表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第4話 魔法を教える

 翌日、ミリエルは迎えの馬車に乗ってガーランド子爵邸にやってきた。門の外に出てレオンはミリエルを出迎える。


「いらっしゃい。ミリエル」

「レ、レオン・ディ・ガーランド様。ほ、本日はお招きいただき、ま、まことにありがとうございます」


 ドレスに身を包んだ体をガチガチに固めながら礼をして挨拶をするミリエルに思わずレオンは吹き出してしまう。


「どうしたの、ミリエル。そんなに畏まる必要はないよ」


 少し緊張がほぐれたミリエルは、昨日と同じ調子で話し始める。


「だって、子爵様や夫人様に会うって考えると、緊張しちゃって…。そんなに笑うことないじゃない」

「父上は今王都のほうに仕事で出かけられてる。母上も昨日はまでは屋敷にいらっしゃたんだけど、今朝早くに出かけちゃったんだ。なんでも、懇意にしている方が急な病気になられたそうで。母上は上級の水魔法を扱えるから、その治療をしに」

「そうだったの。じゃあ、今日って…」


 そこまで言ったミリエルの後の言葉をレオンが引き継ぐ。


「そう、僕とミリエルの二人きり。もちろん使用人たちはいるけどね。ごめんね。水魔法を教えられる母上がいなくて」

「全然、そんなことないよ。レオン君と一緒に魔法の練習ができるっていうだけでも嬉しいのに」

「さ、上がって。水魔法の魔導書を書庫から探しておいたんだ。きっと参考になるよ」


 貴族の屋敷の中では小さい部類に入るガーランド邸は、それでもミリエルにとっては羨望の対象であるらしく、あちこちを見回している。レオンの部屋は三階の一角、日の出が見える東に配置されていた。八歳の子供にはまだ大きい扉を開け、ミリエルと中に入る。


「これが治癒魔法の本。こっちが初級水魔法の本と魔力操作の基礎の本。もし必要だったら持って帰ってくれても大丈夫だから」

「ありがとう、レオン君。何から何までしてくれて」


 思い返せば前世でもこんなことがあった。人間と魔族との戦争で故郷を失ったサキュバスを引き取って魔法を教え込んだことがある。変化魔法を得意とした彼女は後に多くの国々の王や貴族に取り入り、彼らを淫蕩に追い込み破滅させていった。


「じゃあ早速実践しよう。僕がいつも魔法を使う庭があるんだ」


 動きやすい服に着替えたミリエルを引き連れて屋敷のすぐ裏にある林の中の広場に向かう。そこにはレオンは土魔法で生成した様々な形をした岩や、えぐられたような穴があちこちにあった。


「ちょっと待っててね」


 そう言ってレオンは魔法を使う。するとたちまちに地面が平らにならされていく。ミリエルはそんな様子を興味深そうにじっと見つめている。


「じゃあミリエル。魔法を使ってみて」

「あ、うん。見ててね」


 そういってミリエルは手を前にかざし、魔力を込め始める。すると小さな、指の先ほどの量の水が生成され、落ちていった。


 魔法を使うのにはいくつか手順がある。それは魔法の種類によっても異なるが、一般的な初級攻撃魔法を使うときの手順はこうだ。

 まずは体のどこかに魔力を溜め、それに属性を宿し体外へと放出する。それから体外で魔力を操作しつつその量を増やしていく。最後に自分から離れても形を維持できるだけの魔力を込め、これまた魔力を使って速度を付けて射出する。ミリエルはこの中でも体外で魔力を維持するのを苦手としているようだった。


「いつもここで終わっちゃうの。治癒魔法は失敗したことがないんだけど…」

「ミリエル、手を貸してみて」

「こう?」

「そう、それで魔力を込めてみて」


 レオンはミリエルと手をつなぐ。そこにミリエルの魔力が流れ込んでくる。その魔力が発散しないように優しく外から自分の魔力で包み込む。


「ミリエル、この感覚を忘れないで。体の外でも魔力を動かせるようにするんだ」

「うん、やってみる」


 レオンの手のひらの中でミリエルの魔力が動くのが分かる。やがてそれが少しずつ水へと変換されていく。


「ミリエル、手を放すよ」


 集中しているミリエルの手のひらを放す。そこには小石ほどの大きさの水が宙に浮いていた。ミリエルは目をつむり、魔力を送り続けている。それが拳ほどの大きさになったとき、最初と同じように地面に吸い取られていったしまった。ミリエルを目を開き、顔をほころばせる。


