三話
感想お待ちしています。
「 やつが来る。一旦伏せなさい。」
「 はいっ!」
伏せながら台の陰に隠れたその瞬間、目の前を光が三つ通り過ぎた
( 魔獣だ! )
魔獣は少し離れたところにあるぶら下がった天井の照明に止まった
光を放ち、鷹のような鋭い爪とくちばしをもっている
「 あれが…魔獣… 」
( 僕が魔獣をはっきりと捉えたのは実は初めてだったりする )
( 遠くから見たことなら何回もあるが、近距離で見ることはなかった。対魔獣戦闘を教えてくれた学校でも、実際に魔獣と戦うことはなかったし、緊張している )
魔獣を注視していると、アルベルトが話しかけてきた
「 アトラス君。戦えるな?」
「 …やれます。」
アルベルトが先に出た
腰に下げた短剣を抜き、構える
それに反応するように、魔獣達が飛び立ち、こちらに向かってくる
「 魔法障壁…!」
そう小さく呟いたその瞬間に、アルベルトの目の前に淡い光を放つ半透明の壁が出現した
向かってきた魔獣達はその壁に阻まれ、弾き返される
「 僕も加勢します! 」
鞄からナイフの魔道具を取り出し、魔力を込める
魔力が溜まり始めると、先端から魔力の刃が伸びていき3倍程度に延長された
「 私の後ろにいなさい。やつが弾かれてひるんだところを狙うんだ。」
三体の魔獣のうち一体のみが再び突撃してくるタイミングを見計らう
魔獣の一体が空中で旋回し、再び攻撃を仕掛けてくる
アルベルトの魔法障壁によって防がれ、勢いがなくなったところを切りつける
~~~学校にて~~~
『 魔獣には、人間で言うところの心臓にあたる器官を必ず持っている。コアと呼んでいる。それを破壊すれば魔獣は死ぬ。』
そう学校で習った通りに、必死にコアであろう結晶体を切りつける
何回も、何回も切りつけようやく砕くことができた
コアを砕かれた魔獣は徐々に体を構成する魔力が散っていき、すぐに跡形もなく消滅した
「 はぁ…はぁ… やった…!」
喜ぶのも束の間、アルベルトが声を上げる
「 油断するな! まだ来るぞ! 」
魔獣がこの一体だけではないことを一瞬忘れかけていた
仲間を倒して油断し、隙を見せたアトラスに気づいた魔獣は狙いをアルベルトからアトラスへと変えた
「 えっ うわっ! 」
向かってくる一体目はナイフで防御するも、体勢を崩され転んでしまう
間髪入れず二体目の魔獣が向かってくる
その攻撃もナイフで魔獣の進行方向をずらし躱すも
( まずい! ナイフが!)
そのナイフも大きく弾かれ、その衝撃で吹っ飛ばされてしまう
魔獣は再び突撃の体勢をとり、今にも向かってくるだろう
敵の攻撃を防ぐ手段を失ったアトラスと魔獣の間にアルベルトが横入する
手に持った短剣を一度鞘に納めたかと思いきや、短剣の柄を握ったまま魔力を溜め始めた
魔力の光が鞘越しでもわかるほど、輝いていた
魔獣が二体同時に突撃してくる
強烈な光が一瞬放たれた
思わず目を瞑る僕
金属音があたりに鳴り響いた
再び目を開けたその瞬間、辺りには砕かれた魔力の塊が飛散していた
魔獣だったものだとすぐ分かった
あまりにも衝撃的な光景に一瞬言葉を失った
目の前に立つのは、剣を納め手帳に何かを書き込んでいるアルベルトの姿だった
「 一体何を… 魔獣がこんなになってるし…」
「 無事か? 大丈夫そうだな… それにしてもいきなり戦闘になるとは、君も運がないな(笑)」
少しバカにするような表情で話しかけられた
「 あはは… 」
「 戦って間もないところ悪いんだが、まだ案内しなければならないところがあってだな。ついてきてくれ。」
「 はい! もう大丈夫です」
立ち上がり、飛んで行ったナイフを急いで回収してアルベルトのあとをついていった
歩きながらさっきの戦闘について質問してみた
「 あの、さっき残りの魔獣二体をどうやって倒したんですか? 剣に魔力を集めてたのだけはわかったんですけど、そのあと何があったのかわからなくて…」
「 特に難しいことはしてない。やつのコアを破壊した。魔力を溜めて、威力を底上げして確実に仕留めた。」
( すごい… 僕が破壊するのにあれだけ時間がかかったコアを一瞬で壊したってことか… )
「 手を出さずにどの程度戦えるのかを見ていたんだが、戦闘技術については悪くはない。冷静にコアを狙ったのも評価できる。」
「 あっ ありがとうございます! 」
「 だがまだ未熟な点が多いのも事実だ。コアを破壊するのにあれだけ時間がかかると複数体と同時に戦闘したときにとどめを刺しきれない可能性がある。一体倒して油断しているのも危険だ。常に次の敵を意識しなさい。」
「 わかりました… 」
「 ところでアトラス君が使ったそのナイフはもしかして自分で作ったのか? 少し見せてくれないか?」
「 これですか? いいですよ! 」
手に持っていたナイフを差し出す
「 これは一年前に半年ぐらいかけて作ったやつです。結構うまくできたので気に入ってます! 」
アルベルトはナイフをじっくりと観察したあと、ナイフを返した
「 すごいな。私は魔道具の製作に関しては全くの素人でね、感心するよ。かなり出来が良い。」
「 ありがとうございます!」
「 しかしこれは誰かに教わったのか? 明らかに市販されている魔道具とより使われている技術が上だが… 」
