部のとある村。
そこの僻地にテントを立て、オルフェ達4人は暫く身を置いていた。
ローラは酸っぱい顔をしてどんよりした空を見上げる。
「本当にここにハザードクリーチャーが来るのかねぇ~」
大きな石の上に腰掛けているオルフェは自身が奪取したブルーのアースカードの効果説明テキストを読みながら、返答する。
「ここ最近、風のHクリーチャーがこの周辺の町を襲撃しました。近くばかり狙われています。だから、その中で今のところ無事なこの村で待機しておけば、Hクリーチャーと戦える訳ですよ」
「はぁん、ナルホドね~。まぁとにかく、さっさと見たいモンだわ。アースカードでハザードクリーチャーを倒せるかどうかを……」
ローラはオルフェに魔法レスキュー隊の勧誘をされた。
泥棒という不安定で危険な事を続けるよりはレスキュー隊になった方が安定・安住の中での生活が可能と踏んで、彼女は悪くないかもしれないと考えた。
……しかし、アースカードでハザードクリーチャーを余裕で撃破出来なければそんな生活は不可能。
なので、セレドニオと同様、勝てるかどうか活目する事にしたのである。
ローラはただ、呆然とその戦闘が開始されるまで、待つ。
待機とは非常に退屈なもので、どうでもいい事等も考えてしまう時間。そんな時にふとローラは色々な疑問を浮かべていく。
オルフェに対しての質問だ。
現在、話し相手になってくれそうな人間はオルフェのみ。
だから、彼へ話を振る。
「そういや、オルフェ君……だっけ? 何でレスキュー隊なんてもん、作ろうと思った訳?」
「理由ですか……。そうですねぇ。怯えて、旅をする事に疲れたかれでしょうかね?」
「疲れた?」
「はい。僕は災害・Hクリーチャーが怖くて、居住を諦めて旅をして来ました。だけど、その旅も段々しんどく思えて来ましてね………。そろそろ余裕のある生活をしてみたくなったんですよ。そう、自分も他人も、建造物も守れる余裕が欲しくなったんですよ」
「へぇ、何かウチと似てるかな? ウチは貧乏だから今まで泥棒やって食い繋いで来たのよぉ。でも、ずっと泥棒するのもどうかな~って思っちゃってねぇ~」
「……そうですか。では僕は何としてもHクリーチャーを倒さねばなりませんね。僕らの、人類の安住……余裕を手に入れる為にも……」
オルフェは悠々とカードのテキストを次々と読み進めていった……。
同時刻。
曇天の空の中、セレドニオとカリーネは山中で食べられそうな植物などを散策していた。
カリーネは顔を近づけ、レッド茶色のきのこを凝視。
「……これは確か……。食べれたハズですわ」
今まで受講したお嬢様スパルタ教育の賜物か、豊富な知識の元、食べられるものか否かをきびきびと判別していくカリーネ。
彼女とは別行動で同じ山中にて、食料探しに耽っているセレドニオ。
彼はりんごの大樹を発見。
実にレッドく熟れたりんごが枝より吊るされている。
「幸運だな。いいものを見つけた」
―――だが、りんごは長身なセレドニオですらジャンプしても届かぬ高い位置に存在。
セレドニオがりんごを得るには2つの手段しか無いのであった。
1つは木に登り、りんごを毟り取りに行く手段。
もう1つは……。
セレドニオはベルトに固定したブラック色のカードデッキケースより、1枚カードをドロー。
「カードアクション、ブロンズハンマー!」
彼の持つ、ブラック灰色の縁取りのカードが輝光!
