9.剣と魔法で
朝食を終えると、わたしたちは歯を磨き、それから学校ジャージに着替えた。
そしてキーファ、モーファに連れられて石造りの廊下を進んだ。
その場所にたどり着くには、五分もかからなかった。
最初にわたしたちが召喚されたような、体育館ぐらいの広さの部屋だった。
部屋の中には、ロイシュテバが待っていた。
「お二人はよく眠れましたか?」
ロイシュテバは笑顔を浮かべて、そうたずねてきた。
「うん、あの部屋、すごく快適」
それに本橋くんも一緒だし。
「なら、よかった。何か不都合なことがあったら、キーファか、モーファにお伝えください。出来ることはさせていただきます。……では、さっそくですが、竜を倒す練習をはじめましょうか」
「それで、ちょっといいか」と本橋くんが手を挙げる。「俺たち、本当に普通の高校生なんだけど、どうやってその、竜と戦うんだ?」
ロイシュテバは笑みを浮かべた。
「それは、剣と魔法で、です」
背後で扉が開く音がする。
振り返ると、モーファたちと同じ格好をした子どもが、入口の扉を抜けてこちらへ近づいてくる。
彼は二本の棒のようなものを抱えていた。
その棒状のものを、ロイシュテバは受け取る。
「こっちが剣」と言いながら、ロイシュテバは右手で地面に一本、棒を突き立てる。
かつん、と音がする。
その棒をよく見る。
白い鞘に、十字状になった銀色の鍔と握りがくっついている。
どうやら細身の剣らしい。
「こっちが魔法」といって、左手のもう一本の棒で地面を突く。
今度はあまりいい音はしない。
その棒は焦げ茶色で、片手ではつかみきれないほど、結構太い。
表面がごつごつしている。
そして先がぐるぐると丸まっている。
魔女の持つ、魔法の杖のようだった。
「本橋さんが剣です。そして下妻さんが魔法」ロイシュテバはわたしたちにうなずきかけ、言葉を続ける。「さあ、受け取ってください」
本橋くんとうなずきあい、おずおずとロイシュテバの手にある魔法の杖を受け取る。
想像していたよりも軽かった。
「で?」と本橋くんが聞いた。「俺、剣なんて振ったことないんだけど」
それを言うなら、わたしの方がもっとひどい。
「わたしなんか、どんな魔法がこの世界にあるのかも知らない」
「だから、練習するんです。モーファ、キーファ」ロイシュテバはわたしたちの傍らに立っていた二人に目を向けた。「二人に訓練をお願いします」
「はい」
彼らはそう答えて、わたしたちを見上げる。
モーファがわたしに言う。
「じゃあ下妻さんは、まず、あっちの方に行きましょうか」
そういってモーファは、部屋の隅の方を指さしてみせる。
「ああ、練習って、別々なんだ」
本橋くんと一緒に何かするわけではないらしい。
「まず個別に練習して、その後で一緒に合わせる。そんな予定です」
歩き出しながらわたしはモーファにたずねた。
「ね、この練習って大変? すごく疲れたりする?」
モーファはじっとわたしを見上げて、それから首をかしげてみせた。
「たぶん、そんなに難しいものじゃないと思いますけど。魔法の杖も、練習用のもので、エフェクトだけのものですから、たぶん疲れもしないはずです」
「へー」
ゴジラほどとんでもない竜と戦うっていうのに、その練習はそんなに難しいものじゃない。
なんだか不思議。
だけど、勝率百パーセントだっていうんだから、そんなもんなのだろう。