MISSION 1
MISSION 1
1
ユーロップ諸国内の1国家、ジャード国の中部=ルッケン………。
学生寮・宿舎が包まれていた。
レッドく、紅く。そう、獄炎に………。
概に大半の住人は避難しており、燃え盛る住居を途方も無い視点で眺めている状況………。
しかし、まだ全員避難はしきれていない。
逃げ遅れた14歳の少女・エミリーが何度も「助けて」と開いた窓から叫び続けていた。
外に逃げた友人達が不安定な眼差しで彼女を見つめる。
周辺の大人がバケツリレーをして水を撒き続ける。
だが、一向に火炎は鎮火せず、それどころか時間経過と比例して火炎は強大になっていく。……焔が家屋を食い潰さんとする。
「くそ……、全く消えない。この手の炎は【ハザードクリーチャー】のモノなのか……?」
「普通の炎なら、普通の水で消えるんだけどなぁ~」
「ええぃ! 【あいつら】はまだなのか! この事態を何とか出来るのはあいつらだけなんだぞ!」
特殊な火炎であると判断し、鎮火を断念した中年親父達は苛立つ。
――その時であった!
「お待たせしました」
穏やかな美青年のような声音……。
クリスタル……結晶で形成されたような巨人に乗った美青年が中年親父達を迅速に横切った。
その巨人に搭乗して、颯爽と現われたこの男。
レスキューユニフォームという特殊素材で作られた隊員服を装着している、爽やかそうな風貌の、端整な顔立ちの美青年。
彼は自身が乗っている結晶巨人の描かれたブルー色のカードを指2つに挟んでいた。
「レスキューウィザード、ブルーデッキマスター、只今現場に到着しました!」
その美青年、【オルフェ】はブルー色の巨人から飛び降り、スタッと地面に着地。
「ブルーペルセウス、寮内を回りながら、ブリザードブレスを放つのです!」
ブルーい結晶巨人=【ブルーペルセウス】は首肯をし、巨大な2足を使って駆け出す。
主の言う通り、Bペルセウスは自身の持つ、メデューサが彫刻された盾を突き出す。
すると、その蛇髪の女性彫刻の口内から冷凍ガスを放出される。
冷凍ガスを放射しながら、火炎に包まれている館内を回っていく。
紅蓮の光景を蒼ホワイトに塗り替えていく。
今迄どうにも消えなかった炎がいとも簡単に鎮火していく。
そのミラクルぶりに目を丸くする町民達。
「す、凄いな。これが魔力を持つ冷却……。同じ魔力を持つ炎を消す唯一の手段……」
時間経過と共に、蒸発霧が巻き起こり、冷凍ガスが熱と火炎を奪っていった。
「……ところで、館内に居るのは窓から助けを求めている彼女だけですか?」
オルフェはチラと近くに居る中年男性に情報を求めた。
「いや、あと2人。ロペスとトニーがあの中の何処かに居るそうだ」
「そうですか……。よし、〔そちらは頼みます〕!」
「え?」
誰に言っているのか分からない。
中年男ら民衆は目を丸くする。
「OK!」
「任せて下さい!」
天より、少女の声が2タイプ響いた。
上空から飛来するのはBペルセウスと同じ結晶ボディで構築された巨人2体。
その1体ずつに乗っているのが少女2名=声の主である。
この2人もオルフェ同様、レスキューユニフォームを装着している。
こちらのは女子用となっている。
1人はホワイト色の結晶巨人=【ホワイトセレネー】の肩に搭乗しているウェーブがかったロングヘヤーの少女。年齢は16歳そこら。
清楚なお嬢様風な印象である。
もう1人は同様にグリーン色の結晶巨人=【グリーンキルケー】に乗る、ポニーテールの女子。隣のウェーブロングヘヤーの娘と同年代に見受けられる。
こちらは明朗なボーイッシュガールといったビジュアルを持つ。
「では、活路はこちらが用意します。2人はその中へ」
オルフェは大声を上げ、冷静に作戦指示を二人の女子へ送る。
「ペルセウス!」
Bペルセウスはオルフェのコマンドを受領。
冷凍ガスを放つメデューサの盾を冷却済みの窓ガラスに突きつける=メデューサの唇を寮の外壁へキスさせる。そのままゼロ距離冷凍ブレスを放った!
ガラスはブレスの勢いで大破!
それにより、冷凍ブレスは内部へ降り注いでいく。
紅蓮の火炎が支配する廊下が次第に蒼ホワイトの氷結に包まれ出す。
「ま、この位ですかね? ペルセウス!」
Bペルセウス、冷凍ブレスを停止し、突きつけた盾を引き上げる。
その合間にGキルケーとWセレネーが降下。
冷却済みの入り口へ2人の少女をグリーンとホワイトの巨人は放る。
そして、グリーンとホワイトの結晶巨人は光となり、主の持つ、カードデッキケースへ身を潜めるのであった。
ウェーブロングヘアーのと、ポニーテールの少女が室内を駆ける!
