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あわいの街  作者: ハタケ
1/1

黄金色

「おお.....またきたのか、仁科にしな。最近よく来るな」


「ああ、ちょっと暇でさ」


 陽の光が反射して本の埃がチラチラと輝いている。


 この古本屋には結構な頻度で来る。大学入学早々、僕は友達作りに失敗して流れるようにこの本屋に入り浸るようになった。でもなんとなく、空っぽな心の奥に微かに刺激を求めている僕がいた。


 今ちょうど元気な声で僕に話しかけてきたのは柏木(かしわぎ)だ。ここの古本屋で働いているらしい。歳は僕より9歳上の27歳だ。そこまで知っているわけではないがそれなりに仲良くなった。


 俺は結局は社会に馴染めず、この古本屋で働いている。俺は大学が終わり、就職活動になった時、急に自分のやりたいことを見失ってしまった。そして、本が好きだったか、自分のエゴだったかは知らないけど今こういう生活をしている。


「あーな.....今仕入れてきた本の中に著者不明の本があったんだけど、内容がよくわからなくてな」


 と、ふと一冊の深青色の本を取り出した。本の内容は最初の一ページしか書いていなく、なんのことを指しているのかわからないけどこう書いてあった


『(17時、その君は)』


「んーん...確かに書いてることが、なんのことを指しているのかさっぱりだな」


「だが、何か面白そうなのは確かだな」


 柏木が仁科にニヤリと笑いかける。


 ただ焦燥とそう感じていた。


 バイト終わりに、変わらない街中を見ながら帰る。この街は一見普通の街に見えるけど、僕らには特別に感じるものがあった。


 二人は柏木の部屋に入る。柏木と仁科は同じアパートの隣人だ。 


 3ヶ月前、僕は大学入学のために地方からここのアパートに引っ越してきた。


 最初は、柏木のバイト時間と大学の講義がすれ違いで挨拶すらできていなかった時が1ヶ月くらい続いてた。


 それからたまたま立ち寄った本屋でバイトしている柏木と出会った。


 当初は隣人とは知らなかったけど、これもまた何かの縁かもしれない。


「すまん今片付けしてなくてな......」


 部屋に入ると少し遠慮気味に柏木が言った


「そのくらい別にいいよ、」


 僕の部屋もそこまで片付いているわけでもない。お邪魔させてもらってるわけだから、文句を言う筋合いもない。


「とりあえず、17時まで待ってみるか」


 お茶を取り出してきた柏木が、なんとなくそう言ってきた。


 別にそれ以外ならやることがないというのもある。


「そうだね....」


 雲が薄く広がって空を覆い尽くしている。セミの声はあまり聞こえず、風とかすかな車の音が耳に入ってくる。 


 17時になった。


 寝ていたのかわからない。僕は玄関の近くで寝転がっていた。なぜか体全体がとても痛い、だがとても清々しい気分になっていた。


 部屋は荒れ、あちこちに穴が空いている。


 霞んだ夕日が僕らの部屋を淡い赤に染めていた。


 もう時計の針は18時を指していた。


 柏木も机の上で寝ていた。何が起きたか理解ができない。


「おい、、柏木一回起きろ」


「うーーん.....なんか体痛い、」


 柏木も同じく体の何箇所かに傷があった。


 だか、柏木も清々しい顔をしていた。


「何が起きたかわからないが、なんだかすっきりした気分だな」


「ああ....そうだな」


 うる覚えだけど、昔の街を思うままに走り回ったような記憶が脳裏にうかぶ。聞いてみると、柏木も同じような事を言っていた。


「あんた達何やってんの」


 大家のおばさんが怒鳴りながら、ドアを叩いている。


 現状の把握をする前にどんどん話が進んでいく。


 とにかく大家さんにはすみませんとなんとか許してもらおうと、頭を下げた。


「俺たちは何をやっていたんだ」


「わからない、だけど僕らは同じ夢?を見ていたのかも知れない」


 柏木が何を言っているんだみたいな顔で僕を見てきた。


 部屋に戻って現状把握に努めてみる。だか、やはり僕らに残るのは鳴り止まないほど心臓の鼓動と興奮だった。


 何か得体の知れないものになって駆け巡った記憶だけがに残っている。


 だがそれは客観的にみても怪物のような姿であったことは、鮮明に覚えている。


 その中に黒く、しかしはっきりと見える液体のようなものをみたような気がした。


 何かはわからない。


 体はぼろぼろ、大家のばあさんに不審がられる、そんなことどうでもいいようなくらいの気持ち。


 初めての感覚だった。


 僕らが見たその景色は黄金色に輝いていた。


 次の日僕らは17時を待つことに不安を感じられなかった。


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