四話
翌日の朝、僕は荷物…主に作業道具だが、それを取りに帰るため寮をでて自分の作業場へ向かった
僕の作業場は意識してはいなかったが、地図を見ると意外にも図書館と近い距離にあることがわかった
街道をしばらく沿うように歩いていき、ある曲がり角で路地裏に入った
さっきまで街を明るく照らしていた日の光は遮られ、少し暗い雰囲気が漂う道を進んでいく
道の奥にあるのが僕の作業場兼寝床だ
専門学校を本来2年やるところを一年目で辞め、冒険者ギルドで仕事を受けながら、ここで寝泊まりしたり魔道具を作ってたりしていた
特に大したものは置いていないが、思い出深い場所だ
立て付けの悪いドアを開けて中にはいる
魔道具の残骸たち避けながら廊下を進み、奥の作業スペースへ
発光する魔道具を首にかけて、部屋の隅にあったカバンを手に取る
「 さてと… 持っていきますかね。」
そう独り言をつきながら大きな机の上に散らばったノミや槌、彫刻刀等の道具をカバンに詰めていく
「 これと…これも… あとこれもか」
一通り道具をしまったことを確認し、作業場をあとにする
「 よっと…こうやって一気に全部持ったことはなかったけど、結構重いんだな」
ロングソード並みの重さのカバンを背負って、路地裏に出ると聞き覚えのある声から話しかけられた
「 よっ! アトラス! 朝からそんな重そうなカバン背負って一体どこにいくんだ?」
その声の正体は俺の古くからの親友のカインだった
カインとは幼馴染で今は遠くの街に住んでいるのでなかなか会うのが久しぶりだったりする
「 なんだ…カインか驚かせるなよ。」
「 なんだとはなんだ。昨日お前と会う約束して、夜まで待っても来なかったから今ここにいるんだが?」
カインは少し怒った口調で圧をかけてくる。
(あー そういえば昨日会う約束してたのすっかり忘れてたな… )
「 ごめんごめん(笑)昨日ちょっと忙しくてさ、夜までかかったんだよね。」
「 それでお前なにしてんの?カバンなんか背負っちゃってさ。」
「 あーこれ? 実はさ、住み込みの仕事につけるようになったから大事な荷物持ってこうと思ってさ。」
「 やっと見つけたのか、よかったじゃん。それでどこの仕事だ?魔獣関係?」
「 ああ 図書館でまj… 」
[ 魔獣 ]という単語を言いかけた瞬間に昨日アルベルトから言われた一言が脳裏によぎった
「 ------ここでの情報の一切の口外を禁止する。」
昨日の夜、寮に入るまえに一言、そう言われたことを思い出した。
( やべっ… つい喋るところだった…!)
「 図書館!? そんなところで何して働いてんの? 本の整理とかしてんのか?」
「 えっと…あーーうん…まあそんなところかな。人手が足りてないっぽくてたまたま入れたんだよね…」
「 よかったじゃん、やっとまともな場所見つかってさ!住み込みで図書館の施設なら結構いい場所住めるんじゃないか?」
「 そうそう!昨日見てきたんだけど、結構きれいで思わず感動しちゃったよー。それで…」
なんとしても切り抜けようと、適当に話をあわせながら話をずらしていく
幸いにもカインとはしばらく会ってなかったので、近況を聞きながら図書館の話から遠ざけることができた
「 前会って話したときはこの後どうなるのか心配だったけど、大丈夫そうで安心したわ。」
「 おう!そっちも剣の練習頑張れよ!」
「 じゃ!また今度な!」
そう言って、路地裏を後にするカイン
カインが見えなくなるまで待って見送ると、近くに積まれた箱に腰を掛ける
「 はぁー! 焦った…!話を合わせるのって結構大変なんだな…しかもカインのやつ細かく聞きやがるし…
そもそもなんで書庫整理で住み込みになるんだよ!そんなわけあるか!それに会話のほとんどが超適当に話してるし、自分で話してて気持ちわるかったわ!」
突っ込みどころ満載の会話に早口でいろいろ言い続けるアトラス
1分ほどしゃべり続けたあと、大きくため息をついて、立ち上がる
「 まあばれなかったし良しとするか…」
僕は重いカバンを背負いなおし、図書館へと戻るため歩き出した
自分の部屋にもどるため、連絡通路を歩いていると昨日の、工房で魔道具を作っていた女性に出会った
「 こんにちはアトラスさん。いい朝ですねー」
挨拶されるとは思っていなかったのですこし焦った
「 こんにちは えっと… グリアモールさん」
「 エレナでいいでいいですよー。私の家名言いにくいと思うので… ところで背負ってるカバンはなんですか?」
僕が背中に背負っている。妙に大きいカバンを指差して質問を投げかけてきた
