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Ⅴ.思い出の人たち

からん・・・


図書館(ライブラリー)は、現在こそ図書館として定着しているが、(かつ)ては洗濯部屋であったり、ポーカー‐ルームとなっていたり、ラジオ談話を行ない全国にこの部屋からメディア発信していたりと用途はその時期の大統領に()って万別であった。ゴーリスト=メイアン大統領の時に図書室に改装されている。


「!」

入るなり、シャーロットは宝石の様な眼を猶一層煌かせると、スピリットの手を引いた侭少し奥まった棚へと走った。


「おじさま!!♪」

引っ張られた手を急に離され、スピリットは思いっ切り前へ転がり込んだ。ばったん。・・・誰も受け止めてくれない。

併しお嬢様にはやはり御伽噺の様に白馬に乗った王子様が―――・・・

どん!!


「・・・・・・・・・!!」



―――其処に居たのは、王子様ではなく、おじさま。



待って俟ってまって。白馬の王子は無いにしても、図書館での男女の出逢いという如何にもジュヴナイル小説の舞台で好まれそうなロマンティックな場面(シチュエーション)に、この年齢差って()り得なくない!?ま、まぁ、最近は年の差カップルも流行っているけれど!!全く、この小説は(ことごと)くフラグを折ってくれる。


(しか)もこのおじさまは本で塞がれた手と逆の手の指を腰刀の鍔に掛けており、物凄い形相でシャーロットを睨んでいた。


「シャ,シャルル・・・・・・!」

「?」

スピリットは慌ててシャーロットを引き寄せた。



「お久し振りですわねおじさま!お元気そうで何よりですわ。何を読んでらっしゃるの?」



・・・・・・その男とはボロ=マーシャルだった。マーシャルは柄から手を離し、ス・・・と棚を見る事も無しにもう一方の手に在る本を戻す。本の少しの間詮索する様な顔を見せると強面からはとても想像できない柔かな笑みを浮べ


「・・・・・・之は之は、シャーロット嬢。御機嫌は如何かな?」


と、紳士的に手を差し延べた。スピリットは鳥肌を立てる。

併し、シャーロットはこのおじさまを慕っている様で

「おじさまにお逢い出来る日に機嫌が悪い訳がありませんわ。お父様にはもう御逢いされたの?今日は警察の仕事はお休み?」

と忙しなく手と口を動かし、スピリットにした様に手の甲にキスをする。そして、自らの頬を差し出してキスをねだった。

ひっ・・・とスピリットが小さく悲鳴を上げる。マーシャルも口角を引きつらせて絶望的な表情を一瞬浮べた。

「?どう為さいましたの?おじさま」

・・・・・・ボロ=マーシャルにはこの大統領令嬢との面識は無い。

「・・・ええ。今日は貴女の御父上に用が有りまして」

少し掠れた声だが丁寧に答え、さっさとシャーロットの頬にキスをした。スピリットはうわぁ・・・という顔をし、益々(ますます)疑心暗鬼になる。


「あッ。そうですわ!」


まだ何かあるのかとスピリットもマーシャルもシャーロットにとって彼等の顔が見えない位置で死んだ表情になる。だがシャーロットがスピリットの腕を掴むと二人共真顔になり



「おじさま、わたくしお友達が出来ましたの!この子ですわ♪」



―――互いにその互いの顔を眼に焼きつけた。



「・・・・・・」


「・・・・・・」



―――男は剣幕を隠す事無くスピリットを見下した。スピリットも負けじと男を上目で睨む。


「この子は「スピリットです」

スピリットはシャーロットの言葉を遮り、攻撃的に自己紹介した。マーシャルは益々疑う様な視線をするも、全くという程場の空気を読まないシャーロットが今度はマーシャルを引き寄せ、彼が名乗る前に紹介する。


「スピリット、こちらはコネチカットおじさま。お父様のお友達の、国家刑事警察機構で局長を務めておられるとても偉い方で、わたくしの将来の上司になる方ですのよ♪」


はあぁ!? マーシャルは思わず叫びそうになって、堪えて喉元で声が引っ掛って気が遠くなった。・・・やはりコネチカットと自分を勘違いしているか、てか余計な約束をして死にやがって。


