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Ⅷ.襲撃

・・・次の日の登校時間、彼女等が教室へ入ると、シャーロットの席の後ろに3つ並んでいた筈の座席が2つになっており、スピリットの転校初日と同じ状態に戻っていた。

「・・・・・?」

スピリットはグルントの席が無くなっているという異変にすぐに気がついた。否、誰も気づかない筈は無かった。だが、シャーロットは無視していつもの通りに通学鞄を後ろの棚に取りに行く。スピリットは不審に思って数mしか無い距離を彼女について行った。

・・・・・・教室の後ろの隅には、グルントが独りで佇んでいる。廊下側の逆の隅にはシャーロットの周りの席に座る女の子達が固まって、(たの)しそうにお喋りをしていた。

この場景の前となる模様を転校生のスピリットは知らないけれども、其でも(これ)が自然な場景である筈が無い事は判る。



「どいてくださらない」



―――シャーロットの意に介しない声に、グルントはえ?と聞き返した。



「邪魔ですの」



相手を想い()らないその言葉は、グルントだけでなくスピリットの心にも深く突き刺さる。な・・・・・・!とスピリットが声を上げる前に廊下側に居た女子のグループが急に騒がしくなる。クラス全員の視線が彼女達とグルント、そして機嫌を窺う様に、シャーロットに対しても注がれる。


「ですよね、シャルルさん!」

「グルントの席は私達が片づけておきましたから!毎時間後ろから覗き込まれたらシャルルさんも迷惑だし!」

「ペン‐ケースとかもお揃いにされて!」

「ほら、シャルルさんが邪魔って言ってんじゃん!早くどきなよ」

・・・・グルントは縋る様な眼でシャーロットを見つめる。シャーロットは全く取り合う気の無い素振りで

「・・・其方(そちら)の鞄を取りたいんですのよ」

と自分のネーム‐プレートが置かれた棚を指さした。

「は、はい」

グルントが代りに鞄を取ってあげようとした。すると

「シャルルさんの持物を触るんじゃないわよ」

クラスで一番の勢力をもつ取巻きグループの女子の一人が語気荒く言った。グルントが昨日まで女王様の様な態度で振舞っていたグループだ。グルントは顔を上げ、(おどろ)きと憎悪の視線でその女子を見る。


クラス‐メート達は街頭で始ったパフォーマンスを観る様な冷めた瞳で、表情を消して眺めている。グルントがクラス全員から元々好かれていなかった事が、昨日迄と今日での態度の落差で合間見えた。

シャーロットの取巻きのトップから降ろされて、機嫌を取る必要が無くなった事から手の平を返されたのだ。


「・・・ちょっと。邪魔とか酷すぎるんですケド」

スピリットは憤慨し、クラス全員の前で喝を入れる。之だから井の中の蛙は。

(こと)に、シャーロットは父親の能力を存分に継いだカリスマ性の持主だ。彼女の気の無い一言が、クラス全体の意向(まで)をも左右してしまう。その事に彼女自身が気づいていない。

「・・・?邪魔だから邪魔と言っただけですわ」

シャーロットは解せぬ様に言った。悪気無く相手を傷つける無神経さにスピリットはカチンときた。

「何ですかそれ」

スピリットがシャーロットと対峙する。併し当のグルントは、この期に及んでシャーロットに心酔し切っており、


「いいのよ」


と言った。スピリットは勢いを失くしてあぼんと顔芸を披露する。

「シャルルさんが仰っている事に間違いは無いわ」

・・・・・・確かに、物理的に邪魔であった事は間違っていないが。シャーロットの場合、其以外の言葉に下心は含まれていないのだろう。その事はスピリットも察してはいた。

「ですわよねー♪」

シャーロットがいい気になって口に手を添えて高らかに笑う。グルントが薄青い瞳をスピリットの方に向け、勝ち誇った様に(わら)った。この事に対して面白くない様な顔をしたのは、スピリットではなくクラスのシャーロットに取り入ろうとする女子達だった。男の子達は恐がって遠眼から成り行きを見守っている。

「・・・・・・」


スピリットはその日の放課後、グルントと離反したグループのメンバーに呼び出された。




「・・・・・・何ですか」

スピリットが頬を膨らませ、どっかと跳び箱の上に座った。此処は体育館の倉庫。いじめには定番のスポットだ。

こんなくだらない事、平気でスルーする度胸くらいは備えつけているが、待伏せされてシャーロットからも行ってらっしゃいなと笑顔で言われると、流されるしか無くなる。シャーロットはしつこくはあるが、スピリットの人間関係に関して口出しはしなかった。

「あんた、あたし等の仲間にならない」

「はぁ?」

あまりにベタすぎる展開にスピリットは驚きではなく呆れの声を上げた。

「ムカツクでしょ、あのグルントってやつ。あいつ、あんたにシャルルさんの隣の席取られて嫉妬してるんだよ。あんた、この侭だとあいつにイジメられるよ」

「だからあのヒトの独裁政権から解放されて反撃を始めたあなた達のグループについて、遣られる前に遣れという事ですか?くっだんない。何で私があなた達の下につかなければならないんですか?」