「さぁて、残り2人は何処ぉ?」
飄々とした様子で周囲を見回すポニーテールの方。
「ローラさん、まずは呼びかけなきゃいけませんよ!」
「はいはい、これからやるトコだって、カリーネ」
ポニーテールの娘、ローラは気だるそうに唇を尖らせる。
「おーい、意識があるなら返事してくださーい!」
「返事してくださーい!」
声を張り上げ、まだ室内に居るとされる人物へ叫ぶカリーネとローラ。
2人は鎮火・冷却された通路を突き進んだ。
………時間経過し、この階を走り切った。
が、それらしい反応は無かった。
苦悶するローラにカリーネ。
「あっちゃぁ、返事ないわぁ」
「この階じゃないようですわね……。では、ローラさん」
「へいへい。手っ取り早くいかないとねぇ~」
ローラは余裕めいた表情で、太股に巻きついたベルトにある、カードホルダーから新たにカードを取り出す。
それはオルフェのと違い、縁取りがグリーンのもので、植物の蔦が沢山描いてあるイラストのカードである。
「カードアクション! サーチリーフ!」
ローラがそう、呪文を叫ぶと突如床から葉っぱが現われ、次々と増殖。
それらの葉は上下の階段へ突き進んでいく。
「2人の要救助者を探すんだよぉ。くれぐれも火に呑まれないようにね」
そうローラは呟き、探索に飛んだ葉を見送った。
「では、私も」
カリーネも同様に太股にセットしたカードケースからカードを引く。
こちらはホワイトの縁取りのカード。
「カードアクション・サモン・フェアリー!」
カリーネが持つ、妖精の画が描かれたカードが輝き、小さく可愛らしい妖精が1名召喚された!」
「要救助者2名、急いで探して!」
妖精は無言で微笑み、小さな蝶の羽根を羽ばたかせて飛び立った。
階段を上る/下る葉と妖精。室内を飛び交う。
散策している……居るとされる救助を求む二人の人物を。
「お?」
ローラの持つ、サーチリーフカードが、室内地図を示し、ある場所に点滅が灯る。
「早速見つけたようね」
ローラは駆け出す。カリーネも彼女へ続く。
「場所は何処ですの?」
「3階のトイレだって。あ!」
「どうしましたの?」
「反応が消えちゃった………。火炎に呑まれたようね」
「じゃあ、現場は危険じゃないですの?」
サァッと血の気が引き、うろたえるカリーネ。
反対にローラは落ち着いている。
「まぁね。でも、急ぐしかないじゃん?」
「そうですわね……」
息を呑み、首肯するカリーネ。
2人は要救助者が居るとされる場へ駆け抜ける。
「「入りますよ!」」
声を揃え、前以て通告した上で、ドアを破壊するカリーネ&ローラ。
2人は室内に目的の人物=要救助者を散策……。
返答は無かった。
それはつまり、返答出来なかったという事。
呼応出来ない程の重態だと予想出来た。
事実、この男子トイレは火炎に包まれていた。
「うわ、凄い炎………。よし、だったらこれっしょ!」
ローラはスレンダーな腿にあるカードケースからカードをドロー。
嵐のイラストのカードを手札にした。
「カードアクション、サイクロン!」
イラストが発光!
グリーンのカードから嵐が急発進し、火炎を吹き散らかす。
無理矢理火炎を端へ寄せていく。
即座にカリーネはダッシュ!
一番手前のドアを開ける。
残念。誰も居ない=ハズレである。
ならばと、その隣のドアへ。
「急いでよぉ、カリーネ。サイクロンは火を一時的に寄せているだけで、消している訳じゃないからさぁ」
「分かってますわ!」
苛立ちもあってか、カリーネは一段と豪快にドアを引く。
「!!!」
……居た。1人の男性が気絶している。
煙にやられて気絶してしまったようだ。
「よし、フェアリー……。あ!」
咄嗟にフェアリーサモンカードを取り出すカリーネ。
……しかし、このカードは現在、イラストの彩色が失われ、ホワイトブラックとなっている。
これはブランクモードといい、一度使用したら一定時間(平均約3分)まで経過しないと再使用は不可能である、その間・状態を示している。
つまり、現在フェアリー召喚は使用不可能なのである。
止むを得ず、カリーネ自身が気絶中の男子生徒を引っ張り、便所内から脱出させる。
身長158センチの、16歳の少女が身長170そこらの男子を運ぶのは厳しいものがある。
なので、パワーのあるマジッククリーチャーであるフェアリーに頼もうとしたが、それは出来ないと事をうっかり忘れており、今更ハッとなるカリーネであった。
「ふんぬっ……。やはり重たいですわ……」
気絶した男子生徒を引き摺りながら、火炎の広がっていない室外へ移動させる。
「プッ、うっかりしてやんの……」
ローラがそんなカリーネをクスリと嗤う。
「う、うるさいですわ……」
「冷静な判断が出来なくなるのはレスキューウィザードとしてどうかと思うけどぉ?」
「ふ、ふん……」
むすっと不貞腐れるカリーネ。
図星だけに言い返し難いものがあった。
嵐が突如消えた。
サイクロンマジックカードの効力が時間切れを来たしたのだ。
「あちゃぁ、3分経った……タイムオーバーか。ま、大丈夫か」
火炎は外=窓際へ寄ったまま。
ローラは高を括ってその間、最後のドアを開けんと歩む。
「さぁて、もう1人はここに居るハズだけど……」
ローラの手がドアノブへ向おうとしたが、その時!
火炎が再び忍び寄る!
抑制していたサイクロンに抵抗し、再び強襲。
「うわっ!?」
思わず、床を蹴り、後退するローラ。
炎がじわじわとトイレ内へ迫る。
「うわぁ~。参ったねこりゃ……」
「ど、どうしましょう……」
表情が濁るローラに、カリーネ。
「う~ん……。サイクロンは暫く使えないし……」
ハッとカリーネは脳髄に電光を受ける。
現状打破手段を掘り当てた。
「そうですわ! ローラさん、プラントロープで上から引っ張り上げるのですよ!」
「いやでも、火が回って来ない?」
ローラは苦い顔で危惧。
しかし、カリーネは余裕ある笑みを魅せ、新たなカードを取り出した。
「大丈夫ですわ。〔このカード〕と組み合わせれば……」
ローラはカリーネが示したカードを凝視。
すると、指をパチンと鳴らし、意図を掴んだ。
「ナルホド! コンボって訳ね! OK!」
生足に巻きつくベルトに引っ掛けられたカードデッキケースからローラは一枚のカードをドロー。自身めいた表情で呪文を唱える。
「カードアクション、プラントロープ!」
続いてカリーネが構えたカードの効果を発動。
「カードアクション、バリアコーティングッ!」
突如、床より這い出てきた蔦。
その蔦が薄ホワイトいオーラのようなもの=バリアーにコーティングされ、火炎に侵食されていくトイレへ上の隙間から侵入していく。
バリアーを纏った蔦は火炎に食われる事はなく、寧ろ弾き返す。
にょきにょきと伸びていく耐熱コーティングされた蔦=命を繋ぐロープ………。
そのまま突き進み、気絶している男子生徒へ絡みつき、捕獲。蔦は縮んでいき、要救助者を引っ張り上げていく!