鋼の巨大ハンマーを招来させた。
「ようし、あの木を叩き、りんごを落とせ!」
ブラックデッキ使い=主の命令に呼応し、巨大ハンマーは大樹を殴る。
衝撃により、次々とりんごの実や周辺の葉が枝木より離脱し、雨の如く降り落ちた。
「フ、新しく得たカード……一通りは練習しておかないとな……。む?」
ブロンズハンマーで叩いた大樹が揺れ出す。
どうやら、先程の攻撃が効いたらしく、その証拠に根元が割れて、不安定な状態となっていた。
次第に揺れが、激しくなり、終いには折れて、地面へと伏した。
「威力を抑えめにしたのだがな……。まぁ、仕方あるまい。弱肉強食だ……」
「あら?」
大樹が転倒した際の大きな音に吊られ、カリーネがひょっこりと現れる。
「もしかして、ブラックのアースカードを使ったのですか?」
「手にして間もないからな。テストプレイという奴だ」
「はぁ……。しかし、植物も生物。こんな事して良かったのでしょうか? 私達、レスキュー隊になるか考えている人間だと言うのに」
カリーネは自分自身も他人も建造物も救うというオルフェが掲げた考えに感銘を受け、仲間になる事を考えた。ローラ・セレドニオ同様、アースカードとHクリーチャーの戦いがどういうものになるかを見るべく、彼女も敵が来るのを待っている立場であった。
そんなカリーネが溢した、植物倒壊云々という話をセレドニオがニヒルに嘲笑う。
「フハハッ! 偽善だな。ではお前は植物から成る食べ物や動物を食べないのか? 食べているよな? 食べていなければ死んでいるからな」
「そ、それはそうですけど……。ずいぶんとドライな方ですね」
「まぁ、俺は元漁師だからな。己らが生きる為の飯である魚を捕まえ、殺しまくっていけば、そんな考えにはなるさ」
「漁師ですか……」
セレドニオの脳内に己の幼少期を映した映像が放映される。
彼はユーロップ諸国の北国・ノエルデン国の漁師家系に生まれ、幼い時から父や親戚の漁の協力をしていた。
大きくなったら、本格的に漁師の一員となり、海原へ出向いては魚介類を狩っていった。
……が、ある日セレドニオは怪我をし、暫し療養を余儀なくされた。
なので、セレドニオ抜きで父や親戚の漁師が海へと向かった。
そんな時、大渦に遭遇し、セレドニオ父らの船を飲み込んだ。
その上、海の災害獣・ハザードシャークの出現により、船はズタズタに切り裂かれ、セレドニオ父らは海底の藻屑と化した。
だが、セレドニオは悲しみも恨みも無かった。
何故なら自分達も海の生物から命を奪って来たからだ。
殺ったら、殺り返される。
当たり前の事なのだろう。………と。
だが、自分は死にたくない。
本々、親に手伝わされていた仕事。命を懸けてまでやりたいものでないので、漁師を辞める事にした。
最後に二度と見る事は無いだろうからと、今迄出動していった先=海原を眺めながら歩いていたところ、不可思議な洞窟を発見。
興味本位にその洞窟に潜入する。
奥に祠があり、そこで、ブルーのアースカードデッキと出会う。
祠の文字を読み、残り5つアースカードがあると知った。
残りを我が物とし、己の命を確実に守り抜き、生計を立てるべく、残りのアースカード探しに旅立った。
以上の流れを通し、現在のセレドニオに至るのである。
その現在のセレドニオが落ちてある枝を踏み折り、しけた嗤いを溢す。
「生物なんて皆、自己中心なものだ。喰われたくないから喰おうとする。保身する……。自分ほど可愛いものはないんだろうさ………」
カリーネは沈黙に凍る。
自分自身許婚との結婚という、嫌な事から逃げた勝手な人間であるからだ。つまり、言い返せない。言い返す気が起きない状態。
「だが……」
「?」
「あいつ……オルフェは保身だけの人間じゃないらしい……。あいつは俺達と違って、アースカードを独占する気が無い。俺達に安定した仕事・住居を与えるつもりのようだ。その理由が分からん……」
「確かに、そうですよね……」
「だからこそ、あいつの行動をこの目で見てみたい………。奴は俺達に何を魅せてくれるのだろうな……」
静寂な空気……。そこへふわりと風が通過する。
この風は何処となく気持ちのいいものであった。
……だが、風の通過はそれだけで終わらなかった。
すぐに新たな・強烈な風が吹き荒れる!