莫迦にした様に跳び箱の8の段から見下ろすスピリットに、天才と持て囃されて育ち今は多感な時期にある彼女等は当然(なが)ら反感を懐く。スピリットは腕と脚を組み、彼女等の傷つけられた自尊心を更に蹂躙(じゅうりん)する様に続けた。

「寧ろ、私があの席に座った事であなた達はあのヒトから解放された訳ですから、感謝して欲しい位ですね。あなた達が私の下につく事はあっても、私があなた達の下につく事なんて在り得ませんよね?」

悪意の笑みに彼女達は一瞬だけ黙った。ずるずると重い髪を揺らす少女の彼女達を射貫く事に躊躇いの無い眼は、彼女達の知らない世界を知っている様だった。

併し、否定される事が既に挫折という失敗である彼女達は(いき)り立ち

「・・・少し、シャルルさんに気に入られてるからって」

スピリットの座る跳び箱を掴んで倒そうとした。


「わっ。ちょっとっ」


ぴょんっとスピリットが跳び下りる。すると、がしっと腕を掴まれて、振り返った瞬間、平手が自身の頬に向かって飛んで来た。

「!」

「生意気なんだよ、あんた!」

スピリットは顔だけひょいと傾けて平手を躱す。むっとして掴まれていない方の手を振り上げた時、




ぱん!




と空気が割れた様な音が聞え、少女達は激しく動揺した。


「えっ、何」

「ちょっと()って、煙出てない!?」

倉庫が(たちま)ち白い煙に覆われる。いじめグループのメンバーがスピリットの腕を放した。

スピリットは身体を屈めて煙に紛れ、己の視界から煙を排しつつ、他の少女と同じ様に何をする事も無く立ち尽していた。

「・・・・・・っ!」

だが(やが)て、一足先に倉庫の扉を開け外へ駆け出す。

「外に出た方が良くない!?」

彼女達がその結論に行き着いた時にはもうスピリットの姿は跡形も無く、パニックになっている間は彼女等の内誰もスピリットの存在を覚えている者はいなかった。

「ちょっと!どきなよ!開かないってばっ!!」

「あんたが邪魔だから開かないんだよ!・・・・・・もうっ、どいてぇ・・・・っ!!」

「あたしが先よっ!ーーっ、こんなグループ、肝心な時に役に立たないんだから!!」


―――煙と共にスピリットが出て来て、倉庫の扉を閉め走り出す姿を、彼女が女子グループに連れて行かれるのを偶然に見て心配になったコンドルセが追い着き、広い体育館の扉が開放された遠い室外の廊下で目撃する。不審に思ったコンドルセが倉庫に駆け寄り、スピリットと入違いに扉を開けると、充満した白煙と共に4人の女子が外側に雪崩れ込んで来た。

少女達は嗚咽を上げて泣いている。

「・・・・・・、何だこりゃあ・・・・・・?」

女子等の介抱も程々に、コンドルセは倉庫の中の捜索を始める。

誰に助けて貰ったのかさえ判っていなかった女子達は、(ようや)く落ち着きを取り戻し

「ジャ、ジャン―――?」

「危ないよ。あの煙には、何が含まれているのかわかんないよ!?」

・・・彼の身を案じた頃には、彼は粗方(あらかた)既に倉庫を調べ尽していた。

「煙が外に出て行っても警報機が反応していないから大丈夫さ、屹度(きっと)


倉庫には煙が発生した証拠となる物は一切見つからなかった。広い所へ出された煙の移動は非常に早く、煙が何処から発生したのか、煙は本当に発生したのかは当事者にしか判らない。


「・・・・・・」


あまりに混乱を招く出来事であったので、彼彼女等の意識からはすっかり消えるようカムフラージュされてしまっていたものが在る。


空気を裂く様な、激しくも短い音の正体を。




―――メリディアニに立ち並ぶビル群の屋上に、シャーロットに狙いを定める狙撃手が()た。照準(スコープ)の中のシャーロットは珠の様な汗を散せ乍ら小刻みに動き、スマッシュを快く決めた時には振りを大きく笑顔を満面に煌かせた。

・・・・・・狙撃手の口の端が歪む。


――――・・・もう、俟てない


ゴーリスト=メイアンは全く行動を起さない。其どころか、シャーロット=メイアンの側に張りついている筈のスパイは未だ一つの報告も寄越さず、今回に至っては彼女の側にすら控えていない。狙われている当の本人は、暢気(のんき)にも趣味を充実させて、きらきらと幸せそうな顔をしているものだ。


――――私を莫迦(ばか)にしているのか

狙撃手の怒りの矛先は今、どちらかと謂うとゴーリスト=メイアンよりシャーロットの情報を持って来るスパイに向けられている。

――――少し、危機感を抱いて貰う必要があるか

シャーリーにしろシャーロットにしろ、そして、スパイ―――アナタにしろ、運命は自分が握っており、殺す事も可能なのだと

過激な方法を取れない訳でなく、取らないだけなのだと


シャーロットが第一の空砲に反応して動きを止めている間、狙撃手が彼女の額に照準を合わせて引鉄を引く。

丁度同時期、スピリットが外に飛び出し、グラウンドを駆け抜けコートに進入した。



「シャルル!!」




ドン!!




