044.ならず者
ダンジョン前の冒険者拠点跡地での物資回収作業は夜通し行われた。
配下のモンスターたちに周囲を警戒させ安全を確認しながら、使えそうな物だけを運び込んでいく。
日が登ってからは俺も狭いモニター越しではなく直接、役に立つものがないか調べるために外に出た。
「これはまた画面越しに観るのとは全然違うなぁ」
フィーニャが鹿の群れに放った魔法によって森が抉られていた。物資が乏しく、スケルトンたちと俺ではか細い低木を切るのに精一杯だったというのに、嵐の魔法によって太い木が折れたり、根本から引っこ抜かれたりしていた。
「俺が荒らした訳じゃないし、なんなら鹿のせいだし木を貰っても怒らないよね?」
鹿の気配はないが、言い訳のように独り言を口にしながら辺りを見て回る。
欲しいのは冒険者が持ち込んだアイテム類と食料。モニター越しではまともな状態なものは見つからなかったので直接見たかった。
ダンジョンには以前、商人から奪った物資が多少あるが……捕虜が二人増えたので、長生きさせるために食糧の安定的な確保が今後の課題。拾った者の責任である。
「DPでモンスター増やすのと、食糧集めして繁殖させるのってどっちがコスパいいんだろう?」
そんな疑問も浮かぶが、やってみないと分からない。どのモンスターが何日で増やせるかも調べなければいけないし……この世界に来たばかりの頃は生き残ることだけを考えていればよかったのに、考えなければいけないことが増えたものだ。いい加減言葉の通じる助手が欲しい。
コアちゃんはダメだ。助けにはなっても手は生えてない。欲しいのは喋れて手助けしてくれる存在。捕虜の世話とか俺やりたくないし。
「ぐるる」
「グレイス、食い終わったなら木を運んでくれ。入口まででいいから」
冒険者の遺体は嵐のせいで酷いことになっていた。あちこち散らばっていたせいでグレイスはビュッフェ気分で歩き回って好き放題食べ放題。食べたなら働きなさい。
他のモンスターにも仕事を割り振って、俺は俺で散らばった天幕や木箱だったものの破片に埋もれたものを物色。
オークたちは体格通りの力持ちでとても活躍してくれた。コボルドたちは骨を集めるのは得意だったし、スケルトンたちは頑張って丸太を運ぼうとしてぎっくり腰になって全身バラバラになったりしていた。スケルトンは重いものを持つのには向いてないらしい。体幹が存在しないから仕方ない。
スライムとローパーはお留守番。スライムについては移動速度の問題。ローパーの触手は役立ちそうではあるけど、せっかく罠に擬態してるのを動かす程でもない。
そうして回収作業を続けて数時間。いくつか無事な保存食と薬類を見つけられた。野菜類や肉も持ち込まれていたけれど、昨晩の雷雨で汚れたことを考えると腐敗が怖いので回収は諦めた。
その間にゴブリンメイジとゴブリンたちがリスポーンしたので、彼らには嵐で散らばったゴミを集めて貰った。メイジの魔法で焼却処分だ。
ようやく配下が全員揃ったので中々の賑わいだ。粗方の目ぼしいものは回収が終わったので、オークたちに大木を運んで貰い、スケルトンたちはゴブリンと一緒にお片付け。グレイスは……
「あれ? あいつ何処行った?」
あたりを見回すがいない。あいつ食うだけ食って逃げやがった。まあいいや、もう木を運ぶくらいしかすることもないし。
「そうだ、ゴブさんたちとオークさんたちにはお仕事の後にお楽しみが待ってるから頑張ってね。スケさんたちは気に入った骨があったら交換してもいいよ」
「ゴブゴブ!」
「フゴフゴ」
「ガラガラ」
ゴブリンたちは捕虜のことを知らなかったので教えてあげると大喜び。オークたちは知っていたので落ち着いている。スケルトンは繁殖は無理だろうから骨をご褒美にした。なにか小躍りして骨を鳴らしてアピールしているが、喜んでいるのか怒っているのかはわからない。
やる気になったモンスターズのおかげで作業は順調に進み、そろそろダンジョンの中に帰ろうかと思い始めたころ、草むらが揺れた。
「シノミヤ、コレ」
「どこ行ってたんだよグレイス……なにこれ?」
グレイスが珍しく俺に話しかけてきたのに驚きつつ、グレイスに渡されたものをつい受け取ってしまった。まだ温かい人間の腕だった。
なに、もしかして前に腕食って怒ったの気にしてたの? 意外である。
「ありがとう。でも俺の腕もう治ってるからこれはグレイスにあげるよ」
「……イイノ?」
「いいのいいの。でもそれどこで拾ってきたの?」
「アッチ」
気持ち悪いからグレイスに返した腕——多分肉付きからして女の手、手首から先の形が歪だったので骨折でもしていたか——ともかく、返されたそれをすぐにむしゃむしゃと齧りながらグレイスが草むらの方を指差す。
「なんか見に行くと損した気持ちになりそうだからいいや。グレイス、その腕をあげた代わりに次からは人を殺すときはちゃんとダンジョンの中に連れてきてからって約束してくれない?」
相手が強くて仕方なくてとかならしょうがないけど、グレイスに限ってそんなことはそうそう無いだろう。
「……ワカッタ」
「じゃあ、食べ終わったら帰っておいで。先に戻ってるから」
「ぐるる」
グレイスが草むらに戻っていく。あいつの身体能力ならトラップゾーンなんて関係なく帰ってこられるから気にしない。
それにしても、グレイスが自分で勝手に狩ってきた獲物の腕一本でグレイスに約束をさせられるなんて超ラッキー。ようやく我が家の問題児の躾にひとつ成功だ。
「なんか色々あったけどいい日だったな! さあ、みんな帰ってお楽しみタイムといこうじゃないか!」
モンスターズがそれぞれ歓喜の雄叫びを上げて呼応する。彼らにはお楽しみが待っているからね。俺と違って。
俺はこのあとコアルームに戻ったら回収した物資の確認作業と、今回の反省点と今後の改善点を考えなくちゃいけない。想定外の速度で冒険者が全滅してしまったのだ、今後の人間の襲撃はいっそう厳しいものになるだろう。
※グレイスはわかっていてやってます