ゴクリ。
緊張の余り、息を呑むローラに、カリーネ。
全神経を集中させ、救助すべく、蔦及び蔦のバリアー制御を全うする2人………。
要救助者は蔦から伝わり、与えられたバリアーにより、災炎から完全防御!
無事にトイレから引っ張り上げ、火炎に呑まれるトイレから脱出させた。
同時刻、オルフェの目の前に、降り立つエミリー。
彼女は巨大なブルーい手=Bペルセウスに捕まり、緊急脱出を成した。
Bペルセウスはタイムオーバーし、光となってオルフェの持つブルーカードの中へと戻った。
「よし……。一名救助完了。さて……カリーネさん達は……?」
オルフェは美麗なサラサラの髪を揺らし、見上げる。
まだ僅かに災の烈火が蠢く館を……。
そこへ突如、三階トイレの窓ガラスが吹き飛び、嵐が巻き起こる。
「む、合図が来ましたね」
オルフェはこれが仲間からの合図であると看破。
次にすべきアクションは予め決まっている。
腰のカードケースからまた新たなカードを手札に!
「カードアクション、ウォーターストーム!」
オルフェの持つ、水流竜巻のカードイラストから水流竜巻が発生。
ガラスの割られた場所目掛け、放射される。
物凄い勢い=水勢で火炎を押し殺さんとする!
強襲した水の竜巻。
トイレから避難したカリーネ・ローラと要救助者は鎮火を待つ。
10秒後程で、水の竜巻は止む。
……災いの火は消えたようだ。
カリーネ・ローラは鎮火されたトイレを確認する。
「消えたみたいですわね……」
「さぁて、降りますか。プラントロープ……」
彩色の抜けたプラントロープカードに目をやるローラ。
まだ再使用するまで時間が掛かると判る。
「……はまだ、使えないかぁ。だったら、これっしょ」
ローラはGセレネーが描かれたカードを翳す。
ローラが翳したカードより、溢れる閃光は外へと降り注がれ、その光はクリアーグリーンの結晶ボディを持つ巨人を実態化させる。
―――気絶中の要救助者はグリーンの結晶巨人・Gセレネーの手の中に納められた。
救助された少年2人、彼らはそっと地面へ降ろされた。
その2人の、苦しそうな顔で臥している様子を凝視するローラ。
「こりゃ、昏睡状態かねぇ~」
「何にせよ、早期回復が必要ですね……。ドロー!」
腿のカードホルダーに掛かったケースから一枚ドローするカリーネ。
このカードデッキケース、所有者が今必要だと思うカードをデッキの一番上へ自動的に持って来てくれる魔法が込められたケースである。
故に、彼女らはイチイチカードを広げ、探す手間など行わない。
カリーネが臨んだカードはというと、慈愛に満ち溢れた麗しい天使が両手を掴み合い、祈祷を行っている絵のカードである。
「カードアクション、リカバリー!」
カリーネは気絶している少年2名へ自身が持つ、ホワイトカードより降り注ぐ光のシャワーを浴びせる。
その聖なる光を浴びた少年らは唸り、意識を取り戻していく。
カリーネが発動させたこのカードこそ、名前通り、人を回復させる治癒カードなのである。
同時刻。そっと降りるブルー色の巨人の掌。
Bペルセウスは無事、エミリーを地上へと運んだ。
こちらも救出完了を果たした。
「ふぅ………」
一息つくオルフェ。彼の元へローラとカリーネが駆けつける。
「オルフェさん!」
「そっちも、終わったようね。全員救助成功じゃん」
「えぇ、2人共お疲れ様です」
おぉ~!
スゲェ!
流石レスキューウィザード!
……と、歓喜・感動する民衆。拍手喝采が彼らを暖かく包む。
「ふぅ、これで終わりですかね………?」
オルフェは帰るべく、足を動かそうとした。
―――が、その時! 鎮火したかに思えた館内が突如、再び燃え盛る。
「むっ?」
ピクリと片眉を微動させ、警戒するオルフェ。
消したハズの炎が蘇った。奇怪な話しであるが、その理由をオルフェは知っている。
それは………。
館内を包んだ炎が上昇し、天へと!
空中へ進む火炎は動き出し、形を変えていく。
大きな翼に、鋭利なクチバシに、巨大で鋭い足の爪。
「出ましたね、火災の真の姿……」
オルフェはお馴染みのモノを見たかのような口ぶり。
彼は不死鳥と化した火炎を見上げ、そう呟いた。
「こ、これが……【ハザードクリーチャー】。魔力を持った災害が幻獣を化した姿……」
「何て威圧的なんだ……」
町民達は唖然と感想を溢す。
「これから奴と戦います。危険なので皆さんは避難してください。」
オルフェは町民達へそう促し、駆け出す!