セレドニオとカリーネの髪・服が激しく風に靡かれ、乱れる。
採取したりんごやきのこが次々と吹き飛ばされ、天へ舞い散る!
セレドニオは顔面前に両腕をクロスして、地を踏み締め、耐える。
「ぐ……。何て風だ……」
カリーネは大樹にしがみつき、吹き飛ばされぬよう、踏ん張る。
「ま、まさかこれって……」
この地域に来ると予想されたモノ故、第一に挙がった予想………。
その予想通り、上空から巨大な風で形成された鳥獣=ハザードクリフォンが、その全貌を現した!
その、雄雄しくも禍々しくもある巨大鳥獣を見上げるセレドニオとカリーネ。
「来たか……ハザードクリーチャー……」
「やっと現われましたか。長かったような短かったかような……ですかね」
ひょいと切り株を飛び越え、オルフェが到着。
上空で翼を羽ばたかせているHグリフォンを見上げる。
「オ、オルフェさん!」
「カリーネさん、セレドニオ君、見ていて下さい。僕がアイツを倒す痛快劇を……」
オルフェは爽やかに微笑み、腰にセットしたカードホルダーからブルーの縁取りのカードをドローした!
「さて……。勝負と行きますか! ここから先の村へ嵐を巻き起こしに行きたいのでしょうが、未然に防がせて貰いますよ」
カードを翳すオルフェ……。
戦いの火蓋が切って落とされた!
6
「カードアクション・ブルーペルセウス!」
爽やかさと色気の両立したオルフェの声から発せられた呪文により、ブルーのカードから、結晶巨人・Bペルセウスが召喚された!
騎士のような甲冑・容姿。
メデューサの盾を持つ巨人はその盾をHグリフォンへ向け、メデューサの蛇製髪を鞭の如く、伸ばし飛ばす!
対し、Hグリフォンは身体の竜巻をより激しく回し、触手攻撃を弾き返す。
「あぁ……」
「弾かれたか……」
落胆的視線で感想を吐露するカリーネにセレドニオ。
「ちょっと、ちょっと、これヤバイんじゃないの?」
茂みを跨ぎ、ローラがカリーネ・セレドニオの元へ駆けて来た。
「……まぁ、分が悪いのは間違いないな」
セレドニオの発言に反応する女子2人。
「どういう意味ですの?」
「向こうは風・嵐そのもの。対し、オルフェが操るブルーのカードは水や氷を操るカード。水や氷で嵐を沈められるか?」
「ど、どゆこと?」
眉毛で波を描き、ローラは酸っぱい表情で詳細説明を求む。
「例えば、火炎のHクリーチャー相手に氷や水のアースカードを使えば、炎を掻き消し、見事葬る事が出来るだろう。だが、風と水ではどちらの攻撃も互いに弾くので、決着が付くとは思えん……」
「マジで?」
勝算の無い戦いであると知ったローラは表情が萎れていく。
「では、オルフェさんは根拠もなく勝てると思ったのでしょうか? それとも、対策立てた上で戦っているのでしょうか……?」
「分かりはしないさ。俺達はあいつじゃない……」
「そ、そうですよね……」
深刻な空気に包まれる3人。
セレドニオは脳内で打開策に〔なりそうなもの〕を閃くが、敢えて口にはしなかった。
単独でオルフェがどこまでやるかを見ておきたいからだ。
「奴は……どう挑むんだ……?」
セレドニオは瞳孔を険しく細める。
オルフェはというと、常時の涼しい表情の中、沈黙をしていた。
「やはり、一筋縄ではいきそうにないですね……。ですが、僕も無策ではありませんよ。さぁて、幾つかを試してみますか、ペルセウスッ!」
両目を輝光させ、Bペルセウスはメデューサの口内から冷凍ブレスを放つ!
