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魔力ゼロの王女

その夜、エルフェルト王国の夜空には建国以来見たこともないような奇跡が顕現していた。

王宮の天塔を包み込むように、巨大な黄金の光輪が浮かび上がる。それは予言に記された「光の申し子」の誕生を祝福する天の(しるし)であった。


「お生まれになった! 第一王女殿下は、光属性の魔力をお持ちだ!」


産室から放たれた騎士の咆哮に、城下で待ちわびていた民衆は歓喜の渦に包まれた。

王位継承の第一位、ソレイア・エルフェルト。

その名の通り、彼女は生まれた瞬間から太陽のごとき魔力で王宮中を照らした。その魔力量は、赤子でありながら並の魔導師を凌駕するほどであり、国王も王妃も神から与えられた至宝を抱くように涙を流して長女の誕生を祝った。

しかし祝祭の鐘が王国中に響き渡る中、部屋の空気は急速に凍りついていく。

数分後に産声を上げた第二王女。

彼女が取り上げられた瞬間、立ち会った宮廷魔術師たちは自らの目を疑い、手にした魔力測定の水晶を何度も確認した。


「……ありえん」


一人が戦慄に震える声で呟いた。

水晶は死んだ石のように沈黙している。

魔法を文明の礎とするこの王国において、すべての生命は属性を持ち、魔力という灯火を宿して生まれてくる。たとえ平民であっても、魔力が「無」であることなど歴史のどこを紐解いても存在しなかった。


「魔力量、測定不能。いえ……これは『ゼロ』です」


その報告は、歓喜に沸く王宮に冷水を浴びせた。

属性を持たず、魔力も持たない。それはこの王国において、人間としての「欠陥」を意味していた。


「まさか、王族から……魔力を持たぬ者が生まれるなど……」


王妃の腕の中で、第一王女ソレイアが放つ黄金の光。

その傍らで、揺りかごに横たわる第二王女──ルナリアはただ静かに、色も熱もない瞳で天井を見つめていた。国王は対照的な二人の娘を見つめ、苦渋に満ちた決断を下す。


「……離宮でひっそりと育てよう。たとえ魔力がなくとも、この子は我が王国の王女だ」


それは父親としての、精一杯の慈悲であった。

残酷なのは周囲の「声」だった。

光り輝く姉はいつしか『太陽姫』と讃えられ、将来を約束された希望の象徴となった。

対して魔力を持たぬ妹は、光を反射するだけの冷たい石に(なぞら)えられ、『月姫』と呼ばれるようになった。

月は自ら光ることはできない。

太陽がなければ、その姿さえ見失われる影。


成長するにつれ、姉妹の格差は残酷なほど明確になった。

五歳になればソレイアは花を咲かせ、十歳になれば光の盾を編み上げた。その度に、背後に控えるルナリアへの視線は冷ややかさを増していく。王宮の回廊を歩くルナリアの背後で、侍女たちは隠そうともせずに囁き合う。


「お可哀想に。ソレイア様があれほど眩いばかりの魔力をお持ちなのに、ルナリア様は……」


「まるで、お姉様の光の影のようね」


ルナリアはその言葉を否定することもできず、ただ自分の小さな掌を見つめることしかできなかった。そこには、火を灯す熱も水を呼ぶ潤いも、風を操る自由もない。

ただひっそりと冷たい、祈るための手だけがあった。

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