072.epilogue.3 進化!爪痕のダンジョン!!
丘の上に完成した、よくわからん黒くて頑丈な石造りのお豆腐型平屋。これが我が城である。
この城、実はちゃんと鍵付きのドアがある。本来ならダンジョンの出入口に当たるものは完全に封鎖することはできないのだが、条件さえ満たしていれば鍵をつけることはできる。
例えば、ダンジョンの中から鍵を見つけ出す、モンスターに鍵を持たせてドロップするようにする、実は思い切り攻撃すると破壊できる。など、いろいろな方法がある。
今回の場合は普通に鍵にした。理由は安いから。そして鍵を持っているのは俺。理由は子供の頃、鍵っ子に憧れていたから。
魔王が鍵を持っていていいのかって話だが、本来の入口である丘の下がフルオープンなので問題ない。ちなみにドア自体は頑丈だが、鍵の強度はそこまでではない。俺には壊せないけど、グレイスがマジの本気で殴れば鍵は壊せるらしい。
ちなみに俺はまだガチのマジのグレイスを見たことがないので想像はつかない。思えばグレイスは今まで不利な状況や相手ばかりとの戦闘ばかりで苦労させている。ざまぁ。
と言う訳で、俺は現在真っ先にリフォームした魔王城のリビングでコアちゃんがスクリーンに映した映像を眺めながら机に向かっている。
リビングと言ったが、今まで水場も風呂もベッドも同じ部屋にあったものを薄い壁で区切って最低減の寝室、リビング、バスルームに分けただけである。バスルームには勿論、念願のちゃんとした洗面化粧台がある。最高だ。
そうは言ってもさすがにDPをあるだけ使う訳にもいかないので、家具は最低限。机と椅子とメモを取るためのノートとペンだけ取り急ぎ作って貰った。
これまで何かを考えるときにメモは取れない、イメージを伝えるのに土に棒で書くなんて原始的生活をしていたのに比べたら、仕事がだいぶ楽になる。
俺は今机に向かってノートに今後のダンジョンの改築予定を考えているのだ。
まず、構想としては——
・ダンジョンの第一階層から第三階層あたりまでは罠を外して難易度を下げる。
これは滞在ポイントを稼ぐためである。ときどきちゃんとお宝も出るようにする。低階層なので薬草とか葉っぱ系でいいだろう。
うーん……そういえば、仕事するのにタバコが吸いたいな。葉巻葉巻……と。
・第四階層から第五階層から罠解禁。既存のトラップに追加して新しい罠とモンスターを追加。
ホスピタリティ溢れる我がダンジョンだが、滞在して貰ったあとは死んで貰わなければならない。現在の第一階層にある罠をこちらに移転しつつ新しい罠を作る。◯◯しないと出られない部屋とか、ギミックを解かないと進めないとか、そういう変わり種も入れたい。理由は暇なときに眺めるのにちょうど良さそうだから。
新しく呼ぶモンスターは二種類程選んである。改築が済んだら追加する予定。
・コアルームの移動と五階層以降の追加。
これは単純に、現在五階層にあるコアちゃんの部屋を移動させて、今長い階段になっている部分をフロア化する。
せっかく山と森を手に入れたので、その辺の資源を投入する予定だ。
ずっと洞穴だけのダンジョンじゃ面白みもないしね。それに、コアちゃんが調べてくれたが山には金属や宝石がたくさん眠っているらしい。鉱山仕様のダンジョン素材はそれこそ山のようにあるので鉱山フロアを作って採掘できるようにするつもり。頑張って五階層を抜けたリターンである。見返りがないとお客さんが帰ってしまう。勿論ここにもモンスターを新しく配置する。
そんな風にノートにアイデアをまとめていたところでコアちゃんに呼ばれる。脳内通話だ。
「シノミヤー、森の入口に向かわせた部隊が冒険者を見つけたみたいー、あと私はそっちに居たらダメなのー?」
コアちゃんは今はまだ五階層にいて貰っている。この魔王城は作ったばかり。防壁もあるし、鍵もある。ただ、防壁は空を飛んでくる奴には意味がないし、鍵は破壊可能。安全面の保証がない。フェルは結果的に味方だったからいいものの、本物の空飛ぶドラゴンでもいたらおしまいだ。これまでの経験で俺はちょっとくらいの怪我では死なないことがわかっているが……コアちゃんの強度を確かめる勇気はない。大きさはバレーボール大。けれど、見た目は電球やガラス玉のようでもある。ちょっとぶっ叩いて壊れましたじゃ済まないのだ。あと、今後のことを考えたら一人部屋が欲しい。抜きたい。息も抜きしたい。
今もひとりで外に放ったたくさんのモンスターの視点を切り替えて環境調査してくれているコアちゃんには申し訳ないけれど。
「冒険者? 支配領域内なら殺しちゃっていいけど、無理そう?」
ダンジョンの外に出したのは全体の半数。つまりは二百匹以上の戦力がいる。よほど強い冒険者ではない限り負けないはずなのだが。あの戦鎚と大楯の冒険者のおっさんでも残ってたのか?
「ううんー、殆どが怪我人だからそっちは平気なんだけど……ひとり、女の冒険者がいてゴブリンが連れて帰りたいって」
「ちょっとそのゴブリンの視点見せてー」
「はーい」
そうしてスクリーンに映し出されたのは、ゴブリンの群れに囲まれた女の冒険者。服装からして恐らくは魔法使い……それにしても何故無抵抗?
