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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第一部 ミストフォークと聖女の剣<下> Apex Predator 編

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055.戦場は止まらない


 オウルボアとの戦闘中に乱入してきたグレイス、急な館内放送で大嫌いな音声を爆音で流してきたコアちゃん。


「気が狂うかと思った。いったい何がどうなってるんだ」


 更によくわからないのが、続々と洞穴に侵入してきていた怪物たちが後退していくこと。

 俺とグレイスが交戦していたオウルボアもまた「ホッホゥ! ホー!」とサンタクロースみたいな声を上げて走り去った。


「グレイス、無事か?」

「きゅるる」


 グレイスからはじめて聴く音が出た。かなり興奮していたグレイスはコアちゃんの話を聞いていなさそうだったので、俺が無理矢理手で耳を覆ってやったのだが、やはりグレイスもあの四つ目鹿の音声は嫌だったらしい。

 さっきまでの獰猛さは何処へ行ったのか、すっかりおとなしくなっている。


 グレイスを宥め(噛まれ)ながら、洞穴の入口を見る。怪物たちは全て洞穴の外の広場まで出て行ったらしい。外からは何故か怪物たちの激しく凶暴な声が響いている。


 何が起こっているのか確認しようと踏み出そうとして、視界がぐにゃりと歪む。


「シノミヤ……シノミヤ! おかえり!」

「……え、コアちゃん?」

「がじがじ」


 突然、目の前に光るバレーボール。ふよふよと浮かびながらタックル気味に胸に飛び込んできた。


「聞いて! シノミヤ! お風呂つくったよ!」

「なんで?」


 え、なんで?

 今そういう状況だったっけ?


「ふふっ。お風呂にする? ごはんはスルー。それとも……出産間近の捕虜のドキュメンタリーにする?」

「わかんないわかんない」


 お風呂も気になるけど、ごはんスルーするなよ。用意ないなら要らないだろそのセリフ。あと、ドキュメンタリーってなんだ、どっちのだ。間近だからフィーニャの方か? 絶対に見たくないが。