「カリーネさん、ローラさんは避難誘導と護衛を! 戦闘は僕1人で行います」
カリーネとローラは無言で首肯し、オルフェに背を向け走り出した。
「皆さん、こっちです、慌てずに!」
カリーネは声を上げ、民衆達を先導し、現場から退いていく。
「さぁて、この辺でウチは待機かな?」
ローラはカードを構え、戦火を民衆や建造物に広げないよう防御へのスタンバイをする。
そして、勇猛果敢にハザードフェニックスへ疾駆するオルフェ。
彼はカードの状況を確認。
Bペルセウスのカードはブランクモード=現在は使用不可能であると確認。
「再使用までに5分ぐらい掛かりますかね……。ですが、魔法氷や水を操る僕が退く訳にはいきません。それまでは!」
新たにデッキケースからドロー!
結晶で造形された銃の描かれたイラストのカードを手にした。
続いて、オルフェはそのカードを上空へ翳す!
「カードアクション、ブリザードリボルバー!」
そう虚空に叫ぶと、イラストが輝光し、結晶で出来た巨大銃が召喚された!
「ブリザードショット! ターゲット、ハザードフェニックス!」
主の指令を受諾。
クリアーブルーの巨大銃は迫り来る標的=Hフェニックスに照準を定め、銃口より、冷凍弾を連射!
流星の如く、発進する。
軽快に移動し、何発かを回避する火災不死鳥。
だが、それ以上に冷凍弾の連射スピード・連射頻度が激しく、3分の2は喰らう。
高熱の火炎ボディと絶対零度の弾丸の激突。
正反対の性質のモノ同士の作用で蒸発煙が増発。
しかし、ブリザードショットの方が勝っており、ハザードフェニックスの火炎ボディを蝕んでいった。
「よし……」
効いている。オルフェは拳を握り、こちらが優勢であると確信する。
よろめくHフェニックスは唸り声を上げ、焔の翼を仰ぎ、火炎製のウイングダガー=羽を放つ!
「む、そう来ましたか。ならば全て撃ち落すまでです!」
スッと、オルフェは空間を手刀で裂く。
ブリザードリボルバーは角度を修正。
新たなターゲット=火炎羽に照準を回し、冷凍弾にて対抗する。
激しい射撃合戦となる。
……が、段々とHフェニックスは射撃牽制をしながら離れていく………。
「ナルホド、逃げる気ですか。そうはさせませんよ。火災は完全に鎮火しないといけませんから……」
オルフェは敵の意図を看破。
逃げる事は間違い無い。
だが、それを放任する訳にはいかない。
何故なら鎮圧しない限り、また新たに何処かで災害を起こすからだ。
オルフェ……彼の脳裏に災害により荒れた土地=故郷を幼き自分が物憂げな顔で去って行く過去が一瞬よぎる。
嵐でもはや家と言えぬ我が家を看取り、旅へと出た過去……。
そこから様々な経緯を経てレスキューウィザードとなったオルフェは災害を増やす事・災害で被害が出る事を許さない。
だからこそ、ここで完全に〔鎮圧〕させる。
オルフェは即座にHフェニックス鎮圧の方程式を組み立てた。
丁度その時、善戦を張っていた巨大結晶銃・ブリザードリボルバーの使用時間切れとなり、冷凍弾発射銃は消滅。
手古摺っていた敵が消えた。
ならばこれからやるべき事は1つ。丸腰となった主=オルフェを焼き殺す事だ。
Hフェニックスは行動変更。
空中を旋回し、オルフェへと降下!
確実に焼却すべく、突進して来た!
……だが、オルフェに恐怖も焦燥も無い。寧ろ……。
「墓穴を掘りましたね。君がチンタラ戦ってくれたお陰で、また使える時間になりました………」
余裕綽々の笑顔を持つオルフェ。彼はカードを翳した。
雄雄しきブルー色の結晶巨人のイラスト……Bペルセウスのカードを!
ペルセウスはカードから飛び出し、飛翔しながら盾を突き出す!
盾に彫刻された蛇髪の女性の口が開き、冷凍ブレスを放射!
真っ向から接近する不死鳥へと冷凍ガスが降り注ぐ。
急展開のカウンターを見舞う。
そこまでは想定出来なかったのか、Hフェニックスは真正面から冷凍ブレスを浴び、悶えながら消え入っていく………。
絶対零度の霧……。レッド橙の巨鳥を蒼ホワイトな空へと塗り消していった。
消滅もとい、鎮圧されたのだった。
美顔で爽やかな笑みを形成するオルフェ。
「鎮圧完了……。ミッション・コンプリートです……」
オルフェは発光状態のBペルセウスのカードの画面を指でなぞる。
そうする事で、制限時間前に召喚したものを回収出来るのである。
任務を終えた為、元に戻すオルフェ。
ブルーき結晶巨人・Bペルセウスは再び光となり、カードの画に戻った。
「ふぅ」
オルフェは肩の力を抜き、脱力。
「オルフェさ~ん!」
振り向くオルフェの先、カリーネとローラが嬉しそうに走って来る。
「ウチらの出番は無かったようね」
「えぇ、僕が倒しました。さて、帰りましょうか」
「そうですね」
カリーネは頷き、飄々と足を進めるオルフェとローラに続いた。
オルフェらが進む先、そこにはある人物がカルテらしきものに記述をしている。
その人物は20代後半ぐらいの男で、無表情……死んだ魚のような目で淡々とペンを動かしていた。
その男をオルフェがさらりと横切る。
「報告書、ご苦労様です。大変ですネェ~。国が兵器として流用するかを観察するというのも……」
オルフェは皮肉めいた口調で通過間際に囁いた。
