015.ユニークモンスター
「なんかユニークモンスターの生成が解放されたんだけどどうする?」
自身で困惑した様子のコアちゃんの言葉にこちらも困惑する。
「ちょっと風呂入る」
「なんでこのタイミングー?」
「脳が休憩を求めてる」
「脳あったっけ?」
「え?」
俺の頭の中空っぽなの?
それとも罵倒?
余計に困惑しつつ、この世界に来てからずっと着ていた服を脱ぎ捨て、泉に浸かる。
コアちゃんに対して裸を見られることに抵抗はない。だって球だし。
ちな、泉は常に新しい湧水でオーバーフローして水が入れ替わる仕様なので、沐浴後もしばらくすれば汚れた水は入れ替わる。
など、一旦置かれた状況と関係のないことを考えつつ、冷たい水で濁った思考を洗い流す。
「ふぅー。コアちゃん、ユニークモンスターってのはなんなの?」
まず気になるのはそこだ。ゲーム的に考えて強めのモンスターや独自の特性を持ったモンスターなどかとは予想がつくけれど、そういうことではなく、この世界で、ダンジョンでどういう枠組みの存在なのか。
「うーん、これは私の手持ちの基本知識から欠落していたから、少し調べてみたんだけど……ダンジョンか、ダンジョン関係者の行動がトリガーになって条件を達成するとユニークモンスター生成ができるみたい。今のところ爪痕ダンジョンで生成できるユニークモンスターは一種類というか、一体だけみたい」
「……まあ、ユニークって言うくらいだから特別な一体なんだろうね」
しかし、条件にトリガーか……今日このタイミングで解禁されたとなると、殺人かダンジョンフロアの追加拡張あたりがトリガーかな?
「ちなみにだけど、DPは消費するんだよね?」
次に知りたいのはそれ。いくら貴重だったり強かったりしてもDPが足りないなら意味はないし、そもそも一階層の迷宮化がまだの状態で一体のモンスターにDPは注ぎ込めない。
「DPは思ったより高くないみたい。シノミヤが話してた計画だと、ダンジョンの一階層目を丸ごと迷宮化するだけで、部屋は増やさないんだよね?」
「そうだね。元のコアルームを一階の一番奥に設置して、そこに階段を設置しなおすつもり。入口から元コアルームまでを大広間にして、迷路と罠を作る計画だね」
「だったら、多分DP的には足りると思う。部屋を増やすとかだと予算オーバーかな」
つまりは予算ピッタリという訳か。むしろ、予算も含めてのトリガーと見るべきなのか……ご都合主義でラッキーと思うべきか、怪しむべきか。
「ちなみにどんなモンスターが召喚されるの?」
「それはわかんない。そもそも召喚じゃなくてシノミヤが生成するんだから」
「え? 俺?」
「うん。お前」
「……」
あれ、今、お前って言われた?
……まあ、俺はお前呼び嫌い民じゃないから良いけど。俺もお前呼びすることもあるし。
じゃなくて。
「俺が生成するの? AIみたいに?」
「呪文を詠唱してね」
「……意味伝わってるかどうかわかんないけど会話が成立する現象が起きてる」
半身浴をするには浅過ぎる泉の中で仰向けからうつ伏せに転がって、どうにか全身をさっぱりさせようとしながら考える……考えた。
「よくわかんないからやってみるか」
「そうこなくっちゃ、つまんないよね!」
「詠唱ってのはコアちゃん分かるの?」
「うん! 私がこれから言うことをシノミヤはそのまま繰り返してくれたらいいよ!」
コアちゃんの、せーの、の合図で言葉を重ねる。
『殄滅と破壊の混沌、戒めの鎖縛。三頭の狗、二頭の大蛇。終焉への漂着。己を封ぜし罪禍の門。我が名、我が命に応じ覚醒めよ——闢解』
六畳間のど真ん中、何もない空間が黒く渦巻き、禍々しい門が出現し、漆黒の靄を吹き出しながら門扉が開く。
悲鳴にも似た軋みをあげながらゆっくりと扉が開き、ひたひたと音を立てて闇の中からそれは姿を現した。
体躯は俺より少し低い程度、襤褸を纏い、鼻頭まで伸びた癖毛の隙間から覗く澱んだ金眼。灰色の髪に灰色の肌。人の形、人の四肢は血色の悪い肌に不釣り合いな筋肉質で、その身が如何に強靭かを物語る。
靴も履かず、剥き出しの足で、一歩一歩と門からゆっくりとこちらに近寄ってくる。黒の靄から抜け出て露になった襤褸の衣服の胸元には大きな穴が空いていた——まるで元は存在したその部分は乱暴に踏み躙られ破られたかのように——。
罪禍の門が閉まる。
「グルルルル……」
人の、大人の女の形をしたそれが、鋭い牙を見せて喉を鳴らす。
破れた衣服の穴から覗く豊満な膨らみがなければ、女とは見分けがつかなかったであろう。
屍人、人喰い、牙も爪も人を喰らうために鋭く長く。人を襲い逃さぬ為に強靭な筋肉で作り上げられた身体。
「貪食グレイグール。これがシノミヤの、爪痕ダンジョン初めてのユニークモンスター! この世界に一体だけ! 私の世界だけの子よ!」
コアちゃんが悦に、蕩けるような声を上げる。
「ああ、そうか。そういうことか」
条件、トリガー、唯一存在。
確かにそうだ、この存在は全てを満たしている。一生を添い遂げる覚悟をしたカルマが前ステして目の前に現れた。最悪だ。
「会いたくなかったよ、ハッピーバースデイ」
「グルァァ」
貪食の屍人は牙を剥き出しにして、泉の中で阿呆のように転がっていた俺に飛びかかってきた。
観念しよう。
「がじがじ」
「うわ、めっちゃ噛むよこいつ」
「グールの躾ってどうやるのかしら? とりあえず名前つける?」
「ちょっとは心配してよ」
「だってユニークモンスターだとしても、配下はダンジョンマスターを殺せないし」
「がじがじ」
「だから噛むだけかー」
灰被りの少女。俺の業。こんな救いのような感触の呪いなんて与えられるべきじゃない。慰めのような再会は望んでない。
十の屍肉と怨讐から生まれた怪物。
「灰色だから、グレイ……グレイスとかでいいだろもう」
「うわー、テキトーすぎぃ! ま、いいけど!」
「コアちゃんこそ適当じゃん」
「がじがじがじがじ」
とりあえず、絵面が悪いので服を着るまで離れてくれないだろうか。
ダンジョンはDPで!作品は高評価で育てよう!
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完結まで辿り着けるようにたくさんの応援お願いします。




