side10 は、はじめまして
低層から中層迄の管理を各フロアボスモンスターや管理者達にお願いした
『・・・という事でオレはこの現場を皆さんにお任せし迷宮主様のご指示である中層以上の活性化に取り組ませて貰う』
今では加護のお陰で超絶進化を遂げたが少し前迄は此処にいる全員の足元にも及ばない非力な雑魚モンスターだった
その気持ちを忘れない様に、皆さんに深く頭を下げてお願いしていると皆の視線が柔らかくなった気がした
ギュギュア、ギュグル
(確かに嫉妬はあるがお前のアイデアで皆活気が出たんだ、感謝こそすれ妬んだりはしないさ)
グケー!グケー!
(そうだそうだ!メアは「叩き上げ」代表なんだから応援するぜ)
そう言って応援してくれると何だか嬉しい
『皆さん…ありがとう…』
今後の方針会議に集まったモンスター達に温かく見送られオレは気を引き締めて中層の階段を下って行った
━━━━━━━
〈貴様っ!たかがスケルトンの分際でワシに意見をするかっ!!〉
管理下にあった中層から降りて浴びせ掛けられた第一声がコレであった
『…は、はじめまして…』
物凄い剣幕に初手の挨拶もぎこちなくなってしまったが今目の前に立ちはだかっているのは中層寄りのフロアを統括しているキメラというモンスターだ
獅子と山羊の頭を持ち強靭な足腰で中層以降の10フロアを一気に駆け抜けるキメラさんはオレの到着を感知してカマして来た、と言う訳だ
『えー…今後協力して集客力アップの為に尽力しましょうね?』
〈フンッ!貴様の力など頼らずとも冒険者共なぞ何百人でも呼び込んで全て屠ってくれるわっ!〉
うわぁ。。。完全に敵視されてるじゃん…こんなスタートで今後大丈夫かな…?
。。。
と言う訳でキメラさんにお願いして普段の行動を見学させて貰う事にした
低層の雑魚モンスターだったオレにはこの階層での様子なんか全く予備知識がない
それに此処まで到達する冒険者となると地力も何もかも次元が違って何をどうしたら活性化出来るのか、まるでイメージが湧かなかったのだ
キメラさんはフロアボスなので先ずは一般的(?)なモンスターと冒険者達の戦闘を拝見させて貰う
━━━
「っ!出たぞ!」
「バジリスクだと!?」
「皆!石化に注…」
「ボーウェーーーン!!」
グギャアァァッ!メシャッ!
『…えーーーっと。。。』
〈フフッ、我が配下はどうだ?〉
今目の前で引き起こされている惨劇にオレは顔を引き攣らせている
どう考えても中層との格差が酷過ぎる
やっとヨチヨチ歩きが出来る様になった子供にハーフマラソンを強要する位隔絶した実力差がソコにはあった
『え~…まだ中層の入り口付近ですよね?なのに何故バジリスクの群れが此処に?』
〈ワシの配下には冒険者に後れを取る様な軟弱なモンスターはおらぬ!この程度で全滅する冒険者共が悪いのだ!〉
あ~…こりゃ思ったより厄介な事態に陥ってるわ。。。
キメラさんに礼を言い下層以降の管理者の下を訪れて見ると予想通りとんでもない事実が発覚した
〈そうじゃのぅ…最近冒険者がやって来たのは50 年程前になろうかのぅ…〉
『…そうですか…ですよねぇ~…』
迷宮主様が放任主義なのか、中層階の入り口である25階~35階の間に強力なモンスターが多数存在していて35階を突破して来る冒険者が殆ど現れていなかった
25~35階の管理者は例のキメラさんだ
となると35階以降の従業モンスター達は殆ど働いていない「不良債権」ならぬ「不良モンスター」になっている
何度も言うが迷宮の維持には冒険者達の魂エネルギーが必要な訳で回収出来ていない35階層以降のモンスター達はタダ飯食らってのんびり生きているだけなのだ
強いモンスターになればなる程活動に必要な魔素やエネルギーは増える
現状中層迄に得たエネルギーで不良モンスター達の必須エネルギーを賄っている有り様である
(道理で経営がカツカツになる訳だ。。。)
各階を聞き取り調査をして問題点も判明したのでオレは中間報告としてエビルデュラハン様の下を訪れた
『失礼します』
普段執事兼警護の為に迷宮主様の側に仕えるデュラハン様も冒険者達が引き揚げる深夜には自室の書斎に戻っている
彼も迷宮経営の補佐をする以上書類整理の一端を担っているのだ
〈ふむ、それで問題点は分かったか?〉
『はい、それはもう…』
オレは強者が跋扈する中層前半の歪さと下層の燃費の悪さを指摘した
〈む?いかんのか?〉
あ~、こりゃデュラハン様の意識も改革しないと中層以降の集客力アップなんて望めないわ。。。
『…デュラハン様、質問なのですが人間に化けられる魔導具とかあるのでしょうか?』
〈ん?あるにはあるが…お前程のレベルであれば人化は容易いであろう?〉
。。。え?そうなの?