男は顔色も変えず、こう返す。
「まぁ……仕事ですから」
何処か濁った空気を醸し出したまま、オルフェの背中が報告書作成中の男から遠退いていった。
オルフェの後ろを歩くカリーネ・ローラは怪訝な目で調査員の男を見ながらぼそっと会話を始める。
「毎回来るねぇ、あの人」
「当然ですわよ。レスキューウィザード隊は私達が国に申請して作ったもの。国に逐一チェックされるのは当然ですわよ」
「けど、場合によっては戦争にウチらが駆り出される場合もあるかもなんだよねぇ~。どうするよ?」
「どうすると言われましても……」
2人の魔法救急戦士は悶々と難しい顔をした。
「断るだけですよ」
ピクリと反応し、オルフェを見やるカリーネ&ローラ。
「オルフェさん……」
「僕達はレスキューウィザード。災害から……ハザードクリーチャーから人々を守る者。兵士ではありません……」
物腰柔らかそうな印象を残しつつも威風堂々と歩くオルフェはそう述べるのだった……。
2
街中にある建造物。
そこには レスキューステーションと書かれた看板があった。
消防署はファイヤーステーションと本来称すのだが、この場をレスキューステーションと名乗るには意味がある。
それは火災だけでなく、あらゆる災害から人々を守る組織である=対象を火災に限定していない為、全レスキューを包括したネーミングとなっている。
その建造物へブルー・ホワイト・グリーンの魔法カードを操った若者達が入っていった。
開かれたドアの音。
それに反応するのは室内に待機していた2人。
この2人も同じユニフォームを着用=レスキューウィザード隊員である。
殺陣の練習に励む凛々しい・ヒーローフェイスのブルー少年=【ドミニク】。
そのドミニクの隣で殺陣のマネをして楽しんでいる、10歳ぐらいの少女=【アリサ】。
「おっ? 帰って来たな?」
「オルにーちゃん達、オッ帰りだおー」
「ドミニク君、アリサさん、ただいまです」
オルフェは近くのソファーへ歩み、腰を据えた。
「早かったな」
「えぇ。今日のはザコでしたので」
「ハハハッ、簡単に鎮圧出来て何よりだ」
「ですね……」
ガンッ! と、ぶつかる額と額。
カリーネとローラが頬を震わせ、額をぶつけて睨み合っている。
「さっき、何て言いましたの?」
「耳悪っ。しょうがないねぇ、ウチは親切だからもう一回言ってあげるよ。あんた、さっきも現場で慌て過ぎだったって言ったの? マジ困るんだけど。今回はあたしが上手くフォローしてあげたから良かったものの。危なっかしいよぉ、ホント」
「失礼ですわね……。誰かさんと違って感受性が豊かなだけです。ヒステリーではあるません事よ。事実、最後のレスキューコンボは私のアイディアでしてよ?」
主張と主張の大激突!
掴み手同士をも衝突し、双方はいがみ合っていた。
呆れながらドミニクとアリサはその小競り合いを静観。
「あ~あ、また始まったおー」
「日課の如く始めるよなぁ、こいつら」
カッカッカと、失笑するドミニク。
「まぁ、ミッションに支障を来たさなければあのような痴話喧嘩、放置しても問題はありません。それに……」
「それに?」
オルフェとドミニクが目を向けた先、激しく取っ組み合いをするカリーネとローラ。
野良猫同士レベルの喧嘩。機敏に動く拳と拳。
その衝撃により、揺れる。弾む。
彼女らの胸部にあるメロン2セット=おっぱいが。
たゆん、たゆんと柔らかさ・弾力性を象徴するかの如く、上下左右激しく身体に呼応して暴れている。
それだけでなく、レスキューユニフォームのミニスカートがひらりと動き、節々でパンツが露呈。
そんな事お構いなく小競り合いに没頭するカリーネとローラ。
彼女らを余所に、オルフェとドミニクは満面な笑みで乳揺れ・パンチラを鑑賞するのであった。
「こんな素晴らしいものを自然に見れます」
「そ、そうだな……」
「やはり、女性は遠くから鑑賞するに限りますね」
「まぁな」
「遠くで見れば、内面の醜さを忘れ易いですからね。現実、内面の醜い女性と関わる事は非常に骨の折れる事です。わざわざそんな事をする必要はありません……」
「ま、まぁな………」
苦笑の直後、ドミニクの眉毛が下へと向った。
「えい!」
アリサは宙返りをやってのけた。
「お、宙返り出来るようになったか、アリサ」
「へへん。ドミにーちゃんの練習にいつもつき合ってるからだお!」
満面な笑みで、アリサは鼻の下を指で左右に擦った。
「アリサ、もう一人で何でも出来るんだお!」
「本当にそうかぁ~?」
ドミニクは苦笑いを交え、疑問を放る。
2人のその様子を暖かく見守り、オルフェは席を立つ。
レスキューステーション内にある、地下の食料保存庫。
この時代の冷蔵庫のようなものである。
そこへ足を運んだオルフェは乾いた喉を潤しに来た。
ここには先客が居た。
「おや? セレドニオ君、いつの間に」
オルフェが言い放った先に居るのは巨漢・短髪で筋骨隆々な青年=【セレドニオ】。
レスキューユニフォームを纏ったレスキューウィザードの一員である。
彼は水の入ったビンを飲んでいた。
「……オルフェか」
「いいものですよね。水が飲みたい時に水を飲めるのは……」
しんみりとした様子でオルフェは新たに水の入ったビンを掴む。