「レオン、できたよ!」

「ミリエル、すごいよ!すぐにここまでできるようになるなんて!」

「えへへ、レオンのおかげだね。レオンの魔力が優しく包んでくれたから」


 治癒魔法を使える魔法使いはただでさえ希少な魔法使いの中でもさらに珍しい。だから前線に立つことは少なく、攻撃魔法をあまり得意としないことが多い。けれどもミリエルには最低限身を守れるようになって欲しかった。


「じゃあもう一回やってみよう。今度は手をつながないでね」


 何度か試した後ミリエルはコツを掴んだのか、もうレオンの手助けなしで体外で魔力を留めることができるようになっていた。レオンもその隣で魔法の練習を始める。


 魔法には等級があり、下から初級・中級・上級・聖級・勇者級とある。ちなみに聖級はかつて勇者の仲間だった聖女に由来していて、勇者級は文字通りだった。

 一般に魔法使いは中級が魔法が扱えて一人前とされている。上級となれば達人で、聖級はリシタニア王国でも扱える人数は各属性で数えられるくらいだ。勇者級にいたってはかつて勇者やその仲間たちが使った魔法とあるだけ、今では使える人間はいない。

 レオンは上級までの全属性の魔法を前世の経験から使えたが、聖級以上の魔法には新しく作られたものも多く、まだその全容を把握しきれていない。


 まだまだ修行不足だな。そう思いながら魔力を込め、土をこねくり回す。土属性の初級魔法は岩の弾を作りそれを射出したり、土の壁を生み出したりできる。中級魔法ともなれば軽く地形を変えられるし、魔法陣と組み合わせればゴーレムを作ったりすることもできる。要するに、土属性とは攻守揃えた万能の属性なのだった。

 それゆえにガーランド家は子爵であるにもかかわらず、リシタニア王国の国防の要衝を統治することを任命されていた。


 隣を見るとミリエルの足元には大きな水たまりができるほどになっていた。それでもミリエルは一心不乱に魔法を使い続けている。楽しそうにしているが、魔力が淀み始めている。疲労が限界に達しかけている。


「ミリエル、今日はもう終わりにしよう。疲れがたまっちゃうと明日は動けなくなるよ」

「う、うん…そうだね…」

「そんな残念そうにしなくても、また明日も魔法は使えるんだから。食事を用意して貰ったんだ。一緒に食べよう」


 外では既に日が落ちる時刻が近づいてきていた。ミリエルと一緒に食堂に入る。そこには豪華な、レオンでも普段食べないような御馳走が並んでいた。ミリエルのためにレオンが事前に無理を言って料理人たちに作らせたものだった。


「すごいよ、レオン!おいしそうな匂い…。本当に私も食べていいの?」

「もちろんだよ。そういえばミリエル、いつの間にか呼び捨てになったね」

「えっと、つい…。ダメだったかな…?」

「言ったでしょ、ミリエル。僕はもっとミリエルと仲良くなりたいんだ。むしろそう呼んでくれて嬉しいよ。さ、冷めないうちに食べよう。料理は温かい時が一番おいしいんだから」


 ミリエルと一緒に魔法について語り合いながら食べる食事は、いつもと比べてもなぜだか美味しく感じられた。帰りの馬車に乗って帰るミリエルを見送りながらレオンは考える。ミリエルは優秀だ。きっとこの国でも最高級の魔法使いになれる。だからこそ最高の環境で魔法を学んで欲しかった。レオンからだけではなく、様々な人に影響を受けてほしかった。


 魔法学校…九歳になるリシタニア貴族の子女は王立魔法学校に入ることになっている。そこには少ないながらも平民からの入学枠があった。なんとかしてミリエルと一緒に魔法学校に行きたい。どうすればそうなれるのか。レオンは早速、魔法学校の入学試験について調べ始めることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