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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第一部 ミストフォークと聖女の剣<下> Apex Predator 編

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056.命


 ロニエールトに率いられた騎士団百人はヒナトの街で冒険者ギルドと会議を行い、翌日には街を発っていた。

 ギルドから派遣された冒険者数名を道案内に、騎士団が先行して昏き霧の森付近の街道へ進行。その後ロニエールトが名目上の慰問を行うための少数の部隊と昏き霧の森の調査部隊へと分かれて行動していた。

 ロニエールトの護衛に十名、残り九十名を率いるはフレイズ騎士団団長"精鋭線(デッドライン)"のルイス・エメル。

 ルイスは冒険者ギルドから得た情報を元に森の外周に野営地を設営、森の調査をするための人員配備と、治安維持を名目に領民がダンジョンに近寄らぬ様に街道を巡回するルートの選定と部隊編成を行っていた。


 そうした騎士団の動きとは別に、ヒナトのギルドマスター"破壊要塞フォートレスバニッシャー"元B級冒険者バルザーク・ベルモンドは少なくなってしまったヒナトのD級冒険者に、人数不足を補うためにE級以下の戦闘向けの天賦を持った冒険者を四十人ほどをかき集めた。これに領都フレイズからの応援のC級からD級の冒険者が加わり、数の上では騎士団に劣らない程度になった。

 冒険者はバルザークの指揮下にはあるが、騎士団の様に数十人、百人という規模で行動することは通常ない。それぞれのパーティが最終的な目的を同一としながら、その日を迎えるまではそれぞれに森の近くに潜伏し独自に行動をしていた。情報も狩りの獲物も宝も手に入れたもの勝ち。報酬はフレイズ伯爵に保証されているが、多くを追求することを止められないのが冒険者である。

 特に、騎士団とは異なり既にダンジョンの位置を把握している者も多く、騎士団というある意味で安定して一定の水準の——D級冒険者相当が揃っている——集団ではない。

 平凡な騎士よりも腕の立つC級の冒険者パーティが複数領都からミストフォークへ集まっている。これは、王国北方の最高戦力と言っても過言ではない。そうした者たちは続々と森へと向かい森を荒らした。

 ダンジョンに手を出すことは次期伯爵様から止められている。いくら冒険者と言えど、領主に逆らう者はいない。

 彼らが逆らうのは自然の脅威である。


 そうして、人間は星獣(アーク)の怒りに触れることになる。


 昏き霧の森(テネブラエ)を含む亜高山帯の支配者。頂点存在(エイペックス)は生と死を視る。その存在がどう生き、死んで逝くのかを。

 人間がこれから起こさんとするその罪と、その原因を視て、知る。識っている。

 異界から漂着した侵略者(プレデター)。それらがこの世界の死の理を逸脱しようとしていることを。


 星獣は遠く、果て無く続く空へと声を上げる。

 己の定めた運命を超越することなど赦さない。

 山々から響くその言葉を理解できた存在は居なかった。

 昏き霧の森に生きる獣たちは怒り、狂い、星獣に意思を奪われ、誇りを嬲られ、未来を侵され、死を強制させられる。

 ダンジョンを殺せ。漂着物を壊し、侵略者を殺せ。己の領域を冒す人間を殺せ。


 『その為に生きて死ね』と。


 ダンジョンへの獣たちの急襲は成功し、多くの命と引き換えに混沌の配下を封じ込めた。

 あと一歩で侵略者を殺す所まで追い詰めた。

 そして、異なる理を持つ其れに覆される。

 

 『私の大切な人を奪わせはしない』


 混沌の声が、地獄を招く。




 突如始まったダンジョンへの獣たちの侵攻の情報はすぐに騎士団、冒険者の間に広まった。

 それぞれの指揮を預かるルイスとバルザークはすぐに顔を合わせ対応を協議するが、想定外の獣たちの異常な動きに決断は中々下されなかった。

 原因は本来の最高指揮官ロニエールトの不在。そして、既に数日の森の調査で騎士団、冒険者共に被害が出ており、あまりにも森の脅威度を低く見積り過ぎていたことを認識してしまったこと。

 この森は、たかが小鳥一羽が容易く騎士を、D級冒険者を殺すのである。

 二百人近くまで膨れ上がった人員を、原因不明の獣の集団暴走に対処させた場合の損失、責任。覚悟があったとて、簡単に下せるものではない。

 ダンジョンも獣も、当人たちからすれば仲間の命と比べられるものではない。

 王国にとっての価値は痛いほど理解していても、人は仲間に、簡単に死ねとは言えぬのだ。

 獣たちの矛先はダンジョンに向かっている。静観すれば落ち着くかもしれない。無理を通す時なのか。

 本来であれば、真っ先に戦地に立つべき者たちが、立ってきた者たちだからこそ……権力者の金儲けの犠牲に命を差し出すことへの理解を拒む。


「遅れました。申し訳ありません。エメル団長、マスターベルモンド。ダンジョンには王国の未来が掛かっています。原因の究明は後回しに、ダンジョン保護のために、即時総員を出撃させて下さい」


 騎士団の野営地に置かれた会議用の天幕を捲って現れたロニエールト・フレイズの命が降る。


「はっ! 直ちにダンジョン保護のために行動開始致します!」

「……了解。冒険者たちに伝える。先陣は俺に切らせて貰う」


 騎士団長ルイスが敬礼し、ギルドマスターバルザークが大楯と巨大な戦鎚を担ぐ。


「元B級冒険者、東部の英雄バルザーク殿の勇姿を見られることを光栄に思います」


 そうして爽やかな笑顔を浮かべ、ロニエールトもまた銀色に輝く鎧を鳴らして天幕から引き返す。戦が待っている。ロニエールトもまた指揮官として、将としてその場に立つ。戦場の最も後方から、王国の富と権威のために死に逝く者を見送らねばならない。


「ロニエールト様……少しもお休みになられず、よろしいのですか?」


 天幕を出てすぐに、道案内として雇っていた冒険者の魔法使いに声を掛けられた。

 少し年上の、言葉遣いも顔立ちも品があり、それでいて武装したオーク相手に気後れもしない強い女性。ロニエールトの近くには居なかった、とても心惹かれるそのミエレという女の色気に少しばかり見惚れてから。


「問題ありません。僕が闘うことはきっとありませんから。何せ、フレイズ最強の騎士と東部の英雄殿がいるのです。我らの負けは有り得ません」


 若い指揮官は何度目かの笑みを浮かべる。

 ロニエールトには兄程の武勇はない。ルイスやバルザークのような讃えられる実績もない。それでも間違いなく、今この時に王国の未来を賭けた最前線を任されている。

 領民を前に余裕を失い狼狽える訳にはいかない。この場違いな笑みは誇り高き貴族の証。


 昏き霧の森を舞台にした地獄の炎に、新たな罪が焼べられる。

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