024.スタープレイヤー
ヒナトの街の冒険者ギルドにグロッグ・ローニーが駆け込んだその日、彼は偶然にもその場でその光景を目の当たりにしていた。
「失礼、そちらの依頼、良ければお話を聞かせて貰いたい」
黄金の髪に紫水晶のように輝く瞳、隠しようのない溢れる高貴さを庶民の服で台無しにしているこの男。
ヒナトが誇る若き天才。光刃のラグネル。冒険者ギルドに登録して一ヶ月で二つもランクを上げたルーキー且つタイトルホルダー。押しも押されもせぬ超新星。ヒナトの街にてその名を知らぬ者はいないと云われるE級冒険者である。
「——成程。辺境村付近の街道に現れたゴブリンメイジですか。もし、そちらの……グロッグ殿が構わないのでしたら、我々のパーティでその依頼をお受けしたい」
「あ、あんた……ラグネルか! こりゃあいい、頼む! おいらの金と物資……は無理だろうな。きっと食われちまってる。でも、ゴブリンは金までは食わねえだろう? おいらの金を取り返しちゃくれないか!」
「勿論です。お困りの人を見捨てる訳にはいきませんから……それで、ギルドは構いませんか?」
突然のラグネルの割り込みに、受付をしていた職員も多少の困惑を見せたが、相手がラグネルならばと頷く。
「預託金のない依頼ならば、元々ギルドから正式に討伐依頼は出せません。それならば、討伐については直接グロッグさんと契約を結んで貰い、ギルドからは調査依頼という形を取りましょう」
元々、ギルド側もこういう後払いを望む依頼人には冒険者の直接雇用を進めることもある。
依頼を受けて成功しようが失敗しようが、ギルドに損はなし。当人たちの問題である。
「わかった。それなら、ゴブリンメイジと群について確認が取れたらギルドにも情報を提供しよう。こちらの手に負えないようなら討伐クエストを発行して貰えるね?」
「ええ、勿論ですとも。しかし、ラグネル様ならばゴブリンメイジに遅れを取ることはないとは思いますが」
職員としては、突然舞い込んだ厄介な依頼が思いの外簡単に片が付いたとほっと胸を撫で下ろして軽口を叩く余裕すら見せる。
それ程に、このラグネルという男の素質、成果というのは偉大なものである。
ルーキーながら先日の盗賊討伐にも参加し、真っ先に塒の中に飛び込み多くの人を救出したという、ラグネルの武勇伝は一時期ヒナトの街では誰もが口にした話題である。
「そう油断はできないさ。ゴブリンの群の規模によっては討伐は我々のパーティだけでは無理かもしれない。俺はともかく、仲間に無理はさせられないからね。それに——」
——その場所はあの森の近くだ。
ラグネルはその言葉を飲み込んだ。
「……まあ、ともかく。グロッグ殿の依頼も、ギルドからの調査依頼も引き受けさせて貰うということで宜しいですね?」
「よろしくお願いします」
「ああ、頼む。あんただけが頼りだ!」
ラグネルの問いにギルド職員は何の問題もないと頷き、グロッグは喜色を浮かべてラグネルの手を握りしめる。契約成立。
「ならば、グロッグ殿には詳細な目撃地点についてお聞きしたい。ああ、情報さえ正確に頂ければ現地には我々だけで向かいますからご安心ください。街での生活もお有りでしょう?」
「あ……ああ、そうだな。そうだ、わかった。なら、向こうで話をしよう」
そうして、グロッグはラグネルにゴブリンの集団について、襲われた場所や状況を詳細に説明したのち、ギルドを後にした。
ギルドの職員が調査依頼についてはじめに話したように、本来ならば依頼人が同行してくれる方が依頼遂行はスムーズだ。話で聞いただけでは正確な位置情報というのはどうしても伝わらない。ある程度目星を付けただけの状況よりも、本人が現場でここだと証言してくれた方が手っ取り早い。
しかし、グロッグという男の様子を見てすぐに、ラグネルはそれを考えから捨てた。
あの依頼人は疲労していたし、どうにも動きや判断が鈍い。連れて行ってもし獲物と遭遇すれば足枷になるだろう。
依頼をいい加減に受けたつもりはない、より確実にするための判断である。
「さて、二人に黙って依頼を受けてしまったな。しかも報酬の保証がないなんて言ったらまた怒られるだろうなぁ」
パーティの仲間のことを思えば、その様子が用意に思い浮かぶ。
ラグネルの仲間はヒナトの街で出会った同じ新人冒険者である。二人とも女性で、一人は斥候系戦闘職、もう一人は魔法系戦闘職である。二人ともヒナトの街に師匠がおり、若手だが冒険者に必要な技能の最低限以上は身につけている。
それでも、ラグネルという突出した戦力とは異なり、二人はまだ最低等級のままではあるが。
しかし、二人はまだ十八のラグネルより年上で、世間知らずのラグネルにヒナトの街や周辺のことをよく教えてくれる。互いに良い関係を築けているとラグネルは思っている。
勿論、恋愛感情などではない。若く、未来に希望を抱く同じ冒険者、戦友としてだ。
「ま、だからこそお金にはうるさいんだけどね」
ラグネルがいくら功績を上げようと、その金が入るのはラグネルの懐だ。彼女たちはラグネルが一人で稼いだ金の分前は決して受け取らない。施しは受けない。金は自分の腕で稼ぐ。冒険者としての誇りはあるのだ。しかしルーキー、夢があっても誇りがあっても稼ぎは少ない。
「この依頼が終わる頃には二人もランクアップする頃だろうし、許してくれるだろう」
それに、仲間の一人の師匠はあの森で消息を絶ったのだ。あの時、ヒナトに戻ってからイアンが森に入ったことを知った時、なぜ自分はまだ攫われた少女がいた事に気づかなかったのだと歯噛みした。後を追うことを許されず、街に留まったことも後悔し続けている。いったい、あの森で何が起こっているのか、必ず突き止めなければならない。ラグネルは胸の内に固く誓う。
ダンジョンはDPで!作品は高評価で育てよう!
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