042.かけがえのない宝物
C級冒険者、エルフのフィーニャを抱えてコアルームへと転移する。
「シノミヤってどうしてそう体ばっかり先に先に動いちゃうのかしら?」
「グルル」
コアちゃんモニターで外の様子を見ていたのであろうグレイスまでが呆れた声を出す。
「もう少しでこのエルフが殺されるところだったんだ。一か八か賭ける価値はあっただろ?」
「ダンジョンの命ごと賭けられたらたまったものじゃなーい」
コアちゃんは不満そうだが、俺としてはそこまで分が悪い賭けだとは思っていない。
このエルフが実際に証明して見せた。四つ目鹿の能力超越過負荷は絶対即死の力ではないと。
コアちゃんから強化でレジストができると言われた時から違和感はあった。抵抗ができる。ならばあとは、どうやって抵抗すれば良いのか。
それを実際にやってみせたのがこのエルフ、フィーニャだ。
絶体絶命の状況下でフィーニャは重ねた祈りと折れない意思。立ち向かう勇気で奴らの超越過負荷をレジストしていた。
死の淵に手をかけながら、何度も這い上がってきた。これを勇者と呼ばずになんと呼ぼうか。
俺は怯えすぎていたのだ。突然の襲撃、理解不能の攻撃。無知ゆえの恐怖。そんな精神状態で抵抗できるはずがない。
四つ目鹿共もそれを見越して、ファーストコンタクトで俺にはどうにもならない相手なのだと強く印象付けていったのだろう。
種がわかれば、気持ちの持ちようだ。幸いなことに俺の魂と本来の肉体は異なる世界に存在する。そうでなくとも、ダンジョンマスターという特異な存在である俺は、いくつものモンスターや人間の生と死を道具のように弄び、生にしがみつき何度も計画を変更しながらこの手で未来を掴み取ってきた。
無数に枝分かれした未来の自分を何度殺されようと、知ったことか。俺はいつだって今この時を生きて俺の未来を掴み取る。
強化なんて要らなかったんだ。ただ、覚悟を決めれば良かった。
強い意志でレジストができるとフィーニャが証明したから、踏み出せた。
モニター越しに見ていたフィーニャの奮戦。何度も立ち上がるその姿はまさに勇気ある者。
しまいには、半死半生のまま撃ち放った風の刃は子鹿の首を両断して見せた、
殺せるのだ。あの鹿は。初見でどんな存在かも能力かも知らなければ、あの力はどんな相手の未来でも殺せるのだろう。
だが、死を覚悟しどんな形でも未来を掴み取ろうと足掻く者から繋がる無数の未来、そのどれを殺せばいいのかを奴らは確定させられない。
当たり前だ、今を本気で生きる者の未来はいつだって不確定。何度踏み躙られようと、覚悟があれば立ち上がる。
そして奴らは能力こそ強大であっても、その身は脆い。ただの獣同然だ。
何度もダンジョン周辺に現れても、奴らは俺と直接交戦することを避け続けてきた。
ダンジョンが産まれ、成長し、強くなろうとする度に存在をちらつかせ邪魔をしてきた。
逃れようのない能力という陰に隠れて、こそこそと。
そんな存在の本質が、たった一人のエルフに破られた。いったいこのフィーニャという女はどれだけの宝物をプレゼントしてくれるつもりだ。
あれだけの大魔法を使って平然としていたのも想定以上。鹿狩りなんて欠片も期待していなかった。こんな女を見捨てて鹿に殺させる訳にいくものか。
死ぬのならばダンジョンの中で死んで貰わなければ困る。きっと莫大なDPになるだろう。
捕虜として捕らえているだけでも滞在で得られるDPに期待ができる。
エルフは妖精だ。邪妖精であるゴブリンやオークとの相性もいい。
ダンジョンの外で死なれるなどあり得ない!!
「あんなに格好つけて助けに行っておいて……なんか可哀想ね、そのエルフ」
どうして俺自らが命懸けで助けに行ったのか、このエルフの価値をわかりやすく布教してあげたのにコアちゃんのリアクションが薄い。
「ダンジョンの役に立つならそりゃ嬉しいわよ? でも、そこまでする必要あったかしら? 鹿の対抗策がわかっただけでも充分じゃない。シノミヤの命の方が大事だよー」
「もしかして、心配させた?」
「シノミヤの体が元に戻って、人間……その子はエルフだけど。そっち側に気持ちが傾いたんじゃないかって」
「それは無いよ、冒険者はダンジョンの敵だよ? 配下は殺すし、貧乏なのに宝出せみたいな感じだし。冒険者に感情移入なんてあり得ない」
無茶をしてでも欲しかったのは、外の冒険者たちが全滅したせいだ。肉壁にもなれず、DPにもならずに意味もなく死んだあいつら。どうせ全員死ぬならダンジョンの中で死ねっての。
まあ、そこらも含めて四つ目鹿はうちが冒険者狩りを始めたから妨害しに来たんだろうけれど……もしかしてあいつら、こっちが思ってる以上にダンジョンを怖がっているのか?
「なにはともあれ、俺の知らないところで俺の未来がいくつか死んだ程度、今の俺は元気。念の為こちらからの攻撃も控えて追い返せたからモンスターの消耗もなし。せっかくだから、外に誰もいないうちに冒険者たちの死体と物資をモンスターズに集めてきて貰おう」
コアちゃんにスケルトンとオーク、迷路でくつろいでいたコボルドの番をダンジョンの入口に転送して貰って作業をしてもらう。
「エルフの魔法のせいで死体も物資もボロボロねー」
「まあ、骨はスケルトンの材料になるし。食べ物は諦めるとしても、武器とか防具とか無事なのあれば持ってきて貰おう。装備も立派な戦力拡充だしね」
「グルゥ!」
今の我がダンジョンの弓矢は手作りの荒い物だし、ちゃんとした弓矢があればありがたい。新しく召喚したオークは体も大きく鎧も着れるのでそれだけで大分強くなるだろう。
死体と聞いてグレイスが興奮し始めたので、物資を拾うのを手伝うのならと外出を許可。
あ、金もあるな。こんな森の中でどうするつもりだったんだろう?
「俺に現金の使い道はないし、それは産出品のお宝枠ってことにしとこうか」
「やったー! ついに私のダンジョンに変な葉っぱ以外のまともなお宝が! これで一人前のダンジョンにまた一歩近づいたわー!」
コアちゃん大喜び。やっぱりお宝って大事なんだろうか。
少し考えてみて気づく。ダンジョンマスターが馬車を襲って人を呼び込むのに比べたら、お宝で釣って人を呼び込んだ方がどう考えても普通だと思う。
「こんなモンスターしかいない空っぽのダンジョンのために何人死んだやら」
フィーニャの部下たちが哀れだ。コアちゃんがフィーニャのことを可哀想と言った理由がわかった気がする。この人があんなに頑張って鹿から勝ち取った生き残る未来ってオーク牧場だもんなぁ……