突進して来るHグリフォンへと冷凍ガスを大噴出させた。
ぶつかり合う、気流と気流……。
風圧・勢い対決となる。
「成程。こう来たか」
「ど、どういう事ですの?」
セレドニオはどういう意味か説明に入る。
「風圧対決に持ち込んだという事だ。これで、向こうの風を掻き消す……葬るつもりのようだ」
「な~るほどね♪ 考えてんじゃん、あいつ」
ニタリと頬が緩むローラ。
彼女はアースカードなら、災害……Hクリーチャーに勝てるのではないかと考え始めた。
カリーネも同様、希望に輝く目となっていく。
……セレドニオだけは、険しい表情で沈黙を続けているが………。
3人が静観する中、激しい気流対決……。
ペルセウスの冷凍ブレスの方が圧し勝っていく。
「……これで、何とかなりますかね?」
ここままこの、竜巻で形成された鳥獣を吹き飛ばし、掻き消せるか?
深刻な面持ちで、オルフェは戦闘を眺める。
しかし、Hグリフォンは唸り声を上げ、〔2つの竜巻〕と化し、分離!
左右へ回り、Bペルセウスへ突撃する。
真正面へのみ攻撃を向けていたペルセウスは左右に隙があり、その隙を突かれてしまった。
「く、ペルセウス……」
敵に一歩取られた。が、悔しむ暇など無い。
オルフェは新たにカードを2枚ドロー。
「ならば!」
左側の竜巻前に巨大結晶リボルバーが出現!
右側の竜巻前にも同様に巨大銃が出現!
左側の方が、水色で、右側がブルー色をしている。
「ブリザードリボルバー、ハイドロマグナム、シューティング!」
オルフェの発射コールを受け、水色の銃からは冷凍弾、ブルー色の銃からは水流が放たれる!
2つに分離した竜巻目掛け、飛び進む!
「ようし、一気に畳み掛けますよ、ペルセウス!」
ペルセウスは雄雄しき叫びを上げ、地を蹴り、後退。
すると、左右の竜巻を阻むものが無くなり、竜巻は合体。
Hグリフォンノ姿へ。
「ふふ、合体してくれましたね。今ですペルセウス! ブルザードブレスを!」
Bペルセウスは真ん中ガラ空きのHグリフォン目掛け、蛇髪の美女の顔を向ける!
蛇髪の彫刻美女の口が開かれ、冷凍ブレスが放射!
真っ直ぐ突き進み、風の化身と正面対決に挑む!
追い込んでいる光景を間に当たりにし、表情が晴れるローラをカリーネ。
「おぉ! 挟み返した!」
「凄いですわ! 初めてなのに、使いこなしていますっ!」
「あぁ……。だが……」
セレドニオはある事が引っ掛かっていた。
そう、アースカード全てに共通する欠点である。
オルフェもその事が気になっていた。
「……ペルセウス召喚から約2分30秒……。召喚時間切れまで約30秒……持ちますかね……?」
訳3分しか持たない、使用制限時間。それこそが唯一気掛かりな点。
ここまで追い込んでいて、ペルセウスが先に消えてしまえば、全てが水の泡だ。
そうなるか否かの瀬戸際。
流石のオルフェも顔に余裕を作れないでいる。
Bペルセウス、ブリザードリボルバー、ハイドロマグナムにはMAXパワーでの攻撃を要請した。
後はただ、結果を待つしかない。
息を呑むカリーネ……ローラ………セレドニオ…………。
どちらの風・風圧が強いか?
掻き消されるのがどちらだ?
深刻な面持ちで、静観する4人。
3方向より圧力には流石のHグリフォンも身体維持に限界を来たし、竜巻の我が身を崩壊させていく。
「おぉっ!」
ガッツポーズするローラ。
「……いや」
「え?」
セレドニオの苦い反応に注目するカリーネとローラ。
「ちょ、嘘でしょ!?」
彼女らが見やり、愕然としたもの。
Bペルセウスが足から消滅していくではないか。
その消滅はじわじわと登っていき、遂には攻撃の要、メデューサの盾までもが時間制限に敗退し、姿を消した。
「まだです! スラッシュキャリバー!」
オルフェはコマンドを叫び上げる!