「コネチカット・・・・・・?」


スピリットも聞く筈も無い上層部の名を紹介されて、困惑している。この上層部の人間の名を知っていたならば、間違い無くこの物語で尾を曳く事となるだろう。

「―――マーズ=コネチカット=マーシャルだ」

シャーリーだけでなく慕っていた『おじさま』まで居なくなったと判れば、シャーロットの心はどうなるだろうか。そう口止めを依頼された対象の名前をマーシャルは吐き出す。

大統領の杞憂に因って脹らむ茶番に、このボロ=マーシャルも出演せざるを得ない様だ。

「・・・・・・オミシリオキを」

スピリットがぞんざいに手を伸ばし、握手を求める。マーシャルも払いたい気分だったが、伸ばされた以上は握手を交した。其は協定が結ばれたとも謂えよう。役者は之にて揃う事となる。




そして、之等の初顔合わせの後、事件は現実と幻想を伴って、幕を開ける。




「まま・・・まあまあまあ・・・・・・!」




シャーロットはスピリットの元から離れて自分の手に残る量の多い髪を握りしめ、深刻そうに彼女を見つめた。


「・・・・・・ごっそり抜けてしまいましたわ・・・・・・!」

「エクステですから!それ!!誤解を生む様な表現しないでください!!」


メイアン‐ハウスの紹介が一通り終了した頃には陽はとっぷり暮れており、蒼い夕焼けも沈みかけていた。


「其にしても貴女、地毛ではなかったのですわね」

「悪いですか?憧れていたんですよ、ストレートロングッ」

シャーロットの柔肌からするりとドレスが流れ落ちる。床に落ちた滝の様に滑らかなドレスを跨ぎながら少し前方に傾くと、ブラに包まれた2つの果実が谷間をつくる。

シャーロットは手を止めず一連の流れで窮屈そうなブラを外すと、たわわなその実を露わにした。

「・・・・・・」

スピリットは絵画に描かれる様な女神の裸体に憤死しそうになっている。前をバス‐タオルできゅっと覆い、見せるのを躊躇った。

シャーロットはすっと後ろへ回り、つー・・・と背は無防備なその身体に指をなぞった。

「貴女、短い髪の方が似合いますわよ。背中流し易いですし」

「!っ!!」

ぞわ、ぞわわっ、とスピリットは身体を震わせる。

「余計なお世話ですっ!!」

スピリットは自分がエクステンションを着けている事は黙っている心算(つもり)でいた。併し


『お背中お流しご奉仕しますわっ♪』


・・・・・・あろう事かお風呂に一緒に入ると言い始めたので、暴露しない訳にいかなかったのだ。

・・・大体、ご奉仕のどこに(たの)しみがあるのか。萌え小説の読みすぎである。

「―――昔話のおばあさまの気持ちがよく解りますわ・・・川で洗濯をする時の感触ってきっとこういう感じですのね・・・・・」

「ーーーっ!」

他人の背を強引に流しておいて感想がコレか。而も力の加減を知らずゴリゴリと削る様な音がする。スピリットは耐えられなくなり

「いいい痛いです!もう結構!」

鏡を背に手を回して擦られた所を摩る。・・・ヒリヒリする。少し赤くなってるし。

「貴女、きちんと食べていますの?肌もこんなに真白で。よく虚弱になりませんでしたわね」

「あなたには言われたくありませんよ・・・いろんな意味でですね」

確かにスピリットは、いつも強気な姿からは少し意外に感じる肌の白さであった。だがシャーロットも負けず劣らず透ける様に白い。シャーロットは色の違う両の眼を細め、幼い子供みたいに無邪気に微笑む。美少女だとは見る度に想うものの、彼女を初めて可憐に感じ、スピリットは思わずその貌を(みは)った。

「な・・・何です」

スピリットはドキドキした。シャーロットはそのくせ妖艶で、ストイックで倹約的な背に、ふくよかである程女の象徴である其を押しつけてくる。

「お姉様が居た時は、いつもこう遣って、背中の流し合いっこをしていたんですのよ」

スピリットは銅色の眼を見開いた。

過去形の述語とは裏腹にシャーロットは懐かしんだ様子は無く、現在進行形で愉しんでいる様に見えた。




ジャキッ。


まさに檻の中とも謂える処で、ジャンカルロは武器の手入れをしていた。様々な大きさの銃数種類、軍刀、鉈や斧といった原始的な物迄も机いっぱいに広げ、一つ一つを分解し、綺麗に拭き、組み立てて番号を確認する。


