032.実況!完全初見ダンジョン攻略!
ダンジョンに入って来た冒険者のうち、一人は腰に小振りの剣を、もう一人は大剣を背中に背負っていた。見た感じ、イアンのような斥候という雰囲気ではなく、突然の異変——まあ、俺からしたらポップなミュージックなわけだが——に万が一に備えて戦える男が来たという感じ。
そうしてダンジョンに入って来た二人の剣士は洞穴の中を数メートル歩いて立ち止まる。
「おい、なんだこの壁。半分しかないぞ?」
大剣の方が第一トラップゾーンのハーフ壁の内側を覗き込む。
「上下に半分ずつの壁が続いてるみたいだな。ダンジョンとはこういうものなのか?」
大剣じゃない方……めんどくさいな、剣が小さいから小剣としよう。小剣が首を傾げる。
「さあな。何せこの辺りじゃ初めてのダンジョンだ。フィーニャさん以外はダンジョンなんて入ったこともない。まあ、罠は無さそうだ、進んでみよう」
「それもそうか」
フィーニャというのはあの指揮官のエルフのことだろうか? 名前を覚えておこう。
そうして、小剣の方の男が屈んで潜り、続いて大剣の方が壁を潜ろうとして剣がつっかえて尻餅をつく。
「クソうぜぇ」
「おい、剣は下ろして手で抱えとけ。まだこの壁は続くぞ」
「……だがそうすると、今度は下の壁を乗り越えるのが面倒だ」
「仕方ないだろ」
「……」
小剣のほうは罠を警戒しつつ、楽々と壁を乗り越えるが、大剣の方は一枚壁を越えるだけでつっかえないように持ち方を変えている。しかも、壁の一枚ずつの間隔はめちゃくちゃ狭いので、すごく苛々している様子。
「ダンジョン探索だって聞いたから来たってのになんなんだこれは……」
爆音のアイドルソング(オフボーカル)の中で愚痴るいい歳をした冒険者の姿。なんだか申し訳なくなる。俺もまさか癒し系ミュージックのチョイスがこんなポップだとは思わなかったんだ、ごめん。
「おい、いい加減文句ばかりやめてくれ。こっちは罠やモンスターの警戒してるのに気が散るだろう」
「気が散るのはこのわけのわからん音楽だ! 何事かと思って入って来てみれば何も無い! ただ煩くて壁があるだけ! お宝も無けりゃモンスターの気配すらないじゃないか!」
小剣に注意された大剣がキレた。どっちの言い分もわかってあげられるよ、俺は。話を聞くくらいしかできないけど、わかるよ。うんうん。
「そんなに不満ならお前が先に行け、後ろから騒がれるのはうんざりする」
「ああ、さっさとこんな所出て音を出してるやつをぶっ倒してやる」
すんごい狭いところで大の男がギチギチになりながら順番を入れ替えて壁を登る。
「くそっ、高さも低さも全部バラバラなのが地味に腹が立つ!」
「……」
大剣はずっと愚痴愚痴。小剣はもう無言で後ろを着いて行くだけ。カップルだったらこの後別れちゃいそうで心配だ。あと、壁の長さが違うのはコアちゃんが不器用なせいだから、そこは俺は悪く無いから謝らないよ。
「ようやくこの壁が最後か、畜生。この壁今までで一番長いじゃないか。潜るには寝そべるしかない」
「なんだ、次が最後なのか? もうこんな所はうんざりだ。早いとこ進んでくれ」
「言われんでもわかってる!!」
大剣が怒声を上げて地面に寝そべり、じりじりと蟹のように横移動して這いずって壁から頭を出したところで——サクリ。ゴブリンのナイフが大剣の男の首を刺す。声も出せずに絶命した大剣をゴブリンたちがせっせと引き摺り、壁から少し離したところで吸収する。いきなり吸収したら小剣にバレちゃうからね。
「おい、なんだ急に静かになって……ん? このヌメヌメするのはなん——」
ザクリ、ザクザク。
当たりどころが悪かったらしく一度で死ねなかった小剣は顔中を穴だらけにして死んだ。
後続はいないのでそのまま吸収する。
「……なんか、意外とあっけない?」
「ダンジョン初めてって言ってたね。童貞だからかな?」
「コアちゃん、言葉には気をつけなさいよ」
「え、もしかしてシノミヤ……」
「違う。俺は違う。違うからマジで」
こっちに飛び火するのやめろ。マジで違うから。
「前世がどうであったにしろ、こっちのシノミヤは童貞だよ」
「うるせーよ」
最初から勝ち目のないレスバしかけるのやめてね。
「コアちゃん、今のDPで俺の腕治せる?」
「そんなの今治してどうするのよ。外にはまだ二十人以上の敵がいるんだから、それよりもダンジョンを強くするのが役目でしょー」
「ぐうの音くらい出させてよ」
確かに俺の腕が治ったところでなんの役にも立たないけどさ! 痛いものは痛いのに!
「……じゃあ、今のうちにできそうなことなんかある?」
「今なら一階層内に人がいないから迷路の改築もできるし、二階層の部屋も増やせるけど」
冒険者二人で部屋増やせるくらいのDP? 美味しすぎないか。今まで大きな稼ぎの時はだいたい酷い目に遭っていた気がするのに、たったこの数分でそんなに稼いだ?
「もしかしてあの人たちって、ダンジョン初見じゃなかったら相当強かったのか?」
「DP的に美味しかったからそうなんじゃないかなー?」
「マジか。やっぱ外で冒険者となんか戦うもんじゃないな」
ラグネルとの戦闘なんてゴブリンと俺の左腕を失うだけの大赤字だったのに。いや、左腕を食ったのはグレイスだから俺が受けたダメージはセレナとかいうのに刺された右肩か。
ああ、刺されたこと思い出したら右肩まで痛くなって来た……と思ったらグレイスが噛んでいた。いい加減にしろよお前、血を舐めるな。
「ぺろぺろ」
「うるさいわ」
グレイスを引き剥がしたいが右側を掴まれると争う術がない。左手欲しい。
「やっぱ腕治しちゃ……」
「ダメですー」
「じゃあ、腕の代わりになるモンスター」
「それならいいのがいるよ?」
「ええ……いるの?」
無理を言って腕を治して貰おうと思ったのにいるらしい。
「腕がいっぱいあって、ある程度戦えてトラップにもなれるモンスター」
「……ちなみにそれなんて名前?」
「ローパー」
それエロゲでしか強くないやつじゃないんですか。
「でも便利そうだから召喚してみよう。とりあえずローパーを俺の手伝いと第二、第三に配備するように五体。残りはゴブリンとスケルトンを追加で」
今なら侵入者がいないのでダンジョンを弄れるけれど、ダンジョンを弄るのには直接その場にいくかコアちゃんモニターを切り替えるしかない。コアちゃんモニターには冒険者たちの監視を続けて貰いたいので無し。それに、今フロアを広げた所でそこに当てる戦力も罠もない。
まずは、圧倒的な人数不足を解消しよう。
こうして、ダンジョンに新たにローパー五体とゴブリン十体、剣を持ったスケルトン二体が増えた。




