014.はじめての階層追加!
一事が済めば次の事に手をつけなければならない。正直、ちょっと休みたい。
「コアちゃん、とりあえずコボルドとスライムを一匹ずつ新しく召喚してくれない?」
「DPあるのにその二体でいいの?」
「見張りが欲しいだけだから」
「あいよー」
うちのダンジョンには現在、戦力が不在だ。これまで召喚したモンスターは全滅。代わりに盗賊討伐でDPは稼いだけど、DPを稼げば次はDPの運用をしなければならない。
その間、俺一人では手が足りない。とりあえず、出入り口に見張りが欲しい。コボルドとスライムにしたのは、最弱で最安だから。ゴブリンは既に増やしたし、番という訳でもないけど……なんとなく一体ずつよりはペアにしておこうかな、という割とどうでもいい理由。
「じゃあ、新米たちは入口の外で穴掘りを頼む。穴は入口に沿ってまっすぐ掘にしてくれ」
コアちゃんに召喚して貰ったコボルドとスライムがダンジョンの外に向かう。落とし穴ではなく掘を作らせるのはなるべく入口付近にいて欲しいから。ついでに、これからダンジョンを改築するので、ただの洞穴のフリをするのはもうやめる。人を殺した以上、もうここはいつ人間に冒されるかわからない。ならば出入口の外はぐちゃぐちゃにして不便にしてやろう。
「さて、コアちゃん。改築の時間だ」
「おー! 遂に私たちのダンジョンを拡張するのね! 部屋を増やす? 通路を長くする? 罠を作る? 今ならDPいっぱいあるから色々できるよ!」
やる気満々うきうきコアちゃん。盗賊にダンジョンを占拠されている間、暇つぶしに色々と話をしたのだが、ダンジョンというのはただ人を殺すよりも、長く滞在させてから殺した方が獲得できるDPが多いらしい。
コアちゃんは相変わらず頭が残念なので理屈はよくわからなかったので、俺は勝手に昔やったダンジョン系のゲームをイメージして解釈してみた。
長く滞在する。イコール経験値をたくさん持っている。レベルが高い。カルマ値やSAN値のようなパラメーターがある、など。
あくまでゲームの仕様が現実化するならと理屈付けてみただけなので実際どうかは知らない。
とりあえず、獲得DPは滞在期間で変動する。
「まずはフロアを増やそう。もう、コアルームまで直通は懲り懲りだ」
それに、コアルームは俺の生活空間でもある。もうちょっとマシな環境にしたい。
「いきなりフロア拡張! いいね! 上に伸ばすのと下に伸ばすのどっちがいい?」
「あ、それも選べるの?」
そうか、無意識にダンジョンは降りるものという感覚があったのは、ここが洞穴型のせいもあるだろうか。洞穴を登るってイメージがあまり湧かない。
「この上は丘だったよね? 上にも伸ばせるの?」
「そりゃあ、ダンジョンが拡張されたら地形も変わるよ」
「なにそれ怖い」
「だから拡張はDPがかかっちゃうのよねぇ」
でも確かにそうか。下に伸ばしたとて、じゃあそこにあった地面や地盤はどうなるのかって話だ。ダンジョンって不思議。
「正直どっちでもいいけど、面白そうだから上に」
「おっけーい。繋ぎ方は階段でいい?」
「とりあえずそれで。一番安いやつでお願い」
「この地形だと……一番安いのは石の階段だね! 追加フロアの形はどうする?」
「今あるコアルームの倍くらいの広さでいいかな。残りのDPは一階層目の迷宮化に使いたいから」
「迷宮化! いいね! 繋ぎ目の階段の位置の調整は後からでも無料でできるからさっそくやっちゃうね!」
既に作ったものの配置替えが無料なのも確認済み。
ゴゴゴゴゴとダンジョン全体が揺れて、仕掛け扉の手前の壁から階段が伸びていく。
「上の階見にいく?」
「そうだね。残りの作業もそっちでやることにしよう」
入口で穴を掘っているコボルドとスライムに一声掛けて階段を登る。階段は三十段くらいあった。人間の感覚だと十分に長いけれど、ダンジョンとしてはどうなのだろうか?
第二階層は廊下もなく、階段を登ったらすぐに六畳程度の空間がある。見た目は勿論、一階層と同じ洞穴型。
「さすがに扉が欲しいな。階段から直接だし、仕掛け扉にしても意味ないから普通の扉で」
「木のドアが一番安くて、次が石だけどどうする?」
「……さすがに石かな」
消費量を確認したらそこまで差はなかったし、急に木造は見栄えがどうなのか。あと、鍵を掛けられないとはいえ、自室の扉が壁より脆いのはちょっと心許ない。
「石のドアの完成! なんか初めて文明的になったね!」
そういえば、これまで作ったものは左右の高さの違う壁に、ダンジョンの壁と同じ凸凹した不細工な仕掛け扉。見た目で人工物とわかる代物はこれが初めてだ。
目で見てわかる文明の形。それだけで人間性を取り戻したような気がして……先ほどの犯した罪がフラッシュバックして嘔吐した。
「大丈夫? 葉っぱキメすぎたんじゃない?」
「……そうだね」
勘違いか、気を遣ったのかはわからない言葉に安堵する。
そういえば怪我もしている。それなのに、休みもしないで働いていた。既に後悔は猛毒のように体を蝕み、背後を振り返れば虚な瞳と目が合うのではないかと寒気が走る。
「コアちゃん、一階層にある水源をリセットして、泉を設置して。そんなに広くなくていいんだけど、できれば俺が足を伸ばして沐浴できるくらいの」
「迷宮作るんじゃないのー? ま、シノミヤがマスターだからいいけどさー」
不満気ながらも、コアちゃんが部屋の片方の隅に泉を設置してくれる。
周囲を石で囲われたそれは随分と浅く、足は伸ばせそうだが半身浴にもならなそうな規模。
それでもあの洗面台よりは随分マシだ。
さっそく、汚れた口内を濯いで、水を飲む。
「ダンジョンがなんでも吸収するからって、ぺっぺしないでよねー」
「ごめんて」
さっき吐いてしまったのもあるが、今回は洗面台型ではないので濯いだ水をその辺に捨てたら怒られた。泉は常に新しい水が沸くし、排水溝が必要かな? と相談したら「汚水は汚水でしまっておけるから別にいいんだけど、行儀の問題」と言われたので、ついでにトイレっぽいものを設置した。
ダンジョンマスターになってからトイレを催すことはなかったけれど、汚水を捨てるためだ。
形だけトイレで、実際の機能は水の出ない洗面台。排水管はない。ダンジョンが自動処分するので。
「ちょっと無駄遣いしちゃったけど、迷宮作りをはじめようか」
残りのDPで一階層目を拡張して、迷路を作り罠を仕掛ける。
トイレ風の置物一個分くらい誤差だ。今もコボルドとスライムが土を掘って素材集めをしてくれているし。
DPが足りない分は工夫でやりくりするしかない。
うん、いつも通りだな。
「ねー、シノミヤ」
「んー? どした?」
さっきまであんなに迷宮作りを楽しみにしていたコアちゃんが急に困惑したような声音に変わる。
「なんかユニークモンスターの生成が解放されたんだけどどうする?」




