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【第二部開始】初心者マスターとポンコツコアの迷宮運営記 〜なんでもありの外道ダンジョンでも独立国家になれますか?〜  作者: 綴木春遥
第一部 ミストフォークと聖女の剣<上> 始マリノ歌 編

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013.灰被りの少女


 隠し扉を開ける。炎が見える。その先に動いている者はいない。

 生き残っていたゴブリンも姿を消し、盗賊の遺体もない。


「コアちゃん、もう全員食べた?」

「盗賊は一人も逃さず吸収したよ!」


 そりゃあよかった。

 俺は盗賊の頭領の謎の力で負傷している。配下はみんなくたばった。

 盗賊の生き残りがいたらどうしようかと思った。

 作戦は作戦通りにやらないとダメだな。アドリブに対応する臨機応変さはうちの戦力には無いし、何よりラリったままだったのが不味過ぎる。

 戦闘中も頭の悪いことを喋ってた気がするし、デトックスは大切だね。


詠唱破棄(スペルブレイク)


 魔法を解除し、炎のトンネルを消す。

 ゴブリン・ペニーのコテカが床に転がっている。

 その他のゴブリンに使わせていた武器も盗賊の持ち物も全てダンジョンに吸収されている。


 唯一、その体の大部分に灰を被って倒れている少女を除いて。


 一歩一歩、気の乗らない足は重い。

 倒れ伏す少女の横に到着するまでたっぷり時間を要した。

 期待はせずに声を掛けることにする。


「きみ、生きてる?」

「……けて」


 多分「助けて」と言った。随分嗄れた声だったもので言葉尻しか聞こえなかったけど、状況判断で。


「そうか、やっぱり期待はずれか」


 コアちゃんの言葉で薄々わかってた。

 ダンジョンに喰われていないのだからそうじゃないかと思ってた。


 やっぱり生き残っちゃってたか。

 ゴブリンたちには盗賊たちを優先して攻撃するように指示していたのでそれは仕方ない。

 あわよくば熱で死んでくれていてもよかった。


 けれどこの少女は三日間飲まず喰わずで倒れたまま、あの地獄の殺し合いの中生きて残った。


「俺が主人公だったら、きみが主人公だったら」


 きっとこの後の展開は違ったんだ。


「これが物語なら、きみがヒロインだったら」


 助かる道もあったんだ。

 ただ、残念なことに俺は主人公ではなくて、この少女は主人公でもヒロインでもない。


 魔王と人間。


「なんでこうなるかなー」

「助け、て……お願い……お、兄さん……」


 よりにもよって今は配下のモンスターは全滅。こんな弱った相手ならスライムにだって仕留められただろうに、スライムは戦闘前に死んでしまった。

 こんな瀕死の女の子一人殺すためにDPを使う気にもならない。

 DPはこれから大量に使う必要がある。冒険者から逃げてきた盗賊がこのダンジョンに辿り着いたならば、いずれここに冒険者が来る。

 備えねばならない。

 備えるためにDPは少しでも多く必要だ。


「お、兄さん……?」


 彼女の淀んだ瞳には俺はどんな風に映っているのだろうか。盗賊を倒した救世主か。それとも、ここをダンジョンと理解して魔王として見えているのか。


 助けを求め、お兄さんなどと甘えてくるのだから、後者なのだろう。

 それが余計に気分を悪くさせる。


 盗賊を三人殺した。

 一人は炎で勝手に燃えて死んだ。

 一人は投げた斧が偶然頭をかち割った。

 頭領は仕掛け扉に挟んで潰した。


 俺の行いで三人の人間を殺した。

 けれど、全ては俺の手を離れた場所で死んでいた。


 殺すといっても、この手に殺人の感触など残っていない。

 大した意味もないが付け加えれば奴らは罪人だ。


 この少女は?

 背格好から日本ならば小学校に数年通った程度の年齢に見える。

 盗賊に攫われて、偶然ダンジョンにやってきた、犯罪の被害者。

 敵ですら無いし、悪ですらない。

 善人かどうかは知らないが、少なくともこんなところで死ぬような罪も業も背負ってはいないだろう。


「おね……がい、お水……お水、が欲し……い、の……」


 改めて思う。

 これが物語だったなら。

 俺かきみが主人公だったなら……もしかしたら、人間同士手を取り合って仲間になったり。

 命を助けられたことを恩に感じ、行き場も身寄りもないから協力したい。とか、そういう道があったのかもしれない。


「悪いけど、うちにはその余裕はないんだ」


 それが俺の現実。

 俺は救世主でも主人公でもない。

 混沌に生まれた悪の王。


「そ、んな……やだ、あたし、死にたくない!」


「死にたく……ないよ……」と、煤だらけの細い手を伸ばし、俺には届かずダンジョンの床に積もった灰が舞う。


 これ以上、生かして置いたらこの子は必要のない絶望をその小さな身に抱えてしまう。

 はやく、一思いに殺してあげなくちゃ、これ以上……希望を抱かせても、奪ってもいけない。


「俺が……やるのか、俺自身が」

「お願い……やめ……て、助、けて……」


 俺が今からする最低最悪の行為はきっと俺を一生呪うのだろう。


 過去はいつだって自分を見ている。

 振る舞いを、過ちを、羞恥を、執着を。


 バレンタインに仕込んだガキがクリスマスに産まれるような当たり前に。

 七月ニ一日生まれが一生嘲笑されるような当たり前に。


 だからきっと、この女の子を殺せば、俺は死ぬまでその瞬間に魅入られ続けるのだろう。


 当たり前だ。

 人間のカス、ゴミ、クズ、クソ、生きる価値のない悪魔、魔王。


 御名答。

 この世に生まれた瞬間から悪の親玉で黒幕。先鋒で最前線。


 俺は魔王(ダンジョンマスター)だ。


「少し遅れたけど、おめでとう俺」


 片足を上げる。

 そして降ろす。


 ——それはまるで、この世界に生まれたその日に出会った脅威が俺の全身を踏み潰そうとしたのと同じように——


「ハッピーバースデイだよ、クソヤロウ」


 心の壊れる音はやけに湿っぽい音がした。


「うーん! 一思いにいったね! さっすがシノミヤ! 悪くないね!」


 ダンジョンコアが、乾燥した空気の中でウィットに富んだジョークで嗤う。

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― 新着の感想 ―
湿っぽい音がしたっていう表現好きやゎ~
近頃の腑抜けたダンジョンマスターではなく ちゃんと考え、その上で容赦しないの好き!!
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