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忌剥  作者: 工場長
2/12

キツネノゴシュウギ(狐の御祝儀)

 山に入ったものの、続くのはひたすらのけもの道。人の手が入っているような形跡(けいせき)はほとんどなく、こうして棒切れで蜘蛛(くも)の巣や、成長した草木を(はた)き落としながらでないと、満足に(あゆ)みを進めることすら出来なかった。

 本当にこんなところに村などあるのだろうか。こんなにも人の気配のないところを歩き続けていると、デマでも(つか)んだかと少々不安になってくる。


「全く、どうしたもんかね。それにしてもなんて蒸し暑い所なんだ、ここは」


 記憶が正しければ明日から十月に入る。異名では神無月(かんなづき)と言ったか。

 夏などとうに過ぎ去り、もはや秋に両足を踏み込んでいるはず。にもかかわらずこの春先のような気温と、雨の後のような湿気が山の中に充満している。

 時折、木々の間を吹き抜ける涼しげな風だけが、秋であることを教えてくれた。

 だがそれも悪いことばかりではないようで、


「蒸し暑いが、景色は良い。気温と水気が手伝っているんだろうな」


この異様なほどの気候のおかげで、草木は鮮やかに生い茂り、岩には一面に苔がむしている。

 実に美しい。まるで初夏を思わせるような瑞々しい緑が、ナツナの視界に広がっていた。

 頂上まで登れば民家の一つ位見えるだろうか、そんなことを考えながらナツナは山の斜面を進んだ。



 ナツナが頂上に着く頃には太陽は真上を過ぎ去り、僅かに西へ傾き始めていた。

 忌剥(いみはぎ)として旅を始めてかなり経つが、この山は旅の中でもかなり辛い環境だった。斜面を登る度に小休止(しょうきゅうし)を挟んだり、暑さから逃げるように上着を脱いだりもした。

 そうしてようやく頂上に着いたナツナは本来の目的も忘れ、近場にあった倒木に背負っていた箱を叩きつけるように置き、座り込んでしまう。

 頂上と言うだけあって風を遮る木々は少なく、とても心地のいい風がナツナの火照(ほて)った体を癒していく。

 体の火照りが削ぎ落ちていくのと反比例するように、体には余裕が満ちてきた。するとなんでもないことが気になってしまう。

 香りだ。

 ()れた果実のように甘く、絹のように柔らかい花の香り。気を抜けば気のせいかと思ってしまいそうになる程の(はかな)甘美(かんび)な香りだが、確かな存在感があった。これは気のせいではない、それに嗅いだことのある香りだ。

 この香りは風に乗ってここへと漂ってきているようで、ナツナは風を頼りに香りの元へと向かった。

 山を降り、谷へと斜面をいくつか下ったところに少し開けた場所があった。香りがいっそう強まったその広場の中心に香りの正体があった。


「こいつは驚いた」


 ナツナはその正体を目にすると、ひどく驚いてしまう。

 それはとても立派な桜が、満開の花を咲き誇らせていたからだ。

 その姿があまりにも異質で、異様で。見た目の美しさと同じほどの(あや)しさを秘めていたからだ。


 


 話の終わりに忌の解説でも入れようかな。


 面白ければ今後の励みになりますので評価の方をお願いします。

 低評価でもいいんですよ。どこが悪かったか教えてくだされば、もっといいです。

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