011. Welcome to a very, very happy birthday party!
「……ヤ……シノミヤ!」
「すぴーくかー」
「シーノミーヤー! もうっ! 起きてってば!」
俺のこと大好きな近所に住んでる幼馴染の双子の姉妹が左右から両耳に甘く囁いてくるリアルASMRな、キャンディみたいな夢を見ていたら脳内に最近お馴染みの声がガンガン響く。
「ふみゅう……コアちゃん……いま良いところだから、次のトラックまで聴かせて……」
「何言ってるの! 作戦はどうするのよ!」
「作戦? 作戦なんてそんな、俺は朝迎えに来た双子姉妹がベッドの両脇に忍び込んで来て目が覚めたけど気がついてない振りしてたら、二人が勝手にエスカレートしちゃうだけだよ……」
敢えて言うならば起きないことが作戦である。ああ、ゆずちゃん、ひなちゃん……そろそろもっと下を……
「昨日あんだけ格好つけて盗賊は"皆殺しだ"とか言っといて何を言ってんの!?」
んあ……盗賊? ゆずちゃんとひなちゃんが?
「……あえ? コアちゃん、もう夜? 具体的に言うと射手座だと午後九時くらい?」
「射手座が何かわかんないけど、もうとっくに朝だよ!」
「え? 朝? 作戦は夜にって言ったじゃん」
盗賊が夜に寝静まったところをこっそり寝首を掻く算段だから、それまでしっかり休んでおこうって寝たはずなんだけど。
「そうね! 朝までぐっすり寝てたわよおバカ!」
「……マ?」
しぱしぱする目を擦りながら体を起こす。やばい、全身が怠い。力が入んないしやる気も出ない。
周りを見渡す。睡眠が不用なモンスターズたちまでぐっすりだ。まあ、不用なだけで眠れないわけじゃないし。
休めって言ったのは俺だ。
「とりあえず顔を……水……」
この部屋なんか乾燥しすぎ。煙っぽいし、空気に灰が混ざってる気がする。うげ、キモい。なんか踏んだ。
「…………」
なんだ? と思って足元を見たらスライムが光になって消えていった。
「ありゃ、核踏んじまった。なんでこんなとこに居たんだよ、もう」
それにしてもスライムの核ってでっかいイクラみたいな感じだったんだな。プチンってしたわ。ハマりそう。
「ふぃーサッパリした」
顔を洗い、水を飲み、びしゃびしゃの床にイライラしたので、転がっていた葉巻にイグナイト。
乾燥させたフルーツの葉で医療用じゃない医療用大麻を詰め込んだ手作りである。
「え、スラさん死んどるやんけ」
これから盗賊討伐なのに戦力が減っている。本当に何してんだあいつ……まあ、いいや。ゴブリンとコボルドを起こす。
「おーい、二人とも起きろー、スラさんが戦死した。我々はこれより復讐のために盗賊どもを皆殺しにする!」
「ゴブッ!?」
「わうっ!?」
ゴブリンとコボルドがスライムの訃報に飛び起きた。誠に遺憾である。
「シノミヤ……それはさすがに……」
「コアちゃん、皆まで言うな」
ゴブリンとコボルドの士気に関わる。
「でも……シノミヤ、それはそれとしてもう朝だよ? 作戦とはだいぶ違うけど……」
コアちゃんの言う通りだ。作戦前に戦力を失うだなんて。
「コアちゃん、モニターを」
「はいっ!」
「うーん、奴らもまだ起きてないな」
「一応、日は登りたてだからかもね」
ならば問題あるまい。
盗賊たちは全員洞穴の床に丸まって転がっている。朝は冷えるもんな。
「よし、なら作戦に変更なし。奴らが目が覚める前に全員殺す。ちょうど、武器ならあいつら自身が持ってくれている」
敵は盗賊、大した品には見えないが、ナイフや手斧などの武器を所持している。
だからこそ起きている時に相手をするのは無理だったが……奴らが寝ているのならその武器で仕留めてしまえばいい。
盗賊はDPへ。武器はそのまま拝借できる。一石二鳥だ。
「よし、全員覚悟はいいな?」
「ゴブ!」
「わふっ!」
よしよし、ゴブリンでさえ今日は舌打ちも悪態もなくやる気に満ちている。どうやらスライムの死は無駄ではなかったようだ。
「では、作戦開始」
仕掛け扉のスイッチを押す。ゴゴゴと物音をたてながら扉がスライドしていく。
「……あぁん? なんだぁ?」
仕掛け扉が動いた振動と物音で盗賊の一人が目を覚まし、ばっちり目が合う。
「……なんだおめぇら、どっから現れた?」
「……しーっ、皆さんまだ寝てらっしゃいますから、お静かに」
「ん? ああ、そうか。ボスは人に起こされと怒るからな、すまんすまん、助かったよ」
「いえいえ、お気になさらずに」
「……」
「……」
想定外のファーストコンタクトだったが、どうやら話の分かる相手らしい。
いや、多分これは葉っぱのせいだな。普通こんなの通じる訳ないわ。さすがに俺でもわかる。
ならば。
「ゴブさん、友好の証にアレを出してあげて」
相手が状況を理解していないうちに葉巻を分けてあげてもう一回パーになって貰おう。正気を取り戻されると困る。
「あん? なんかくれんのか? そっちの……そっちの小さいのはなんか緑色だな?」
「ゴブ? ゴブゴブ! ゴーブッ!」
俺に促され、ゴブリンがご自慢のコテカを外して盗賊さんに向かってアレを差し出した。
「ブッククク、ご、ゴブさん、アレってソレじゃないから……アハハハハ!」
それを吸えはヤバいでしょ。ぶっ込みすぎだよ。やばい、脳がバカ過ぎて笑いが止まらん。ツボった。
「アハハハハ!」
「て、てめぇ! 何を笑ってやがる! そっちの緑の気色悪いペニス野郎よく見たらゴブリンじゃねーか! 頭までペニスみたいな形しやがって!」
「ゴブッ!?」
「アハハハハ、やめて、たしかにゴブさんつるっぱげだけど、やめたげて、ヒー、アハハ!」
盗賊の追い討ちがクリティカルヒット、ゴブリンがショック受けてるのもジワってヤバい。
俺、それずっと言わないで我慢してたのに口に出すとか卑怯な盗賊め!
