ツンボバナ(聾花)
幼女はひとしきり笑ったあと、ブラブラと揺らしていた足を木の幹の上で組み直し、胡座をかく。
「はぁ」
そして退屈そうに頬杖をつくと、大きなため息をついた。
「おい、お前里の子供か?」
「……」
ナツナがそう訪ねても一切反応しない。まるで聞こえていないかのようだ。
「おい、そんなとこにいたらあぶねぇだろ、降りてこい」
ナツナは再度少女に声をかける。今度は絶対に聞こえるであろう声量だ。
「……」
それなのにこちらを見向きもしない。
「ったく、なんだってんだ」
正直、先程のこともあるので木の下には入りたくはなかったが、毛虫がいるようなところに子供を無防備で居させるのもあれだ。危ないだろ。
「おーい、何やってんだ、そこの……雑面みたいなのつけてるやつ」
幼女はやけに特徴的な面をしていた。
何かの文字をかなり崩して、線の一つ一つを顔のパーツとして形成している。困ったような眉に、半笑いの口と目。鼻はない。
何とも言えない不気味な紙面だ、子供が付けるのには悪趣味なほど。
「……?」
と、ようやくナツナの声が届いたようで、面がこちらに向く。真正面から見るとさらに不気味だ。
「……」
「なんだ?まぁいいか。なぁ、お前この先にある里の子か?頂上から探してみても見えなくて困ってるんだが、里まで案内を頼めんだろうか」
さすがに子供一人で住んでるなんてことはないだろう。
里、まではいかなくとも誰かしらの家があるはず。ナツナはそこに一日か二日間ほど邪魔させてもらえないか、なんて考えていた。もちろんタダでとは言わない、礼儀は大切だ。
「お前、マサキか?」
「いや違うが、俺はナツナという。各地を旅しながら忌剥をしている者だ」
ほとんど喋っていなかった幼女が唐突に口にしたのは、全く聞いたことのない名だった。
マサキ。ナツナは頭の中でその名について考えてみるが、やはり知らない名前だ。
「そうか」
「お前は?なんて名前だ」
「お前には教えん」
なんというか子供のくせに可愛げがない、それに偉そうだ。
「なんでそんな面をしてるんだ」
「不敬だからな」
それは教えてくれるのか。
「不敬?誰にだ」
「山神様にだ。わかるか?下劣な人間め」
なるほど、こいつは里の子供でも、幼女でもなさそうだ。恐らく山神に仕える精霊の類だろう。道理で偉そうで可愛げがないはずだ。
そしてそういうのがいるということは、やはり山神も存在しているのだろう。
「山神はどこにいる?山の管理がなおざりになっているように見えるが」
「そんなこと知るか、あのお方は。主様はとても気まぐれなのだ」
「気まぐれに山をボロボロにするような神なのか?無責任だな」
少々癇に障ることを言って、つついてみたが。果たしてどうだろうか。
「そんなわけがなかろう!あの方はとてもやさしく、とても高貴なお方だ!貴様のような人間や、私のような下等なものには理解の及ばない方なのだ、適当をぬかすな!」
やはり明確に怒った。だとすると本当に信頼の厚い神なのだろう。だがそれなら何故姿を見せないのか。何故こんな形で山を放り出しているのか。
優秀な神だと聞いていた反面、このような有様になってしまっているのが、ナツナには理解できなかった。
「あーわかったわかった、悪かったって。とりあえず降りて来いよ、この距離だと話しづらい、首も痛い」
幼女、もとい彼女のいる位置的にナツナはずっと見上げる形になるのだ。木漏れ日がキラキラして眩しいし、角度的に首がつらい。
「ふんっ」
精霊はなにやら不満そうだが、思いのほか素直に飛び降りてきた。
もしかすると意外と話の分かるやつかもしれない。
「なんだ?」
「山神についていくつか聞きたい」
聾花 ツンボバナ
雨降りの花。
多く干ばつの地にて確認あり。
摘み取ると雨呼び寄せる、のちに花摘み取りし者、聴くべき力を亡失す。
いくつかの法を除き不可逆。忌として対処すべし。
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