010.Spicy Boys
やあ、今日は俺たちの生活のことでいくつか報告しなくちゃいけないことがある。
誰にって? さあね? 強いていうなら俺じゃないかな、俺、オレ。
「ゴッブゴブゴー!」
「わおーん!」
「……♩」
煙ったい二畳半ちょい、あーもう二畳半でいいよね。めんどくさいんだ、細かいこと考えるのは。だってそう……
「いぇあー! みんな盛り上がってるー!?」
「おー!」とコアちゃんの声に応じて拳を掲げる。ゴブリンは自分で作ったペニスケース……ああ、誤解が無いように言うと地球でいうコテカだったかな? そういう感じのいやらしい目的じゃないやつ。とにかく、それを自慢げに引っ叩いてブイブイ言わせながら音楽のリズムに合わせて腰を振っている。
コボルドは狭苦しい室内なので二足で立ってチンチン……ああ、これもいやらしい意味じゃなくて犬の芸的なやつ。その格好でハッハッと舌を垂らしながら荒い呼吸でヘンテコなステップで踊っている。
スライムは洗面台の下でフロアマットだ。
いい加減あの洗面台にはうんざりだ!!
おっと、話が逸れた。
逸れたかな?
そうでもないかもしれない、だって目の前の光景はまさにそうだし。
コアちゃんはピカピカ光りながらダンスミュージックを流してくるくる廻ってる。まるでプラネット。
俺、俺はさっきまでゴブリンとコボルドと一緒に踊っていたけど疲れたから、今はこの前手に入った狼の毛皮の上に寝転がってる。
そうそう、話のひとつはまさにそれで。ダンジョンに吸収してDPに変換されるのは生き物の魂だけなんだよね。
つまり、木や石と同じように、これまで仕留めた獲物たちは素材として残ってるってこと。
しかも便利なのはダンジョンに吸収させると、死体が勝手に素材化する。
ニワトリなら爪とか羽根とか肉。狼なら牙や毛皮。
それ以外にも、草とか葉っぱを色々集めて貰ってた訳だけど、それもうちはダンジョンに吸収させて保存していたんだけど、ちょっと訳あって暇ができたからダンジョンから取り出して貰おうとしたら、なんと薬草やら香草、幻覚作用のある気持ちいい葉っぱとか色々と取り出す時にそれがなんなのか鑑定されてたんだよね。
ゲームの中でダンジョンにポツンと薬草とか毒消し草が落ちてんのってバカみたいって思ってたけど、成程、ダンマスになってみて思う。
その辺で拾ってきたものから役に立つものがあれば、お宝がわりに転がしておいて人を呼び込めっていう寸法な訳だ。
そういう訳で、気持ちよくなる葉っぱ……正式名称は別にあるんだけど、なんとなく濁しとこうと思う……そうだな、仮に医療用大麻と呼ぼう。もちろんここは異世界なので医療用とかないけど。
ま、それがダンジョンから取り出したらいい感じに乾燥してたもんだから、イグナイトしてみたら見事にふわとろ空間の出来上がり。
まあ、出来上がってるのは俺たちなんだけど。
「ゴーブ! ゴーブ! ゴーブ!」
ああ、ゴブリンが首に下げた蔦と狼の牙で作ったアクセサリーを揺らしながらアンコールしてら。
「コアちゃーん! ノリいい曲かけたげてー」
「あーいお任せあれー」
そんな訳でおかわりイグナイト。
煙ったい二畳半は俺たちのクラブハウスだ。
「やっべ、眠ぃ……俺寝てもいい?」
「わふっ! わふっ!」
「……」
「えぇー」
コボルドの言ってることはわかんないけどだめだって言われてる気がする。俺がマスターなのに。スライムは黙ってフロアマットしてろ。
ああ、やばいやばい。
また話が逸れた、なんでこうなってんのかって話をまず先にするべきだった。
遡ること……遡ること……あれはいつだ?
