side8 基礎能力チェック
投稿時間がまちまちで申し訳ないです
カタタタタッ!
(スゲーよ!お隣さん!何かキンキラしてて強そうだ!)
執務室で迷宮主様から強大な加護を与えられ進化したオレは部屋を辞して早速通常業務へと戻っていた
出向先が偶然オレが元々いた場所で顔馴染みのお隣さんが進化したオレを見て驚愕と共に絶賛してくれていた
『そ、そうかな?個人的には色が変わったのと力が漲ってる位にしか違いが分からないんだが…』
そっけなく応えたが実はかなり強くなった実感がありさっきの応答は恥ずかしさの余り謙遜して発した言葉だった
白色から銅色に、そして金色に変化した骨は密度が飛躍的に上がり筋肉等とうに失せたこの体がギュッ、と引き締まった感覚がある
進化した後で下賜された新しい鎧は何かの呪物の様で身に着けた途端骨を覆う皮膚の様にしっかりと体に融合した
肉を失ってから久しく忘れていた「感触」が戻った事でオレが狼狽していると迷宮主様が笑ってその理由を教えてくれた
『キミは進化してコアが肥大したでしょ?鎧はそのコアに反応してキミのコアを護る様に適応したんだよ
鎧はもうキミの一部となったから脱いだりは出来なくなったけどその分強度はそこいらのドラゴン以上に硬くなった筈さ』
…ドラゴン以上!?
これが本当ならオレの体に傷をつけられる人間なんて数える程しか存在しない、という事になる
『あ、キミも色々スキルが増えたと思うけど鎧も沢山のギミックが備わっているから暇を見つけて馴染むと良いよ』
カルチャーショックを浴びせられたかの様に覚束無い足取りで執務室を辞そうとしていたオレに迷宮主様はそうお言葉を掛けて下さった
一刻も早く迷宮主様に恩返しする為には大至急授かった能力を把握せねば!
お隣さんが誉めちぎるから何事か?と集まって来たご近所のモンスター達の騒ぎを何とか躱しオレは迷宮中層にある広い空間へ急いだ
この空間は以前まだこの迷宮が半分程の階層しか持たなかった時代下層のフロアボスとして君臨していた邪竜の為に拓かれた場所だと聞いた
昔百人からの巨大パーティーを組んだ冒険者達に邪竜は倒され直後に掛けられた浄化魔法により消滅させられてしまったそうだが
名残りであるこの空間は依然として邪竜の体躯の巨大さを物語っていた
『よし、此処なら暴れても平気だろう』
周囲にモンスターの気配がない事を確認し、エビルデュラハン様にお伺いを立てる
進化してナイトメアスケルトンナイトになった事でデュラハン様の系譜に名を連ねるモンスターとなったみたいで念話が通じる様になっていたのだ
(『デュラハン様、今お時間はありますでしょうか』)
(〈む?どうした?〉)
(『はい、迷宮主様より授かったこの力を把握したく是非デュラハン様にお力をお貸し願えればと』)
(〈成る程、お前は忠臣だな。まだ完全に馴染むには時間が掛かると言うのに早く能力を把握して主様にご恩をお返ししたい、と思っておるのだな?〉)
(『っ!?何故それを??』)
(〈念話初心者には良くある事だ。念話を繋げた相手に己の思考が駄々漏れになっておるぞ〉)
そ、そうだったのか。。。
デュラハン様の説明では念話とは思考を直接対象者の脳内に伝える便利な能力ではあるのだが慣れていないと話したい内容の他に自身の気持ちや考えが同時に流れ込んでしまうそうだ
慣れれば会話と思考は別に出来るそうだしオレの迷宮主様に対する敬意がどれだけ漏れようとも謗られる事はないので問題はなさそうだ
そんな考えに耽っていると急に目の前が暗くなった
驚いて目線を上げるとエビルデュラハン様が既に立っていた
『っ!?こ、これは…』
〈あぁ、「転移」したのだ。進化したお前も勿論使えるぞ?〉
『…知らなかった…』
〈魔法については追々教えてやろう。さて、早速基礎能力を確認して見るとしようか〉
『っ!?お願いします!!』
…その日オレは死なない体なのに何度も死ぬ思いを味わわされた…
デュラハン様は自身の背負う大剣を抜くとありとあらゆる角度からオレの体を斬りつけた
刃と鎧が擦れ合う度に派手に散る火花と剣戦の音は迷宮内に響き渡り潜っていた冒険者達は恐怖で迷宮を飛び出し
同僚であるモンスター達もデュラハン様から放たれる殺気に当てられて意識を失ったり逃げ惑ってしまったらしい
〈む、「硬い」な〉
永遠に続くかと思われた恐怖の時間がふいに終焉を迎えるとデュラハン様がオレの体(鎧)をこう評価した
黄金色の骨の影響か、所々金色に染まった鎧はデュラハン様でも驚く程の強度を持っているそうだ
『す、凄いですね…』
〈流石主様だな。では次、〉
その言葉の終わりが聞こえるや否やオレの周囲には赤色に染まる魔方陣が視界を覆う程の数で出現した
『・・・ぎゃあぁぁぁぁっ!?』
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
。。。パラパラ…
〈ほう、魔法耐性も中々…〉
剣戟の次は息つく暇もない魔法攻撃に能力チェックを気軽に頼んだオレの迂闊さを激しく後悔したが…デュラハン様の強力な攻撃にもオレの体と鎧は耐えてくれた
流石に無傷とはいかず浅い傷は無数に負ったが鎧は自己修復機能を保有している様で即座に傷を埋めていった
〈ここまで素晴らしい鎧と体を与えられるとは…お前も中々の幸運の持ち主の様だな〉
『は?…え?…め、迷宮主様の加護のお陰でしょうか?』
〈恐らくな。強度で言えば儂よりも「堅い」かも知れぬぞ?〉
『ははは…まさかぁ!?』
本気を出せば多分この迷宮ごと崩壊させられそうなデュラハン様
その濃密な力に侵された漆黒の鎧よりも強度がある鎧とか。。。
雑魚モンスターのオレにはオーバースペック過ぎる代物だろう
〈ふむ、強度は最上位、次は身体能力と魔法適正の確認か…〉
『え・・・・いやぁぁぁ~!?』
それから数週間、オレの悲鳴とデュラハン様が起こした振動は迷宮の異変として冒険者達に危機感を抱かせ暫く立ち入り禁止にまで発展したと言う話だった
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皇歴28年に発生した迷宮に於ける異常現象は調査の結果中層の巨大空間で起こったモンスター同士の戦闘に拠るモノと判明した
数代前の皇帝在位時に猛威を奮っていた邪竜の復活か?と思われたが現場調査に向かわせた兵士の報告では恐らく魔物型のモンスターではなく高位の人型モンスター同士の戦闘が行われた形跡が残っていたらしい
邪竜に匹敵する程の力を持つ高位モンスターが何故争ったのかは不明だがその後の経過観察を鑑みると迷宮探索業務は再開しても害はないと判断する
尚、今後中層より下層を目指す冒険者達には新たなモンスターを発見した場合の報告義務を課す事とする
━帝都迷宮調査官チョ・マテ
人間界で歴史に刻まれる程の災害災害扱いされている事なぞ露とも知らないオレは更に時間を掛けて精進する日々を送る事となった