ナゼ(撫ぜ)
脳内プロットをちゃんと整理した結果。三部構成では絶対に無理だと判明しました。
多分5~6部くらいまで続きます。
あと今回からサブタイトルの忌言葉について解説入れます。僕の解釈が入ってるんで、そういう設定だという感じでお願いします。
「桜、秋に咲くもんではないな」
明日から十月。桜が秋ではなく、春に咲くことは 無学なナツナでも知ってる。それにこの時期の桜なら、 紅葉が始まっていてもおかしくないことも知っている。
にもかかわらず、この桜は美しい薄い桃色の花弁を舞い散らせていた。これでは完全に季節感が狂ってしまう。
それはこの桜に限った話ではなかった。思えば、この山には赤や橙、黄といった色に染まった木々がないどころか、葉っぱの1枚もない。
ナツナが抱く異質な感覚はあの桜だけでなく。この山にある、草木全体へと広がっていた。
「これが噂に聞く山神の力か」
以前、忌剥の集まりで聞いた事のある噂。
西の山に忌剥ですら近づけないほどの、揺るぎない力を持つ山神が住み着いている。と聞いたのだ。
元来山神とはさほど強大な存在ではなく、せいぜい邪な思いで山に立ち入る愚か者どもを追い払う程度のもの。知識を持った忌剥にとっては脅威とは言えない。
たまたま近くまで来ていたナツナは、そんな山神なら会ってみたいと思い、わざわざ足を運んだのだ。
「しかし異様だ、山神は侵入者の排除のほかに、山の管理も行うはず」
見たところ、山の管理は春先で完全に停止しているように見える。
ナツナは広場の中心にそびえる桜に近づいていった。
桜に近づくほどに花の香りが強くなっていく。むせかえるような甘い香りに、ナツナは鼻で呼吸するのをやめた。
「これは……」
桜の真下まで来たナツナは、あることに気付いた。
「山に力が流れすぎている、一番顕著なのがこの桜ってところか」
当然だ、いくら強力な山神とはいえ自然そのものに逆らうには相応の力がいる。秋を春に捻じ曲げるために必要な力は、ナツナには計り知れないほど強大なはず。
その証拠に桜の木はボロボロだ。樹皮からは可視化されるほどの、強い山の力が流れ出し、酷く熟れた匂いを放っている。
恐らく周りが広場のようになっているのも、この桜が一帯の養分を吸い取っているからだろう。
「これでは延々と全力で走っているのと変わらない、このままじゃ山がもたんぞ」
山神は何をしているのか。いや大体だが予想はつく。
とりあえずと、ナツナは試験管を腰のカバンから取り出し、桜の樹皮から流れ出る液体をなみなみ注いだ。
「失敬」
何に使えるのかわからないが、山から流れ出た力。それも可視化されるほど強大なもの。職業柄こういったものは気になって仕方がない。
幸いなことに試験管はあと二本ある。それに、この山吹色の透き通った液体は湯水のように樹皮から流れ出ている、もう少しもらっても文句はないだろう。
「くそー飲んでみてぇ、竹筒でもあればなぁ」
二本目の試験管に液体を注ぎながら、ナツナは叶わない願いを口にした。
何しろこの香り、この濃度。適した割合に薄めれば飲めないこともないはずだ。一体どんな味なのだろうか。
「おい、そこの」
「ぅおっ」
三本目の試験管の準備をしていると、不意に声を掛けられた。
あまり、人に見せられるようなことをしていたわけではないので、ナツナは少し驚いてしまう。
恐る恐る振り返るが、そこには誰もいなかった。
「……?まさか山神じゃないよな、だとしたら少々厄介だぞ」
結局三本目の試験管は、空のままカバンにしまい込み、周囲を改めて確認した。
「誰もいない、空耳か?」
ナツナは冗談交じりに言った。当然そんなはずはない、確実にはっきりと聞こえた。
「ふっ」
鼻で笑うような声と共に、肩に妙な感触が走った。これは良くない感触だ、少しチクチクするような感触。
右の肩に視線を向けると、親指ほどの茶色い物体が目についた。
毛虫だった。
「うお、マジか!」
ナツナは近くに落ちていた小枝を手に取ると、それを使って毛虫を払い落とした。
跳ね上がった心臓の音を抑えるように、ゆっくり桜の木の下から歩み出ると、大きく息を吐いた。
「あー」
まぁ山を歩き回れば、稀によくあることだ。
「気持ちわりぃ」
肩をもう一度見るとわずかだが毛が残っている、今すぐにでも脱ぎ捨てたいが、山の中で半裸はさすがに無謀すぎる。
「あっははははは」
「ん?」
完全に冷え切ったナツナとは裏腹に、高らかに笑う声が背後から聞こえた。
いや違う、正確には背後にある桜の木の上からだった。
「あー愉快愉快、バカみたいだなぁ、あはははは」
そこにいたのは桜の幹から伸びた太い枝に腰掛ける、薄い金の髪色の幼女だった。
撫ぜ ナゼ
忌宿りし船、幣束にて船体を撫で、海に流すことで忌を剥ぐこと叶う
これ総じて撫ぜという。
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