〈見た目のみ化けるのであれば「人化の術」でほぼ気付かれぬ程にはなれる。完璧に偽装する必要があるのであれば呪具等を使う必要もあるだろうがな〉
『そ、そこまでは…では人化の術を是非お教え下さい』
〈…人に化けてどうするのだ?〉
『はい、化けて一度迷宮を出て…冒険者達の「意識調査」をしたいと思っております!』
〈?。。。意識調査だと…?〉
━━━━━━
此処は迷宮に程近い街の酒場
この街は迷宮探検を目指しやって来る冒険者達相手に商売をする者達が作ったのが始まりだと言われている
「いやー、今日はハズレだったな…碌なドロップアイテムも拾えなかったし」
「へっ、オイラ達は中級ポーションとか結構当たりを引いたぜ」
「おいオヤジ!酒を追加だ!」
荒っぽい冒険者達の喧騒が満ちた酒場に見た事もない形の鎧を着こんだ男がやって来た
「…っ!?」「何だアイツ?」
「見るからにヤベー奴だな…」
男の鎧は漆黒の鋼で構築され所々に金色の素材が光っている
禍々しいその鎧からは何か呪物の様な気配が発せられ見かけた冒険者達は微妙に距離を置こうと目を背けた
『…済まぬが酒を』「…あいよ」
カウンター席にゴトリ、と置かれたエールの容器に兜の面を上げて口をつける男
「…もしかして呪いが掛かってんのかよ?普通飲む時は脱ぐだろ、あんな重そうな鎧は…」
「強ち間違いじゃないかもよ?」
ヒソヒソ話が酒場のあちこちから漏れ出る程男の発するオーラは異様だったのだ
(…ふぃーーー!バレてないよな?大丈夫だよな??)
不敵な外見とは裏腹に内心バレやしないかとビクビクしているこの男、お察しの通りオレです。
中級以降の改革を推し進める為に視点を変えて情報を得ようと人化の術で人間に化けて人里?の酒場にリサーチしにやって参りました
突貫工事で習った人化の術はまだ未熟で兜の下に人間の顔を再現するだけで精一杯だった
お陰で鎧を脱ぐ事も出来ず悪目立ちしているのは想定内とは言え異様だろうな…
味覚も朽ちた口内に温いエールを流し込むと早速周囲の冒険者達にリサーチを掛ける事にした
『…あの~…』・・・サッ、
『すいません』・・・ササッ、
。。。
『…あのっ!』「ひいっ!?」
・・・何故だっ!!??
入店してから興味あり気にオレを注視していた冒険者達に声を掛けてみたが近付くだけで目を逸らされしまいには悲鳴まであげられた
幾度かのやり取り(無視)を目撃した他の冒険者達はオレの視線を避ける様に(こっち来んな)オーラを全開にしている
。。。り、理不尽過ぎる…