「 あ これは…前住んでた場所から持ってきた作業道具で、大事なものなので持ってこようかなって…」
「 たしかここは外から持ってきた物は一旦警備の人に預けてからじゃないと持ち込めなかったはずです、寮へ行くまでに警備室の前通ると思うので、そこで検査してもらって下さいね。」
「 知りませんでした。ありがとうございます!」
「 いえいえ このルールを破って、かなり痛い目をみた人を知ってるのでそうならないようにと… ちなみにそのかばんには何が入ってるんですか?」
「 えっと 実は僕魔道具作るのが趣味で結構いろいろ作ってるんですよ。それの道具ですね。結構大事なものなので…」
「 魔道具を作られてるんですか! 昨日すごい沢山質問をしてもらったのでもしかしてと思ったんですが…アトラスさんも魔法研究員を目指してたとかそんな感じですか?」
「 え いや 魔法研究員とかではなくて…父が魔道具の研究者で作ってるのを見てるうちに気になって、父の手伝いとかをしたり、僕が15のときに手伝ってもらいながら初めて魔道具を作って、そこからハマった感じです。
「 そうなんですか、すごいです!私なんか先月初めて魔道具作り始めた素人なので…尊敬します。」
「 いや僕はそこまで上手じゃないですよ エレナさんが昨日作ってた魔道具の方が全然すごいです!」
「 先輩に手伝ってもらいながらなんで全然すごくないですよ。まだまだわからないことばかりで…」
通路で立ち話をしていると、奥の扉が開き一人の女性が出てきた。
「 エレナさんー! ちょっといいですか?さっきの魔法陣の彫りかたのことで相談したいことがあるのでー」
「 あ わかりました!今行きます! すみません ではこれで失礼します。また今度話しましょう!」
そう言い残して、開いた扉の中に入っていった
「 よし! 俺も頑張らないとな。」
通路を進んでいき、途中の警備室で言われた通りに検査を受け、無事okをもらうことができた
すぐに自分の部屋へと戻り、カバンを置き、装備を整えて待機スペースに行く。
待機スペースに行くと、そこにはもう2人ほど待っていたようだ
「 おっ!やっときたか。アルベルトから聞いてるぜ。アトラスだろ? 俺はハイル・フォン・ダルティアだ。よろしく!」
勢いよく、少し荒々しい言葉遣いで話しかけてきたのは、背の高い金髪の男性だ、かなり体格がよくて如何にもな感じだ。
彼が座っていた近くには彼のものであろう槍が立てかけられてる。
(変わった形の槍だな…先端が結構曲がってるし、どういう武器なんだろ…?」
「 もう少し丁寧にやりなさいよ… 子供じゃあるまいし。」
そう言うのは隣にいるのは僕と同じくらいの身長の女性。
鎧のようなものは身に着けておらず、腰に二本の剣を下げている。
「 このくらいの方が接しやすいだろ? わざとやってんだよ。」
「 あっそう。まあいいや。私はレーナ・フェルン・ロタリオス これからよろしく。アトラス君。」
すこし雑な感じもする挨拶をした彼女と握手をし、こちらも軽く会釈をする。
「 これからよろしくお願いします…!ってロタリオスってもしかしてアルベルトの…」
「 やっぱり、いつも新人の子には言われるんだな… アルベルトは私の叔父だよ。」
「 そうなんですか!」
「 あーアルベルトみたいに「 すごい強い 」みたいなのには期待しないでねー 私そんなに強くないから。」
「 ま 俺より弱いから、アルベルトより弱いのは当たり前ってことだな。わかってるじゃん」
「 確かに強くないとは言ったけど、少なくともあんたよりは強いから。黙ってて。」
「 あーそうですかっと」
すねた様子のハイルは向こうにある資材置き場へと歩いて行った
「 まああいつはほっといていいよ。雑魚だから。多分アルベルトから聞いてると思うけど今日から早速仕事してもらうよ。はいこれ日程表。」
レーナから一枚の紙が渡された。
そこには一週間分の仕事の割り振りが書かれていた。
「 なになに…今日と明日、明々後日の三日か」
「 君はこの日に来てくれればいいよ、別に毎日来てもいいけどね人手は足りないし。」
「 わかりました!」
「 ハイル! アトラス君と一緒に見回り行ってきて!」
そう大きな声で遠くにいるハイルに声をかけるレーナ
「 りょーかい そっち行くわ。」
「 アトラス君連れて見回り行ってきて。せっかくの新人が魔獣と出くわして怪我されても困るから早く。」
「 へいへい。ほら行こうぜ。」
槍を手に持ち、保管エリアへと続く通路へ入っていくハイネ。
「 わっ わかりました!」
ハイルの後を追って進んでいく