073.Impostor
『グレイスに会いに来ました』と書かれた白い紙を持っているのは、緑色の肌に小汚いボロの毛皮を纏ったナイスバディなホブゴブリン夫人。
ホブゴブリンなのにしゃんとしたその立ち姿にダンジョン入口を守っていたフェルが戸惑っている。
「えーと、グレイスのお友達?」
「チガウルル」
唸り声と混じっていて聞き取りづらかったがどうやら違うらしい。まあそうだろう。だってグレイスはホブゴブリンじゃないし。
「でもグレイスのこと知ってるっぽいしなぁ……いや、待てよ? まさか……グレイスお前ゴブリンとヤッたのか? それで夫人友達が……」
「ガルッ」
「ひぇあっ! アァーッ!」
グレイスにズボンを脱がされてアソコを食いちぎられた。勢い任せすぎるこのグール! やっていいことと悪いことがあるだろ!
「ゴ、ゴアぢゃん、ば、ばやぐなおじでっ」
「ゴアなのは私じゃなくてシノミヤよ」
そういう意味じゃないからっ! わかってるくせに! いいから治してよ、冗談じゃ済まないって!
「私の仕事中に遊んでた罰ね。はい、治療しまーす。これで生え変わったからシノミヤは童貞に戻りましたーおめー!」
「…………!!」
「めでたくねーよ」と叫びたかったが治して貰った手前強く出られない。というか生え変わったら童貞ってどんな理論だよ。この童貞厨。逆ユニコーンか?
「逆ユニコーンってなんだ? ケツから角が生えている? はっ……フェルは逆ユニコーンだった!?」
「いったい何の話をしてるのよ。いいからズボン履きなさい」
「あ、ハイ」
そう言えば脱がされたままだった。大事な息子の無事を確認しながら優しくそっとしまう。しまうと言っても皮にではなく下着の中に。この世界の息子はズル向けである。日本の時……記憶がありませんね。
「それにしてもしょうもないことで死ぬところだった。グレイス、ペニスは腕と違って取れたら死ぬから反逆だぞ。お前も消滅するんだからな。二度とするなよ」
「ガルルル」
そもそもモンスターは俺を殺せない筈なのに、グレイスだけはちょっと判定がガバガバなのなんなの?
相変わらずキレたまま脇腹を噛んでくるグレイスの頭に手を乗せていざとなったら引き剥がせるようにしながら、意味があるかわからない説得を試みる。
「グレイスは私が直接産んだ子ではなくて、シノミヤの子だからね。多少のトキシックは仕方ないわよ」
「トキシックって物理的な攻撃に使わなくない? あとそれだと俺がトキシックみたいじゃん」
失礼な。トキシックなのはフェルである。あいつは全身トキシック散布機だ。あ、あいつもユニークモンスターだから俺の子なのか? 絶対認知しない。
「ゔぁーゔぁー? ゔゔぁゔぁーゔぉー?」
こちらの声はフェルには届けていないのに反応した。怖い。愛されるより愛したい。これマジ。積極的に来ないで欲しい。
「童貞毒親シノミヤがいつまでも遊んでるからフェルが困ってるじゃない」
「どっちがトキシックだよ」
もう童貞はいい。あとで捨てるもん。
「うん。決めた、面白そうだからちょっと中に入れてみよう」
「え、あんなにあからさまに絶対怪しいのを中に入れちゃうの!?」
「あんなにあからさまに絶対怪しいから入れるんだよ。いくらグレイスの名前を出したからってフェルが大人しくしてる訳ないでしょ。そもそもゴブリンは言葉がわからないんだから文字も書けない。アレは人間だよ」
「いや、それくらいわかってるからドヤ顔で解説されても……」
……そろそろトキシックから離れない? こういう感じ久しぶり過ぎて涙が出そう。
「まー、シノミヤがそういうなら良いけど……中ってどこまで入れるつもり? 侵入者が居たらまたダンジョンの改装ができなくなるわよ? せっかく騎士たちが全滅したばっかりなのに」
騎士たち全滅してたのか。随分と呆気ないな……いや、ここはうちのダンジョンが騎士数十人相手程度には負けないダンジョンに成長したと喜ぶべきか。DPも増えただろうしね。
「そんじゃー仕方ない。俺が迎えに行くから外まで転送してくれる?」
「シノミヤひとりで大丈夫? グレイスは?」
「グレイスは置いておく。話を聞く前に殺しちゃったら困るし、外にはフェルもいるから」
「がじがじ」
コアちゃんに頼んで騎士の腕を一本取り出して貰って放り投げる。グレイスが犬のようにそれを追いかける。
「コアちゃん! 今だっ!」
「……まったく、もうちょっと真面目に躾なさいよ」
そんなコアちゃんの小言を最後に視界が切り替わり、洞穴の入口へ。
コアちゃんはホブゴブリン夫人の側ではなくフェルの近くに転送させてくれたようだ。
身の安全的には安心だが臭い。腐臭がする。
「ゔぁゔぁー」
「はいはい、会えて嬉しいねー、パパはお客さんをお迎えに来ただけだからフェルは門番頑張ってね」
「ゔぁー」
思ってもいないことを口にしながら、なるべく腐った肉のない手羽先みたいな部分の骨を撫でてやってフェルの機嫌を取る。
なぜ我が家のペットはもふもふではなくグジュグジュなのか。
「で、初めましてだと思うんだけどあってる?」
フェルがご機嫌になったところで漸くホブゴブリン夫人へと目を向けて問いかける。
ニヤリと三日月のように口角が釣り上がり、不穏な笑みを浮かべるホブゴブリン夫人。
「ええ、初めましてであっておりますわ。ダンジョンマスター様とお見受け致しますが……あっておりますか?」
「ああ。あっているな。それで、お名前を伺っても?」
「ふふ……そうでしたわね。先にこちらから名乗らなければ失礼というもの……ですが、その前に……」
そう言ってホブゴブリン夫人はボロの毛皮を脱いで全裸になったかと思えば、今度は緑色の肌を引っ張ってべりべりと引き剥がす。
その中に居たのは、この世界にしては異質なボンテージ風のピッタリとした黒のテカテカした服を身に纏い、ゆったりとした艶のある黄銅ヘア。暗めの青い瞳、目鼻立ちはハッキリとし、化粧は落ち着いたアイシャドウと厚めの唇に引いた紅。男好きのする豊満な胸はグレイスに負けず劣らず。それでいて腹回りは引き締まり、ボンテージのボディラインは丸みのある女らしさとシャープな気品を兼ね備えている。
何が言いたいかと言うと、こんなに美人なら緑色の肌の下も全裸でいて欲しかった……じゃなくて。
「とんだ美人のインポスターも居たもんだ」
「うふふ、お褒めに預かり光栄ですわ。ダンジョンマスター様……私、テルシア・ルビーと申します」
「ふむ。俺の名はシノミヤだ。それで、インポスター……テルシアか。要件は?」
わざわざホブゴブリンに擬態して、何処から仕入れたのかグレイスの友人を気取り、たった一人でダンジョンに乗り込んできたその目的は——
「——貴方の奴隷になりに参りました」
「採用っ!」
爆乳最高!