「……そうだな。昔なら想像出来なかった事だな」
「えぇ……。当時を思い出せば一層、有難みを感じます………」
3
―――オルフェはある過去を思い起こしていった。
それは1年前。
オルフェはさすらいの吟遊詩人として旅路を重ねていた。
節々で寝泊りをしては別の場へ足を運ぶ。
そんな行き当たりばったりの毎日を繰り広げていた。
ある日、オルフェはジャード国北部の山岳地域を歩き進む。
周辺の木々は折れ、周辺の民家が粉々に破壊されている……荒れている。
嵐を受けた跡が深く刻まれていた。
中でも目立った痕跡として大きな爪痕が何箇所にも存在している。
「おやおや、ここもですか……。巨大な爪痕が目立ちますね。恐らく嵐……風のハザードクリーチャーが暴れたのでしょうね。しかし、悲しきかな。僕にはどうする事も出来ない。ここの住人達は皆、別の場所へ移住したようですし。僕1人で復興に努めても無意味。というか、無理ですね……。あぁ、嘆かわしい………」
そう、虚空へ謳い上げ、オルフェは嵐によって陥落した町を後にした。
1時間後ほどで、隣町へ到着。
オルフェは休息・回復すべく、喫茶店へ出向く。
入り口直前でふとオルフェは財布をポケットから取り出し、現財産を確認。
彼は消え入るような溜め息を吐いた。
要するに寂しい懐なのである。
「残りこれだけで食べられますかねぇ。やはり旅人というのも不便なものです。旅の節々で日雇い労働や詩を売って定期的に資金を得てはいるものの、対して儲からないから直ぐに減ってしまいます……。だけど、神出鬼没なハザードクリーチャーが怖くて安住はしたくない……。“早く脱したいものです……この板挟みから」
大嵐で実家をオルフェは失った。
しかもその大嵐はHクリーチャーによるもの。
通説によると、Hクリーチャーは神出鬼没で、どんな場所にでも現われては街・人々に大惨事を齎す。
何時、どのように出現するのか明確な理論は、現時点では解明されていない。
故に不気味。
用心深い・大損を嫌うオルフェはそんなHクリーチャーが横行する世に安住など恐ろしくてとてもじゃないが、したくないと考え、旅をする道を選らんだ。
無論、旅をしてもHクリーチャーから逃げ切れる訳でもない。だが、旅をすれば=家を持たなければ、災害時に失うものも少なくて済む。
だから今迄旅路を繰り返していた。
……しかし、旅の継続というのも苦闘が伴う。
衣食住の不安定化。歩き続け、体力消耗度の激化。
流石にうんざりして来ているオルフェであった。
そんなオルフェはぼそっと呟きつつも、空腹という生理現象により、レストランのドアを潜ることにした。
店の込み具合はどうかと言うと………不運にもすぐには食事はおろか、着席も出来ない状態。
店内は大勢の客に店は占領されていた。
「食事時の時間帯では無いのに、随分と混んでいますね……。余程の人気なのでしょうか?」
「いいや、違うよ。あんちゃん」
隣=順番待ちをしているパンチパーマの中年男性がオルフェの推理を訂正する。
「……と、言いますと?」
「あんた知らないかい? 隣町は大嵐に遭った事を」
「いえ、そこを通り過ぎたので、知っています」
「そうかい。そこの住人達がこっちへ来たから、その分、この町全体が窮屈になっちまってんだよ。困った時はお互い様とは言っても、ここの人間としては窮屈な思いしちまうけどな」
「成程。そうでしたか。……にしても、彼らは自分達の町を復興しないのですか?」
中年男性は首を横へ振った。
「それはあり得んよ、あんちゃん。何せHクリーチャーによるものだったからねぇ~。Hクリーチャーってのは一度潰した場所と同じような場所で同じような事をする性質を持っているのも居る。だから、復興してもまた襲って来るんじゃないか……って怯えちまって出来ないのさ」
「………そうだったのですか。分かります。僕も幼い頃、大嵐で両親と家を失いましてね。それ以降安住するのが恐ろしくて、旅を重ねる毎日を送っています……」
「そうだったのかい。まぁ、あんちゃん、ここで遭ったのも何かの縁。暇潰しに旅の話でもしてくれや」
「えぇ。構いません。面ホワイトいかは保障出来ませんけどね」
美少年オルフェは貴公子的な輝きのある笑顔で承諾するのであった。
双方、そのまま立ち話を始める。
「……へぇ、【アースカード】ねぇ。何か聴いた事、あるなぁ」
中年は顎を掻き、アースカードという単語に反応を示す。
「えぇ、まぁ風の噂で仕入れた情報なんですけどね。ユーロップ諸国の人間なら殆ど知っている歴史……。50年ほど前までは魔法という文化があった頃に話は遡ります。魔法とは呪文や魔方陣を描く事で火や水などを創出出来る技術で、当時の文明を支えて来ました」
「ふむ、そうらしいなぁ」
「……ですが、機械産業発達により、特殊な条件や時間の掛かる呪文・魔法陣形成を余儀なくする魔法は非効率的なものとなってしまった。それ故、魔法は廃れ、産業や戦争兵器には機械兵器が導入され、現在に至ります。……ですが、魔法も極秘裏に効率化を目指し、進化させようとする動きが有ったそうです」
「それが、アースカード。カードという媒体で、手っ取り早く魔法を使える力か………」
オルフェは真っ直ぐ頷く。
