047.退屈は人を殺す
「客が途絶えた」
「だーれも来ないねー」
ダンジョン二階層、六畳一間のコアルームにて、俺はベッドの上に寝転がりながら静かな部屋の中でぽつりと呟く。返ってくる言葉の主はコアちゃん。グレイスは喉を鳴らしながらベッドから垂らした俺の手の親指と人差し指の間を噛んでいる。最近のお気に入りの箇所らしい。
「あんなに冒険者が来たと思ったら、次の客が全然来ない。半分は逃げたはずなのに何故だ」
冒険者の集団が一日で壊滅してしまったのは想定外だが、ゴブリンキッズのママが正常だったときに聞いた話では、あの日別行動をしていた半数の冒険者はヒナトとかいう最寄の街に帰還したそうだ。
それなら、あれから何日も経過したというのに誰も来ないというのはおかしい。仲間に何かあったかも知れないのに探しにも来ないというのは、この世界の冒険者というのはあまりにも薄情ではないだろうか。
薄情といえば、一番最初に死んだイアンとかいう男の知り合いっぽい女の冒険者がいたはず。てっきりラグネルと共に姿を現すかと思ったがそれもない。まあ、ラグネル級の戦力は来られても困るのだが……それにしても。
「退屈ってのは辛いね。何かしたくても収入がないから何もできない。はー働きたいのに働けないなんて辛いわー」
「働きたいなら生存ボーナスで貯まった分のDPとこの前集めた素材で罠の強化とかしてもいいんじゃない?」
「そんなの微々たるものじゃん。俺も改築は必要だと思うよ? 第一のはめ殺しだってもう情報は持ち帰られてるだろうし、第一は作り替えるか場所を移すかしてもいいかなとは思うんだけどさ、あれ取っちゃうとニワトリとか狼が来るじゃん」
俺だってただ何日も無駄にゴロゴロしている訳ではない。脳内マップをいじくり回して改築案は考えている。けれど、DPがない。捕虜の滞在ボーナスだって生きてるうちは使えない。じゃあ殺してしまうか? となるとそれもできない。
なんと、炎魔法使いのお姉さんは既にママになっている。驚いたことに、最初に産まれたのはローパーの卵だった。どうやらMMは捕まえてる間に既に手をつけていたらしい。さすが触手である。そして、ローパーは卵生だったらしく産まれるのが早かった。
そして、お姉さんがそんな状態なのを知らずにゴブリンたちに下賜したものだから、初めてのお産に緊張してあわあわとしていたゴブリンたちは産まれてきたのが卵でひっくり返った。てっきり自分たちの子供が生まれると思っていたのだからそりゃそうだ。
ゴブリンたちは集団でコアルームまでやってきて小一時間の芝居形式のボディランゲージでNTRだと抗議してきた。相変わらず器用なもので大笑いしたら唾を吐いてコアルームから出ていった。
そんなこともあったけれど、そんなゴブリンたちも今では立派なパパである。ゴブリンは繁殖力が高いというが、ちっこいゴブリンキッズは一度に五匹や六匹産まれてきた。今合計何匹になったやら。
オークの方はまだ増えていない。ローパーやゴブリンと違って体もデカいし成長に時間が掛かるのだろう、交代で父親面したオークたちが大切にフィーニャの世話をしているらしい。
この前なんてゴブリンを引き連れて、妻にもっと栄誉のあるものを食べさせたいとミュージカルを披露してきた。コアちゃんが演劇に音楽を掛け合わせたのだ。爆笑した。オークはすんごい鼻息をもわっとさせて出ていった。
「あれ? そう考えるとなんか意外と楽しく過ごせてるな」
「退屈に順応しすぎじゃないー?」
「そうは言ってもなー、ダンジョンに誰も来ないからって人間の村や街が警戒してないはずがないだろうし、遠征に行かせるのはどうなんだろう」
ダンジョン内ならコアちゃんカメラで様子が見えるが、ダンジョンの外は出てみないとわからない。入口から見える範囲外に何か居てもわからないんだ。
「でもどうせモンスターは外で死んでもリスポーンは中でするし、誰も来ないならダメ元で送ってもいいんじゃない?」
「うーん。戦力低下は怖いなぁ」
「けど、実際問題ゴブリンとオークは少し働かせた方がいいわ。毎日毎日監禁部屋に通ってたら捕虜が早死にするわよ」
「あーなるほどね」
モンスターの営みなんて観察する趣味は無かったので俺は監禁部屋には一度も行っていないし、モニターで見たこともない。世話はモンスター任せ。お湯が必要なときはゴブリンメイジが泉の水を汲んで鍋で湯を沸かしているのをたまに見かけるくらい。
「別にシノミヤがもう用無し、知ったことじゃないっていうなら放っておいてDPにしたらいいけど、エルフの方はまだ成果もないし死なせるつもりはないんでしょう?」
そう。ゴブリンに下賜した人間の方はもうママになっているが、オークは増えていない。増えていないのに死なせてしまえば、ただ悲惨な目に遭わせただけになってしまう。それじゃあまるで鬼畜の所業だ。俺は外道には堕ちたが鬼畜ではない。人間だ。
「仕方ない。冒険者が本当に周辺にいないのかも知りたいし、オークとゴブリンでチームを作って遠征に出そう。本人たちもやる気はあるみたいだしね。運良く人でも攫って来てくれたらラッキーだ。モンスターが死んでも、脅威の有無はわかる」
「チーム分けはどうする?」
「オーク一体をリーダーにゴブリン五体を二チームで違う方向に向かわせよう。残りは待機でダンジョン防衛と捕虜の世話。人選は任せる」
「オッケー、じゃあ二チームに指示を伝えてダンジョンの入口に転送しちゃうね」
「よろー」
ベッドでゴロゴロしながらグールに手をしゃぶられている間に遠征部隊が出発していく。
さて、彼らは物資や人間を持ち帰れるか、それとも死んで情報を持ち帰るのか。あとは帰還待ちかな。
「あ! コアちゃん、人を攫ってくるなら俺のお嫁さん候補も探して来てって伝えて」
「残念だけどもう通信圏外。お嫁さんは私で我慢して」
「本当に我慢することになるから気持ちだけ受け取っておくよ」
さすがの俺もいくらなんでもバレーボールに欲情はできない。というか、俺に恋愛要素が一切ないのに先にモンスターが家庭築いてるのおかしいだろ。DP貯まったら次は絶対エロい女悪魔召喚してやる。




