side4 目に留まる
カタタタタ!シュッ、
「ぎゃっ!?」「っ!?」
此処は迷宮の第1層、比較的イージーなエリアである噂が広まった
~迷宮の浅い層で良いアイテムを落とすスケルトンが時々出現するらしい~
冒険者達は迷宮上がりの酒場で己の幸運を見せびらかす様に中位のポーションや毒消し等をチラつかせる
「くっそー、俺が潜った時には何で出くわさねーんだよ!」
「私は二度遭遇したけど二度目の時は「スカ」って書いた木板しかドロップしなかったわ…」
「へへっ、俺達は三回ともなかなか良いアイテムを落としてくれたぜ!」
こんな噂で持ちきりになった翌日は第1層が異様に混む様に迄なっていた
ギキィィーーー!
「チッ、ゴブリンじゃねーか!」
「スルーして例のスケルトンを探そうぜ!」
…ギキィ?
噂を聞きつけた冒険者達のお目当てはオレ。
しょっぱいアイテムしか落とさない他のモンスター達には目もくれない状況に陥り迷宮内はおかしな空気が蔓延していた
この異常事態を重く見たフロア管理モンスターが上司に報告、回り回ってとうとう迷宮主の所迄上がって来ていた
『…ふぅ~ん、なるほど。そのスケルトンにちょっと会いに行ってみようか?』
〈はっ!〉
迷宮主は執事のエビルデュラハン様を引き連れて第1層に視察に出掛けた
。。。
「オラオラッ!雑魚はあっち行っとけや!」
「俺達の目当てはレアドロップをするスケルトンだけだ!」
迷宮主達が第1層に到着するとソコには異様な熱気に包まれた冒険者や一般人の姿で溢れかえっていた
『ほぉ、これは予想よりも遥かに混雑していますね』
〈は、申し訳ありません…〉
『…貴方、直ぐに謝る癖は直した方が良いですよ?』
〈は、申し訳…っ!?〉
隠形スキルで存在を隠した迷宮主達はそのまま第1層を視察していく
カタカタッ!「ぎゃっ!」
「いたぞっ!多分コイツだ!!」
迷宮主達がソコに見た光景は━━
何故か律儀に列を成した人間達とたった1体、彼等と闘い続けるやけに動きの良いスケルトンだった
カキンカキン、ズシャッ!
「チッ、サザがやられた!」
「よっしゃ!やっと俺達の番だぜ!!」
「ほら退けよ!アイツとやり合いたいならまた列の後ろに並び直しだぜ!」
『…何処の握手会ですか?』
〈…は?えっと…申し訳ありません〉
一体で捌き切るには無理な数の冒険者達を順繰りに相手取るスケルトン
その横には同じスケルトンがいるが冒険者達は全く目もくれずただただ目の前にいるスケルトンだけを目指して律儀に整列している異常な光景
『…デュラハンさん、夜になったらあのスケルトンを執務室迄呼び出して下さい』
〈は、畏まりました〉
迷宮主は一言伝えると転移魔法により第1層を離れた
━━━━━━━
〈迷宮主様、例のスケルトンをお連れ致しました!〉
『あ、入って来て良いよ』
〈はっ!ホラ、入るぞ!〉
大騒ぎが常態化したある日、オレは上司の上司、更に上司のトップでもあるエビルデュラハン様に呼び止められ終業後に彼の所に向かった
個人的には企業努力として行った「ちょっと良いモノ落とす作戦」
が予想よりも遥かに集客を上げ第1層の混乱を招いてしまった事を見咎められたのだろう
連日の闘いによりちょっと強くなったとは言え従業員トップのエビルデュラハン様と最下層モンスターのオレとでは天地以上の力量差があり彼の怒りに触れたのならきっとオレは瞬殺されて復活すら出来なくなるだろう
それでもオレは後悔していない
抵抗空しくただただ倒される毎日は迷宮による復活能力で保護された肉体はいずれにせよ心が磨耗していくのだ
いっそのこと復活出来ない様に殺してくれ!と願う程に。
恐る恐る扉を潜ると目の前には生まれた時以来お目にかかる事すらなかった迷宮主様が大きな机の向こうに座ってオレを見つめていた
…終わった…
オレの行動は上司のトップどころか迷宮主様の逆鱗に触れていたのか…
『やあ、今書類を片付けるからソコに座って待っていてくれるかい?』
カ、カタカタ…
(は、はひぃ…)
汗腺があるのなら全身びっしょりに濡れる程の汗をかいていたかも知れない
その位緊張しつつ次のお声掛けを待っていると
…ペラ…ペラ…トントン、バサッ
『ふー、やっと終わったよ』
迷宮主様は大量に積まれた書類に一通り目を通し終えた様でメガネを外し目頭をギュッ、と押さえながら立ち上がった
カ、カタカタカタカタッ!
(あ、あのっ!何か色々とすんませんでしたっ!!)
迷宮主様が立ち上がった瞬間、跳ねる様に釣られて立ち上がり深々と頭を下げる
勢いが良すぎて頚椎の関節が脱臼し頭蓋骨がプラプラと揺れるがそんな事ぁ今どうでも良い
以前、迷宮主様の逆鱗に触れた暴虐モンスターは見せしめに処罰され未だに下層の溶岩窟に沈められ永遠に等しい苦痛を味わわされていると聞いた
エビルデュラハン様なら恐らく一撃でオレを屠るだろうと高を括っていたのだが叱責の主が迷宮主様となると全く意味合いが違って来る
カ。。。カタカタカタカタ!
(こ、骨髄に虫とか捩じ込むのだけは勘弁して下さいっ!)
オレは己の行く末を案じ死に物狂いで頭を下げまくっていた