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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第一部 ミストフォークと聖女の剣<上> 始マリノ歌 編

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037.Nightmare before...


「シーノーミーヤー、起ーきーてー」

「ふみゅう」


 なんだか懐かしいような、そうでもないような、それでもここ最近に比べれば満ち足りたような目覚め。

 俺を呼ぶ声に、右手で眠い目を擦りゆっくりと開ける。


 ところどころ衣服の破れた随分とまあ大胆な見た目のセクシーなお姉さんが、ぬちょぬちょした触手に全身を拘束されて天井近くに吊されていた。知らない。こんな天井も天井の染みも知らない。ちょっと水分が滴ってきそうなのやめて。


「……なにこれ?」

「それはシノミヤが拾ってきたんでしょ、そんなことより……」

「イヤイヤ、ごめん。全く身に覚えがない。マジでない。誰、この人? なんでわざわざ俺のアングルから内側まで見えるようになってるの?」


 はやくその湿った穴を閉じてくれ。そう思ったら、触手が動いて気まずいところを全部隠してくれた。良かった。色々考慮しなきゃいけない問題がひとつ消えた。


「はぁ……本当に覚えてないのね」

「あー、でも待って。もしかしてこの人、あの炎の魔法使い?」

「そうよ」


 そうだ……確かあの時、体の内側をかき混ぜられたみたいに体調が悪くなって、黄ローパーに無茶をさせて最前線に突撃した気がする。それで……そう、確か冒険者のリーダーっぽい男がこの魔法使いを護ろうと身を挺して死んで、生き残ってたこの人から情報を抜き取ろうと攫ってきたんだ。


「大変だったのはその後よ」とコアちゃんが球のくせに盛大なため息を吐いた。


「戻って来たと思ったら、いきなり"布団をよこせ、俺は寝る"って言い出して聞かないから、仕方なくDPから布団を作ったら今度は……"俺はベッド派だ"だの"マットレスはコイル入り"だの散々好き勝手言って、グレイスに防衛に行けって部屋を追い出したあと横になったと思ったらグッスリ」


 語り終えたコアちゃんが最後に「それでも寝つきはいい子なのよね」と呆れたように言うものだから、なんだか申し訳なくなって……言うほど悪いか、俺?

 意識失う前になんかもっと悪いことをされたような気もする。


「それで、俺はどれくらい寝てた?」


 とりあえずベッドから起き上がり、ベッドの縁に腰掛ける。いやらしいお姉さんはベッドの上から移動させて下に何もないところで吊されてて貰う。


「……五時間ね」

「ご、五時間……?」


 ちょっと疲れたな、って昼寝にしては長いけど、睡眠時間としては少し短めで、命懸けの戦闘後に倒れたにしては「あれから三日三晩経ったのか……」的な周囲を不安にさせるでもない、至ってちょっと短めな睡眠時間。


「五時間!?」

「そうだってばー、なんの確認よ」

「いや、なんでそんな半端な時間で起こしたの。もっと寝かせてくれてもいいじゃんか」


 こちとら満身創痍である。いや、そこそこ寝れたから今は戦闘前に比べたらかなりマシなんだけどね。あ、マットレスのおかげかな。やっぱ地面で寝るのはダメだわ。


「私だって反省してるのよー? あんなに怒ったシノミヤ初めてだったし、びっくりしちゃって。まさか歌のせいであんなことになるとは思わなかったし、片腕がないくらいで魂の形があそこまで崩壊しちゃうなんて知らなかったのよ」

「待って。反省ついでに知らない情報まで伝えてくるのやめてくれる? バレるから。そんなさらっと言ってもひっかかるから。何、魂の崩壊ってヤバいこと言っちゃってる?」


 それと、片腕がないのも十分大事だからな。別にそこ軽くないからな。


「ほら、前に言ったじゃない? シノミヤの体は特別製だけど……食事とか睡眠とか、できるならしといた方がいいって。それと同じよ、腕もあった方が良かったの」

「当たり前だろ」


 何を愕然としてるんだよ。「き、気づいてたの?」じゃないんだよ。片腕なくなって正気でいられる訳ないだろ。こちとら小さい洗面所だけでも苦痛だったんだぞ。


「ま、まあ……そういう訳だから、これからはシノミヤが腕を治したいって言っても止めはしないわ。左腕を伸びる触手にしたいのよね? 今からDPを……」

「待て待て待て。いらない! そんな腕はいらないから! 普通の腕にして! 片腕触手とか余計気が狂うわ!」

「そんな……MM号が可哀想」

「誰だよその名前からして不味い存在は!」

「ニュルル……」


 左腕が疼く……上を見上げる。黄色い触手がしょげている。お前かよ。


「音楽に合わせて陽気にシノミヤを運んでいった前回のヒーロー、Mr.Music号と名付けたわ」

「ニュルリン」

「コアちゃん、本当に反省してる?」

「最高に」

「反省してるかの問いかけに最高なんて返ってくるパターンを俺は知らないよ」


 というか、情報の勢いが良すぎて色々放置している。コアちゃんと戯れてる場合じゃない。宙吊りのすけべな人もどうにかしないといけないし、腕も戻して欲しいし、なんで寝る前の俺ベッドなんかにDP使ってんだとか色々あるけど、それより。


「ところでなんで起こしたの?」

「そうそう、冒険者がまた入って来たのよ」

「それ先に言ってよ、ヤバいじゃん」


 そんな状況だと知ってたらこんな無駄な時間の使い方しなかったのに。


「第二のスライムたちとローパーが足止めしてる間にグレイスが倒しちゃったよ」


 スライムが活躍したの!? 冒険者が死んだことより気になるんだけど!


「長話してなければスライムたちの活躍シーン観られたのに」

「くっ……今まで半ば戦力外で正直召喚したのを後悔していた仲間の活躍を見逃すなんて……!」

「シノミヤ、それ本気で思ってる?」

「最高に」

「最低」


 いや、気にはなるけど言葉にしてるうちに「でもスライムか……」って気持ちが萎れてきちゃったんだよ。どうせ石柱にへばり付けだけだし、知らずに石柱に飛びついた冒険者が手を滑らせたとかでしょう。


「あー、それでね? 今グレイスがこっちに向かってるんだけど——」


 ——相当怒ってるみたいだから気をつけてね?


 というコアちゃんの言葉が言い終わるより先にコアルームの扉が開いて、若い女を抱えたグレイスが飛び込んできた。


 じりじりと、グレイスが不気味な笑顔を向けてこちらに向かってくる。


「ネェ、シノミヤ」

「はい」


 はじめて、グレイスの方から目を見て声をかけられて思わず頷いた直後。


「むしゃり」


 グレイスの体が胸から臍まで裂けた。骨の顎の隙間に、若い魔法使いの女が一口に飲み込まれ……骨と肉が戻ったときには、グレイスの手には何もなく。本当にそこに女の子がいたのかと疑問に思うほど、あっけなく。


「どんな悪夢だよ」


 そう言えばグレイスは俺のことが大嫌いだったな。その嫌がらせは効果覿面だよ。クリティカルにお前の死に様を思い出して吐きそうだ。

 多分、これは夢だ。夢オチだ。布団に戻ろう。戻って寝て、起きて現実だったなら、その時の俺が頑張るはずだ。

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