034.第一防衛ライン陥落
俺がひとりで八つ当たり気味にジタバタしながら騒いでいる間に、ダンジョンの外では事態が進んでいた。
「六人の冒険者に、エルフの指揮官……フィーニャだったかしら? 何か言っているわね」
「エルフ……ニンゲン……ヨリモ、オイシ?」
コアちゃんのモニターを眺めながら涎を垂らしているのはグレイス。おい、そこ俺のセリフパートだろ。俺が回すところ。なんでお前が話を回そうとしてるんだよ。というか駄々こねてるの無視かよ。
「ほら、シノミヤもちゃんと見なさいよー、ダンジョンマスターの役目でしょ」
「ガルルルル」
「何のために頑張ってるのかわかんなくなってきた」
「そういうのいいからー」
「ぐすん」
「ヌルヌル」
俺のことを励ましてくれるのはローパーだけだ。俺の左腕が勝手にたくさんの触手になって涙を拭ってくれる。酷い感触だ。
「それで……そのフィーニャとかいうのの会話は聞こえるの?」
「さすがに音までは拾えないわね。でも……六人組がダンジョンに入って来たわよ」
「マジで?」
ふよふよ浮いているコアちゃんを引っ掴んで見てみれば確かにダンジョンに侵入者あり。
「ちょっとエッチ、お触りはダメ!」
「はいはい」
コアちゃんは迂闊に触れられるのを嫌がる思春期の娘みたいなところがある。そろそろ大人のバレーボールに育って欲しいものだ。
「今度のは装備も雰囲気も違うし、ただの集団じゃなくてダンジョン襲撃のためのパーティかな?」
斥候系の軽装の男が二人、短剣装備が二人、残りの二人はなんだ……? 随分防御力の低そうな見た目だが魔法使いか?
「六人か……これは第一じゃあ止められそうにないな」
あれは視線を切る構造、そして冒険者の武装を使わせないための狭い環境、動きづらい格好での移動を強制させて不意打ちをするゾーン。
さっきの剣士二人はダンジョンの外からまだ明かりが入って来ていたからと武器だけ持って入ってきたが、今回の六人はしっかりと灯りを用意している。松明やランタンだ。そして、一人一人がそこそこの間隔を開けて侵入してきた。あれでは、最初の一人二人を始末している間に後ろの連中にゴブリンが潜んでいるのがバレるだろう。
ゴブリンは最弱。不意打ちができなければあっという間に倒される。
「仕方ない。第一は抜かれる前提で行こう。第二はかなり防衛力を上げられているしね」
「最初の一人には素通りされちゃったものね」
そう。ダンジョン改築後に第一侵入者となったイアンは森で消耗し切った状態で、無人とはいえ第二を超えて来たのだ。今回の冒険者たちも身体能力はイアンと同等かそれ以上だろうし、油断はできない。だからこそスライムとローパーには期待したい。もちろん、遠距離攻撃部隊にも。
そう願いながらモニターを眺めていたら、先頭の男が最後の天井壁の前で立ち止まり、松明を壁の向こうに転がした。
「ゴブ!?」
突然の炎に思わずゴブリンか声を出してしまう。そうでなくとも、暗闇が照らされてしまえば、壁越しにでも足元に緑色のゴブリンの足が視認できただろうう。
「この先にゴブリンがいる。数はわからないが、抜ければ戦闘になるだろう。誰か、念の為最初の罠の仕様を拠点に持ち帰ってくれ」
「なら、わたくしが報告に。すぐに戻ります」
先頭の斥候の言葉を受けて、最後尾の魔法使いっぽいのがUターン。
情報伝達の意識が高い。愚痴愚痴と喧嘩ばかりしていた大剣と小剣が小物みたいだ。
「この狭さじゃ、順番の入れ替えもできないな。このまま俺が先を進む。閃光玉を使うから目を閉じていろ」
先頭の斥候が壁の隙間から今度は丸い何かを放る。それは松明の火によって爆発し、モニター越しでも目が痛くなるほどの強い光を放った。
「ゴブ!」
「ギャギャ!」
ゴブリンたちは呑気に転がって来た玉を眺めていたせいで全員目を抑えて悶えている。スタン状態である。
そこに、斥候の男が這いつくばった姿勢から転がるように隙間から這い出して跳ね上がり、体術でゴブリンたちを打ちのめしていく。その隙に後続の冒険者が現れてゴブリンにトドメを刺す。
