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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第一部 ミストフォークと聖女の剣<上> 始マリノ歌 編

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027.天より与えられし者、地に堕し奪うもの


 翌日、再びスライムと雑草汁で変装した俺とグレイス。二人でスライムを使うことになったので、ゴブリンメイジは一時的に第二に配置し直した。まあ、昨日の今日で人間がダンジョンに辿り着くことはないだろう。


「コアちゃん、大丈夫そ?」

「いつまで心配してるのよ。シノミヤはダンジョンのために頑張ってくれるんでしょう? それならシノミヤの留守くらい耐えてみせるわよ」

「そうだけどさ……」

「それに、ダンジョンとして産まれ落ちたあのときに比べたら随分環境も変わったわ、だから安心なさい」


 いつになく弱気な俺を、今日はやけに頼り甲斐のある言葉で見送ってくれるコアちゃん。

 取り残されるのはコアちゃんだというのに、俺がうじうじしていても仕方ない。


「よし、今日は葉巻も吸ってない。頭も爽快だ。必ず成果を持って帰ってくる。だから、帰りを待っていてくれ」

「任せてー! 帰ってきたら最高のミュージックで出迎えてあげるわ!」

「そりゃ楽しみだな」


 コアちゃんの流してくれる音楽はまったく聞き馴染みのないものばかりだから、たまには地球のクラブミュージックも期待したいけれど、そこまでは無理かな。でも、コアちゃんがこうして強気で居てくれるのにビビってられない。


「行くぞ、混沌の群勢(ケイオスレギオン)。転移!」


 ダンジョンの入口に転移し、ゴブリンたちを先頭にして昨日の帰り道を辿るように森を歩く。バカ騒ぎはしない、静かに息を殺し、森の化け物どもに出遭わぬように森を進むこと数時間。


「森の終わりが見えてきたな」


 針葉樹の森の終わり。木々が減り、増えた視界の先は少し背の高い草が生い茂り、その先に街道らしきものがある。


「さすがに二日連続で同じ場所じゃあ、誰も来ないかもしれない。森に身を隠しながら街道沿いに移動しよう」


 ゴブリンたちの言葉は俺にはわからなくとも、ゴブリンやグレイスはダンジョンマスターである俺の言葉は理解するし、基本的には従順に従う。

 ……グレイスだけは存在の根源に俺への憎悪が関わっているためややこしいが、いざとなれば頼りにはなる……はず。


 そうしてゴブリンとゴブリンメイジ(俺)、ホブゴブリン夫人グレイスはゆっくりと移動を開始する。

 方角などは分からないので、目の前を横切る街道を右に行くか左に行くかだけなのだが、先日の行商人が来た方角とは反対側に進むことにした。

 行商人の来た方角に向かって村にでも辿り着いてしまうと厄介だ。行商人と出会った時間と、行商人が逃げた方向を考えると村からは遠そうな場所の方がいい。


 人気の少ないところで、少人数を狙う。

 できれば二人か三人くらいだとちょうどいい。一人を生かして、二人をダンジョンに連れ帰ってDPに変換できれば美味しい。

 今日はグレイスがいるので戦力面でも、人間の運搬担当としても頼りになる。無理に着いてきたのだから、食べるのはダンジョン帰還後まで絶対我慢させる。


 こちらは、ダンジョンからこれまでで最大級の戦力を率いて遠征しているのだ。必ず成果を上げる。


 その願いが叶ったのか、日が沈むより前、なんと俺たちが進んでいた方角から三人の人影が見える。まだ遠いが、人間が三人。馬車はない。旅人か、何処かの村人だろうか?

 いずれにしても運がいい。願った通りの数。どうやら昨日から運はこちらに向いてきたらしい。これまで逆ご都合主義みたいな目に遭っていたからご褒美かな?

 うきうきで、三人組が近寄ってくるのを遠目に、杖を構えて混沌を引き出す。


 詠唱(スペル)はいつでも。狙いは奴らの足元、別に怪我をさせてはならない訳ではない。どうせ後で殺すのだから、むしろ足の一本くらい焼けてくれて構わない。


 影が、輪郭を明確にしていく。中央、やや前を歩く男は腰に剣を佩いている。他二人は女、一人は杖を持っている。


「ちっ、冒険者か? 想定より早い。この位置から打ち込む。ゴブリンたちは散開して草の陰に隠れて奇襲。グレイスは、奴らの対応を見て勝てそうなら詰めろ。分が悪いようなら俺の魔法で限界まで引き受ける——フレイムバレット!」


 木陰から三人組に向けて炎弾を連続で撃ち込む。


「コールウィンド」


 警戒度を上げ、狙いを外さぬように足元ではなく胴を狙った炎弾が目測を誤ったかのように三人組の手前で散り、明後日の方へと飛んでいく。


 魔法使いかっ!


