3.誕生日、ずれちゃうね
二日後が竜との戦いの本番だ、と少年は言った。
そして明日はその練習。
今日のところは何もないから、この部屋でのんびりしていていいらしい。
「ていうか、三日も俺たち、こんなところにいられないぞ。学校とかあるし。親も心配するし」
本橋くんがそういうと、少年は大丈夫です、と切り出した。
「この世界と、あなたたちの世界とは、時間がつながっていない。すべての事が終わった後、あなたたちが戻るのは、召喚される直前の時間、あの放課後の図書室です」
本橋くんが妙な顔をしてみせる。
それなら大丈夫、と簡単に受け入れるのも変だし、そうかといってやっぱり困る、と否定するほどのことでもない。
せいぜい、ユーモアのある答えを聞かせてやろうと思って、わたしは言った。
「誕生日、ずれちゃうね」
「そういう問題かな……」
どうもあまり面白くなかったらしい。
少年が言うには、この部屋にあるものは好きに使っていいらしい。
そして何か別に欲しいものがあれば、二人の少年少女に言えば、用意をしてもらえるらしい。
少年の方はキーファ、少女の方はモーファという名前だそうだ。
同性なこともあり、自然とキーファが本橋くん担当、モーファがわたし担当、という風になった。
少年が部屋を去ってから、わたしはモーファにたずねてみた。
「そういえば、あの子の名前は何なの?」
「彼はロイシュテバ。わたしたちの指導者です」
代表として話していただけあって、なんだかえらい立場の人だったらしい。
見た目は子どもそのものだったけれど。
それからわたしたちは、貸し与えられたこの部屋を見て回った。
スイートルームと直感したとおり、この部屋はかなり広かった。
わたしたちが話していたリビングのほか、キッチンも広々としており、ダイニングにあたるスペースにもテーブルとソファーが完備されていた。
少しだけ、心配なのは寝室だった。
ツインルームのように、同じ寝室だったらどうしよう。
あるいはひょっとして、もしかして、ダブルベッドだったらどうしよう。
そんなよからぬことを心配していたのだけれど、杞憂に終わった。
寝室は二つに分かれており、どちらもかなり広かった。
それぞれの部屋に、バスルームまで備えてある。
ホテルのように、ドライヤーや櫛、歯ブラシなどのアメニティも準備されていた。
二つの部屋には特段違いはなさそうだったので、本橋くんとじゃんけんをして、どっちがどっちの部屋を使うのかを決めた。
「あとで一緒にメシでも食おうか」
それぞれの部屋に入る際に、本橋くんがそう声をかけてくれた。
そうしよっか、とわたしは答え、それから自室の中へ行った。
扉を後ろ手に閉めた後、わたしはつい、にやにやしてしまった。
なんだか妙なことに巻き込まれたと思ってたけど、もしかして、これって、案外チャンスなのでは?
何しろ本橋くんと、今日を含めて三日間も、この部屋の中で一緒だ。
なんだか気恥ずかしいような、照れるような。
でもやっぱりうれしいような。
どう考えていいかわからず、頭を抱えてベッドでごろごろしていると、不意に声がした。
「体調でも悪いんですか?」
びくりとして、わたしは飛び起きる。
モーファが不思議そうな顔をしてわたしを見ていた。
「なんだ、モーファ、いたの」
「いましたよ。急にベッドに倒れたので、びっくりしてしまって……」
ちょっと恥ずかしい。
「体調とかは大丈夫。……いまの、本橋くんには内緒ね」
モーファは不思議そうな顔をしていたが、ええ、とうなずいてくれた。