ふたコマ目
女が出て行った事など無かったかのように教官は違反者講習を開始した。
おれたちは教官が言うページを開き、飲酒だとか確認の不足だとかを遠回しに詰られながらこれまでの人生がどうであったかを自省した。せざるを得なかった。
ビニール本の匂いが子どもの頃に読んだ成人雑誌を彷彿とさせて少し興奮したが、そう言う感じなのでここにいるのだろう。
恐らく全員が、面倒だと思いながらもこの違反者講習で何らかの過去を思い出しているに違いない。
仰々しく言っても軽微な違反者たちの講習だから、ここにいる人間は免停になったり免取だったりした訳じゃないのは確かだ。
精々が交際相手から「性交が下手」と行政機関に報告をされたり、「部下の扱いがぞんざいである」と認定されたり、「人としての心が無い」と通報されたりした程度だ。
免許がバラバラだった時代なら1日がかりの違反者講習で、それを思うとまだ気は軽い。
「はい、社会の輪と言うのは難しいですね。特に自由とのバランスが難しく、皆さんはそこで違反をしてしまいました」
教官がまとめる。彼も何らかの違反をしたんだろうか。運が良くバレずにこられただけなのか。
冒頭でスマホ依存症の女が退出した後、居眠りが数名と教材への落書きで数名が退出させられた。
さながら生き残り戦の様相を呈してきた。
しかし、たかが免許更新である。緊張する程でもないが、油断し過ぎている奴らがいるのも事実だろう。
かく言うおれも、ニコチンとカフェイン欠如で段々と意識が曖昧になりそうだった。
備え付けのモニターで退屈で道徳的な教材ビデオを視聴して間も無く違反者講習が終わろうかと言う頃、足の生えた麻袋が乱入してきた。
青白い肌はおそらく白人のそれだ。程よい肉付きが艶かしい。かすかに汗ばんだ産毛が光を放っている。
教官は慌てずに立ち上がり「勝手に入ってきちゃダメだよ」と諭すように言った。
しかし麻袋はそれに応えず「合格者にはセレブレーションファックをプレゼントするわ」と講習室に向けて言った。
続々と全裸の男女が講習室に乱入して並ぶと、部屋には淫靡な匂いが溢れかえった。
「私たちは免許制度反対派です!さぁみなさん!今からここで自由にファックしましょう!」
だが受講生たちは微動だにしなかった。
おれも勃起はしたものの動く訳にはいかなかった。
反応したら部屋から退出させられる。これは講習場の罠だ。厳格化に伴い、あの手この手で受講生を悩ませる。
痺れを切らせた麻袋たちはそれを脱いで全裸になった。
おれは講習場のチャイムが鳴ると同時に部屋を飛び出して喫煙所に向かった。
勃起が邪魔で走り難かったが、歳のせいかすぐに落ち着きを取り戻した。
教官が何か言う前に飛び出てきてしまったが構うもんか、これで喫煙免許を失格したら禁煙してやる。カフェインだ。
後日郵送された封筒には、新しい人間免許証とテロリスト乱入に対する詫びの文言が添えてあった。