女の冒険者は魔法を発動することなく、口をパクパクさせながらゴブリンに取り囲まれている。これじゃあいつおっぱじまるかわからない。
「いやちょっと待って。それは俺が貰う」
「はぁ……ゴブリンから女を取り上げるだなんて」
「そうだけど……そうでもなくて、なんか見覚えがある気がするんだよ、そいつ。だからゴブリンには手を出させないでって伝えて。あと、次からは女はとりあえず見つけ次第攫ってきていいから好きにしろって。ただ仕事中にヤるのは禁止で」
「ふぅん? 本当かしら? それじゃあとりあえずその女だけは先に連れてくるように伝えておくわ。けど、あんまりゴブリンから女を取ると恨まれるわよ」
「わかってるよ」
そうして通話が切れてから、スクリーン越しに運搬されてくる女の様子を見る。
ゴブリンに担がれているというのに騒ぐどころか声も上げない。足は多少バタつかせて抵抗を見せているけれど、担いでいるのと別のゴブリンにあっという間に拘束されてしまった。弱い。
こんな弱い冒険者に心当たりがあるはずがないんだけどなぁ?
少しして、丘の麓まで女が連れられて来たので引き取りに行く。ダンジョンの中に入れてしまうと侵入者扱いになるので俺の部屋まで連れてくるのが面倒になるから仕方ない。俺が迎えに行って女を担いで防壁を飛び越えた方が早い。
「ゲギャギャ! ゲゲッ!」
「あー、連れて来てくれたのお前だったのか。悪かったな」
「ケッ!」
女を引き取ると、変な声のゴブリンが唾を吐き捨てて仲間と去って行った。あいつも今となっては古株、部下を率いる立場な訳だ。立派に……いや、俺の方が偉いんだから唾吐くなよふざけんな。
「ゔぁゔぁー!」
「あーはいはい、お前もここに居たんだっけな。今お前用の船を作って貰ってるから良い子で待ってなさい」
「ゔゔぇー?」
「そう、ふね。あとでお船で遊んでおいで」
「ゔぁゔぁーゔゔぁゔゔぅぁー」
グロいから遠ざけていたフェルが甘えようとしてきたので、女を担いだまま必死に逃げ回って宥める。船ができたらフェルには地上の海賊船の動力として遠征部隊と活躍して欲しい。できればフェルにはそのまま何処かへ行って欲しい。が、戦力的に手放すことはできないのが悔やまれる。
そんなトラブルもありながら、丘を駆け上がった勢いで思いっきりジャンプして防壁の上に乗り、そのまま飛び降りる。
随分と体の扱いに慣れたもので、この超人的な肉体をうまく操り芸術点高そうな美しい着地。
思わずバンザイしたら女が転げ落ちてゲロ吐いていた。
……気持ち悪かったなら言ってよ。俺の服にゲロ吐いてないよね? 吐いてるじゃん……
「くそぅ。良い気分が台無しだ」
首から紐で下げた鍵で魔王城の部屋を開け、取り調べは中止してバスルームに向かう。
面倒なので女の服もひっぺがして一緒に洗う。やましい気持ちしかない。
「あれ、お前ミエレか?」
「……!?」
魔法使いというのはどいつもこいつも「私魔法使いです」みたいなローブだかケープだかを被っているので、最初に会った時も顔をよく見れていなかったので気がつかなかったが、体の傷を見て気がついた。これはグレイスの爪痕だ。
「それにしてもお前……なんで喋らないんだ?」
「…………」
俺が覚えていなかったのは棚に上げるにしても、わざわざダンジョンに来ていたということはこいつは俺を……ああ、そうか。あの時の俺はゴブリンメイジの変装をしていたんだっけか。
「なんとまあ、今の今までお互いの顔をちゃんと知らなかった訳だ」
それにしてもこいつ、意外と胸があるし顔も悪くない。年齢は二十歳前後くらいかな。日本の平均かその一つ上程度はありそうな胸。顔はそもそもが異世界人。骨格も顔の作りも日本とは異なる。基本のレベルが高い。体の傷跡はマイナスだが……総合的に見て、少なくともこれまで見て来た生きた女の中では良い。
——さすがにエルフのフィーニャには劣るし、顔と体だけならばグレイスだがあれは死人だ。
「…………」
「こんなに不躾にジロジロ見られても何も言えないか。お前まさか声が出ないのか?」
「……!!」
それまで俺の視線にも不快感を見せるだけだったミエレの顔が恐怖に歪む。見てわかる程体が震えている。
「何があったのかは知らないが、声を出せなくなった魔法使いか」
なんだ、それなら聞き出せる情報もない。だったらこれは遠慮なく使わせて貰うことにしよう。
ラグネルのお下がりってのは気になるが、俺は寝取られは嫌いだが寝取りは気にしない派である。俺の数少ない美徳の一つだ。
「とりあえず、綺麗にしてもらおうか」
ゲロで汚された体を風呂で綺麗にさっぱりして、思わぬ新築に驚きながら、改築のためにせっせとパンパン釘打ちを頑張って暫く。
「シノミヤー、今度はなんかグレイスのお友達? が来たみたいなんだけど……って何ヤッてるのよ」
「ごめんごめん、なんか声が出ないみたいだから色々試してた」
「次に私の仕事中にヤッたら殺すわ」
「……冗談やめてよーあはは、それで、お客さんだっけ? え、お客さん? 侵入者じゃなくて?」
しかもグレイスに?
「ちょっと画面みてみなさい」
「な……あ、あれは——ホブゴブリン夫人!?」
寝室からリビングに向かうと、スクリーンに映し出されていたのは、ダンジョンの入口でヒッチハイクでもしているかのように『グレイスに会いに来ました』と書かれた白い紙を持ったホブゴブリン夫人の姿だった。
明日から
第二部 北部奪還戦争と黒の手配書
<上>Shapeshifter 編
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