「 僕の父さんが魔道具の研究者で… 教えてもらったんです。」
「 ………そうか 一度会ってみたいものだ。アトラス君の父親に。」
少しの沈黙が続いたあと、そのまま歩いていると十字路に差し当たった
「 さあこっちだ。 この先が案内したい場所だ。」
そう言って右の方の道に進んでいく
奥に見えた大きな扉をゆっくりと開くと、壁のない広い空間に沢山の机や棚が陳列されている場所だった
奥には壁沿いにいくつもの棚に多くの材料らしきものが並べられている
「 ここでは召喚書の解読とその技術の応用を研究している。また私とアトラス君が所属する制圧隊の待機スペースでもある。」
「 ここで召喚書の研究をしているんですか… 」
あたりを更に見渡してみると、右側には壁沿いに大量の武器らしきものが少し雑に並べられている
その奥には鍛冶場のようなものも見える
「 ここ武器も作っているんですか? それっぽいものが沢山あるので… 」
「 制圧隊に所属するメンバー専用に作っているんだ。もちろん研究成果の実践投入という面もあるにはあるが。」
「 そうなんですか…」
「 私は用があるから、少しの間ここにいてくれ。今は人が少ないが、魔道具を作る職人もいるからいろいろ見て回ると面白いかもしれないな。」
そう言い残して、入口の扉を開けて行ってしまった
歩き回りながら施設を見て回ると、ある机の上に作りかけの魔道具を見つけた
細長い魔法陣が剣の柄にはめ込まれている
( 不思議な書き方だな…見たことないな )
初めて見る書き方を観察しようとして、思わずまじまじと見ているといきなり横から声をかけられた
「 あの~ 作業したいので、どいてもらえると助かるのですが… 」
話しかけてきたのは、少し小柄な女性だった
眼鏡をしていて、手には小さい木材と定規を持っていた
「 あっ はいっ! すみません! すぐどきますっ! 」
びっくりして慌ててしまった
「 ありがとうございます。」
彼女は椅子に座り、持っていた木材を机に置いてあった小刀で削り始めた
( あの魔道具を作ってた人なのか… )
後ろから彼女の作業を見ていると、さっき見ていた魔法陣のことが気になり質問してみることにした
「 すみません! 作業中だと思うんですけど聞きたいことがあって…! 」
いきなり声をかけたので少し驚いたようだったが、
「 これですか? 全然いいですよー 」
「 ありがとうございます! えっと…これなんですけど……… 」
いろいろ質問をすると自分が知らなかった知識がいくつも貰えた
最初は一つ、さっき見つけた知らない書き方についてだけ聞くつもりが思いのほか会話が盛り上がって、気づいたころには十分以上過ぎていた
「 やあ、エレナ君。」
話をしていると、アルベルトが戻ってきたようだ
「 あ ロタリオスさん。 こんばんはー 」
「 そういえば、二人とも初対面だったな。アトラス君、私から紹介しよう。こちらは先月からここに配属された、研究員のエレナ・グリアモール君だ。」
「 よろしくお願いします。ここに魔道具技師として働いています。」
「 そしてエレナ君、こちらは今日から制圧隊に入ることになったアトラス君だ。」
「 よろしくお願いします! 」
「 今日最後の説明だ。アトラス君。寮について説明する。あの扉が見えるか?」
そう言うと、左奥にある扉を指さした
「 あの先の階段を上がると寮がある。君の部屋は準備してあるから、そこに荷物を運んでくれ、鍵を渡しておこう。」
アルベルトから部屋番号が書かれた鍵と寮の地図を渡された
「 わかりました。」
「 今日の案内はこれで終わりだ。明日から仕事についてもらうから、今日はゆっくりするといい。」
「 エレナ君も作業を切り上げて休むといい。」
「 わかりましたー キリがいいところまで進めて、あがりますね。お疲れさまでした。アトラス君もお疲れ様。」
そういうとエレナは机に向かい、再び小刀で木材の整形を始めた
「 お疲れ様です! 」
寮の区画に入り、地図を見ながら自分の部屋を探していく
「 えっと… 108,108,108っと… あった!ここか! 」
108号室と彫られたプレートが張られたドアの前には中くらいの大きさの箱が置いてあった
中身を確認すると生活用品が詰まっていた
箱を持って、ドアを開け部屋の中に入る。
「 ここが僕の部屋か… いままで作業場に泊まってたからな…自分の部屋なんて久しぶりだな。」
「 明日作業場の荷物も持ってこないとな… 」
ちょっとした部屋の整理をした後、ベットに横になった
天井をみながらボーっとする
( 今日は驚くことが多い一日だったなぁ… )
( 明日から頑張らないと…! )
当たり障りのないことをいろいろ考えながら、僕は眠りについた。
解説 : 魔法陣について
召喚書と都市結界に使われている技術。
魔法術式を専用の書式で、特殊な素材に彫り込むことで魔力を溜めるだけで刻み込んだ魔法が発動できるという代物。
解説 : 魔道具について
前述した魔法陣を組み込んだ、道具や武器のこと。
通常の魔法と異なり、魔力を溜めるだけで疑似的に魔法が使えることが最大の利点。
これによって魔法が得意でない者でも魔法が使用できるので、期待されている道具。