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6.異世界転移ってなに?

 この市場の中であれば、ある程度自由に行動してもいいらしい。

 キーファとモーファはそう言い、それからじっとわたしたちの行動を待った。


「二人は、俺たちについてこなくちゃならんの?」


 そう本橋くんが言った。

 キーファが答える。


「ぼくたち、邪魔ですか?」

「そういうわけじゃないけど。キーファたちは二人っきりでいろいろ見て回りたいかな、と思ってさ」


 キーファはモーファに目を向けた。

 モーファはなんだか、少し顔を赤らめて下を向き、もじもじしていた。

 見た目は可愛らしい少女だけに、そういう仕草はよく似合った。


 わたしもあんな美少女だったらよかったのに。


「そうさせてもらいます。何かあったらぼくらの名前を呼んでください。どこにいてもすぐ、そばに行きますから」

「ああ、そうするよ」

「いこう、モーファ」


 二人は手をつないで歩き出した。

 見せつけてくれるなあ。


 とはいえこれで、わたしも本橋くんと二人きり。

 もしかして本橋くんは、わたしと二人きりになりたかったのかも。

 そんな妄想をしながら、一人で、でへでへしていると、本橋くんが不意に言った。


「俺たちはどうする? 下妻は一人の方がいい?」


 わたしもモーファみたいな態度をとれれば、少しは可愛かったかもしれない。

 だけどそう出来ないのが、なんとも残念な自分なわけで。


「こんなわけのわからないところで、一人で行動したくはないよ」

「だよなあ。俺も実はそう。でもちょっと見て回ろうか、下妻」


 わたしは小さくうなずき返し、本橋くんに並んで歩き出す。

 手こそつないではもらえないものの、それなりに望んでいた展開になったわけで。


 そうして市場は、実際のところ、それなりに興味深かった。

 どこからとれたかわからない、様々な色合いの謎の果物や、妙な形の海産物が並んでいた。

 小物やアクセサリーショップは、なんだかオリエンタルなものとか、クラシックでかつヨーロピアンなものなどがあり、フィルターのおかげでちゃんと楽しめるものになっていた。


「にしてもさ」と市場を見て回りながら、不意に本橋くんがいう。「まさか自分が異世界転移モノの主人公になるなんて、思ってもみなかったなあ」

「何それ。異世界転移?」

「そう。そういうジャンルの小説とか、アニメがあるの」


 そのとき本橋くんは、体をかがめながら指輪らしきものを手に取り、五指の一つ一つにはめ、穴の大きさを確かめていた。

 わたしに試してみてくれないかなあ、と考えながらも、わたしは返事をする。


「そうなんだ。本橋くん、アニメとか見るの?」

「ああ。たまにな」


 少し意外だった。別にアニメが好きな人を悪く思うわけではないが、なんというか、彼のイメージには合わなかった。

 本橋くんはいつも、そう、淡々として、飄々としていて。

 でも優しくて。

 なんか家では、小難しい小説とか読んでいて、あるいは楽器とかやっていそうな、そんな勝手なイメージを抱いていた。


「だいたい、異世界転移した主人公たちはさ、その世界の人たちにはない特殊な能力とかを身につけたりしているわけ。スキルとか、チートとかっていってさ」

「ふうん」


 そう返事をしたそのとき、不意に本橋くんがわたしの右手の指を手に取る。

 中指に指輪をはめようとして、本橋くんが突然、笑いだす。


「ああ、ごめん。下妻の指ならぴったり入るかな、って思っちゃって」


 別に試してくれてもいいのに。

 そうは言えなかった。

 本橋くんは元の場所に指輪をもどした。


「スキルとかチートで、だいたい異世界転移した主人公は、その世界をよりよい方向に変え、そしてモテモテのハーレムとか作ったりする。さらには現実世界よりも充実した人生を送る」

「ほほう。本橋くんもそうなりたいの?」

「なれるなら、そうなりたいかな」本橋くんはいたずらっぽく笑った。「でも無理そうだな。この世界の技術……がどんなものかはわからないけれど、異世界にアクセスできる点では、俺たちの世界よりも進んでいそうだ」

「特殊能力とかもなさそうだしね」

「指示されたとおりに、動くだけだな。そして放課後の図書室に帰ろう」


 うん、とわたしは本橋くんにうなずきかえした。

 そして歩き出した本橋くんが、急に立ち止まった。


「そういえば、図書室に連れ出して、何の話をするつもりだったんだ?」


 彼から、じっと見つめられる。

 わたしは本橋くんから目をそらす。

 顔が赤くなりそうになる。

 胸の鼓動が高くなる。


「内緒」

「なんだ、それ」

「戻ったら話すよ」


 戻ったら、か。

 それまでに心の準備をしておかなくちゃ。

 話の順番とか、さ。

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