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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第一部 ミストフォークと聖女の剣<下> Apex Predator 編

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050.はじまりの雪


 ゴブリンたちが持ち込んだDPを処理したあと、最悪な気分をさっさと忘れるために沐浴をしてベッドでぐっすり休み、翌日。


「シノミヤー朝よー」

「がじがじ」

「ふみゅう」


 最近は客足も遠のき閑古鳥の鳴く我がダンジョン。すっかり気の抜けた朝を迎える。


「特にすることもないのに毎朝きちんと起こさなくてもいいのに」

「何言ってるのよ、健康な生活リズムは健康な精神を作るのよ」


 寝起きにわがままを言ってコアちゃんに嗜められる。

 泉で顔を洗い、誰に会うでもないのに簡単な朝の身支度を済ませる。


「まだ死んだオークたちのリスポーンはしてないよね?」

「もうちょっと時間かかりそうねー」


 昨日の遠征で死んだ連中はまだ復活できないらしい。外で死んだから正確なリスポーンのタイミングがわからない。復活したら昨日のことを改めて聞くつもりだったけどいいかな。どうせ生き残った連中からは聞いたし。


「じゃあ、今日は体でも動かすかー」

「えらーい! がんばれがんばれシーノーミーヤー!」


 ニワトリとの遭遇のあと、コボルドたちの穴掘りを眺めながらダンジョンの外で体を軽く動かしていたことがあるが、実は気の向いたときには継続して運動は行っている。

 体が変わって身体能力も変わり、いまだに自分の限界値がわかっていない。それでも、いつ何処で何に襲われるかわからないのだから、いざという時には動けるようにしたい。

 そうは思っても自分のこととなるとやる気もムラがあるので毎日はできない。だから気が向いたらやる。

 そして今日は、剣を持ってみた。


「全然重くない」


 型も何もしらないので、適当に縦に斜めに横に適当に素振りをする。ぶんぶん振り回しても負荷を感じない。木の棒を振っているのと体感の違いがない。


「こどもが遊んでいるみたいで微笑ましいわねー」

「しばらくはこどもって単語聞きたくないなぁ」

「そう? こどもっていいじゃない。ゴブリンたちは子供の顔見て欲しそうにしてたわよ? 親が魔法使いだからかメイジも何体か産まれたみたいよ」

「へえ、親の特徴引き継ぎとかあるんだ? 掛け合わせて配合強化とかできるのかな?」

「試してみないとわからないけど、とっても醜悪なアイデアで素敵よ」

「マジでやめてくれ」


 世間話をしていたつもりが口が滑った。精神安定……精神安定……今は剣を振るんだ。

 剣はいい。魔法と違ってたくさん振っても体がおかしくならない。魔法は便利だが多用するといつも体を壊すから、魔法に頼らないで戦えるようになることは大事なはずだ。頑張ろう。


「DPがないと身体能力の強化もできないから、運動しても筋肉がついたりはしないけれど、体に覚えさせた技術は残るはずだから頑張るのよー」


 相変わらずコアちゃんは応援してる風に刺してくる。特別製。DPで造られた体。刺されても腕を切り落とされても痛みと数日の体調不良だけで、死にはしない自分の体で他人の体。そんな感覚。

 そしてこの体はすでに魂引っこ抜かれる前の俺の元の体より頑丈で、運動で鍛えたところで筋力が増えたりはしない。

 そもそも食事や排泄が必要ない体なのだから考えてみれば当たり前。


「それでも、戦わずにいられるならこんなことはしないさ」


 選ぶ選ばないじゃない。敵は何処からでもやってくる。いつだって狙っている。ゴブリンたちが出会ったという全周囲(オールレンジ)穿孔鳥(ハミング)。そんなもの俺もゴブリンもこれまで姿を見たこともない。それが知らずにダンジョンの近くに現れた。しかも、冒険者がわざわざ切り拓いた場所に。何もないと思うなというのは無理な話だ。


「体が強くならなくたっていい。使い方を体に慣らすんだ。いざというときの一振りを」


 技量を上げるなんて何ヶ月何年、何十年もかけてすることだ。俺に必要なのは、この体の力頼りの一撃をきちんと振り抜くこと。それ以外は後でいい。研ぎ澄ます必要はない、鈍くても、断ち切ればいい。力任せの一撃を、二撃を、三撃を……


「シノミヤー。珍しく集中してるところごめんけど、今いい?」

「……ふぅ。どうしたの?」


 気がついたらそれなりに集中して剣を振っていたらしい。どれくらい時間が経ったのだろう。


「なんかね、雪が降ってるよ」

「霧じゃなくて雪? 今冬だったんだ」


 この世界にやってきてから俺はほぼダンジョンか森、遠くても街道までしか出たことがない。

 森の木々はいつも変わらない。背の高い針葉樹に、霧がちで何かの動物の鳴き声が響く。季節を感じるということがない。

 考えてみれば、空を照らす太陽のような恒星の名前も知らないし、暦というものが存在するのかも知らない。

 それでもまあ、季節くらいはあるだろう、そんな気分で話を聞き流した。


「洞穴の前のとこだけ冬になってる」

「……? ちょっと見せて?」


 コアちゃんモニターに外の光景を映して貰うと、確かに洞穴の前、フィーニャの魔法によって円形に広場のようになったそこに雪の絨毯が広がっていた。


 そして、白銀の上に白に薄い青の斑ら模様の豹が優雅に横たわっている。


 すくりと、雪斑豹がこちらの視線に気づいたかのように立ち上がる。

 すると、それまで雪の絨毯だと思っていたあちこちから同じように雪斑豹の群が起き上がる。

 雪に同化していて気づかなかった。立ち上がり、開かれた目の透き通った光る蒼の瞳がそれが生物なのだと主張する。

 

 雪斑豹が一歩歩く度、空気中の水分が凍り、その身から白雪を振り撒く様は神々しくさえ見える。


「めっちゃ近づいて来てるよね、アレ」

「めっちゃ近づいてきてるわね、アレ」


 俺もコアちゃんも語彙がなくなる。

 だっておかしいだろ、なんで動物が常時魔法発動状態みたいな生態してるんだよ、それもうモンスターだろ。


「コアちゃん、あれモンスター? それとも固有種だったりする?」

「固有種は同じテリトリーに同居はしないからただの豹じゃない?」

「雪降らせる豹が豹でたまるか!」


 ハチドリといい、雪斑豹といい。どうして今まで姿を見せなかった連中がこぞってやってくるんだよ。これにオウルボアとニワトリまで出てきたらうちのダンジョン滅びるんだが?


 なんて、バカでも分かるフラグを立ててしまったのはさすがに俺は悪くないと思う。


 森の木々が悲鳴を上げる。狭苦しそうに木々の間から姿を表すオウルボア。

「コケェッ」と懐かしい騒音と共に現れる巨大ニワトリ。

 幻影を見せるかのように何重にも分身して見える超高速移動する小鳥の群。

 森の木々の隙間で揺らめく狼の三尾。


 この森のオールスターが勢揃いだ。

 これはもう、疑いようがない。


「やりやがったな、四つ目鹿(エイペックス)

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