「そうです。その力があれば、旅人として自己防衛の力が強化されますからねぇ。手に入れられるものなら、手に入れたいという次第です」
中年男は眉間を膨らませ、脳から必要が無いか、捻出に努める。
「変わってるねぇ、あんた。殆どの人間は面倒に思ってそんな行動すらしないというのに」
苦笑い交じりのオルフェ。
「でしょうね……」
「せっかくだし、情報ぐらい与えたいところだが……。俺の知る限りじゃ、水氷を操るブルー、火炎を操るレッド、風・植物を操るグリーン、回復・防御特化のホワイト、電光を操るイエロー色、鉱石・鋼を操るブラックの合計6種類あるらしいけどな」
「それは知っています」
「それ以外っつーとな………。あ、そうだ! ジェノーラ婆さん。あの婆さんなら知ってるかもな」
「! その方は何処に?」
「この店の通りの一番端にあるイエロー色い屋根の民家だよ。今日も子供らに昔話を語ってるだろうさ」
「……そうですか。では食事後にでも出向いて見ますか。どうも情報有難うございます」
「いやいや、有るか無いか分からん話なんだ。そんな事で感謝なんぞよしてくれ。実はデマだった場合、相当なショックになるぜ?」
「ははは。まぁ、運試し感覚でやっているようなものなので。落胆は無いかと」
オルフェは長い睫毛を降ろし、細く失笑するのだった。
先程知り合った男の情報にあった、目的の民家へ到着したオルフェ。
「ここですか……。まさか、罠って事は無いですかね? だとしたら、一応……」
オルフェは護身用アーミーナイフをポケットから抜き取り、右手に握り締めた。
念の為の迎撃準備も整った。
いざ、目的地へ。
ドアを叩き、用件通達及び、入室許可を仰ぐオルフェ。
反応はしゃがれた老婆声が返って来る。
粗野な男の声ではなかった為か、危険度は下がったか。しかし、まだ気を緩めるのは時期尚早。失礼ではあるが、念の要った用心を持って、オルフェはドアを開けた。
室内のド真ん中には、猫の彫刻を撫でている、眠たそうな感じの老婆が椅子に座っていた。
「珍しいねぇ。あんたのような若者がこんなババアの所へ……。訊きたい事とは何だい? さっさと言いな。ババアのしょうもない昔話が始まっちゃうよぉ」
柔和な口調でジェノーラ婆さんは用件の詳細を急がせた。
ジェノーラは決して他人と話するのが嫌いでは無い。寧ろ好きな人物だ。
しかし、長い人生経験によるものか、オルフェには少しでも早く話を済ませるべきではないかという勘が働き、こういった表現を使った。
「そうですね。単刀直入に訊きます。アースカードについて、知っている事全てを話して貰えませんか?」
オルフェは最初、多少老婆の機嫌でもとるべきだろうかと考えたが、その必要は無いとこのジェノーラ婆さんは言うので、その好意を頂き、話を進めてみた。
「ふむ。アースカードかぁ。あんたがそれで何をしたいかはここでは訊くまい。単刀直入に知っている事を伝えようじゃないのさ。あれはねぇ~。ユーロップの色んな遺跡の近くに埋めたらしいよぉ」
「色々な所………?」
「ここジャード国にはブラック、ノエルデン国にブルー、フレシス国にレッド、タニーヤ国にグリーン、ペスイン国にイエロー色、ガリシュ国にホワイト……だったかのぉ」
「……もっと、詳しい位置情報とかは?」
「……ちょっと、待ちんしゃい」
ジェノーラ婆さんはゆっくりと腰を起こし、本棚へと向う。
次に地図帳を棚から引き抜き、ペンを握った。
細かい場所を記していく………。
黙々と、唖然とオルフェはその様子を眺めた。待った。
(地図に記載……。この人、具体的な場所を知っている……何者なんでしょうか?)
「あんた、このババアが何故知っているか気になるかい?」
「え、えぇ、まぁ………」
「聴きたいかい? やめときな。グダグダの長ったらしい話が半日近く続くよぉ。そんな話聴くぐらいなら、目的地へ向かいな」
「! ……お婆さん……」
「欲しいんだろ? アースカードが。あんたにそれ以外知る事があるのかい?」
この老婆、粋な笑みと地図帳をひょいと美少年にくれてやった。
オルフェも老婆について追求する事は無意味と悟り、クスリと微笑を返した。
「フフッ、そうですね。どうでもいい話です……。情報、有難く頂きます。では……」
オルフェは会釈を送り、この家を後にした。
ジェノーラ婆さんはのろのろと歩み、棚上にある写真立てを手に取った。
その写真。漆ブラックのローブに身を纏った若い男女の写真。
具体的には中央にカップルらしき男女2人が並び、その左右に同年代の男2人、女2人の写真があった。
セピア色に褪せた古き写真をこの老婆は懐かし気に見つめていた。
写真の中央の女性はホワイトい魚のイヤリングをしている。
偶然なのか、ジェノーラ婆さんの耳にも同じイヤリングがしてあり………。
4
オルフェはジェノーラ婆さんと出会った町とその隣町の間、山岳を歩んでいた。
ここは大荒れした光景は無い。どうやらまだ、Hクリーチャーに目を付けられていない場所のようだ。
「! おや?」
激しい爆音が響く。
オルフェは音の先=舌の盆地へ目線を持っていく。
そこには複数の砲台が並列されており、それらの巨大な砲台から爆薬が発射されていく。
爆弾は岩山へ向って飛んでいき、爆散!
