021.Apex
冒険者の侵入から一週間。
結局、それから人間の襲撃は一度もなかった。
恐らくはヒナトの街の冒険者ギルドとやらはグレイスとイアンの捜索に動かなかったのだろう。
とはいえ、ゴブリンたちは冒険者イアンの残した印とやらを見つけられなかったのは気掛かりだ。
この一週間、ゴブリンたちはそれなりに森を探索したようで、日々色々なものを持ち帰って来た。その中には人工物も幾つか含まれていて、もしかしたら人間が行き来する所まで探索は進んだのかもしれない。残念ながら、ゴブリンたちとは会話ができないため詳細を聞き出せないのが惜しい。
それから、コボルドは迷路に、スライムは第二ゾーンにリスポーンを割り振った。割り振っただけで、侵入者もいなかったので穴掘り作業を任せていたのだが、ある日再び巨大ニワトリが現れて穴に巣作りをし始めた。
よりにもよってダンジョンの目の前にあんな化け物に棲みつかれては堪らないので、グレイスを除くスケルトンも含めた総力戦で必死に仕留めた。ニワトリ一匹に多数の犠牲を払い、一時的にダンジョンの戦力が低下してしまったこともあり、コボルドとスライムによる穴掘りはその日限りで中止した。
ちなみに、ニワトリはダンジョンの外で倒したのでDP化はできなかった。戦い損にも程がある。
それ以降は、スライムは第二ゾーンのトラップに貼り付け、コボルドたちは迷路の中で放し飼いにしている。簡単に言えば放置。けれど、ダンジョンモンスターなのだからこれが本来の在り方でもあるので、勿体無いがこの四匹は遊ばせておく。
代わりによく働いてくれたのがスケルトンだ。
「スケさんたち、今日も一日よろしくな!」
「ガチャガチャ」
俺は三体のスケルトンと久しぶりにダンジョンの外に出て、木こりに精を出す。
「がじがじ」
グレイスは最近は俺の足首を齧るのにハマっていて、泥まみれになりながら引っ付いていて非常に邪魔だが、何かあれば護衛になると祈って無視している。
「ガチャンガチャン」
「カタカタ」
「カタンコトン」
スケルトンたちは骨を鳴らしながら木を切ったり運んだりしてくれている。
さすがに道具不足で森に多く生えている立派な木々は木これないものの、短剣や手斧で切れるような低木を切って集める。
使い道は、第二と第三ゾーンの落とし穴の底に剣山のように設置するためだ。
さすがに今の落とし穴は尖った石が生えているだけで殺傷性が低い。
「最近はずっとコアルームに引きこもってたから久しぶりに体を動かすと気持ちがいいな」
「カタカタ」
しばらくの間、襲撃に備えていたせいで緊張してストレスを溜め込んでいたのかもしれない。無心で木を切り、集めて運ぶ。こんな単純作業に生を実感している。
思わず、一緒に作業しているスケルトンに笑顔で話を振ってしまうくらいだ。スケルトンは口を動かしてもカタカタするだけで何を言ってるかわからないが、その辺は雰囲気で会話が弾んでいるということにする。
「グルゥ」
ふと、足首の不快感が消えて、立ち上がったグレイスが周囲を見渡して首を傾げる。
「どうした? グレイス」
「グルル」
グレイスの声音が低い。これは機嫌が悪いか興奮しているときの声音だ。
「総員、作業中止。ダンジョン入口前まで下がれ」
念の為スケルトンたちに指示を飛ばし、ダンジョンの入口まで下がる。
俺は完全にダンジョン内に足を踏み入れ、いつでも転移できるように、スケルトンたちは出入口の手前で壁になって貰う。
——がさり。
草むらが揺れる。
心なしか、森が深い静寂に呑まれたように感じる。
「————」
聞いたことのない音——声?
それが静かな森の中に響き、草むらから一匹の子鹿が姿を現す。
「——?」
この音の発生源はこの鹿か。
これまでに出会って来た森の生物の中ではうさぎに続く普通の見た目……ではないな。目が四つある。これが四つ目鹿か?
通常の左右の目の下にもう一つずつ目が存在する、それ以外はごく普通の鹿。
俺も旅行先などで鹿を実際に見たことはあるが、どんな鳴き声をしていたかまでは覚えていない。だから、鳴き声で気づかなかったのだろうか?
それにしても、子鹿が一体。サイズは至って普通。これなら、スケルトン三体とグレイスがいれば狩れるか。
なんとかしてダンジョンの中に誘き寄せて——
「————————ィ!!」
「っ!?」
——頭が豪快に破裂して、死んだ。痛みを感じる暇もなく一瞬で、俺が死んだ光景が視えた。
「なんだ、これは……」
スケルトンに異常はない。グレイスはその身を半歩後退させていた。
そして、俺だけが頭を抑えてその場に頽れた。
"未来視"そんな能力が存在するとしたならば、俺が先ほど目の当たりにした幻覚……いや、あれは間違いなく現実。少なくとも脳はそれを疑うべきでないと警鐘を鳴らしている。
二度とこの存在に害意を抱いてはならぬと死んだ自分の叫びが聞こえる。
「……いつの間に囲まれた」
頭を抑えながら立ち上がると、スケルトンに隠れていた視界が開かれ、霧のかかった森の中に数十匹分の妖しく光る瞳が揺らめく。
「————」
「お前の言葉はわからない。俺はここのダンジョンのマスターだ。もう手を出す気はない」
「————?」
『————』
子鹿の音に、周囲の群れが応じるように音を鳴らして共鳴する。
例えるならば、クジラやイルカには知性がありコミュニケーションを取っているという話があるが、この音は四つ目鹿たちの言語なのであろう。
鳴き声でも、音でもなく、言葉なのだ。
人間よりも遥かに上位の存在の扱う言語、故に理解が及ばない。
「——」
「今度は、何、を……」
再びの幻視。
モンスターたちは全滅し、グレイスが倒れ伏し、俺の死体の上でコアちゃんが光を失い塵と消える。
それを見下ろしているのは無数の四つ目鹿の群。
「……警告に来たってことか? この地の支配者はお前たちだと」
「——」
再びの音。霧が晴れる。
森の中からダンジョンを囲んでいた無数の目は姿を消した。
そして、子鹿は無防備にこちらに背を向けてのんびりと森の奥へと消えていく。
子鹿と群の会話が何を話していたのかはわからない。
ただ、ひとつだけ。
『この森の頂点は我々である』
俺にも伝わるように、最後にその言葉だけを脳に焼き付けていった。
ダンジョンはDPで!作品は高評価で育てよう!
え、なにこの鹿急に出てきて何?と思った方はレビューやブックマーク、評価欄の「⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎」を「★★★★★」などにして頂けると嬉しく思います。
完結まで辿り着けるようにたくさんの応援お願いします。