「ふふん、セレナの言った通り、やぁっぱ隠れてたっしょー?」

「こんなことで威張らないでください。分かっていたなら先制攻撃をされないようにこちらに場所を教えてくれればよかったでしょう!」

「ミエレなら迎撃できるって信じてたからね。それに、セレナはどこにいたかまではわかってなかったし? さすがにそこはイアン師匠みたいにはいかないって」


 こちらに気づいた三人組のうちの二人が何かを話しているが、まだ距離があって聞こえない。

 三人目の男は剣を抜いてこちらを向いて構えている。位置はもうバレたか。


「ごぶ! ごぶごぶ!」


 木の間を移動しながら、炎弾を放ち続ける。

「コールウィンド」と唱える声が聞こえた。それが詠唱か。風系統か! 炎弾がまた散らされる。


「あれが噂のゴブリンメイジ? 弱い炎弾しか使えないみたいだけど?」

「セレナ、油断してはいけませんよ」

「ミエレの言う通り、奴らは群だって言ったろ? 伏兵がいるはずだ、警戒はセレナに任せる。ミエレは炎弾の対応を。俺が前に出て敵を誘き出す!」


 男は躊躇なく草むらへと足を踏み入れる。随分と強気じゃないか。


「ごぶごぶ!」


 ゴブリンたちに指示を出す。俺のゴブリン語は雰囲気だけなので、大声を出したら行けの合図で打ち合わせている。


 ゴブリンがそれぞれの獲物のナイフを持って男の前後左右から襲いかかる。


「ガゲギャ!」

「ギャギャ!」

「グゲゲ!」

「ゴフーッ!」


 草むらから突然飛び出してきたゴブリンを相手にして、男は立ち止まらずに正面のゴブリンに体を当てて吹き飛ばすと同時、片手で剣を振い、右のゴブリンを切り捨て、後方——正面と入れ替わったゴブリンに蹴りを入れ、ゴブリンが地面に叩きつけられる。そこに左側から強襲したゴブリンがナイフを突き刺そうと飛びかかるも、ゴブリンよりも遥かに長い腕で首を掴まれ地面に引き倒される。


 僅かの間に一体が切り殺され、三体が地に伏した。


「はあっ!」


 油断のない男は素早く地面に倒れたゴブリンたちにトドメを刺していく。


「ゴブ!」


 四体のゴブリンを犠牲に——するつもりは、なかったが——たったひとり静かに身を隠して街道に忍び寄っていたゴブリンペニーが女魔法使いの後ろを取った!


「たかがゴブリンが、うちら相手に騙し討ちできる訳ないっしょ」

「ゴフ——ッ」


 完全な不意打ちだったはず。あと僅かでゴブリンペニーのナイフが女魔法使いの背を刺す寸前で、もう一人の女の蹴りを顔面に喰らい、その体を霧散させる。

 武器も使わず、あっさりと。


「これは、ゴブリンごっこなんてして遊んでる場合じゃないな。グレイス、我が名、我が命によって赦しを与える。力を解き放て——闢解!」

「グルルルルァァ!!」


 緑色の雑草汁スライム塗れの貪食が狂気を纏い、猛スピードで森から飛び出す。その速度はゴブリンとは比較にならない。人間の限界を遥かに超えた獣の速度で襲いかかる。


「ちょ、ミエレ! なにあいつ! 普通のゴブリンじゃない!」

「慌てないで、セレナ! 私の魔法で……」

「フレイムクラッカー」

「きゃっ!」


 炎の小規模爆破の魔法で女魔法使いの詠唱を潰す。

 これで妨害はない、ゴブリン相手にはやれるようだが、あの程度の格闘能力でユニークモンスターには敵うまい。


「やってしまえ、グレイス」

「——そうは、させないっ!」


 相変わらず森に姿を隠しながら勝利を確信した俺の言葉をかき消すように。ゴブリンを相手にするために草むらの中に突撃していたはずの男が、グレイスと張り合うほどの速度で、グレイスと二人の女の間に割って入る。


 グレイスの刃のように伸びた鋭い爪と男の剣が交差する。ガチンと硬質な音を立て、爪と剣で押し合い、二人が距離を取る。


「ガァルル」

「とてもゴブリンとは思えないな、お前は何者だ?」

「それはこちらのセリフだ冒険者。フレイムサークル、フレイムウォール、フレイムクラッカー」


 木の影から隠れるのをやめて、わざと聞こえさせるように大声を張り上げる。


 広範囲に広げた炎の壁の中にフレイムクラッカーを放り込み、壁の内側で連続爆破を繰り返す。

 グレイスが炎の壁を無理矢理抜けて俺の近くへ戻ってくる。代償に体を覆っていたスライムが消失していた。


「やったか?」

「——残念ながら、足りない」


 炎の内側から黄金が輝く。一閃、フレイムウォールがかき消され、傷ひとつない冒険者三人組が姿を表す。


「……魔法はどうした?」

「全て切ったさ。おかげでそいつを仕留め損なってしまったよ」


 男の言葉に眉を顰め、ふとグレイスを見れば、左の肘から先が無い。


「これは、考えを改めなきゃならないな」


 何もかもが順調にうまく言っていた。都合がいいと思っていた。

 実際には、想定よりも早く、想定外の化け物が釣れてしまったらしい。


「お前たち、最早ただのゴブリンだなどと言うつもりはないだろう? いったい何者だ?」

「はっ、人に名を聞くときは自分から名乗るもんだろ?」

「俺の名はラグネル。無辜の民を護るものだ」


 ラグネルと名乗った男の手に握られた剣は、ゴブリンを相手にしていたときには何の変哲もない剣に見えた。それが今では黄金の光を放っている。天賦——魔王を殺す力を持つ者か。


「俺の名はシノミヤ、無辜の民も英雄も殺す混沌の魔王(ダンジョンマスター)だ」

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