Bペルセウスはまだ残されし、片腕を振り上げ、その手に握った、キャリバーを豪傑に、素早く振るい、斬撃波を飛ばした!
掻き消されていくHグリフォンへ最後の一斬、トドメを切り込んだ!
この攻撃の加入により、完全に圧し負けた……。嵐の災害鳥獣・Hグリフォンは完全消滅した………。
同時に時間切れにより、左右を囲んだブリザードリボルバーとハイドロマグナムも姿を消す。
暗雲が退いていく。
眩い陽の光が差し込んでいく。
嵐が消滅した何よりの証拠である。
その眩しさに思わず、目を覆う2人野美女。
目を覆うのだが、決して不快な意は無い。
その逆、爽快感に満ちた心境と表情を持っていた。
「うっひゃぁ、眩しい~」
「嵐が……ハザードクリーチャーが消え去った証拠でしょうか?」
太陽の光に負けぬ程の輝かしい笑顔で、ローラとカリーネは〔災害駆逐〕に歓喜。
3人の前にオルフェがひょいと駆けて来る。
「フフ、倒しましたよ」
「今のところ、な」
両腕を組み、悠然と構えるセレドニオはまだハザードクリーチャーを倒したとは思えなかった。
「まぁ、確かに。倒したかどうかは分かりませんけどね。そもそも、ハザードクリーチャーとはどうやって発生するのか、その退治方法が何かも明確な答えは今のところありませんからね」
オルフェは苦笑い交じりにセレドニオに同意しながら、ついさっきまで風圧対決が行われていた場に目線をやる。
―――何も無い。
風圧により、乱れ・荒れた木々が傾いているぐらいなものである。
「まぁまぁまぁ、とにかく、あのHクリーチャーは倒した訳じゃん? 喜ぼうよ」
オルフェとセレドニオの間に割って入り、ローラは場を明るくしようと図る。
「ふむ……それもそうですね。では、訊きますか。君達がどうするかを……」
オルフェは改めて、己が彼女らに向けた勧誘における是非を問う。
3人の顔色に訝しいものは見受けられない。
「当然、仲間になりますわ。これからは私、魔法レスキュー隊のメンバーとして自活していきますの!」
カリーネはふわりと髪を靡かせ、自分の胸を叩き、高らかに承諾の意を示す。
「モチ、やるに決まってんじゃん! つか、レスキュー隊って、公安組織だから、国から金貰えるんだよね? 国からた~んまり、金貰ってや~ろおっとぉ」
ニタリと、ローラは舌舐めずりをする。
基本的に打算で動くこの女は、自分の力を思う存分発揮した上での美味しい儲け方法だと嗅覚を改めて反応させた。
「おいおい……」
目元を険しくするセレドニオがぼそっと突っ込む。
「お2人は参加決定ですか。では、セレドニオ君、君はどうなのですか?」
セレドニオに注目が集まる。
「……俺は勝てない事、明らかに死ぬと分かっている事はしない。……だが、勝てる事、出来る事はやる……。つまりは……」
セレドニオは口元を歪ませ、猟奇的な顔をした。
そう、勝てる力=アースカードで、出来る事=レスキューを見定めたのである。
「そうですか……。実に頼もしい」
晴天に照らされた4人は自らの意思で選んだ。
己の持ちうる力を使って、〔救命・災害駆逐〕を行う事を。
7
オルフェ達4人はジャード国首都に出向いた。
街中のあるレストランで食事をしているカリーネとローラ。
「……しかし、2人は交渉、上手くいっているでしょうか?」
「大丈夫っしょ。Hクリーチャーなんて誰にとっても倒せるものなら倒したいものなんだし。レスキュー隊創設ぐらいさせるっしょ」
「……だといいんですけど」
カリーネは品良くナイフでステーキを切り、口へ入れる。
「にしても、久しぶりだねぇ~。こんな贅沢料理!」
