7.共通点とか
だいたい一時間程度、市場見物をしていただろうか。
市場では、大した買い物はしなかった。
わたしは巨大なサクランボのような果物を買った。
ピンポン玉ぐらいの大きさの、丸いピンクの身が、二股に分かれた枝の先についている。
本橋くんは、何やらアクセサリーと、ペンダントのようなものを買っていた。
「それ、食べるのか?」とわたしが買った果物を見て、本橋くんが言った。「体の中に入れて大丈夫かな」
「大丈夫なんじゃない? モーファたちに聞いてみるよ。本橋くんだって、その、アクセサリーみたいなの買っても、わたしたちの世界には持って帰れないんじゃない?」
「いや、形が面白いと思ってさ。眺めるために買っただけで、持って帰ろうと思ってるわけじゃない」
そしてペンダントを手のひらにのせ、わたしの前に差し出した。
「で、こっちは下妻へのプレゼント」
不意打ちだったので、わたしは妙な声を出してしまった。
「げっ、とは何だよ。せっかく買ったのに」
「いや、だって、……何で?」
もちろん、うれしいけどさ。
「二人、力を合わせて戦う仲間なんだからさ。お近づきのしるしだよ」
「そう。……ありがと」
わたしは素直に受け取ることにした。
銀色の細いチェーンの先にあるペンダントは、銀色で、涙のような形をしている。
その表面に、ツタのような模様が彫り込まれている。
確かに面白い形だ。
わたしは制服の胸ポケットに、大事にしまい込んだ。
「じゃあ、帰ろうか。キーファたち、どこに行ったんだろ」
わたしはきょろきょろ周囲を見渡しながら、言った。
「モーファ、そろそろ帰りたいんだけど」
「お帰りですか」
突然、背後からキーファの声がした。
振り返ると、モーファとキーファが並んで立っている。
「突然現れるなあ」
「実際、近くにいたんですよ。迷子になられても困るし」キーファがそう言い、それから笑顔を浮かべた。「でも、モーファともども、二人で市場を楽しめましたよ」
「ならよかった」と本橋くん。
「それでは帰りましょう。こちらへ」
来た時と同じように、キーファとモーファの後について、わたしたちは歩いた。
そして十分後には、わたしたちに与えられた部屋にたどり着いていた。
わたしの買った桜色の果物は、わたしたちにも食べられるらしい。
モーファがそう請け合い、調理もしてくれると言った。
「夕食、他に何か食べたいものがありますか? なんでもいいですよ。あなたたちの世界のものだって、用意しますよ」
わたしと本橋くんはお互いの顔を眺めた。
「下妻って、何が好きなの?」
「本橋くんこそ」
「二人、別々なものでもいいですよ」とキーファ。
「わたし、本橋くんと同じもの」
「まだ何も頼んでないのに」そういって本橋くんは笑ってみせる。「ずるいぞ、下妻」
わたしはいたずらっぽい笑顔をみせた。
なんだかいい感じじゃない。
「うまいラーメンを頼む」そういってにやりと笑う本橋くん。「大盛で」
「あっ……わたし、小盛りで」
「同じものを食べるんだろ」
本橋くんはにやにやしている。
「いじわる」
「そっちが先にずるいことしたんだろ」しかめっ面を向けてみると、本橋くんはいたずらっぽく笑った。「じゃあいいよ、下妻のは小盛りで」
キーファとモーファの二人が部屋を出ていった。
わたしは本橋くんにもらったペンダントを胸ポケットから出し、目の前にぶらさげて眺めていた。
本橋くんも買ったアクセサリーを眺めていた。
何か話題があるかな。
共通点とか。
探したけど、あんまり出てこなかった。
ただ、二人で黙って、同じ空間にいる時間だって、悪くないと思えた。
しばらくすると、キーファ、モーファと共にラーメンが来た。
すっかりお腹のすいていたわたしたちは、ずるずるとラーメンをすすった。
ラーメンは本当においしかった。
醤油味だけど豚骨ラーメンのようなコクのある、こってりとした味わいだった。
サクランボのような果物は、薄く輪切りにされて皿に載せられていた。
サクランボよりもちょっと酸っぱかったが、これはこれで、なんだかトロピカルで、うまかった。