031.昏き霧の森の中で会いましょう
冒険者ラグネルのパーティとの戦闘後、びっくりするくらいの熱が出て三日寝込んだ。
「座して待つどころかごろ寝して待つなんてお行儀悪い子ねぇ」
「だってなんかずっと左腕がじわじわ炙られてるみたいに痛いし、全身が重いんだよー」
「がじがじ」
二階のコアルームで毛皮に包まってガタガタ震えてると、こうしてたまにコアちゃんに煽られ、グレイスはこれ以上俺から何を奪おうというのか、相変わらず噛みつき三昧。もうこんなんでもいいや、と暖房がわりに抱き枕にして右腕を噛まれている。
「ん、ゴブリンたちが戻って来たみたいだけど……数が少ない?」
「どれどれ?」
コアちゃんの言葉が気になり、モニターモードで寝ている頭の上に浮いてもらう。
モニター越しにはメイジとゴブリンが二体。ということは、森の様子を見にいかせていたゴブリンが三体やられたか。
「念の為今のうちにここに転移させて」
「おーけー」
別に転移くらいはダンジョン内なら俺の意思でもできるけど、甘えたい時期なのでコアちゃんにやって貰う。というか、コアちゃんはもっと働くべきだと思う。
「ごぶごぶ」
「ゴーブゴーブ」
「ケギギ、ギャプゴ」
メイジとペニー、それからなんとなくいつも変な声だと思っていたゴブリンが帰還した。
コアちゃんにはモニターで入口を写して貰い、追手がいないか確認して貰う。
「ゴブさんたち、森で何かあったの?」
俺が問いかけると、慣れたもので、ゴブリンたちはボディランゲージというか、舞台役者のように寸劇を始める。新しいコミュニケーションだ。
「うーん、誰かに襲われた! 正解! じゃあ敵は……あ、そのくらいの大きさ? ん? 耳が長い? あ、これも正解。えっと、他には……魔法? 耳が長い魔法使いにやられた?」
「ゴブ!」
なんとか三匹のゴブリンの演劇から情報を聞き取ることに成功する。遭遇したのは鹿や梟ではなく、人型で耳が長い魔法使いらしい。
「それってエルフじゃね? え? いるの? エルフ。この世界に実在するの? おっぱいは大きかった?」
「ごぶぶ……」
残念ながら……みたいな顔でメイジが首を横に振る。
そうかーこの世界のエルフはスレンダー系かぁ。
ちょっと趣味が合わない。解釈違いだ。無念。
「この辺にエルフの森でもあるのかな?」
「そんな訳ないじゃない。エルフは野生動物じゃないんだから、エルフの街で暮らしてるでしょ」
「えーマジかー」
世間知ってるタイプのエルフ。しかもスレンダー。特にモチベが上がらない。
「でもじゃあ、なんでエルフがこの森に?」
「カナリアが連れてきたんじゃないの? シノミヤが寝込んでもう三日も経ったし、タイミング的にはあり得るんじゃなーい?」
なるほど、あの冒険者たちは怪我を負っていたし、火事の始末も押し付けた。すぐには街には帰れなかっただろう。帰っても、治療が必要だろうし、別の冒険者を送ってきた可能性はある。
「情報が欲しいけど……こんな状態で森に入るのは無理だな。生き残ったゴブさんたちは悪いけど第一の防衛を担当してくれ」
「ごぶ」
「あ、メイジさんは魔法オッケーね」
ゴブリンたちを第一防衛ゾーンへ送る。
メイジさんははじめは第三に置いていたが、スケルトンたちに弓が渡り切ったので、遠距離攻撃ができるメイジには第二に回って貰う。さすがにスライムたちでは攻撃力が足りなすぎる。
基本は第一から第三までが防衛の肝。迷路ゾーンには一応コボルドたちが潜んでいるが、罠などはないので時間をかけられれば突破される。
初見殺しの構造を利用していかに侵入者を倒せるかが勝負の分かれ目だ。
倒して獲得したDPで随時、戦力とダンジョンを強化していく。自転車操業とも言える。
「さて、外の様子はどんなかな」
「覗けるのは入口手前のちょっとした範囲だけだよー」
コアちゃんモニターに映して貰った映像は、洞穴の入口丈夫に監視カメラを取り付けたような映像。穴の内側から、ダンジョン外のコボルドたちに穴掘り作業をさせていた辺りまでが見えた。
「ん? 森の中から誰か出てきたな……うげ、めっちゃ人いる」
「どんどん出てくるわねぇ。全部で三十人くらい?」
明らかに冒険者と分かる武装した人間が三十人。
こちらから釣ったとはいえ、この数は予想外。よくて五、六人のパーティ単位で人が送られてくるかと思っていたのだが……四つ目鹿対策に人員を多めにしてきたのだと祈る。
あんな人数で一気に攻め込まれたら、初見殺しでどうにかなるのは最初の一人二人かもしれない。とてもヤバい。
「指揮官はあの金髪の女か。よく見えないけど、あれがエルフかな?」
コアちゃんモニターの形は球である。ただでさえ見難いのに、視点からエルフらしき存在は距離があるので顔がよく見えない。胸が薄いのはなんとなくわかる。
「あ、地面を均しはじめたわね。穴を塞いで拠点作りかしら? 半分はまた森に戻った? 何かしているのかしら」
コアちゃんの実況にもあるように、エルフを中心に冒険者たちはダンジョンの目の前の俺とコボルドとスライムの努力の結晶を無惨に埋め立て、テントを張り始めた。なんて酷いことを!
半分ほどは森へ入ったが、方角的には俺とゴブリンが以前荷車で通った方向だ。もしかしたら、街道に一番近いルートを補給路として確保しに向かったのかもしれない。あくまで予想。
「思ったよりお客さんが多くてなんだか楽しみね! ようやくダンジョンって感じ!」
「コアちゃんは楽しそうでいいなぁ。俺としては体調が回復し切ってない、どころか文字通りの片手落ちの状態でこの人数。ぶっちゃけ怖いよ」
「本当に怖がってるなら片手落ちなんてジョーク言えないでしょ。大丈夫、シノミヤはいつも通りよ」
「そうかな?」
「心配ならリラックスできる音楽流そうか?」
そういえばあったな、そんな機能。
「コアちゃん、そのリラックスできる音楽をダンジョンの入口で流したらあの人たち油断してくれるかな?」
「面白そうだからやってみるー?」
「なるべく優雅なやつで」
「おまかせあれー」
そうして、コアちゃんはダンジョンの前でせっせと作業中の冒険者の皆さんに向けて大音量で平成のアイドルソングみたいな曲を流し始めた。
それで癒されるのは結構ニッチな人たちじゃないですかね。
音楽に気づいた人たちがビクってしてる。
完全な臨戦体制。
あ、なんか剣士っぽいひとが二人ダンジョンに入って来た。ニッチな趣味の人たちかな?