対称に、ローラはグラタンをガツガツと下品な食べ方をする。
「いいんですの? あなたの寂しい財布でこんなものを食べちゃって」
「いいのいいの、これからはレスキュー隊として安定高給生活が待ってるんだから。いっちょ前にレストランで飯食っていいのよぉ」
「まぁ、今迄の生活と比べれば安定していい給料貰えるかもしれませんけど……」
「まぁね。あ、つか、今更なんだけど、あんた露骨に人前出て大丈夫なの? 逃亡中のお嬢様っしょ?」
「心配ありませんわ。追手はいませんの。私が逃げた代わりに親戚から結婚志望者が出て来たらしいですから」
「まぁ、金持ち同士の結婚で更に金持ちになるって事っしょ? そりゃ、オイシイと思って食いつく人は出るわなぁ。こんなイイ話、何であんた断ったの? 勿体なー」
カリーネは頬を紅く染め、もじもじしながら、その返答を行った。
「お金があっても………その、愛が無いと結婚なんか出来ませんわ。打算で身を捧げる事など出来ません……」
対し、ローラは粗野な一瞥をくれる。
「ウヒャヒャヒャ! 綺麗事ぬかしてやんの。おとぎ話のキャラかよ」
腹を抱え、馬鹿笑いするローラに、むっとなるカリーネ。
「そういうあなたはどうですの? 泥棒やってたのでしょ? 人のいる所に出ていいんですの?」
「あ~、問題ナッシング。泥棒やる際はいつも覆面してたから」
「ふ、覆面ですか………」
覆面なんてよくもやれたものだと、呆れながら、カリーネはコップを取り、水を口にした。
この場に居ないオルフェとセレドニオ。
2人は国へ直接魔法レスキュー隊設立についての要請を行った。
国王やその他幹部と対峙するオルフェとセレドニオ。
国王は顎ヒゲを摩り、オルフェらの話を聴いた。
「……ふむ。事情は分かった。災害を倒すという前代未聞の事をやってのけたというなら、やって貰おうではないか」
「……では、レスキュー隊の基地を造って頂けると?」
「あぁ、これから造らせよう。約束する」
「ほう、随分物分りがいいな」
セレドニオは皮肉めいた口調でその言葉を国王へ撃った。
「短髪の君、どういう意味かね?」
「てっきり、俺はアースカードを戦争に使いたいんじゃないかと思ってな。今、戦争中だろ? ユーロップ諸国内で、しっちゃかめっちゃかとな」
「確かに、戦争はしているな。お互い自分達の領土にせんと争いを繰り広げている……。だが、災害に対してとなると話は別だ。誰に取っても災害の被害を受けたくはない。当たり前の事だ。だから、戦争云々関係無しに、レスキュー隊は誕生して貰おうと判断したのだ。但し……」
「但し……。その先のセリフ、言い当てましょうか?」
紳士的かつ皮肉的にオルフェは微笑み、高く整った鼻を突き上げた。
「面ホワイトい。言い当ててみたまえ」
「他国の災害も出来次第、レスキューしろ。その国に恩を売れ。……とでも言ったところでしょうか?」
「ほう、君は他人の心理が読めるのかね。不気味な男だよ」
「これはこれは、有難いお言葉……」
「皮肉にしか聞こえないよ」
「解釈はご自由に………」
爽やかぶった、腹ブラックい表情の対峙。
その状況をセレドニオは内心、「嫌な空気だ」と呟いた。
「……まぁ、とにかく、レスキューステーションとあらゆる現場に対応出来る隊員服は一日でも早く造らせる。君達はそれまでに仲間を増やしておきたまえ。現時点では君ら含め、4人しか居ないのだろ?」
「言われるまでもありません………。必ずや」
紳士的なようで、互いの腹を探るような空気はこれにて、終了したのだった。