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第3話 初めての友達

 リシタニア王国やその他の国では魔力量を数値として測る。1の魔力量とは武装した兵士一人を制圧するのに必要な魔力量だ。すなわち、魔法使いはその多くが一騎当千であるということである。


 ミリエルの両親は村で唯一の診療所を営んでいた。中に入るとミリエルの父親らしき男が慌てて駆け寄ってくる。


「ミリエル、遅かったじゃないか。何かあったのか」

「お父さん、ごめんなさい。魔物の群れに会ってしまったの。でも大丈夫よ。レオン様が助けてくれたから」

「魔物に。ああ、お前が無事でよかった。お前の身に何かあっては私は生きていけないからな」

「大げさよ、お父さん。こちらがレオン様」


 レオンに気づいていなかったらしい父親はこちらのことを見て、それから目の前にいる男の子が領主の息子であることに気づく。


「これはこれはレオン様ではありませんか。娘が大変お世話になりました。どうかお礼をさせてください。ささ、お上がりになってください」


 レオンはぺこりと会釈をして、ミリエルたちの後に付いていく。周りを見回すと数人の若い男が手当を受けているところだった。それも仕事や事故からできる傷ではなく、明らかに何者かによって傷つけられた痕だ。興味がわいたので聞いてみることにした。


「どうして彼らは怪我をしているんですか?」

「先日、この村から西に馬で一日行ったところに迷宮(ダンジョン)が発見されたんです。村の若い男が行ったのですが、中から湧いた魔物にやられてしまいまして。今頃は冒険者たちが制圧に向かっているところでしょう」


 迷宮(ダンジョン)――かつて魔族たちが根城にしていた洞窟や城は今ではそう呼ばれている。中には魔物が多く住み着いているが、その分財宝があったりと危険に見合っただけの報酬がある。

 リシタニア王国では領地にあるものは基本的には領主が管理すると定められているが、迷宮(ダンジョン)においてはその限りではない。迷宮(ダンジョン)に眠る金銀財宝は冒険者を呼び寄せ、周辺経済を活発化し、時には特殊な魔法道具をもたらす。

 ミリエルに招かれて二階にあった部屋に入る。見回すとかわいらしい動物を形どった人形がそこかしこにあり、本棚には使い古された水魔法の書がいくつか置いてある。


「ここは私の部屋なんです。八歳になって初めて自分の部屋が貰えて…嬉しくて大好きな人形をたくさん置いて見たんです。少し子供っぽいですか?」

「ううん。とってもいい部屋だね」

「本当ですか?嬉しい…。レオン様、聞きたいことがたくさんあるんです。お願いです、もう少しだけお話していきませんか?」

「もちろんだよ。けど僕からもお願いしていいかな。せっかく同い年なんだから敬語じゃなくてもっと普通に話してよ。名前も様付けじゃなくて、レオン、って呼び捨てにしてさ」


 突然の申し出にミリエルが固まったようになる。


「ミリエルともっと仲良くなりたいんだ。ダメかな…?」


 でも、その…とミリエルがためらっているので、最後の一押しをする。


「あーあ、初めて友達ができたと思ったんだけどなー。ミリエルはそう思っていないのかなー」


 口の中を何度かもごもごと動かした後、意を決したようにミリエルが口を開ける。


「レ…レオン…君、その、あの、よろしく…ね」

「うん、ミリエル。改めてよろしくね」


 不敬なんじゃないかという思いと、恥ずかしさとが合わさって顔をほんのり赤く染めながらミリエルが言う。君を付けて名前を呼ぶというのがミリエルが見つけた妥協点らしかった。レオンは上手くいった、と得心する。将来一緒に戦うにあたって、信頼関係は必要不可欠だ。特に幼少期からの友情は切っても切れないものだとレオンは前世の経験から知っていた。


「それでミリエル。聞きたいことって何?」

「えっとね、魔法のこととか…貴族様のこととか…。レオン君はどうやってあんなにすごい魔法を覚えたの?」

「父上から教わったことが多いかな。あとはひたすら実践だよ。土魔法を使える用途が多いからね」

「すごい…同い年でそんなにできるなんて…。見習わなくちゃ」

「あはは、ミリエルも絶対すぐにできるようになるよ。ミリエルは誰に魔法を教えてもらったの?この村には魔法使いはいないよね」

「近くの街から月に一回、魔法使いさんが治療にいらっしゃるの。その時に少しだけ」


 魔法使いが平民から出るというのは大変珍しいことだった。そのため周りがどのように魔法を教えていいかが分からず、結果として才能が使われず腐ってしまうことも多い。ミリエルはいい環境に生まれたようだった。


「貴族様は王都で儀式を受けるんでしょ?どうだったの、レオン君」

「あの日はね……」


・・・・・・


 そんな他愛のない話を続けていると、すぐに日が落ちる時間が近づいていた。窓の外を見てレオンを家に帰らないといけないことを思い出す。両親にいらぬ心配はかけたくない。


「僕、もう帰らないと」

「もうこんな時間…。もっとお話ししていたかったけど…」


 ミリエルが名残惜しそうにつぶやくので、レオンはずっと考えていたこと口にする。


「ミリエル。今度からは僕の家で魔法の練習をしない?魔法に関する書物も多いし、教えられる人もいるから」

「でも、ご迷惑じゃ」

「遠慮しないで。それにきっと父上も母上も喜ばれるよ。初めてレオンが友達を連れてきたぞー、って」


 ミリエルは少し考えてから決心したようにレオンの顔を真っすぐ見つめる。


「じゃあ、行ってみたい。レオンと一緒に魔法の練習がしたい」

「また明日呼びに来るから、その時だね」

「うん。レオン君、今日はありがとう」


 ミリエルに別れを告げ、一階に降り外に出る。するとそこには馬車があった。ミリエルの父親が気を使って呼んでくれていたのだ。馬車に乗り込み車窓から先ほどまでいた部屋を見ると、ミリエルが窓の向こうから手を振っている。レオンも手を振り返す。色々な事が起きた一日だった。この調子で仲間を作っていければ、かつての魔王軍の軍勢を超えることも夢じゃないかもな、なんて子供みたいにぼんやりと考える。


 世界征服への一歩目は、もう踏み出されていた。

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