表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌剥  作者: 工場長
6/12

サカサミズ(逆さ水)

 精霊(せいれい)の言うとおりに斜面を下っていくと、拍子抜けするほど簡単に民家を見つけることが出来た。

 ただ、一軒だけ。人里(ひとざと)があると噂で聞いたが、どこかで尾ひれがついたか?

 兎にも角にも、この山を調査するには拠点が必要だ、どこでもいいから一週間ほど邪魔させてもらえないだろうか。

 そんなことを考えながら、民家に近づくとタイミングよく戸が開いた。


「ん?」

「おぉ、良かった人が住んでいたのか」


 出てきたのは男だ。さわやかな顔にがっしりとした体格、女に引っ張りだこにされそうな好青年だ。


「あんた誰だ?ここいらでは見ない顔だが」

「俺は、ナツナというものだ。旅をしながら忌剥を行っている、すまんねいきなり。少々困っていてな」

「はぁ……」


 男は何が何だかという顔をしていた。




 男の名前はマサキというらしい。マサキは意外にも(こころよ)滞在(たいざい)を許してくれた。なんと要望(ようぼう)よりも多く、二週間の滞在だ。

 しかし、マサキか。どこかで聞いたような名だが。


「いいところだろう?今はこんなだが、ホントなら綺麗な紅葉(こうよう)が見られるんだ」


 マサキは土間(どま)(ふち)に座り込むと、戸の外に広がる山を見つめた。


「いつからこんなことに?」

「さぁ、ね。まぁ気づいたのは夏の始まりあたりだわな。日差しがかなりきつくなってきたのに、そこら一帯が花畑(はなばたけ)なんだぜ?流石にその時にはおかしいって思ったな」

「半年くらい前か?」

「今十月だよな……気づいたのが六月だから、まぁそんくらいか、我ながらよくこんな不気味な所に住んでるよなぁ」


 やはり、精霊の言っていることは嘘ではなさそうだ。となると山神が生きているのか、それとも死んでいるのかが重要だな。生きているなら、本来の仕事に()かせる。死んでいた場合は……面倒だ。


「マサキさん、だっけか。あんた以外にはこの山に住んでるのはいないのか?」

「いんや、俺以外はこの山を去っちまったよ」

「いつ頃に?」

「みんな山がおかしいってことに気づいて、あとは畑が腐っちまってからだな。山はこんなに力強いのに、村の畑はダメみたいだな」

「にしては、民家はここ以外……」


 少なくとも斜面の上から見た時にだって、民家らしきものはここ以外に見えなかった。


「山が成長しているみたいでな、人がいなくなってから二か月くらいで跡形もなく、だ」


 マサキは土間に入り込んだ小石を拾い上げると、それを手の上で遊ばせ始めた。

 しかし、山が成長する?二か月で民家を飲み込んでしまうほど速く?いや、この山の力を考えると十分あり得る話ではあるか。


「あんたはなんでここに留まる?周りと一緒に別に(うつ)っても良かったんじゃないか?」

「だな、いまはそう思うよ」

「なら、なぜ?」

「ん?んー」


 マサキは土間から立ち上がると、家の外に出ていく。すると手に持っていた小石を、全力でぶん投げた。


「あんた、ちょうどあっちの方から来たんだろ?」


 マサキが指さしたのは小石が飛んで行った方、そしてナツナが下ってきた斜面だ。

 そして、あの桜の木があった方。


「……そうだが。それが?」

「道中に綺麗な桜、なかったか?」

「あぁ、あったよ。立派な奴が」


 マサキは「そうか、まだあるか」というと、ナツナに背を向けるように歩き出した。


「俺な、あそこで小さい女の子を見たことがあるんだよ」

「へぇー、そりゃいつに?」

「笑うなよ?まだ十にもなっていない頃だ」

「笑いやしないが。ただの見間違い、それか近所の子じゃないのか」


 マサキの言う小さい女の子とは、恐らくあの精霊のことだろう。確かマサキは今、二十五歳だったはず。


「見間違いか。やっぱりそうなんだろうかね」

「ん?」

「まぁその時見かけた女の子、結構特徴的な見た目してたから、付近で見かけたら絶対に気づくはずなんだけど。それらしい子はいなかったんだ」

「特徴的……金髪で仮面付けてたか?んで地味な着物の」

「着物、まではわからんが、金髪だったな。仮面はなし、もしかして見かけたのか?!」

「落ち着け。二十年近く前の話だろ?だったら、今頃は良い女になってるはずだ」

「そう、か。だよな、普通に考えればどっかに(とつ)いでるよなぁ」


 マサキは落胆したように頭をうなだれさせてしまう。なんというか


「そいつのこと好きだったのか?」

「……ばれたか」


 恋する乙女というやつだな。

逆さ水 サカサミズ


一に


通常、湯加減を調節する際は湯に水を入れるのに対し。水に湯を入れて調節する法、これを逆さ水と言って人々は忌とした。


二に


死にかけた生き物、水に入れ、水中にて尾を持ちそれを振る。死にかけた生き物を生かす法。禁とする。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