アイテムを使った索敵からの目潰し、殺すよりもゴブリンに攻撃態勢をさせないための戦闘技術、仲間への信頼と無言の連携。
第一防衛ラインはたった一人さえも仕留めることができずに突破される。
「おいおい、この冒険者たちさっきの二人と全然レベルが違うじゃん」
「とても同じ冒険者とは思えないわね。シノミヤのイヤらしい罠をこんなにあっさり超えちゃうなんて」
固唾を飲んでコアちゃんモニターに映る冒険者たちの様子を窺う。
「暗闇の迷路か、どうする? 先に進むか?」
ゴブリンにトドメを刺したほうの二人目の斥候が問う。
「ここにこれだけゴブリンがいたのを考えると……先に入ったあいつらはここで死んだかも知れないな」
続いたのは中衛の短剣二刀流の戦士。
「俺が先行する。少し距離を開けてついて来てくれ。全員、明かりを絶やさずに警戒を解くな」
先頭を行く斥候がリーダーなのだろうか? 他の仲間より突出し、ダンジョンの通路を進んでいく。時折りある通路の分岐点では中衛と後衛を一塊に分岐点に残し、二人の斥候が手分けをして正解の道を見つけ、遂に第二防衛ラインであるトラップゾーンまで辿り着かれてしまう。
第二トラップゾーンは、第三と同じように地面が陥没した落とし穴になっており、通路の反対側に渡るには天井から鍾乳洞のように伸びたつらら状の石柱——逆円錐形の岩——に抱きつくように飛びつき、また次の石柱へ……と渡っていくしかない。失敗して落ちた場合は尖った石と硬い木製の杭が待ち構えている。
「ここも罠か。前回の壁のことを考えると待ち伏せはあるんだろな。魔法で明かりを飛ばせるか?」
「お任せを。篝火よ、我らの道を示せ——ボンファイア!」
魔法使いの一人はどうやら俺と同じ炎系統の使い手らしい。
第二トラップの落とし穴の中央地点に、大きな篝火が燃え上がり、対面の通路に潜んでいたゴブリンメイジたちを照らし出す。
「ゴブリンの中にメイジが一体混ざっているようですね。あれが魔王でしょうか?」
「どう見てもゴブリンメイジじゃない? ギルドの情報じゃ魔王はゴブリンメイジの真似をする趣味があるんでしょ?」
「そうでしたね。そうなると……」
俺よりお姉さんっぽい、落ち着いた雰囲気の炎の魔法使いの問いに、もう一人の若い魔法使いの女が否定気味の意見を出す。
そんな趣味はないよ。ラグネルがそう言ったのか? ギルドでの俺の印象どうなってる?
「向こうから攻めてくる様子はないらしいな……これなら、予定通り班を分けるぞ。俺のチームがここに残ってこの地点の警戒をする。相棒のチームは明かり石を設置しながら外の拠点まで引き返してくれ。生きてるかはわからんが、先に入ったあいつらも性格はアレでも実力はあった。それが戻らないのだから全員気を引き締めて行動してくれ」
やはりこの斥候がリーダーっぽいな。というか、何故同じような装備構成が二人ずつかと思ったら襲撃ではなく攻略目的でルート開拓するつもりか。
「これはマズいぞ……侵入者に残られるとダンジョンの改築はできない。うちの格安モンスターズは正面からじゃ勝負にならない」
故に、罠を利用して一方的に攻撃できるデザインにしている。完全に受け身のダンジョン構成。
ダンジョン誕生からこれまで、小規模だからこそこのスタイルでやってきたが、時間を掛けて攻められるのはマズい。不味すぎる。
自分がダンジョンマスター側になったからか、むしろ過去の記憶が残っているせいか。
ゲームならばダンジョンはステータスの数字を見ながらいけるところまでいく。余裕があるならボスを倒してクリアする。
侵入者は奥までやってくる。そんな前提に囚われていた。
最初の二人はまさに、そんな俺の偏った思考通りに動いてくれていた。だから、気にしなかった。
冒険者は、不必要な危険は冒さない。
彼らの後方にはまだ大勢の仲間がいるのだから。
それに比べて俺の仲間は……
「あの魔法使いのボンファイア、イグナイトへの対抗かしら?」
「サッキ、ノ、ニンゲン……タベタイ」
やべぇ、やべぇ状況なのにこいつらのために頑張る意欲がどんどん下がっていく。