檻の外で彼を追い、物騒な其等に眼を釘づけにされていたシャーリーは、堪えられなくなって格子を掴む。

「ねえ・・・!」

騎士的な雰囲気を醸す色素の薄い赤髪緑眼の悪党は、ちらと若葉が芽吹いた明るい其でシャーリーを照らした。

「何をする心算!?お父様も、其程(それほど)早く決断を出来る筈が無いわ!まだ何日と経っていないでしょう。お願いだから邸への襲撃はやめて!!」


シャーリーはジャンカルロの潤んだ瞳の中で溺れている。ジャンカルロは腰まで届く内巻き気味の髪をくねらせ、


「邸への襲撃は在り得ないのでご安心を、マドモアゼル。ゴーリスト=メイアンを傷つけるなんて、ワタシも望んでいませんからね。其に、確かに制裁(ジャッジメント)を下すには期日が早すぎる」

「では・・・其をどうするの?貴方、之から何処か外へ出る心算でしょう。私も連れて行くの?」

女みたいに華やかで繊細なタッチのまつげに12番口径の銃の円筒を近づける。不釣合なもの同士を対面させる、銃とはやけにマッチした腕は、機能を確認すると銃をボストン‐バッグに詰め、やはり不釣合な白いスーツの袖を下ろして次の銃を取った。

「売るんですよ」

「売る・・・・・・?」

再び彼は銃を構える。机の上に並べていた武器を全てバッグの中に詰めて仕舞ってから、ジャンカルロは(うなず)いた。

「この銃一つ一つには、番号が控えられている。もう用済の銃です。中には発砲した物もあるから、手離さなければ身許(みもと)が知れますのでね」

シャーリーは自分が誘拐される直前に、頭上で銃声が鳴り響いて思わず身体を竦めた事を思い出した。


「ワタシが“シゴト”に出ている間、アナタには此処に居て頂く。若しかしたら之でお別れになるかも知れません。銃を売ったら叉別の銃を買い、アナタの妹について調べなくちゃいけない。アナタと同じ様に此処へ連れて来るかどうかは別として、ゴーリスト卿側の動きに対応できるよう知っておかなきゃいけませんからね。メリディアニの地理も頭に入れておかなくちゃならないし、遣る事は尽きない」


シャーリーはほ・っと息を吐いた。監禁されている事に変りは無いとは謂え、犯罪者と二人きりで一つ屋根の下で暮すよりは遙かにましである。外が苛酷な環境ではあるが、人が住んでいない訳では無い。逃げるチャンスも生れるだろう。


そう考えを廻らせたところで、ガチャリと檻を丸ごと収めた部屋の扉が開いた。



「まぁ~上玉だこと~。どっからどう見てもいいトコのお嬢様やない~。なに、買い取って欲しいって?」



「ロゼッタ」



入って来たのは腰の曲った背の低いおばあさんで、ぎょろりとした眼でシャーリーの怯えた顔を捉えると、極めて自然に商談の流れへと会話を持っていった。

南や西の遠い地域で、人身売買が行なわれていたと家庭教師に教わった事はある。併し、其を自らが経験するとは想ってもみなかった。本当に武器商人や売買組織の仲介業者と面識があるのだ。

「彼女は大事な客人だ。売りでもしたら―――」

「はいはいて。――全く、女には冷ややかな男だ。で、何の為にこんな極くんだりまであたしを連れて来た?この娘をどう調理したらいい?」

「マドモアゼル」

ジャンカルロは年寄りの戯言を無視し、冗談とも本気とも取れずに不安がるシャーリーにロゼッタを紹介した。

女性(レディ)にはやはり女性が好いかと思って、彼女をアナタの世話役にしようと思う。御実家の様に、とはどうしてもいかないが、何でも彼女に相談するといい」

「お嬢様は屹度(きっと)何も出来ないだろうからな。あたしがあんたの使用人になって遣るよ。

た、だ―――逃げようとした時は容赦無く売り飛ばすがね―――。之で良かろう、ジャンカルロ」


シャーリーはジャンカルロの方がまだいいかも、と慄いた。

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