「アハハハ!」
「ちっ、うっせぇな、なんの騒ぎだ」
「おうおう、てめぇら何モンだ? あぁん?」
ヤバい、ツボってたら次々と盗賊さんたちが目を覚ましてもぞもぞと起き上がろうとしている。
これは笑ってる場合じゃない。指揮を、指揮を取らねば……
「コボルド! ひっかくとかみつくだ! ペニス、武器を拾って仕留めろ! 首か胸を狙え!」
「がうっ!」
「ペニー!」
「ちょ、ゴブさんも悪ノリやめて、アハハハハ」
コボルドがまだ寝ぼけている盗賊の顔を引っ掻く、怯んだところを首にガブリ。血が吹き出す。ありゃデカい血管が逝ったな。
ゴブリンは半端に外れたコテカをカチャカチャ鳴らしながら床に置かれていたナイフを手に盗賊へ襲いかかり突き刺していく。
「ぎゃあっ!」
「なんだなんだっ!?」
「敵襲! 全員叩き起こせ!」
「ボス!!」
ああ、まだ二人しか殺せて居ないのに、遂に全員目を覚ましてしまった。
ま、煙のせいでぼんやりしているのか動きは悪いし、ボスに至っては無理矢理起こそうとしてきた部下を蹴り飛ばしていた。
「あー、笑った。お腹痛い。痛いけど、これはとょっと笑ってられる状況じゃないな」
「てめえ、何を余裕ぶってやがる!!」
最初に目を覚まし、状況を一番理解している盗賊が武器を構えてこちらを睨んでいる。
「何ってそりゃあ、武器はもう手に入ったし」
そして人を殺した。
人を殺したならば……
「くぁー魂ぃ美味ぃーっ!」
ダンジョンはそれを貪る。
死人は底なしの沼に沈むようにダンジョンに呑まれ、その魂は力となる。
「DP使用、ゴブリンを四体召喚」
「あいさー! さもーん! かもーん! ゴブリーン!」
背後から陽気な声が聞こえる。
歓喜に、愉悦に浸った悪逆の叫び。
饗宴。
生まれ出でよ、我が配下。
「総員、武器をとれ、皆殺しだ」
新たに顕現した四体のゴブリンがそれぞれに武器を拾い上げ、混乱に陥った盗賊へ飛びかかる。
「ま、まさか……ここは……」
「ようこそ、爪痕のダンジョンへ」
「つ、爪痕のダンジョン……だと!?」
ダンジョンの最奥、コアルームの壁に刻まれた三本の爪痕。俺にとっての最大の死の象徴。
故に、このダンジョンに相応しき名は其れしかないだろう。
「ボスはまだ起きねぇのか!?」
「クソッ、俺は逃げるぞっ!」
「バカ言ってんじゃねえ! たかがゴブリン! 冒険者に比べりゃ敵じゃねぇ!」
生き残った盗賊たちはそれぞれに好き勝手に騒いでいる。
その間にもコボルドとゴブリンたちの攻撃は続く。
数が増え、武器を手にしたとしても最弱のモンスターたちだ。
確かにまだ、盗賊たちの方が有利だ。奴らの背後はすぐ出口。戦うにしろ、逃げるにしろ選び放題だ。
三日前までなら。
「炎陣」
詠唱発動。小さな灯火が奴らを囲む。
「炎壁」
灯火は業火に。ダンジョンの天井まで覆うほどに燃え上がる。
逃げ出そうとしていた男が一人死んだ。
DPが増える。
起きている人間は五人、ゴブリンは五匹、コボルドは一匹。
「クソ暑ィじゃねーかよ、オイ」
炎の壁に覆われた戦場で、随分と寝起きの悪そうな男も居たものだ。
「俺の手下に何をした?」
「お誕生日会に招待したのさ」
盗賊の頭領が目を覚ました。




