039. Fairy's Mischief
炎の魔法使いのお姉さん。名前を知らなかったのでこれまで散々色々な呼び方をしてきたこの女性。年齢は見た感じ俺より少し上、三十は超えていないだろうと思う。見た目の話。名前については尋ねないことにした。これから不幸な目に遭わせることが確定している相手の名前なんて覚えたくないから。
お姉さんの尋問は、楽ではあったのだが面倒でもあった。どういう意味かと言うと、完全にMMに拘束されている上に、何度か水洗いしたものの、意識がふわふわしていて尋問をする上で抵抗はされなかった。代わりに、話す言葉もふわふわしていたので知りたいことを知るのに時間が掛かった。
お姉さんから聞き出したのは冒険者の戦力とギルドからの依頼内容についてがメイン。
戦闘要員が全体の半分だったというのを聞かされたのは大分焦った。何しろ既にその半分を殺してしまっている。
攻めて来られたら迎撃するしかない以上、このペースで来られたらマズい。冒険者には四つ目鹿の防波堤にもなってもらう計画だったのだ。
だったのだが、このお姉さん……四つ目鹿の話をしてもピンと来ない様子。どういう訳か、俺がラグネルに頼んだことがしっかりと伝わっていない疑惑がある。
ダンジョンマスターと冒険者、互いに生き延びるための交渉。別に契約を書面で交わした訳でもなければ、証明する者もいない。だからといって、軽んじられたのだと思うなというのは無理な話だ。ラグネルの仲間、片方は殺すくらいはするべきだっただろうか。もし次に出会ったら容赦はしない。
ひとつだけ安心したのは、指揮官であるエルフの冒険者はC級の有名な魔法使いということ。最高戦力であり指揮官。つまりはダンジョンに積極的に入ってくることではなく、拠点の設置と維持がそのフィニャセラという女エルフの役割だという。
最高戦力がダンジョンに攻めて来ずに、ダンジョン前で森の警戒をしてくれる。なんと有難い話だろう。
「そのエルフなら四つ目鹿を倒せるかな?」
「エルフ一人で固有種の相手になる訳ないじゃない。C級がどのくらい強いのかわからないけど、グレイスより強いの?」
コアちゃんの言葉に唸る。ラグネルがE級であの強さだったのだ。戦闘の最後の方は天賦と思われる力の威力が明らかに増していた。そんなラグネルよりも二段階上のランクなら強くてもおかしくないと思う。
あと気になったのは、このお姉さんも詳しくは知らないそうだが、フィニャセラと死んだ斥候のリーダーは増援の話をしていたらしい。お姉さんはリーダーと仲が良かったらしく少しだけ話を聞いたとのこと。だから、増援が来るまで安全第一で慎重にこの依頼をこなして帰還しようと約束したのだとか。ま、そんな個人的な話は興味がないのでどうでもいい。
「どうしよう。応援の時期も規模も未定。そうなるとDPを貯めて備えたい」
「けど、あっちの戦力はもう十人以下なんでしょー? 倒しちゃったら肉壁がなくなっちゃうよー」
コアちゃんの言う通り、冒険者は敵であり、敵の敵であって貰いたいのだ。
「これからは侵入されたら死なれない程度に痛めつけて外に返すか? 滞在ポイントはそれでも入るよね?」
「そんなに短時間じゃ期待できないわよ。滞在ポイントが欲しいなら捕虜にしたらら?」
コアちゃんに言われて、半分ふわふわで半分正気に戻りかけているお姉さんを見る。
分かるよ、お姉さん。本当はもう大分正気を取り戻しているけど、俺たちの会話が何かわからないように心が耳を塞ぎたがっているんだよね。
まだ酔っていたい。浮ついていたい。これからのことなんて考えたくない。俺がよくしている顔だ。
お姉さんだってイカれた目でも召喚されたオークたちの姿は視界に収めていたはずだ。俺たちの会話だって聞こえているはず。肉体を殺して貰えないのなら、心だけでも自分で殺してしまおうと思ってしまう。その弱さをわかってあげられる。
それでも、DPとモンスターの繁殖は必要だ。
俺たちダンジョンは、それを糧にしなければ滅びるのだから。
オークたちの見た目は豚とか猪に人間の手足が生えたようなタイプではなかった。どちらかというと、俺より背が高くて体格……胴や四肢が二回りはでかい。体毛はなく、顔は豚というより人間の赤ん坊のくしゃくしゃな顔がそのままデカくイカつくなった感じ。多分、この世界のオークは獣人ではなく妖精種なのだろう。あーでも、声は少し豚っぽかったかな? いや、俺実際の豚の鳴き声あんまわかんないや。
そんなオークが今は一階層の迷路に四体いる。本当はもう二体いけそうなDPはあったのだけど、それは取っておいた。
現状このダンジョンには捕虜を捕らえておくスペースがない。オークの繁殖行為も見たくないし、一階層の迷路の隅っこにでも監禁部屋を作るつもり。
さて、このあたりで寝ていた間の出来事と、起きてからやるべきことは終わりだろうか。
「MM、お前には部屋ができたらそこで捕虜が逃げないように捕まえておく仕事を任せる」
「ニュルリン」
触手が「わかった」とばかりに振られる。詠唱防止のために口に触手を突っ込まれているお姉さんが泣いていた。
俺はそれを見て首を振った。ダメだよ、壊れることを選んだのなら、感情はしっかり殺さないと。生きていたって不幸になるだけだ。心を殺すのは簡単だ、自分で自分に何度も死ねと言ってやればいい。だから、その目でもう俺を見るな。ヤレない女のためにできることはない。
「監禁部屋できたよー」
「MM、連れて行け」
「むぐっ……ひ、うぐぅ、ぇあっ、しゅ……んぐぅ」
俺から分離して元の巨大イソギンチャクに戻ったMMにお姉さんが連れて行かれた。会うことはもう二度とないだろう。
「最後になんか言ってたみたいだけど?」
「それより、オークたちに冒険者から奪った武器を持たせるの忘れたから配っておいてくれない? 剣士二人と、あのお姉さんの仲間の二人は結構いい武器持っていたよね?」
「はーい! わかったー! 確かに、どうせ犯されるなら自分の仲間の使っていた武器を持たせたオークの方が赴きがあっていいわよねー!」
「そこまで考えていなかったよ」
コアちゃんが言わなければ気付かずにいられたのになぁ。
「それにしても、冒険者はもう残り半数か。本当にどうしよう。今夜向こうが動かないならゴブリンが戻ればうちは万端以上だ。戦力差がひっくり返っちゃったな」
「しかも捕虜がいるから滞在ボーナスもあるしね! いっそ全員捕虜にしちゃう?」
「残ってる女はエルフだけでしょ。男残してもうちは種には困ってないし。メスのモンスターとか召喚したら男も使えるのかな?」
「メスのモンスターならシノミヤが相手してもいいのよ?」
「ビジュアルによる」
アンデッドとか動物とか虫とかだったらお断りだ。可愛いモンスター娘とか実在するんだろうか。
だめだな、睡眠を取って一旦戦闘が落ち着いたのもあってどうも気が抜けてしまっている。
コアちゃん、ダンジョンの入口カメラで外を映して。
「はーい……アラ?」
「どうした……の……」
モニターに映し出されたのは崩壊した冒険者の拠点、そして倒れ伏した冒険者たち。
いくつもの死体の中で辛うじて膝をつき息をしているのはエルフの魔法使いフィニャセラただ一人。
冒険者たちは四つ目の鹿に包囲されていた。
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