「もう、一から十まで説明させる気? 察しの悪い男ね!」

「むしろ説明責任がそっちにあるでしょ。そもそもなんで転移させたの?」

「本当に説明させる気だなんて! いいからさっさとお風呂入りなさいよー! 三行で説明してあげるから!」

「一から三までじゃねーか」


 あんまりにもしつこいので、とりあえずコアちゃんが作ったらしい風呂を確認する。

 泉の横にバスタブがあった。洋風の脚がついてる白いバスタブ。部屋が狭い。


「ほら、お湯張ってあるから」

「おお、お湯が出るシャワー付きか」


 バスタブの片側から細い水道管が伸びてシャワーヘッドが付いていて、そこからお湯が出る仕組みらしい。蛇口はないのが微妙に不便。


「で、何がどうなってる?」

「今映すから待って」


 なんかもう気が抜けたので素直に全裸になって湯船に浸かる。グレイス、お前も来なさい。血だらけで部屋をうろうろしないの。噛んでもいいから、ほらおいで。


「いでよ! ホームシアター!」


 コアちゃんの掛け声に合わせて、いつの間に設置されていたのか、壁に掛けられていたスクリーンがくるくる回りながら落ちてくる。

 ピッと伸びた白いスクリーンにコアちゃんが映写機みたいに光を投射すると、洞穴の外の映像が映し出された。


「うわー、すっごい」


 色々と複雑な感情でバカみたいな言葉しか出てこない。

 この風呂とスクリーンはDPを消費して創られているのだろう。そのDPはいくらしたのか、なんで戦いの真っ最中にこんなものを創ったのか。

 そして、スクリーンに映し出された森の怪物大バトルはなんなのか。


「星獣の能力を解析して音を真似てみたの。そしたら上手くいって、仲間同士で殺し合いをしているわ」


「まあ、あいつら元々仲間じゃないけどね」と楽しそうに笑うコアちゃん。本当に三行だった。


「うーん。いいお湯。今まで冷たくて浅い水で沐浴だったから沁みるなー。シャンプーもあればいいのに……あ、待った! 創んないで! シャンプーにDP使うのダメ!」


 コアちゃんの謎の行動に現実逃避していたら、コアちゃんが「忘れてた!」とか言い出したので慌てて止める。


「つまり、コアちゃんのモノマネで同士討ちを始めたから休憩してろってこと?」

「そういうこと。シノミヤ、この部屋を出て行ってからもう四時間以上戦っていたのよ」

「マジか」


 ニワトリやオウルボアの相手をしていたのはおそらくは数分程度だろうし、殆どは魔法で壁を維持していた時間だろう。そんなに時間が経っていたとは。


「もうすぐオークとペニーたちが復活するから、洞穴の中に侵入者がいないうちに入口の近くにリスポーンするようにしておいたわ。あと、罠も修復中よ」

「コアちゃん、風邪でもひいた?」


 こんなに手際のいいコアちゃんを俺は知らない。こいつ偽物かもしれない。バレーボールじゃなくてバスケットボールか?


「ダンジョンコアは風邪なんてひかないよ。あと、私は元からバレーボールじゃないから」

「コアちゃんってたまに心読むよね」

「……そうね」


 なんだか気まずそうに顔を逸らす……逸らしたんだと思うけど、球体だからよくわからないコアちゃん。


「お風呂とスクリーンは敵を倒したDPから使ったわ。お風呂は泉の要領で出る水をお湯にしただけだし、見た目以外の素材はこの世界にあるものだから実はそんなに高くないのよ。スクリーンなんてただの布だしね」

「それならよかった。なら、リフレッシュできたし、俺もオークたちと合流を……」

「必要ないわ」


 湯船から上がろうとしたら、ピカッとコアちゃんが強めに発光してびっくりして動きが止まる。


「でも、またいつ中に入って来られるかわからないでしょ?」


 コアちゃんのモノマネがあの四つ目鹿と同等とは思えない。あれは、あの固有種が持つ特殊な能力のはずだ。冒険者の天賦の才能のような、特別な力。直接対峙した経験があるから分かる。

 コアちゃんの力が四つ目鹿と同じなら、俺はこんなに平然としていられない。あれは、耳にしただけで存在を踏み躙られる。そういった類の力だ。


「そうね。確かに私のあれは本物には到底及ばない性能よ。けど、既に精神汚染されていたあいつらにはそれでも充分な効果があるわ。それにあれを見て」


 コアちゃんに促されてスクリーンを見る。ニワトリやオウルボアだけではない。更にその後から小型の三尾狼や雪斑豹にハチドリまでが、また集まってきて殺し合いをしている。


 洞穴の前の広場、三人分のDPを使って広げた俺たちの領土。洞穴の外に向かって拡張したダンジョンの敷地内で殺し合っている。

 前に来た冒険者の集団の魂を鹿のせいで食い損ねたからと貴重なDPを注ぎ込んで手に入れたその支配地から、コアちゃんは今もDPを吸い上げているのだろう。

 収入があるのならば、打てる手が増える。でもそれだけでは足りない。

 その不足を補う、第三勢力の介入。


 互いに殺し合う森の怪物たちが弾けた。

 スクリーン越しに、巨大な戦鎚と大楯を持った男が暴れているのが見える。男が戦鎚を叩きつければ、オウルボアさえ一撃で潰れて絶命する。

 更には、その男の背後から攻撃を仕掛けた三尾狼と雪斑豹の群に向かって赤く伸びた無数の線を幻視する。獣たちが一斉に身体を穿たれ血と肉の雨が降る。

 それを成したのは質の良い銀鎧を纏った長槍を握った騎士。


「随分と鳴くのが遅いカナリアだ」


 スクリーンには、森の怪物どもを取り囲む騎士と冒険者らしき者たちの集団が映し出されていた。

 戦場はまだ、止まらない。

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