スピリットがシャーロットに蓋い被さり、(なら)した赤い地面に身体を叩きつけられる。スピリットの頭頂を銃弾が掠り、血が一本の線となって夕方の緋色の空中に舞った。


「スピリット・・・・・・!?」



ドサッ!!



「・・・っ・・・・・・、!?」


背中を激しく打って数秒間悶絶していたシャーロットは、すぐに目の前に降り懸った現実を直視し起き上がる。自らの身体に重く伸し掛るその実軽やかな体躯の少女はまだ、魔弾の悪夢から覚めてはいなかった。


「スピリット・・・・・・」

シャーロットはスピリットを抱え起し、据わらぬ赤ん坊の様な頭を片手で支える。多少の血液が令嬢の穢れを知らぬ掌に流れついたものの、日常の事故で見かける程度の少量は令嬢の心を恐慌へとは陥れなかった。

「お嬢様!」

帰りの車を待機させていたラヴェルもすぐに駆けつけ、シャーロットは自分の置かれた状況を完全に理解するより先に安全を確保される。併し更なる銃声が響き、令嬢とその従者は血の色が濃くなる上空のビルを見上げた。



パァン!!



入手した許の銃に実弾が中り、狙撃手は漸く自らも狙われている事に気がついた。銃の部品がばらばらと崩れ墜ち、証拠がばら撒かれる事を防ぐべく手で必死に押え乍ら、狙撃手は敵が何処に潜んでいるのか周囲をぐるりと見渡した。自らの潜伏するビルと同じ高さの屋上に、見つかっても(なお)身を隠そうとしない男の姿が視認できる。


時代後れの軍服を着た男は照準(スコープ)越しに狙撃手と視線を合わせると、前兆の無いスムースな流れで次の弾を発射した。

「・・・――――!?」


パン!


銃弾は狙撃手の肩を掠り、避けた弾みで狙撃手は身体を大きく仰け反った。肩への衝撃で思わず銃を取り落す。壊れた銃は床で砕かれ細かい部品の幾つかは柵の合間を縫って遠い地面へ墜ちて往った。

「く――――!!」

狙撃手は肩を押え、崩れる様に柵の高さより低い位置に身を屈め、己を狙う男から姿を隠す。

おのれスパイめ、此方の動きをメイアンの方に告げ口していたな―――!

最初から裏切る心算で自分に近づいて来たというのか。


「許・・・・さん――――!!」


狙撃手の怒りは並大抵のものではなかった。信頼の上での危機感の喚起、そう之は叱咤激励であった筈だ。その土台である信頼を無下にされたのだから仕方が無いのかも知れない。

併し目的を果せていない今の段階で事を大きくする訳にはいかなかった。寧ろ武器を壊されている今、証拠を遺さず逃げ去る事が精一杯で、銃撃戦に持ち込まれると圧倒的に不利である事は冷えた頭でなくとも本能で判る。

逃げの技術が狙撃手に無い訳では無かった。巧い方ではなかったが、犯罪というものは行為を遂げ、逃げ果せるので1セットである。男の戦力が当人のみという偶然が功を奏して、狙撃手は辛うじてメリディアニを脱した。部品は粗方回収したが、屋上から8階下の地面に墜ちた物に関しては、棄て()かざるを得なかった。


「・・・・・・仕留め損ねたか―――・・・」

屋上からシャーロットの脅威となり得るもの総てを俯瞰していたSPは、狙撃手の行方を見失い銃を下ろした。恐らくビルの内部へと潜り、一般人に交って何気無い顔をして地上へ逃げるという何の変哲も無い方法を使ったのであろうが、独りではたとえ向い合ったビルの1階であっても待伏せをする事は難しい。無駄足の可能性が非常に高いし、屋上から下りれば他の危険に気づき難くなる。

犯人の血液と、使用銃の一部を押収できただけ収穫としようか。

SPは群る野次馬と其に囲まれる令嬢・そして担架に乗せられる元気そうなスピリットの視えるEOSの校庭を見下ろす。

・・・多少ひやひやした事だが、二人共無事である様だ。

―――スピリットが居なければシャーロットはどうなっていたか知れない。

「――――・・・」

SPは憐憫とも驚嘆とも取れる表情に口を真一文字に結ぶと、僅かに眉をひそめた。

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