巨大な柱岩に巨穴を穿っていく。
撃てーい! という、中年男性=指揮官の大声を受け、砲撃隊は次弾を発射。
これを見たオルフェは状況を把握。
「国軍の砲撃練習……。と、いったところですか………ご苦労な事です。災害救助・復興もしないで……」
皮肉めいた哂いを交え、オルフェはそう呟き、爆音の届かぬ場へ足を進めようとした。
―――その時だった。
巨大……いや、巨大過ぎる鳥獣の影がオルフェの上空を通過。
その影が向う先―――。
オルフェが先程居た町である。
オルフェの目にはっきりと映るその鳥獣。
ボディは薄グリーンの竜巻が融合して鳥獣=グリフォンの形を作っている存在。
間違いない。
――ハザードクリーチャー。
恐らく、前の前の町を無残な荒地にした犯人。風のハザードグリフォン。
「……ハザードグリフォン。恐らくあの町を狙う気ですね……」
オルフェはそこまで分かっていても、その後自分の行動を即座に決定出来なかった。
「……どうしたものですかね? 見て見ぬフリ……は冷徹過ぎますか。しかし、何の力も無い僕如きが戻った所で何が出来ましょうか? 戻る意味はあるのでしょうか? 下手すれば命を落しに行くだけになるかもしれません」
元の美しい顔の所為か、あまりぐちゃぐちゃな顔になれないオルフェ。
……ではあるが、表情は何処と無く暗く、血の気が引いていく。
苦悶の泥沼の中をもがくしかなかった。
「アースカードを手に入れて戻る? 現実的じゃありませんね。近場のブラックデッキの在り処ですら、ここから数日は掛かる。戻っても、大惨事の後である事、間違いありません」
ふと、ハッとなるオルフェ。
「……あれ? 何故僕はあの町を救おうと思ったのでしょう? 自分にとって有益な情報をくれた人が居たからでしょうか? 居なかったら助けようと思わなかったのでしょうか? 変ですね………」
自問自答。両腕を組み、更なる苦悩を掘り進めるオルフェ。
オルフェは保身する為の力を強化すべく、アースカードをギャンブル感覚で探している。
何故か?
我が家と家族を奪った災害・Hクリーチャーが恐ろしいからだ。
死にたくないから抵抗する。当たり前の事だ。
では、守護対象が自分自身に何故なったのだろうか?
決して他者などどうでもいい、タチの悪い人間ではない。
でも、他者を守るほどの力・余裕がないから、他者までも守ろうとは思えなかったのだ。
いつの間にか他人を助ける・守るという心を捨てていた……。
オルフェはハッと我に返り、涼しい顔で己を嗤う。
「そうか……。僕は他人を本当は助けたいんですねぇ……。というか、もっと余裕のある人間になりたいのかもしれませんが………」
が、眉を釣り上げ、厳然とした表情にするオルフェ。
「……ですが、今はアースカードを持っていません……。ですが、出来る事はあるかもしれませんね……」
これ以上、自問自答をチンタラと繰り返す必要など、オルフェには無かった。
オルフェは単身、走り出した。
嵐の災害獣=Hグリフォンが向ったその先へ………。
5
竜巻の柱が5~6本襲来。
トルネードと言う名のチェーンソウが民家・建造物をズタズタに裂き、砕き、吹き飛ばしていく。
悲鳴・奇声を上げ、人々は逃げ始め、唯一の寄城・我が家へ篭る。
突風が止むのを待つ以外になかった。
猛風に煽られ、軋む家々………。
屋根なり、ドアなりが捥げて、飛んでいく……。
分解されていく町並みを天空より眺める巨大な鳥獣=Hグリフォン。
彼は翼で扇いでは新たな竜巻を創出し、町中へとシュート。
破壊の雑兵を次々と送り出していた。
自身もフラストレーションが溜まったのか、突如、咆哮を上げ、急降下!
四肢にある、獰猛な竜巻で出来た爪を振り上げ、近くの民家へと引っ掻いた!
我に蹂躙されよ、無力な人類よ。
そう、言わんばかりに風の災獣、Hグリフォンは気高く吼え謳うのだった。
暴れに暴れまわったHグリフォンは破壊に飽きたのか、また何処かへ飛び立った。
………取り敢えず静まった。
しかし、凄惨な町跡はしっかりと刻まれた。
被害沈静から約10分後。
息を切らし、オルフェはようやく到着。
以前足を運んだ時と全く異なる風景。Hグリフォンに蹂躙された町並みを目撃。
オルフェは悄然とする。
「やはり、終わっていましたか……。ですが!」
オルフェは沈むのではなく、この身を動かした。
まだ生きている人は居るだろう。
その中で何かの下敷きになり、救助を求めている人があらば、救助してみようではないか。その一心で周辺を散策した。
まずは近場。
ジェノーラ婆さんの家だ。
恩がある上に居住地を唯一知っている為、真っ先に安否確認に走った。
あの老婆の居た家は見事に砕かれ、室内の椅子や棚が外に散在している有様。
考えられる状態は3つ。
1.逃げて、無事な所に居る。
2.下敷きにされているが、生きている。
3.下敷きにされて死んだ。
取り敢えず、呼びかけながら、倒壊した家屋を除去していくオルフェ。
「お婆さん! 無事ですか!? 返事して下さい!」
すると、ピクリと動く瓦礫が。
もしやと、その方角へ反応するオルフェ。
「お婆さん?」
「あたしゃ、死んじゃおらんよ。でも、一人で出れやせんからねぇ。除けてくれんかのぅ」
気丈な言い回しでの返答に、この声。まごう事なき、ジェノーラ婆さんだ。
ホッと表業が緩み、息を落とすオルフェ。
ジェノーラは下敷きにはされていたが、生きていた。
「すぐに助けます。少々お待ちを……」
オルフェは声がした場の瓦礫を放り飛ばしていく………。
除去していったその先、シェルターらしきものがあった。
オルフェはこの家の周辺を見回していなかった為、シェルターがある事は知らなかった。
そのシェルターが勝手に開かれる。
オルフェは思わず、身を退いた。
「うわ?」
シェルターは杖により圧し上げられていく。
ジェノーラ婆さんがひょっこり顔を出した。
「おや? あんただったかい? あたしゃてっきり、とっくにこの町から出て行ったとばかり思っていたのだがねぇ~」
「まぁ、僕がアースカードを欲しい理由は人助けがしたいから……なんですよ」
「そうかぇ」
「……そう、なのでハザードクリーチャーを倒す力が欲しいんですよ………」
オルフェは天へ目をやり、己のやりたい事・目的を真っ直ぐに思うのであった。