「コアちゃん、今何日目だっけ?」
「サバイバル? それともダンジョン乗っ取られてから?」
「乗っ取られてから」
「三日目だよー」
「ありー」
そう、何を隠そう我がダンジョン、現在進行形で乗っ取られている。
——誰に? 盗賊にである。
遡ること二日……じゃなくて三日前。
あの日はなんだか朝から霧が酷かったんだ。
「酷かったよね?」
「何がー?」
「ありー」
そう、酷かったんだ。それで、まあ、ここは森の中だし、このダンジョンは丘の麓に位置している訳で、霧まみれになるのは仕方ない。だからその日は森での狩は中止にしてみんなで隠し部屋に引きこもってたんだ。
素材の確認もそのときに始めたんだっけ。
そうそう、狼の毛皮は三枚あるから俺とゴブリンとコボルドの敷布団替わりにしている。スライムは……
「その洗面台の下から動くんじゃねえぞ!!」
「……!?」
おっと、いけない。絶妙に一週間抱えていたストレスが爆発してしまった。
スライムには何も嫌がらせしている訳ではない。スライムは元々成分のほとんどが水分なので寝床は要らないんだ。
それにスライムは水が溢れても吸収してくれる。適材適所だった。今の所は悪いとは思っていない。
「あれ? 今何の話してたっけ?」
「知らないよー なんか喋ってたっけ? また幻覚見てるんじゃない?」
「ああ、盗賊の話か、教えてくれてありー」
そうそう、コアちゃんの言う通り盗賊の話だった。
そんな霧の日、三日前のあの日、霧に紛れるようにして奴らは現れたんだ。
何かから逃げるようにして現れた男たちに最初に気づいたのはコアちゃん。
ダンジョン内は見放題だからね。
あ、ちなみにコアちゃんてば、見放題なだけじゃなくてダンジョン内だったらどこにいても会話ができることが判明した。
モニターモードのコアちゃんを見て、映像が映せるなら音声もいけるんじゃないの? って聞いたら、念話ができた。
じゃあなんでいつもふよふよ浮かんで、ダンジョンの入口まで来てたのさ? と聞いたら「だって、話すなら顔見て話したい」ってメロついてきた。バレーボールの分際でバカか。
「ねー? コアちゃん」
「はいはいそうだねー、いい加減正気に戻ろうねー」
ほらね、コアちゃんもそう言ってる。
つまり、そう、つまりだ。
盗賊がきて、それから……最初は七人くらいかな? どうしよう? ってなってたんだけど、さすがに七人相手は無理かーってなって様子見。
そしたら、外に見張りもいたみたいで実際には九人居た。
あと、おまけで一人居た。
女の子だ。小さい、小学生くらいの女の子。
盗賊たちの様子を見てる感じ、どっかから攫ってきたらしい。
うーん、正確にはちょっと違った気がするけど、攫われたのは確かだったはず。
確か、そう、元々塒にしていた拠点が冒険者に襲われて、逃げる時に人質に誘拐してきた人の中から性処理にも使える女を一人連れてこいってボスの命令に、下っ端が大人の女抱えて逃げるのはごめんだって子供を選んだらしく、ボスにそんなもん性処理に使えるかよって殴られてた。
野蛮すぎて草吸っちゃった。
まあ、そういう年齢的にというか、身体的理由で人質の女の子は何もされず無事だ。
まあ、世話もされてないし食い物も水も与えられてないことを不幸中の幸いと呼べるなら。
まあ、それが三日前の出来事。
そして三日間の出来事。
ちなみに俺たちがダンシングオールナイトしても向こうには聞こえてない。
爆音で流れる音楽はコアちゃんが俺たちの脳内に直接流しているし、俺たちのダウナーなやり取りがお隣の盗賊のたちに聞こえる程、仕掛け扉は薄くない。
薄くはないが、仕掛け扉にだって目に見えないくらいの隙間はある。
そして、医療用大麻の煙を炊き続けて三日経った訳だ。奴らもそろそろいい具合にキマってきてる頃合いだろう。
「あー、諸君。そろそろ、お隣さんを刈ろうと思う。今夜、奴らが寝静まったら皆殺しだ」
そう、ここはダンジョン。
罠を仕掛けて、人を殺めて喰らうのだ。




